春の君に、夏に恋をした。   作:聖 那由多

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第4話

 それから暫くして、今は僕たちは屋台を見て回っている。

 

 まさか女の子と二人でお祭りを回るとは思っていなくて、少しだけ心臓がドキドキしていた。

 

 そんな僕を知ってか知らずか、春奈はニコニコしながら僕の横を歩いている。そうして時折適当な話題を僕へと振り、僕もそんな春奈に答える。

 

「お祭りといえばラムネとりんご飴だと私は思うの」

「その心は?」

「どちらも……って!! 急に大喜利振らないで!?」

「何となく春奈なら答えてくれるかなって」

「私に対するその謎の信頼なに?」

 

 こんな馬鹿なやり取りを続け、屋台の通りを何度か往復している。偶に適当な屋台を覗いては食べ物を買ったり、射的で何処にも当たらずに憤慨する春奈を宥めたりしていた。やはり見た目によらず彼女は意外と不器用で、謙虚さもあまり無い。

 今もじゃんけんに負けた癖に、美少女だからとオマケして貰ったりんご飴を笑顔で店主から受け取っている。その時、ふと思い出したかの様に僕の方へと顔を向けてきた。

 

「あ、そうだ。すんごい今さらなんだけど、同い年だし、タメ語で良いよね?」

「いきなりどうしたの? 別に構わないけど」

「良かったー!! 敬語とか丁寧語そういうの、面倒くさくって」

「確かに。てか最初ら辺から割とずっとタメ語だったけどね」

「あれ? そう? まぁ別に良いよね。あ、秋人もタメ語でいいよ。そんな丁寧な感じじゃなくても」

「いや、僕はこれが素だから」

 

 僕がそう言えば、彼女はぎょっとした。

 

「え? 疲れない?」

「特には」

「ふ〜ん。変なの」

「春奈ほどじゃないかな」

「どういう意味!?」

 

 何やら隣で抗議している春奈。

 そんな春奈を僕は冷静な目で見る。

 う〜ん。見た目が中身を裏切っ……いや、中身が見た目を裏切ってるのか?

 

 とにかく清楚な見た目に反し活発な春奈に対して、僕はそんなことを考えていた。

 

 そんな時、急に視界にラムネの瓶が飛び込んでくる。

 何事かと見れば、りんご飴の屋台の隣で丁度ラムネが売っていたらしい。

 

「なにこれ?」

「ラムネ」

「うん。知ってるよ」

「だ•か•ら、今日のお礼」

「お礼?」

「うん。何だか私に付き合わせちゃったからね」

 

 なんて言って僕の手に無理矢理ラムネを持たせると、春奈はりんご飴を舐め始めた。

 髪の毛が飴に付かない様に、耳に掛かった綺麗な髪をかき上げる。その際に見えた彼女のうなじが妙に艶めかしくて、顔が熱くなる。火照った顔を何となく見られたくなくて顔を背けようとした僕の耳に、空から大きな音が鳴り響いた。

 

「あ、花火……」

 

 空を見上げると、赤や青、黄色といった様々な光が花びらの様に咲いていく。

 

 そんな花火を見上げていると、春奈の声が聞こえてきた。独り言を呟く様なそれは、先程までの活発さが鳴りを潜めた、消えそうな程に小さな声だった。

 

「今日はありがとね」

「僕の方こそ」

「私、秋人と出会えて良かった」

「そう?」

「うん。最初は変な人が来たなって思ったけど、実際話してみたら本当に変だし、だけど面白くて、今日は一度も退屈しなかった」

「変は余計だから。でもそっか……それは……良かったかな」

「うん。だからね……」

 

 

――もう会えないかもしれないと思うと、寂しいなって。

 

 

 春奈のその言葉が、僕の心臓を締め付けた。

 そう……春奈は明日にはもう居ない。

 いつもは遠い場所に居て、今日は偶々ここに来ていただけ。

 だから後数時間もすれば居なくなってしまう。

 

 それは確かに、寂しいなと……思う。

 

 その現実を忘れる様に、手元のラムネに口をつけた。シュワシュワとした泡が口の中で弾ける。いつもなら程よく感じる甘さが、今は何故か味がしない。

 

 

「僕も、春奈に会えて良かったよ」

 

 

 そんな僕の言葉は花火の音によってかき消された。

 

 

 

 

 花火を見上げたあの日から数ヶ月。

 

 冬が過ぎて春になった。

 

 友人の弘樹はあれから水戸さんと付き合い始め、まるで漫画の様な青春を送っている。

 

 

 そんな僕は二人とは違う学校に通うことになっていた。

 地元では一番偏差値の高い進学校だ。

 何故ここに通っているかといえば、春奈と出会った場所の近くだからってのが大きい。

 

 たった半日一緒に過ごしただけなのに。

 僕はあれ以来、彼女のことが忘れられない。

 

「はぁ……。居ないって分かってるのにな」

 

 入学式まで後二時間。

 枝垂れ桜が垂れ下がった校門の前で、僕は溜め息をつく。

 

 その後、門の中へ入ろうと足を進めると後ろから誰かに肩を叩かれた。

 この学校には知り合いも殆ど居ないので、人違いだろうと無視をすれば、今度は更に強く叩かれる。

 ここまでして僕の肩を叩くのは一体誰だろうか。

 不機嫌気味に後ろを向くと、この場には居ない筈の人物がそこには居た。

 

「やっぱり秋人だ。無視は酷くない?」

「あ、え……? 春奈?」

 

 春奈だった。

 

 最後にあった日よりも背が伸び、身体つきもより女の子らしくなった春奈がそこには居た。

 

「え、なんで……」

「会いにきちゃった」

「いや、会いにきちゃったって……」

「私もこの学校に通うことにしたの」

「なんでこの学校が分かったの?」

「優香ちゃんに聞いたからだよ」

 

 どうやら水戸さんが教えたらしい。

 

「水戸さんが?」

「今度は私を手伝ってって言ったら、教えてくれたの」

「手伝う……?」

「ううん、何でもない。秋人は今は気にしなくていいよ」

 

 そう言って僕の疑問を誤魔化した後、彼女は笑顔で言葉を続けた。

 

「あのね、秋人、私と友達になってよ」

「友達?」

「友達。良いでしょ?」

 

 頭一つ分高い僕を下から見上げる様にそう言った彼女。

 会えないと思っていた彼女がここに、僕の目の前にいる。

 

 最初に会った時から分かっていたんだ。

 どんな理由をつけても、僕は彼女に一目惚れというものをしていたんだって。

 これが恋なんだって。

 彼女の声、仕草、それら一つ一つに心臓が揺さぶらて、暴れて、ふわっと浮いて、締め付けられる。

 

 そっか、これが――。

 

「うん。いいよ。友達になろうか」

「じゃあ、私たち、今日から友達だね!!」

 

 

 桜の花びらが僕たちに降り注ぐ。

 柔らかくて、暖かい、彼女の名を冠した季節。

 

 僕と春奈はあの日に出会って、今日友達になった。

 

 

 来年はきっと――。

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