(仮題)託された想い、透き通る空の下   作:Laplaaaaaaaaaaaace

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皆さん、こんばんは。

アスナも引けて周年PU前半戦を終えました、私です。
今回筆が乗りすぎて過去最高文字数を記録しました。ゆるして

お手すきの際にでも読んでいただけると幸いです!


シャーレへ

戦闘を終え、改めて目の前に聳える建物を見上げる。

一国の城塞一つほどの高さはあるだろうか、これがシャーレの部室を内包する建物。

先程から背後で喚き立てる彼女たちを無視し続ける訳にもいかないだろうが…

 

「先生!さっきのアレ、説明してくれるんですよね!?」

 

「先程の事象…。戦車の砲塔を圧し折ったり…いきなり姿を現したりなど。常識では考えつきません。先生は一体…?」

 

「あの炎といい、突然爆発した戦車といい…。先生は風紀委員長と肩を並べるほどの戦力を…?」

 

三者三様の反応を見せるが…大体は自身の力についての追及。銃という武器を主力として使うキヴォトスでは普通ではない、素手…そして魔法での戦闘。

彼女達からすれば、初めて見るものだ。興奮するのは分かるが、説明は後でゆっくりすると話している。

その説明の時間は今じゃない、今の最優先事項はシャーレの奪還だ。

 

「あぁ、後で説明はする。今は建物の中に入るのが先決だ。ユウカたちは引き続きここで増援の対処に当たってくれ」

 

「ちょ、ちょっと…先生!?」

 

そう言い残して、単身建造物の内部へ向かって歩いていく。

…我ながら子供に対して、不躾な態度をとってしまっただろうか。もしここにジルが居れば、後で怒られそうだな。

なんて、今考えることじゃないな。とにかく、リンとは建物の地下で合流する手筈になっている。遅れないように急ごう。

 

 

 


 

 

 

シャーレ――、建物の地下にて。

 

 

 

「うーん……これが一体何なのか、全く分かりませんね。これでは壊そうにも……」

 

カツ、カツ…と足音を響かせながらシャーレの地下へと歩を進めていると、内部から微かにだが声が聞こえてきた。

この声は…、先ほど聞いたことがある。狐坂ワカモの声だ。先に侵入されていたか。さて…どうしたものか。

 

「……あら?」

 

気づかれた。

こちらの気配をいち早く察知し、出入り口の方に視線を向けたようだ。このまま身を隠していても埒はあかない。

何かは知り得ないが破壊を企てているようだし、早急に止めなければ。

 

「狐坂ワカモ――だったな。そこにあるものを破壊する前に手を引いてくれないか?俺も、話が出来そうな相手に力ずく…というのは好まないんだ。」

「…すまない、名乗るのを忘れていたな。俺はクライヴ・ロズフィールド。今日から先生としてこのキヴォトスに呼ばれた者だ。一方的に名前を認知していたことは謝る。何しろ君は有名人みたいだからな」

 

少し冗談を交えながら、相手に近寄る。大抵話の通じない輩は、近付いてきた瞬間に攻撃するか…姿を見せた途端に襲い掛かってくる。

しかしこのワカモという生徒、随分と派手で奇抜な格好をしている。ヴァリスゼアには存在しない意匠の衣服だ。あそこまで複雑な衣服ということは、何か祭事用の衣装なのだろうか。

…敢えて戦闘に関係ないことを考えることによって相手に殺意を感じさせない。背後からの奇襲に向いていると、隠れ家の書庫に置いてある書物で読んだ様な記憶がある。確か、暗殺術に使えたはずだ。

 

「あら、あららら……」

 

近付くクライヴの顔を見ながら、あらあら…と連呼するワカモ。

何か顔に付いているだろうか…?あぁ、もしや《刻印》を消した跡だろうか。

そこそこ強引な方法で刻印を消したものだから、生々しい傷跡が顔に残ってしまったが外部で活動するために仕方のないことだった。キヴォトスという土地において顔に傷があると、動き辛くなるものだのだろうか。で、なければ…ここまで顔を凝視される事はない。

 

「あ、ああ……」

 

…何だ?先ほどから様子がおかしい。

顔を凝視したかと思えば視線を逸らし、また見つめ…逸らし。その繰り返し。何か魔法の類の詠唱準備でもしているのか…不可思議な動作を続けるワカモ。

いや、逆にこれは好機か。手に握られたままの…タブレット端末。あれがワカモの破壊対象に違いない。今このタイミングでアレを奪い取ることができれば、丸く収まる…はずだ。

 

「…取り敢えず、今は時間がない。それを返してもらうぞ」

 

その場を動けないワカモに、ずんずん近づいていく。後退る様子も見せないことから、最大の好機とクライヴは読んだ。

スッとワカモの手に握られる端末に手を伸ばした。

直後……

 

「し、し……」

 

「……し?」

 

何か言葉を発そうとしている。しかし、中々言葉を形作ってくれない。

『し』という一文字を複数回発音して、遂にクライヴの手がワカモの顔の目の前へ到達する。

 

ワカモの視界にクライヴの手が写ったのだろうか。ビクッと肩を跳ねさせ、ぎゅっと端末を大事そうに抱きしめたかと思えば次の瞬間……

 

 

 

「失礼いたしましたー!!」

 

 

 

突然大声をあげて謝罪したと思えば、大事そうに持っていた端末を放り投げ、勢いよく地下室から逃げ出してしまった。

端末は数秒宙を舞い、カシャンと音を立てて床に落ちる。

 

「なっ……!?待ってくれ!」

 

突然の出来事で端末を守ることを忘れてしまった。機械と呼ばれる精密機器という情報は前に聞いているが、破損などはしていないだろうか。

子気味良い音を立てて床に落ちたが……

 

「お待たせしました。……?何かありましたか?」

 

「…リン。いや、先にワカモに侵入されていた様だ。なんとか物品の破壊は阻止したが…逃走を許してしまった。すまない」

 

「いえ、狐坂ワカモの件は今の所 一旦置いておきましょう。行政権限が復帰次第、ヴァルキューレに後を追わせます。それよりも…この地下室についてです。ここに、連邦生徒会長の残したものが保管されています」

 

床に転がるタブレット端末を拾い上げ、サッと埃を払う。

 

「……良かった。幸い、傷一つなく無事ですね」

 

傷一つない…?そこそこの勢いで床に激突したのに…外傷が無いのか。この端末自体が相当な頑丈さなのか…それともこの世界に存在する物品全てが…?

だとしたら、あの戦車の砲塔を簡単に圧し折ることは出来なかっただろう。ということは…この端末の特異さか…。

いらぬ心配をしていた様だ。と、腕を組もうとしたところで リンから端末を差し出される。

 

「先生……受け取ってください」

 

「……これを、俺に?」

 

「はい。これが、連邦生徒会長が先生に残したもの。『シッテムの箱』です」

 

(シッテムの…箱…?見たところリンが持つような普遍的なタブレット端末だが…。これほどまでに大層な名前がついているということは…恐らくは…)

 

「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない代物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く原理の全てが不明。連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられる筈だ、と言っていました」

「私たちでは起動すらも出来なかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」

 

「遺物…と言ったところか。フェニックスゲートの時のように、祝福で何とかなる代物ではない…だろう。正直なところ、俺にもコレが正常に動作するかなど保証は出来ない。機工学は専門外だからな。ミドに任せられるならそうしたいが…この世界には居ない。俺一人で何とかするしかない…ということか」

 

「……?」

 

「いや、良いんだ。ただの独り言と思ってくれ」

 

「……分かりました。では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかっています」

 

「……あぁ、何とかしてみせよう」

 

「それでは……、邪魔にならないよう離れています」

 

そう言い残すと、リンはクライヴから離れていく。部屋の中央に一人残されたクライヴ、手にはシッテムの箱。

まずは…思いつく事すべてを試してみよう。タブレット端末やスマートフォンに標準で搭載されている筈の、電源ボタンとやらを探す。

……側面の、これだ。一つだけ突起を見つけた。カチ、とボタンを押してみる。……反応はない。ならば次は…この漆黒の画面だ。

 

(これで反応が無ければ……最終手段だ)

 

画面に触れてみる。……無反応。

機械相手とは言え、こうもなんの反応も無いと……少し物悲しくなる。仕方ない…最後の手を使おう。

 

 

 

右手を胸の前へ。蒼き光と共に暖かい炎を右腕に纏わせる。

その炎を携えたまま、シッテムの箱へ掌を向ける。フェニックスゲートの遺跡を開いた時と、同じ手法だ。フェニックスの祝福のことを何でもできる便利な鍵だとは思ってはいないが、現状浮かぶ手段がこれしかない。

目を瞑り、念じる。開いてくれ…と。

ピコン!という音と共に画面が点灯する。青を基調とした、透き通る色。奇麗だ……

 

パスワードを入力してください…。と画面の案内が表示される。

……パスワードという物に記憶はないが、どうしたものだろうか。おそらくこの遺物を完全に起動させるために必要な、鍵のような言葉だろう。

いくら記憶を探れど、聞いたことが無い。今度こそ正真正銘のお手上げか……。と、諦めて端末を握る手を降ろそうとしたとき、軽い頭痛と…声が 頭の中に響く。

 

 

 


 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 


 

―シッテムの箱へようこそ、『クライヴ先生』―

 

―生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。―

 

 

 


 

 

 

 

頭痛が収まり目を開けば、景色は一変していた。

どこまでも続く青空は変わりないが…、周囲は大きく様変わりしており、どこかの部屋の様な…。しかし、壁などが崩壊している点は、以上だ。崩壊した室内にキレイに並べられた机と椅子…。それとは逆に、外に見える乱雑に積み上げられた机たち。

よく崩れずに形を保てているな…なんて思案していると、どこからか声が聞こえてきた。声というより…これは…寝息か…?

 

 

 

「くううぅぅ……Zzzz」

「むにゃ、カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうが……」

 

 

 

視線を下にやれば、少女が机に突っ伏しながら眠っている姿が確認できた。

ご丁寧に寝言付きで、夢まで見ているのだろうか。カステラ…いちごミルクにバナナミルク。言葉の響きで捉えれば…甘味だろうか。そういえば、ザンブレクでベアラー兵になってから、高級な甘味はそれこそ食べていなかった。甘いものと言えば、もっぱら果実か。隠れ家で栽培していたあの果実。マーテルの果実だ。

最初の隠れ家では酸っぱい…なんて言われていたが、マーテル亡き後、彼女の遺志を継いだコルマックによって甘く瑞々しい果実へと様相を変えた。二つ目の隠れ家では、大層人気だったな。

 

「えへっ……まだたくさんありますよぉ……」

 

…だが、そんな甘味の話をしている場合ではない。急ぎ行政権限を回復させなければならない。

その為にも…、彼女には申し訳ないが起きてもらうとしよう。

 

「…君、起きてくれ。このままではこの世界は混沌に沈んでしまう。さぁ……」

 

優しく肩を揺すって起こす。初対面の女性にいきなり触れるのはどうかと思うか、致し方ない。急を要するんだ。

……起きない。「うにゃ……」だったり、「うへ……」だったり…。小さい寝言を漏らすだけで、なかなか起きてはくれない。

子供のころ、昼寝をするジョシュアを起こしたことを思い出す。弟も、子供の頃はそう簡単に起きてくれなかったな。何度か声を掛けて漸く…だった。

 

「…起きてくれ。で、なければ…そうだな。その、カステラという物は没収だな」

 

カステラを没収なんて、子供には酷だが今は起きてもらうことが先決だ。

…だが、こんな言葉に反応するわけが……。

ガタッ!机が揺れる。……反応するのか。よほど大事なんだろう。

 

「むにゃ…カステラだけはぁ……ありゃ?」

「ありゃ、ありゃりゃ……?」

「え?あれ?あれれ?」

 

起きたかと思えば、急に周囲を見渡し「あれぇ…?」なんて連呼しながら忙しなく動き始める。

……本当に、子供のころの弟そっくりだ。時間ギリギリに起きたかと思えば、忙しなく準備を始めて大慌て。懐かしさすら感じる。

 

「あぇ…あ……。先生!?!?」

「この空間に入ってきたっていうことは……、ま、ま、まさかクライヴ先生!?」

 

「……あぁ、君の言う通り、俺がクライヴ・ロズフィールドだ。というより、なぜ俺の名前を知って……?」

 

「う、うわあああ!?そ、そうですよね!?ここに来れる人なんて……って、もうこんな時間!?」

 

……賑やかな少女だ。一人でここまで賑やかなのは、幼い子供の特権だ。

何も知らず、未来を見て、元気にいてくれればそれでいい。面倒事は全て、大人が解決すればいいのだから。

 

「その、取り敢えず一度落ち着いてくれ。君が落ち着いてくれないと、お互いにしっかりした話も出来ないだろう?」

 

「えと、で、ですよね!落ち着いて、落ち着いて……」

「えーっと、その……あっ、そうだ!まず自己紹介から!」

 

 

 

「私はアロナ!この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」

 

 

 

……アロナ。目の前の少女の名前か。

システム管理者やメインOSなど、難しい話は分からないが…恐らくこの少女がこの『シッテムの箱』を動作させている張本人であり…、問題を解決する力を有する存在。

こんな小柄な少女が…どこにそれ程強大な力を隠し持っているのだろうか。

 

「やっと会うことができました!私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!」

 

「その割には、昼寝をしていたようだが…」

 

「あ、あうう……も、もちろんたまに居眠りしたりしたこともあるけど……」

 

「安心してくれ、別に君の失態を咎めている訳じゃない。子供はよく眠り育っていくものだ。眠ることは、子供の仕事のうち…というだろう?」

「だから、今回のことは水に流そう。ともあれ…だ。宜しく頼む、アロナ」

 

「はい!よろしくお願いします!」

「まだ身体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調整が必要なのですが……これから先、頑張って色々な面で先生のことをサポートしていきますね!」

 

……バージョン。あぁ、だめだ。機工学くらい、しっかりと学んでおくべきだった。

もっぱら材料集めを担当していたから、これがどこの動力になる……だとか、この魔物の素材はこの機関の最重要素材……なんてミドは呟いていたが……たった今後悔するくらいにしっかり聞いておくべきだったと思う。

 

「あ、そうだ!ではまず、形式的ではありますが、生体認証を行います♪」

 

「生体認証……?認証……というのは、つまり……その人物が本人かどうか確認する為の行為、で合っているか?」

 

「正解です、先生!……もしかして、先生は機械に疎かったりするんですか……?」

 

「恥ずかしながら…。機工学は他の人員に任せっきりだったからな。これから君がサポートをしてくれるのなら、とても助かるよ」

 

「ふふ、はい!知識のサポートもお任せください!……っと、その為にも……少し恥ずかしいですが、手続きのため、こちらの方に来てください」

 

近寄れ…ということだろう。ここで指示を無視するわけにはいかない。

静かに彼女の方に近寄る。歩くたびに、パチャ…パチャ…と水の音がする。今気が付いた……床に薄く水が張っているのか。靴の中には入ってきていない様だが……

 

「あ、先生。もうちょっとこちらへ」

「さあ、この私の指に、先生の指を当ててください」

 

そう言うと少女……アロナは人差し指をこちらに突き出す。

この指に…。どういう原理なのか……追及するのは後にして、今は生体認証とやらを済ませてしまおう。

手袋を取り、手を露わにさせる。剣を握り続けた皮膚は硬く、手の甲にも所々傷が目立つ。しかし、石化はしていない。どういうことだ……?あの時、海岸で最後に見上げた自分の手は、間違いなく石化しかけていた。

しかし今は、人の肌の色を保っている。この世界に移る際、石化が無かったことになったのだろうか……。

 

「……先生?」

 

「あぁ……いや、何でもない。少し、考え事をしていただけだ」

 

静かに、アロナの人差し指と自身の人差し指を合わせる。

彼女の指よりはるかに大きい自身の指は、果たして生体認証を行えるのだろうか。

 

「うふふ。まるで指切りして約束するみたいでしょう?」

 

……約束、か。結局俺は、ジルとの約束を果たせなかった。

約束を守れない男だった……なんて言われるのは悲しいが、自分の責任なんだ。仕方が、無い。

 

「実はこれで生体情報の指紋を確認するんです! 画面に残った指紋を目視で確認するのですが……すぐ終わります! こう見えて目は良いので」

 

画面に残った指紋……と言ったか?今クライヴ自身は実際に彼女と指を合わせている。しかし彼女は今、画面に残った指紋と発言した。

……どういった術かは知らないが、意識だけをこちらに飛ばしているものだと思った。しかし現実の方でも同じ動作を取っていると考えると……とても強力な精神干渉だ。

この『シッテムの箱』と呼ばれる遺物の強大さを再確認できた。破壊すら容易にできないと考えると……尚の事恐ろしい。

 

「どれどれ……」

「うう……」

 

じーっと指を凝視し始める。

時折苦しそうな声が聞こえてくるが……認証はうまくいっているのだろうか。そう唸られると不安になってくる。

 

「うーん……良く見えないかも?……まあ、これで良いですかね?」

 

……小声だがしっかりと聞こえた。

一抹の不安が、大きな不安に様変わりした。本当に大丈夫なのだろうか……?言葉通りに従ってきてはいるが、これで直前になって失敗……なんて考えたくもないものだ。

 

「……はい!確認終わりました♪」

 

「……本当に大丈夫、なのか?幾許か不安になる声が聞こえてきたが……」

 

「ま、真面目にやってますよ!?そ……そんなに不安ですか!?」

 

「いや……、途中途中唸り声に似た声を上げるものだから、心配になったんだ」

 

「それは……その、初めての起動ですし……?仕方がなかった……というか……」

 

「……初めての事、というなら……そうだな。誰しも不安に感じることはある、か」

 

小さな子供に1から10まで追及するわけにはいかない。変に威圧感を与えてしまっては、今後の円滑なコミュニケーションにおいて、支障を来してしまうかも。子供にとって、大人は怖い存在である……なんて教えてしまっては、それこそ先生として失格だろう。

それから、少しの間……このキヴォトスに来てからのことを話した。

 

 

 


 

 

 

「……なるほど。先生の事情は大体わかりました」

「連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなった……」

 

「あぁ……どうやらそうらしい。そして、アロナ。君は連邦生徒会長について何か知っていることはあるだろうか。知っていればで良いんだ。出来る限りのことを教えてほしい」

 

「私はキヴォトスの情報の多くは知っていますが……連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも……。お役に立てず、すみません……」

 

「いや、良いんだ。いつか分かる時が来ると思って過ごすさ。恐らく、他の誰かに聞いても……それ程詳細に答えが返ってくることはないだろう」

 

連邦生徒会長……彼女と一番親しかったのは恐らく、リンだ。しかし……出会って間もないというのに、親しい仲の人物について、事細かに聞き出すのは不躾だ。何れ彼女から話してくれるまで、待つとしよう。

 

「……ですが!サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決できそうです」

 

「……そうか。なら、今は確実に、やれる事からやっていこう。ゆっくりでいい……進めるときに進むんだ」

「塔の修復は任せる、アロナ」

 

「はい!分かりました。それでは サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!」

「少々お待ちください!」

 

……そういうとアロナは目を瞑る。きっとまさに今、あの塔の権限を取得しているのだろう。

どれほどの時間が掛かるか分からないが……彼女なら確実にやり遂げてくれるだろう。それまで――

 

 

 

「サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了……」

「先生、サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今、サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります」

 

 

 

膨大な時間が掛かると思っていたが、アロナはものの数分でやり遂げた。

機械に疎いゆえ、これがどれほど凄いことなのか……あまり分からないが、簡単に言えばアロナは『キヴォトスが混沌に陥る事態をたった数分で解決した』ということだろう。

 

「今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です!」

 

「俺の……支配下」

 

「はい!今のキヴォトスに於ける行政は、先生の一存でどうすることも可能です!」

 

……この世界の全てが、クライヴ自身の手の中に。

なんだって出来る、まさに神の様な力。それこそ……奴の、アルテマのような力だ。

 

「先生が承認さえしてくれれば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます」

「でも……大丈夫ですか?連邦生徒会に制御権を渡しても……」

 

と、続けざまにアロナは言った。

連邦生徒会に権利を渡すことも可能だ、と。

 

「……その力があれば、確かにこの世界をどうとでも出来るかもしれない。」

「だが……この力は、今の俺の手に余る。強大すぎる力は時に身を滅ぼすと……、誰よりも知っているからな。アロナ、あの塔の管理権限は……連邦生徒会へ移しておいてくれ。元々は彼女たちのものだろう?ならば、元あるべき場所に返すべきだ」

 

「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

 

 

 


 

 

 

ハッと意識が覚醒する。

周りを見渡すと、暗かった室内が明るくなっている。恐らく、無事に管理権限の移行とやらが成功したのだろう。

この感覚は……、アレテ・ストーンに触れた時と似ている。あの時は、意識だけアレテ・ストーン内部に居たからか、石板の前でただ一人棒立ちになっていた変な男、とシドに言われたこともあった。

 

「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました」

「これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね。お疲れさまでした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」

 

「俺だけの力じゃない。そこにはユウカたちや……勿論、リン達の尽力もある。俺だけが礼を言われる立場じゃない。……俺からも、お疲れ様 リン」

 

「……先生こそ。いえ、労いの言葉は確りと受け取っておきましょう。それと……ここを襲撃した不良たちと、停学中の生徒たちについては、これから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく」

 

……討伐、か。リスキーモブなんかを記憶に思い浮かべたが、ここを襲撃していた彼女達も、矯正局に入っているとはいえ生徒だ。

手荒くせずに、なるべく穏便にことを片付けてほしい。

 

「怪我をさせる事なく、穏便に済ませてやってくれ。彼女達もまた、生徒の一人なんだろう?」

 

「それはそうですが……。えぇと、はい。なるべく先生の意見を尊重してほしいと伝えておきます」

「それでは『シッテムの箱』は渡しましたし、私の役目は終わったようで……あ、もう一つありました」

 

「もう一つ……?」

 

 

 

「着いてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介いたします」

 

 

 


 

 

 

リンの誘導に従うように、後ろを着いていく。

エレベーターという昇降機に乗り、上へ。外観からして、塔の様だと形容したが……ある程度の高さを持っている建造物で、内部は誰かが手入れをしていたのか、清潔に保たれている。

お互い無言のまま、歩みを進める。クライヴにとっては全てが初めての経験なのだ、上下左右が未知ゆえ……胸中は少年の心を思い出しつつあった。

 

「ここが、シャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね」

 

主人……か。『空室 近々始業予定』と書かれた貼り紙を目にする。……長らく一人にさせてしまった。申し訳ないことをしたな。

ここに招き入れられる人物がクライヴでなかったかもしれないにしろ……、この部屋は主人をずっと待っていたのだ。ならば礼儀として、待たせてしまったものに謝罪はするべきだろう。

 

「……すまなかった」

 

「先生?何か言いましたか……?」

 

「いや、独り言だ。気にしないでくれ」

 

ふむ、と小首をかしげるリン。

さすがに独り言が多すぎたか。少しは慎むことにしよう。貼り紙の貼ってある部屋…、その扉をリンが開く。

 

 

部屋の内部は建物同様きちんと手入れされており、埃は一切ない。木製の長机…ではなく、白い未知の素材で作られた長机に、見たことも無い機械、円筒型の紙が詰め込まれた茶色い箱。木箱でないことは確かだが……。

さらに眼前には晴れ渡る青い空。大きな窓がはめ込まれており、隠れ家の私室とはまた大きく違った印象を受ける。壁には銃や、地図……。名簿のようなものが貼り付けられている。

 

「そして、ここがシャーレの部室です」

「何か必要なもの、先生の好きなもの等があれば 自由に置いていただいて構いません」

「環境を整えてから、先生のお仕事を始めると良いでしょう」

 

「とは言うが……、ここで俺は何をすれば良い?書類仕事などは少しの理解があるが……、それ以外は」

 

「……シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない……という強制力は存在しません」

 

……やることが明確にされていないのは、こちらとしても困る。

ヴァリスゼアにいたころは、綿密に計画を立てた上でソレを実行に移すなど……事前準備は確りとしていたものだ。しかしここにきて……何かをしなければいけない。という確実な目的が無いなんて現実が叩きつけられる。

さて……どうしたものか。

 

「キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です。面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特には触れていませんでした」

「つまり、何でも先生がやりたいことをやって良い……ということですね」

 

一番の難題だ。何でもやって良い……。

線引きが難しく、これはここまでやっていい……これはダメ……。行動に移してからでなければ、可否が分からないのだ。

ふむ……、と悩ましい顔をしていると、リンが言葉を紡ぐ。

 

「……本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません」

 

それはそうだ。行方不明の人物をあてにするわけにはいかない。そもそも、いないのでは聞けるはずもない。

生憎、彼女達も余力が無いとのことで、このキヴォトスではあちこちで問題が起きているらしい。

……と、言うことは……だ。

 

「今も連邦生徒会に寄せられる様々な苦情……支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど……」

「もしかしたら、時間が有り余っている『シャーレ』なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね」

 

……面倒な苦情の数々、か。ヴァリスゼアでは、苦情とまではいかずとも、困っている人々の助けは良くしていたものだ。

中には理解しがたいような手助けなどもあったが……。

 

「そうして苦情の対処をする事も良いが、自分で動きながら問題を見つけ……解決することも良し。とにかく、困っている人々に手を差し伸べろ。という訳か……」

 

「えぇ。端的に言ってしまえば、先生の言う通りです」

「その辺りに関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください」

「すべては、先生の自由ですので。それではごゆっくり。必要な時には、またご連絡いたします」

 

そう言い残し、リンは部屋を出て行ってしまった。

必要な時には連絡を……か。恐らく、連邦生徒会の仕事も熟すことになるだろう。全員が忙しなく動いているのに、一人だけ椅子に座って暇を持て余す気はない。

皆の助けになるように、これから生きて行くしかない……ということだ。その傍ら、先生として生徒たちを教え導く。成程……、存外に厳しくなりそうだ。

 

 

 


 

 

 

「ええ。サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ」

 

「ワカモは自治区に逃げてしまったのですけど……すぐ捕まるでしょう。私たちはここまで。あとは担当者に任せます」

 

シャーレ前で増援の対処に当たってくれていたユウカたちを確認しに、外へ出たところ 事の全てを終えた後だったようだ。

各自制圧した不良たちを纏め上げ、矯正局に送り返すなど……各々の作業をしているようだった。

そこへ労いを含め顔を出すと、ユウカがいち早く駆け寄ってきた。

 

「お疲れさまでした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」

 

「……SNS?」

 

また知らない単語が飛び出してきた。SNS……。いや、今は持ち帰ろう。後でアロナに聞いて、この世界への見聞を深めておくとしようか。

 

「それよりも、皆……よくやってくれた。おかげで助かったよ。礼を言う」

 

「いえ、こちらこそ。今日はこれでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください、先生」

 

「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください」

 

「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?」

 

「あぁ。近い内に、必ず皆の学園を訪れさせてもらう。確りとしたお礼も含め、君たちの仲間にも会っておきたいからな」

 

今回こそ、破らない約束をしよう。

彼女達には助けられてばかりだったのだ。大人として、お礼参りには行かなければならない。ロザリアに居たころは厳しく指導されたな。今後、生きて行くうえでの外交方法として……ジョシュアのナイトとしての立ち振る舞いなど。マードック将軍との稽古は、今でも忘れられない。

 

「先生、ではまた!」

 

と、昔を懐かしんでいると、ユウカたち面々が去っていく。

こちらに元気よく手を振っているユウカに対し、あまり格好はつかないが、小さく手を振り返す。

 

「あぁ、また」

 

手を振り返すと、彼女はニコニコと満面の笑みで去っていく。

クライヴは空を見上げた。どこまでも続く青。真っ白な雲。空中に描かれる円環の模様。それらを見上げながら…ふと、思ったのだ。

この世界は、まだ死に絶えていない。この世界を殺さないためにも、彼女たちが生徒として……生き続けて行く為にも。決して諦めてはいけない。

 

 

 

胸に誓いの炎を宿し、クライヴは一人 シャーレ内へと戻っていった。




一万二千文字!?!?!?!??!?!?

ごめんなさい、多すぎました。なんとしてもプロローグを終わらせたかったんです……。
次回からはアビドス編!クライブ君、砂漠の移動はチョコボを使ったほうが良いぞ!!ほら、バイロン叔父さんがすごい目で見てる。
ちなみに私はタボール砂漠に到着したとき、クライヴ君を昼間の砂漠だというのに単身爆走させました。叔父さんも着いてきてくれてありがとう。

感想、評価に誤字報告。設定ミスなどありましたら優しく教えてください。
強い言葉をかけすぎると筆者はアカシアになります
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