春の君に、夏に恋をした。   作:聖 那由多

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第2話

 あれから一週間。

 

 太陽が傾いてから暫く経った土曜日の午後の十五時……を少し過ぎた頃。

 集合時間になっても来ない弘樹を待ちつつ待ち合わせ場所の駅前で一人スマホを弄っていると、SNSからの通知を知らせる音が鳴った。

 

「ふむ。なるほど、風邪……ね」

 

 どうやら弘樹は風邪で急遽来れなくなったらしい。こんな日に風邪とは、幸薄なのは弘樹の方じゃないだろうか。とりあえず弘樹のことが好きなうちの部活のマネージャーこと水戸さんにDMを送る。

 

「弘樹が病気だから看病してあげて……っと。これでよし」

 

 僕がDMを送ってからコンマ数秒で返事が返ってきた。恋する女の子の行動力は本当に凄い。

 

「てかそうなると花火大会、一人で回ることにならない?」

 

 男一人で屋台を回りつつ花火を見るとかいうなんだか寂しい絵が脳内に浮かんで頬が引き攣った。

 

「まぁでも数年ぶりの花火大会だし、とりあえず行ってみるか」

 

 僕は先程買った切符を改札に通して駅のホームに出ると、そこは人でごった返していた。

 それもそうだ。花火大会が開催される日の駅に人が居ない訳がない。とりあえず比較的空いている車両を見つけて乗り込み、十分程電車に揺られ、いざ隣町の駅に降りると、そこはまさに人の海とも言える景色だった。いつもなら学生服やスーツが視界を埋め尽くすその場所は浴衣や甚平を来た人で埋まり、次から次へとその塊が波となって駅前にある歩道の奥へと流れる様に動いていく。

 

「まるで人がゴミの様だな……」

 

 思わず昔見たアニメの悪役キャラのセリフが出てしまうぐらいにはこの光景に少しげんなりとしてしまう。

 花火大会に来たのはちょっと失敗したかもしれない。周りを見渡せば僕と似たような感想を持っていそうな人をちらほらと見かける。

 

 特に先程から僕の二歩程隣に居る同い年ぐらいの女の子なんかはスマホを片手に困り顔で周りをきょろきょろとしていた。流れに逆らう様に、改札付近の切符売り場から動こうとしない。

 

 可哀想に。きっと友達とはぐれたのだろう。

 

 何となく見慣れないその横顔をチラりと見つつ、そのまま僕も人波に逆らわず押される様に流されていると、いつの間にか駅前からだいぶ離れた屋台が連なる通りへと出ていた。

 

「なんかいつの間にか通りに出たし、とりあえずなんか食べようかな。たこ焼きか焼きそばか、いや、お好み焼きも……」

 

 各屋台から美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐってくる。何か食べようかと通りを歩いていると、ふと先程見かけた女の子を思い出した。

 

 田舎ってのは基本的には隣町とはいえ大体が顔見知りだったり、仮に知り合いでなくとも何となく見たことある人間ばかりだ。だけど僕はその女の子のことを一度も見たことが無い。

 

 だからだろうか、何となく気になってしまう。

 

 初めて会った女の子に対して珍しくそんなことを考えていると、いつの間にか屋台の通りの端まで来てしまった。そのせいでどんな屋台があったかすら思い出せない。

 

「はぁ……。とりあえずまた戻るか。確か最初の方に……ん?」

 

 映像を逆再生するかの様に初めの方へと向かっていると、まるでぽっかりと穴が空いている様に人が少ない場所が目に入った。

 

 それは一人の女の子のを中心とした空間だった。

 

 下ろせば肩口より下まで伸ばしていそうな長さの髪を、一部分後ろでハーフアップに結び上げているその女の子は、何やら困り顔で周りを見渡しつつスマホに視線を落としている。

 

 そんな彼女はとにかく目立っていた。いや、浮いていると言った方が近いかもしれない。

 

 今日の為に卸してきたのか、真新しく見える浴衣が彼女を人混みという清流から浮かび上がる砂金の様にキラキラと光らせている。

 

 だけどそれだけじゃない。

 

 何よりも彼女を目立たせているのは僕が今まで見たどの女の子よりも整ったその顔立ちだ。学年で一番どころじゃないその容姿が、浴衣以外の理由でも彼女を人混みから浮かせているのだ。実際彼女の横を通る人達は男女問わず二度見している。

 

 ちなみに僕がその困り顔の女の子を気にかけたのは、別に彼女の容姿が優れていたからとかいう理由だけではなく、見かけたのが二回目だからだ。

 

 そう、彼女は改札付近で見かけた女の子だった。

 

 

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