ほうかいにっき   作:梅で鯛を釣る

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ルーキーオリジナル日刊10位感謝!!


名前も知らない大切な人

2035年3月9日(金)

 

今日は母校の卒業式の日だった。

10年ぶりに学校にやってきた。

本当だったら9年前に卒業しているはずだった。

一応卒業していないしまだ俺は高校生なのかもしれない。

10年間怖くて学校に近寄ることもできなかったのに今日はなぜかすんなりと入ることができた。

なぜなのだろうか。

学校を回った。

学校はボロボロになっているし、窓ガラスも割れているがそれ以外はあの日のままだった。

2年間仲間と研鑽しあった武道場も、放課後に菓子パをした教室も、あの忌々しい動画が映されたスクリーンも10年前から時が止まっていた。懐かしい気持ちになったことだしまたルーズリーフに昔の話の続きでもかこうと思う。

 

 

 

 

世界から音が消えてどのくらいたったのだろうか。

俺は何もする気が起きなかった。

ただうずくまり死を待つだけだった。むしろもう死んでいたのかもしれない。

俺は高校生の頃、非日常に憧れていた。

テロリストが学校に入ってきたり、ゾンビが押し寄せてきたりね。

俺はそんな状況になったらきっと動けると思っていた。

なんでもできると思っていた。

でもなにもできなかった。

もっと早く走れば落ちていくあの子の手を掴めたかもしれない。

あそこで声を上げれば誰かの自殺を止められたかもしれない。

でも俺は逃げた。俺が逃げたせいで俺のかけがえのないものはすべて失われた。

もう取返しはつかない。俺のせいだ。

自殺をしようともした。

だが飛び降りようと踏み出した瞬間あの笑い声が聞こえてくる。

何度も吐いた。

眠ることもできなかった。

目を閉じればあの地獄が瞼に浮かんだ。笑い声が暗闇に響いた。

結局自殺もできずただ緩やかに死へ向かっていた。

そんなとき俺はあの二人に拾われた。

ゴリマッチョの明るい黒人と渋いイケオジだった。

イケオジは学者らしく、専門は宗教で、この滅亡の真相を探求しているらしい。

二人に名前を聞かれたが俺は答えなかった。二人の名前も聞かなかった。

名前を覚えてしまうのが、名前を呼ばれるのが怖かった。

名前を知って俺の中の大切になってしまうのが怖かった。

失うことが怖いなら最初からなにも持たなければいい。本気でそう思っていた。

二人に連れられて拠点へと向かった。

それからは楽しい日々だった。

謎にDIYのうまい黒人のおっさんと本格的なかまどをつくったり、学者のおっさんに日本の行事について教えてもらったりと充実した生活だった。

あの笑い声は少しずつ聞こえなくなって、幸せな笑い声が響いていた。

だがそんな生活は長くは続かなかった。

黒人のおっさんが病気になった。

ゴリマッチョだった体はどんどん瘦せ細っていった。

黒人のおっさんは自分の寿命が近いことを知っていたのだろう。

「ナァ最後二名前ヲ教エテクレナイカ?」

そういわれた。しかし俺は答えることができなかった。

「...マァソウダヨナ、ハハハ」

寂しげな笑い声がやけに響いてしまったように思う。

また俺は逃げた。

黒人のおっさんはその二日後死んだ。名前なんか知らなくても俺のかけがえのない人だった。

黒人のおっさんがいなくなって拠点は随分と静かになった。

学者のおっさんは以前にもましてこのについて必死で調べていた。

そして遂にあの動画が作成された場所を特定することに成功した。

拠点からほど近いビルの一室だった。

部屋の中にはあの動画に映っていたおっさんの死体だけがあった。

おっさんの死体を調べてみるとUSBを持っていた。中をみるとパスワードがかかっていたので、学者のおっさんに解読してもらうことにした。時間がかかるようなので、俺は仮眠をしているようにいわれた。このUSBを読み解き、真相を知ることができたら、お互い名前を教える約束をした。

真相が解ったところで死んでいった奴らは蘇らないし何かが変わるわけでもない。

だが何かが変わるような気がして、逃げる自分から変われたような気がして、俺は久しぶりにあの笑い声に悩まされることもなく寝ることができた。

朝、響き渡るあの狂気を孕んだ笑い声で目を覚ました。

学者のおっさんの声だった。

ガソリンの臭いがした。学者のおっさんは笑いながら自分と滅亡についてまとめてある資料に火をつけた。

俺には何もすることができなかった。

燃え跡に残ったのは燃えないように金庫に入れられていたUSBだけだった。

金庫の中には「見るな、捨てるな」と学者のおっさんの筆跡で書かれていたメモが入っていた。

学者のおっさんはなにを見たのだろうか?それは今もわからない。

だがまた名前を聞くこともできずかけがえのない人を失い、拠点には俺一人になった。

USBはいまでも保管している。

笑い声が今も耳から離れない。





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