焼き入れてやるから来い   作:記憶破損

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道中の話 初のAC戦


初めての相手

 

 ベリウス地方西部にグリッド086、カーラことRadの本拠地が存在する。道のりは危険を伴い、道中に惑星封鎖機構は当然として、アーキバスやベイラム、ルビコン解放戦線などの三つ巴の戦域が広がっている。特に激しいのは中央、知っての通り巨大な要塞、通称『壁』がある為だ。そこを中心として、各戦線が伸びている。西部についてしまえば砂漠が主であり比較的安全地帯だ、ルビコン解放戦線のストライダーがコーラルを掘っていられるぐらいには他企業も重要視していない。

 

 さて、俺は行きたくないが…行かないと何をされるかわからないので行くしかない。

 

『依頼内容 荷物運び 報酬ーーー 期限Ⅹ日以内』

 

 …報酬欄が空白、そして荷物運びがカーラからの依頼だ。どう見ても荷物は俺自身だろうけどね!早く来させるためか、時間制限が設けられている。最短で向かって間に合うレベルの日程だ、俺の住処もバレてるぞ…

 

『依頼内容はRadからの旧グリッド捜索依頼となっています 独立傭兵ノーネーム 貴方の帰還をお待ちしております』

 

 それとなんかオールマインドには、別の依頼内容が見えてるっぽい…マルウェアでも仕込んでる?まあ、俺にはどうすることもできんが。オールマインドから何があったかの追求がないだけマシなのか…それともこの時点でカーラはオールマインドを怪しんでいる?ゲームでも簡単にシステムを乗っ取る基盤を作ってたし、最初から準備していたのは明白。いつの時点で感づいたのかしらんが、アリーナにも介入できるレベルだしな…逆らわんとこ。

 

 俺の拠点はベリウス南部の山の中にある。ここから少しACで空でも上がれば遠くに解放戦線のガリア多重ダムが見える位置だ。俺の家周りは岩場にカモフラージュされて、簡単な罠も仕掛けてある。意外と解放戦線の拠点と近いが、今のところ依頼関係なく出会っていない。わざわざ山の中に入ろうとする奴がいないだけか、単純にいつどこで襲われるかわからんのに意味もなく山の中に来ないだけだろう。簡単に発見されるレベルの位置なのは問題でもあるが、拠点移動するにも準備がいる、今の俺には無理だ。

 

 ここから単純に南西方向に向かえばベリウス西部なのだが…面倒なことに丁度中間ぐらいの位置にアーキバスの拠点がある。遠回りして行きたいが、どう頑張っても海超えをしないと行けなくなる。それは避けたいのだ、万が一の時逃げ場がないのが一点、ACがそもそも海中戦は想定していないのが二点、そして…過去のACを知っている者がいれば怖い存在カッパ。この世界のACは宇宙外活動もできるため海中でも活動可能ではあるが・・・できれば心情的には水辺で戦いたくない。冬…今のルビコン冬だよね?とにかく寒くて凍ってるのは確認したから海落ちはないはず。

 

「逃れられるカルマ」

 

 遠回りすれば時間がかかりすぎるし、敵との接遇対応する可能性が高まる。ならとる行動は一つ・・・ブースト吹かして海越えです。アーキバスのレーダーに引っかかったら迎撃が来るだろうが、こちらから攻撃しなければ許してくれるか…無理だろうけど!Rad(実質カーラー)とアーキバスどっちと敵対したいですか?と聞かれてどっちがヤバいかと言えば・・・ルビコン内であれば長期的にカーラであろう。外宇宙でならアーキバスだが、今の俺にとってルビコン外に行く予定より今が大事!

 

『今回の依頼は調べた情報鮮度によって判断される内容です Rad側の要求基準をクリアする必要があります オールマインドからの仲裁は帰還してからとなります事をお伝えします』

「堕ちたな」

『貴方の帰還をお待ちしております』

 

 こいつ!必ず金を搾り取るので帰って来いよと堂々と言いやがった!オールマインドめ、621の時は序盤とか普通に対応してたのに…いやルートによって対応が変わってたな、3週目基準なら最初から本物の登録者レイヴンじゃないかつ旧世代型強化人間とわかって対応してたな。自分にとって都合が良ければVIP対応かよ、商売上手ですこと!

 

 でもスッラがやられた辺りで急遽計画変更した感じが明白なんだよね。でもそれだと何でステルス機をその後襲撃させたのかわからんが…こんな事してるからポンコツAIとかオールドンマイとかネタにされるんだ!

 

「笑っちゃいますよ」

『独立傭兵ノーネーム 仲裁手数料は増加する可能性があることをお伝えします』

「嘘!嘘!おねぇえ!?あぁんもういやん」

 

 ちょおま、切りやがった!・・・本当にAIかよ、俺の馬鹿にした感じを読み解くとかAIの域を超えてるだろ!カーラがプログラムしたチャティですら笑うだけで大変なのに!そういえばまだチャティに会ってないな、まだ生まれてないのか?まあいいか。

 

 …行きますかね。迷ってたら時間が過ぎるだけだ。

 

 自分のACに乗り、すぐさまブーストを吹かして南西へ向かう。凍った海が見え始め、遠くにアーキバスの拠点も見え始めた。このまま何事もなく通らせてくれよ!

 

 

 

 

 

 

 

 …と考えて行くのは良かった…さっそくバレた。海越えをしていたら、普通にMT部隊がいたのだ。破壊しないように避けて行こうとしたら、ピピピ!と警告音、まさかのカメラ仕様の機体だったのだ。撮影範囲は避けたが、普通に連絡されたっぽく…アーキバス拠点からACが飛んできた。現実になったらそりゃカメラとか映像に残らなくても通信で普通に連絡するわな!

 

 

『傭兵はやはり知性の欠片もない、ものの道理も理解できないとは指導が必要なようだな!』

 

 

 まさかのスウィンバーンの登場ですよ!MT部隊が大量に拠点からこちらに来ているのが見える…V.Ⅶスウィンバーンは相手を捕獲することを第一に考えている。再教育センター送り用であろうが、内心自分が一番そういった手術関係に関わりたくないから生贄を集めているという精神患者一歩手前の心境というね。後遺症なく強化人間になれたけどトラウマになって人間不信になりましたとなった人物、それがスウィンバーンである。

 

 


 

 

「スネイル閣下に報告せねば!…なに、一機だけだと…いや待てこの私自ら捕獲し、再教育送りにすれば評価も…」

 

 それは前触れもなく訪れた独立傭兵によって引き起こされた。最近話題となっている謎の経歴を持つ独立傭兵が我らアーキバスの仮拠点周辺に現れたのだ。惑星封鎖機構の基地を落とした技量、侮れる輩ではない。

 

 わ、我らを倒しに来たのか!?解放戦線の連中から依頼を!?

 

 そも何故中央から外れた地点に拠点があるかと言えば…素材集め、スネイル閣下が率先して行っている強化手術の治験者を回収しているのだ。それ自体にスウィンバーンは思うことはない、自分は関係ないことである。敵対するから悪いのであって、土着人共が柔軟に物事を理解していればよかっただけである。

 

 問題は逆恨みしてくる連中が仕向けた相手だ。ランク圏外の輩なら私より弱いと大まかに判断できるためまだいい、だが今回の相手は予測不可能の相手だ。武装はふざけているとしか言えない両腕火炎放射器、それ以外の武装はない。だがそれ故に理不尽な強さを持っているのでは?と思ってしまう、強化人間でもないのにヴェスパー部隊最強の男を思えば可能性を否定できない。

 

『敵ACは我々に目もくれず離れていきます!隊長指示を!』

 

 離れていく?我々の拠点に襲撃を仕掛けるわけではないのか…それより、偵察部隊のMTに攻撃もしないで離れるだと?捕獲用の武装が中心とはいえ狙われている状況で目もくれないか…目的は我々でない何か…であるなら、我々との戦闘を避ける理由がある。他の依頼を受け無駄な出費を抑えようと動いたのか。

 

「…よし、この私自ら捕獲し、再教育送りにしてやろう!各MT部隊は私に続け!」

 

 ならば正当な理由にできる。相手に万が一逃げられたにしても、追撃した上での防衛だ。私の評価に響かない上、捕獲できればスネイル閣下もお喜びになるだろう。

 

 そう意気込みながら奴と対峙した。駆けつけに右肩のグレネードキャノンを放ち牽制するが、奴はブーストを吹かし回避した。爆風の範囲をわかっているかのように大きく回避行動に移りながらこちらを特徴的な、まるで複眼であるかのようなACの頭部がこちらを赤い眼で睨んでいると錯覚してしまう。

 

「貴様、大人しく捕まるなら悪いようにはせん。武器を置いて投降するがいい」

 

 一瞬の心の隙を表に出さず問いかける。これで投降するならいい、だがまず無理だ。そんなこと理解している、部下のMTが奴を囲む位置取りになるまでの時間稼ぎに過ぎない。どんなに強かろうと一機で数十を超えるMTと共に戦えばどうとでもなる。それに奴は逃げを選択するだろう、こちらの動きに感づく知恵が回るなら敵対なんてする馬鹿な行為などしない。

 

「どんな理由で我々の拠点近くをうろついていたか知らないが、私にみつかっ」

 

 そう思っていた…。だが奴は突如囲み始めるMT目掛けて火炎放射を放ち始めたのだ!

 

 

 おあーっ!?

 

 

 攻撃するはずがないと油断していたのも災いし、コックピット画面いっぱいの火炎に驚きのあまり声が出て回避が遅れてしまう。だが驚きも一瞬、ACの耐久性能を表すAPが表示されているが、減少数値はたったの200程度だったのだ。MTの攻撃を食らっていた方が威力があると理解し、攻撃を受けた理不尽と安心感で心に余裕が生まれた。

 

「貴様よくも!なっ待てッ」

 

 あの火炎放射に当たっても大したダメージにならない。それはいい、だが問題はACより耐久が低いMTには有効だったことだ。最初から目くらまし程度でこちらに放ったのだ、ロックオンアシストを切っているであろう動きで左右に振るように火炎をばら撒きながら、だが確実に部下に当てていきMT部隊の数が一気に減らされていく!

 

『ぎゃぁぁぁ!た、隊長!』

『こいつッ!く、なんでこっちの攻撃が当たらないんだ!?』

『落ち着け、数はこっちが上ッひぃアあぁぁぁっーー…』

 

 これはマズい!始末書では済まない損失を招いている!?アーキバスの損失を招いたとなれば評価されるどころかマイナスにしかならない!?

 

「やめろ!私と戦え!?」

 

 そいつは私の通信が聞こえているはずなのに無言で飛び回り、MTを中心に攻撃し続けた。私に注意を引かせるため右腕の誘導ミサイルを放つも、後ろに目でもついているのかと疑うかのように避けられる。誘導弾を避けられ苦い顔をしてしまうが、できる限りの攻撃を放ち続ける。

 

 私はこの時点で後悔していた…傭兵の技量は私より上であり、あの理不尽な第一隊長と同類な存在だったと。奴も4脚パーツを使用している・・・あのパーツは確かベイラム製品だったはずだがそれはいい。多少性能の違いがあれど用途は変わらないはずなのだ、4脚の特徴である空中戦での有利性を活かす攻防ならば納得できたかもしれない、だが奴の動きは高速で火炎放射を当てていく高機動ACの動きに酷使していた。MTの動きを予測して放っているだろう炎の扱いは曲芸のように熟練感を感じるが、本来の用途以外で性能を活かせるパイロットは一握りの理不尽だと相場は決まっている。

 

「なんて動きだッ!」

 

 言葉に出てしまうほど奴は理外な存在なのだ。一つのパーツを使い慣れるのにどれだけの時間を要するかわかっているのか、脚部パーツは特にそうだ、両足、逆関節、4脚、タンク、特徴差異は激しく基本一度決めたパーツはそのままにするのが常識なのだ。…第一隊長は全部ある程度乗りこなして選んだらしいが。

 

 普段から使用しているからこその気づき…あの傭兵は他の武装であろうと乗りこなせる存在だとわかってしまった。本格的に武装を変え、自らと同じ武装をされただけでこちらは何もできずやられる、そう理解してしまった。逆に言えば今の脅威度の低い武装をしている今なら、なんとかなるかもしれないのだ。

 

 残った友軍は残り少ない…一機に対し数秒程度で破壊されていたら数十機いようと十分もかからない。本来なら十分な数である部隊なのだ、目の前の存在が理不尽なのだ。

 

『し、死にたくッアあぁぁ』

 

 最後の部下がやられた時、ルビコンの寒さを肌で感じた。だがその感覚を無理やり抑え込んで対峙する。

 

「ハァ…ハァ…やってくれたな!貴様は再教育センター送りだ!」

 

 奴は睨んでいる。こちらを燃やし尽くすかのように赤く光るACの瞳…これから起こる可能性を暗示させるが如く。

 

 対峙しているだけで部下たちの最後を思い出す。燃えていく、燃え残った存在も燃やし続ける、赤い怪物。奴の武器がこちらを向いた時には放っていた、当然横に避けられ火炎が画面を包む。こちらも当たってやるわけがない、攻撃を避けるために機体を動かした…が、動かした先にも炎が待ち構えていた。

 

「グッ、だがこんなっッウが!?な、舐めるなァぁぁ!」

 

 視界が晴れた瞬間には奴が突撃してこちらを蹴り飛ばしていた。ヒットバックした機体を立て直し、左腕のスタンバトンを前に出す…が、何も触れず空を切り、奴は視界にいなかった。その直後真後ろから強い衝撃が機体を襲う。すぐさま後ろに振り向いた時には奴はいない。

 

「ど、どこへ!?っッうがー!?」

 

 今度は横から蹴り飛ばされた。奴はこちらが振り向く前には視界外に消えていく、そして火炎と蹴りを繰り返してくるのだ。

 

「な、何という卑劣っグぁ!?」

 

 理不尽だ。そう思った矢先には蹴られ、それが繰り返されコックピットでは警告音が鳴り響く。頭も背中も腕も脚部も、熱や衝撃で限界だと表示されていく。備え付けられているリペアキットを使用し、減らされたAPを回復させる。だがその直後に奴からの攻撃で再度APが削られ、物理的にACが、パーツが破損しかねなかった。

 

 このままでは!?

 

「ま、待て!」

 

 もうなりふり構わず口にしていた。まだ機体APは残っているが、このまま続いてもなぶり殺しにされるだけだとわかっている。一か八かのパルスアーマーを展開し、会話を試みた。

 

 奴も攻撃をやめ、やっと視界に映った時には・・・奴はこちらを無視して飛んで行った。

 

「な!人の話は最後まで聞け!」

 

 こちらからの通信に奴は最後まで応じず、まるで悪夢だったかのようにその場に静けさが残った。様々な感情が浮かぶ中、今回の事をどのように報告すればいいか…その一点だけがスウィンバーンの冷え切った身体を蝕むのだった。

 

 

 

 





 
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