「マコ█先輩」って、知ってますか?   作:有馬Hidden

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【業務連絡】
エイミとヒマリの短編を書いてたので遅れました。(そっちが本業のため)


黒舘ハルナが分かりません-2

「お力になれず……申し訳ありません……」

 

 チアキたちに頼まれ、『アリウス』の情報を捜索していた錠前サオリは、歌住サクラコの下を訪ねていた。

 

「いや、気にしなくていい。『ここには情報が無い』ということが分かっただけで十分だ」

 

 アツコが「行っても情報は無い」と言っていたが、やはり探せるだけ探しておかないと気が済まない。それに、先生からも頼まれたということは、何かしらの重要な情報なのだろう。

 

「そうですか……。でも、無理はなさらないでくださいね? 私たちが他に手伝えることがありましたら、何なりとお申し付けください」

 

「ああ。サクラコさんも何か困ったことがあったら、私たちを頼ってくれ」

 

 サオリは、サクラコに礼を告げ、大聖堂を後にする。外に出た時には、すでに日が傾き始めていた。

 

「今日は一日中調査をしてしまったな……」

 

 サオリは、シスターフッド以外にも、ヒヨリと一緒に古書館の歴史資料を読み漁ったり、アズサ経由でヒフミに頼んでティーパーティ関係者に訊ねたりしたものの、『誰も分からない』ということしか分からない。

 

「アリウス、か……」

 

 この単語を口にするたび、背中で妙な感覚がするのは何故だろう。もしかしたら、忘れているだけで自分にとって大事なものだったのかもしれない。

 

「……続きは明日だな」

 

 だが、これ以上の調査は、関係各所にも迷惑だろう。

 

 なるべく早く調査したい気持ちはあるが、こういう時は落ち着いて確実な調査をしなければならない。戦闘と同じだ。焦りは禁物。

 

 サオリは、日課のパトロールをしながら夕食のことを考え始めた。

 

 自警団の活動内容は、明確に定められていない。そもそも、守月スズミを中心として勝手に集まっているだけのグループに近いのだ。だから非公認の部活ではあるし、スズミですら誰が具体的に何をしているのかは把握しきれていない。

 

「む……やけに人が多いな」

 

 サオリは、巡回ルートの一つである大通りに出たところで、妙に人が集まっており、全体的にそわそわとしていることに気が付いた。

 

 何かのイベントだろうか。サオリはそう考えたものの、トリニティ内のイベントは概ね把握している。この大通りで開催されるようなものは無かったはずだ。

 

「人が多すぎて通路を塞いでいる……整備員もいないし、無許可のイベントか?」

 

 これは止めるか注意した方が良いだろう。人が密集し過ぎると、とんでもない事故に繋がってしまう恐れがある。実際、トリニティでは人の過密が原因で橋が落ちたという事件があるのだ。

 

 それに、今は帰宅の時間帯だ。これ以上放置すれば渋滞が発生してしまうだろう。

 

「すまない、みんな!人が集まりすぎて通行の邪魔になっている!少し散ってくれないだろうか!」

 

 サオリの呼びかけに反応した何人かの生徒が、立ち止まるのをやめて歩き始めた。

 

「ふぅ……ひとまずこれでいいだろう」

 

 そのまましばらく呼びかけを行っているうちに、人の流れは正常に戻る。自慢ではないが、自分がトリニティ内でそこそこ認知されている生徒で幸運だった。

 

「それにしても……何だったんだ?」

 

 どうやら、人が集まっていたのはレストランの前らしい。

 

「……せっかくなら、今日はここで食べるか」

 

 これも何かの縁だろう。サオリは美味しそうな匂いに釣られて、レストランの扉を開けた。

 

「い、いらっしゃいませ~!空いているお席にどうぞ~!」

 

 出迎えたのは、妙に緊張している店員だった。始めたばかりのアルバイトだろうか。サオリは、心の中で応援しながら空いている席を探す。

 

 店内は、混んでいるというワケでもなかった。てっきりこの店が大混雑していたせいで通路まで人が溢れてしまったのかと思っていたが、そういうことではないらしい。

 

「……席が偏っているな」

 

 空いている席を探しているうちに、サオリは1つの違和感に気が付いた。

 

 食事をしている客は、『ある1点』を避けて座っている。

 

 窓際の席。ガラス張りの窓の隣で、大通りからは座っている客が良く見える席。そこを中心として、円を描くように客は距離を取っている。

 

 自由に座って良いはずなのに、まるで端から座るように指示されているかのような座り方だ。

 

 一体何を避けているのか。

 

「あら、錠前サオリさん」

 

「ハルナ議長……⁉︎」

 

 その席に座っていたのは、黒舘ハルナだった。なるほど、ハルナがここの店に居たから人が集まってきてしまったのか。サオリは納得する。

 

 ミサキ曰く、ハルナはエデン条約以前から『ある一定の層』に人気があったらしい。そしてエデン条約締結以降、その人気に拍車がかかっているようなのだ。

 

 そんなハルナ議長が、ふらっとトリニティに現れ、その辺のレストランにいきなり入ったとなれば大騒ぎになるのも当然のことだろう。

 

「どうも。条約の時以来ですね」

 

「はい。その節ではこちらも助かりました。……しかし、直接話した訳でもないのに覚えてくださっているとは光栄です」

 

 以前、条約に関連した話し合いをするためにトリニティ自治区へやってきたハルナの護衛を秘密裏に担当していただけなのだが、どうやらハルナはサオリのことをキチンと覚えていたらしい。*1

 

「立場上、一度顔を合わせた方のことは覚えておかなければなりませんし……それに、チアキさんから色々と頼み事をされているのでしょう?」

 

「そうですね。なにやら『アリウス』について調べてほしいとチアキさんや先生から頼まれています。……お恥ずかしながら、あまり良い結果ではありませんが」

 

「まぁ……立ち話もなんですし、どうぞ?お座りになってください」

 

 ハルナは、同じテーブルの空いている席を指し示した。

 

「い、いやいや、私がハルナ議長と一緒の席に座るとは……とても恐れ多くて……」

 

 サオリは、トリニティ自治区内でもそこそこの有名人である。先ほど人の流れを元に戻した際も、その人徳と顔の広さによってスムーズに事が進んだ面があった。

 

 だが、黒舘ハルナという生徒はサオリとは比べ物にならないレベルの有名人である。エデン条約においての重要人物であり、現在のゲヘナとトリニティの親善関係にも大きく関わっているゲヘナ学園のトップ。

 

 とてもじゃないが、あくまで『ちょっと有名な生徒』でしかないサオリでは釣り合わないのだ。

 

「……サオリさん。私は今日、ここに『万魔殿議長』として来ているわけではありません」

 

「しかし……」

 

 サオリ個人としては、全く問題のないことである。

 

 だが、『トリニティ自治区』で『万魔殿の議長』が『非公式な武力組織』のメンバーと会談しているとなれば、外野に余計な詮索をされかねない。サオリは、それを心配しているのだ。

 

「ここは正式な会食の場でもありませんから、遠慮することはないでしょう?」

 

「……分かりました。失礼します」

 

 だが、ここで断ってしまうと、せっかく誘ってくれたハルナに対して申し訳ない。サオリは、意を決してハルナの向かい側に座った。

 

「サオリさん、お肉は苦手だったりしますか?」

 

「いえ、好き嫌いは特にありません」

 

 理由はよく分からないが、サオリは食事をしていると『全部食べなければ』という感覚がしてしまう。故に、好き嫌いは無い。

 

「そうですか……では、店員さん」

 

 ハルナは、手を挙げて店員を呼んだ。

 

「あっはい!ご注文でしょうか?」

 

「こちらの方に、『私と同じもの』を1つ」

 

「えっと……『カットステーキの120g』でよ、よろしいですね?」

 

「いえ、『私と同じもの』です。……まぁ、私が注文したのは『カットステーキの120g』ですが」

 

「は、はい!すぐに御作りいたします!」

 

 店員は、逃げるような早歩きで厨房に消えた。妙に緊張しているように思えたが、やはり始めたばかりのアルバイトなのかもしれない。そんな時期にハルナ議長という客を相手にすることになってしまい少し大変だとは思うが、きっと大きな経験になるだろう。

 

「…………」

 

 注文が終わったところで、サオリは改めて店内を見回した。変な記者が特ダネを狙っていないか、一応確認しておくためである。

 

 すべての記者が『元宮チアキ』のような存在であれば無用な心配だが、世界というものはそう都合よくできているわけではないし、人は千差万別なのだ。

 

 だが、それは余計な心配であるということをサオリはすぐに理解した。

 

 ハルナとサオリが座っている席から対角線上に位置する席。あそこに座っているのは正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミだろう。服装を変えて変装し、大きなパフェで顔を隠しているが、あれは間違いなくハスミである。

 

 確かに、正義実現委員会の情報網ならば、ハルナがトリニティに足を踏み入れた瞬間、その情報が伝わることとなるはずだ。だからこそ、ハスミはトラブルを避けるため、そしてハルナを護衛するために、同じ店に入って陰で食事をしているのだろう。

 

 サオリは、問題ないという意思を込めてハスミにアイコンタクトで合図を送ったが、反応は無い。なるほど、流石は正義実現委員会の副委員長と言うべきだろうか。潜入任務中に怪しまれるような不審な行動はしないというワケらしい。

 

 ならば、ハスミの邪魔をしないために、こちらから合図を送るのは緊急時のみが良いだろう。そう考え、サオリはハルナと再び向き合った。

 

 当然のことながら、ハルナは先にこの店に入っていたので、既に食べ始めている。なんというか、マナーが良い。具体的にどの辺がとはサオリは断言できないが、ハルナは見るだけで感心してしまうような存在感を放っている。『上に立つ者』としての立ち振る舞いが骨の髄まで染み込んでいるように思えた。

 

「……ところで、サオリさんには『愉快なお友達』が居るとチアキさんからお聞きしていますが」

 

 ハルナが、語り掛けてきた。

 

「ミサキたちのことでしょうか?」

 

「ええ。ミサキさん達のことです。チアキさんは楽しそうにお話ししていましたよ」

 

「そうか……」

 

 まさか、チアキを経由してハルナまで話が伝わっているとは思わなかった。だから名前を覚えていてくれたのかもしれない。

 

「私、実は幼馴染という関係に一種の憧れがありまして」

 

「そうなんですか?」

 

「……黒舘家は『勉強熱心な家庭』ですので、私には友達と遊ぶ暇なんてありませんでした」

 

「…………」

 

 まぁ、『よくあること』だ。サオリは、そう思ったが、口にはしなかった。

 

 ここは貴族社会のトリニティ自治区であり、今のサオリにはトリニティの一般生徒として育まれてきた価値観が備わっているのだ。サオリからすれば、ティーパーティーに関わろうとする家で育った生徒がそのような過去を備えていることは何もおかしくない。

 

 故に、万魔殿の議長として『上に立つ者』である黒舘ハルナがそのような幼少期を過ごしてきたという事実も、別に驚くようなことでもないのだ。

 

 しかし、これに関してサオリ自身思うところはある。そのような土壌があるからこそ、今のトリニティの『校風』ができたのだろうと、根拠はないが薄々と感じ取っていた。上に立つために教育された生徒が、必ず上に立てるわけではないのだ。

 

 だからこそ、所謂『負の連鎖』が続いてしまうのだろう。今までそのような場面に、サオリは何度も出くわしたことがある。

 

 もし、自分の『何か』が違っていれば、自警団として人々を守る生徒ではなく、誰かを傷つけるような生徒になっていたかもしれない。

 

 そうなっていないのは、きっとアツコたちがいるからだろう。

 

「幼馴染なんてのはただの『関係性の名前』でしかない」

 

「……ほう」

 

「私は……思うんだ。アツコ達とは、幼馴染でなくともいつか出会っていたような気がする」

 

 例え違う学校に通っていたとしても、いつか巡り会える。運命の赤い糸という奴ではないと思うが、切っても切れない『繋がり』は確かにあるのだろう。

 

 サオリは、そう信じていた。

 

「ハルナ議長にも、きっと『親友』と呼べる仲間がいるはずです。それに、これから増やすことだってできる」

 

 だから幼馴染が居なかったとしても、何も恥じることはない。

 

 友達が居なかったのなら、今作ればいい。出来なかったことがあるなら、今からやればいい。

 

 産まれは選べないが、生き方は今からでも選べるのだ。

 

「これから先の未来は、何も分からないからこそ自由なんだって、先生も言っていましたから」

 

「……そうですね。サオリさんの言うとおりです」

 

「お待たせしました。『カットステーキの120g』です」

 

 ハルナは、何か言いたそうな顔をしていたが、料理を運んできた店員に遮られてしまった。

 

 

 

===

 

 

 

 結論から言えば、この店は『論外』に近い。

 

 黒舘ハルナは、心の中で酷評した。

 

「サオリさん、味はどうですか?」

 

「ああ……すごく美味しい……!!」

 

 それもそうだろう。

 

 サオリが緊張しながら口にしている料理は、『カットステーキの120g』などではない。おそらく、メニューの中で一番高い『アラバ牛のステーキ』を『120gのカットステーキ』にしているはずだ。

 

 それでこの『黒舘ハルナ』を欺けると思っているのだろうか。まぁ、欺けると思っているからそういうことをするのだろう。

 

 高いメニューを安い値段で食べられるなら、良いじゃないかと思う人もいるかもしれない。

 

 だが、普通に考えて『頼んだものと違うものが出てくる』のは駄目だろう。ハルナが注文の時に具体的なメニュー名ではなく、『同じもの』と伝えたのもこれが理由である。

 

 そういう意味で、『論外』とハルナは評価したのだ。

 

 おそらく、この店は『黒舘ハルナ』に気に入られようとしてそういうことをしたのだろう。

 

 しかし、黒舘ハルナは『カットステーキの120g』が食べたかったからそれを選び、注文したのだ。

 

 

 

 客の注文を注文通りに提供できない店に対し、ハルナは──

 

 

 

 

 

「ありがとうございました~」

 

 ──普通に代金を支払い、退店した。

 

 

 

 

 

「……ハルナ議長。やっぱり自分の分は自分で支払います」

 

「いえ、これはチアキさんからの頼みごとをこなしてくださっているサオリさんへのお礼です。受け取ってください」

 

「そうか……では、ありがたく受け取らせてもらおう。ごちそうさまでした」

 

 ハルナは、もう一度レストランを見た。

 

 客の要望に応えられない店には、クレームを入れるべきなのだろう。しかし、『万魔殿の議長』がその辺の飲食店にクレームを入れているとなれば、どうだろうか。

 

 心の狭い生徒だと言われるかもしれない。議長である自分が舐められるということは、ゲヘナ学園が舐められるということでもある。

 

 しかも、そのクレームは『サービスしてもらった』という内容である。人にいい扱いをしてもらって文句を言うのかと、批判が来るだろう。

 

 結局のところ、『万魔殿議長である黒舘ハルナ』にはどうすることもできない。

 

 爆破してやりたいほど気が立っているが、ハルナはその感情を完全に隠しきっていた。黒舘家の『教育』のおかげである。

 

 人の上に立つ者にはそれ相応の責任と役目がある。気に入らない店を爆破するなんてことは、それこそ『論外』なのだ。

 

 

 

「ハルナ議長は、これからお帰りですか?」

 

 サオリが訊ねてきた。

 

「そうですね。今日はもうトリニティに用事はありませんので」

 

「では、途中まで私が同行します。駅まででよろしいですか?」

 

 どうやら、帰り道にもついてきてくれるらしい。護衛のつもりだろうか。

 

「……大丈夫ですよ。私は1人で帰れますし」

 

「いえ、ハルナ議長の身に何かあってはいけません」

 

 サオリの自警団としての正義感がそうさせているのだろう。

 

「……では、駅までお願いしますね」

 

 ハルナは、サオリとともに歩き始めた。

 

 

 

 結局のところ、『黒舘ハルナ』と『万魔殿の議長』は切っても切り離せないのだろう。

 

 ただトリニティに食事へ来ただけでこれなのだ。

 

 気になる店を発見したのでふらっと入ってみれば、店は注文よりも高いものを出してくる。ただ食事をしているだけなのに、野次馬が集まり、正義実現委員会の副委員長までやってくる。

 

 どこでなにをしていようと、『万魔殿の立派な議長』として注目され、もてなされてしまう。街の片隅のレストランでも、だ。

 

 

 ──ああ、どうか『普通に』食事をさせてくれ

 

 

 

 

 

「すいませぇ~ん!少しお話を伺ってもよろしいでしょうか!?」

 

 軽く落胆しながら歩いているハルナは、勢いよく捲し立ててくる生徒にいきなり話しかけられた。後ろに控えるカメラと制服からして、クロノスの者だろう。

 

「すまない、ハルナ議長はこれからお帰りなんだ。取材は……」

 

「あの!先ほどまでこの『錠前サオリ』と食事をしていましたよね!いったいどのようなことを話し合われたのでしょうか!?」

 

 取材陣をサオリが止めたが、彼女たちは全く意に介さず、ハルナにマイクとカメラを向け続けている。

 

「……ただ食事をして、共通の知人について話し合っただけですよ」

 

「その共通の知人とは!?まさかティーパーティですか!?」

 

 ハルナは、小さくため息を吐いた。

 

 おそらく、彼女達の中には万魔殿議長が『ただ食事をしただけ』という考えはないのだろう。

 

「非公式の武力組織である自警団と万魔殿議長の会合!今度は一体何をされるつもりなんでしょうか!お答えください!」

 

「これ以上話すことはない!帰ってくれ!」

 

 後退という言葉が脳内に存在しないクロノスに対し、サオリは語気を強めた。しつこいというのもあるが、自警団とハルナをそういう風に言われるのが嫌だったのだ。

 

「話すことができない極秘事項⁉︎⁉︎」

 

 だが、彼女達は全く聞く耳を持たない。

 

「これはとんでもない特ダネじゃあ……」

 

 ハルナは、もう無視して帰ろうかと思っていたが、彼女たちの言葉が突然止まった。

 

「カットカット!ちょっとちょっと!今は取材中なんですよ!勝手に画角に入ってこないでくださいよぉーッ!」

 

 マイクを持っている生徒が、『ハルナの横』に対して迷惑そうな顔をしながら言い放った。チラリと横を確認してみるが、誰もいない。

 

「早くどっか行ってください!しっしっ!」

 

 手で追い払うようにしているが、サオリとハルナとクロノスの取材班以外は、誰もいない。遠巻きに様子を伺っている野次馬ぐらいだ。

 

「あーもう!スタッフ!どかしちゃって!」

 

「うっす」

 

 スタッフの中でも大柄な生徒が、ハルナの隣へ歩いてくる。一体、彼女たちは何をしているのだろうか。ハルナは疑問に思うも、何も分からない。

 

「…………?」

 

 どうやら、サオリも同じらしく、困惑したような表情を浮かべていた。

 

「あのですねぇ、あなたが目立ちたがり屋なのは分かりましたけど、我々はあなたに興味はなくてですねぇ……」

 

 ハルナの横の何も存在しない空間に話しかけ続けている。なんとも奇妙な光景だった。

 

 しかし、似たような現象をどこかで見た覚えがあるような気がしてならない。はたして、どこだっただろうか。

 

「黙ってないでなんか言っ……」

 

 ハルナが考え込んでいると、横にいたスタッフがいきなり倒れ込んだ。

 

「えっ!?」

 

 突然の出来事に、インタビュアーが手にしていたマイクが落下する。

 

「どうした!大丈夫か!?」

 

 先ほどまで鋭い目つきだったサオリも、倒れた生徒に駆け寄り状態を確認していた。こういう時でも真っ先に動けるあたり、流石は自警団と言うべきだろうか。

 

「お、お前!何したんだ!」

 

 インタビュアーが、ハルナの横あたりの空間を指さした。

 

「ハルナ議長は……何もしていないと思うが……」

 

「はぁ⁉ 見れば分かるだろ! 横の『金髪の女』だよ!!」

 

「横……?」

 

 サオリは、訳も分からないという様子だった。

 

「お、おい!こっち来るな!」

 

「どうした‼何が見えているんだ!!」

 

 パニックになる取材班、状況が飲み込めないが何かマズい事態になっていることは理解しているサオリ。

 

 ハルナは、それを冷静に眺めていた。パニックになりすぎて、逆に落ち着いたとかそういうやつだろうか。

 

「やめろ!おい!」

 

 取材班は、手足をバタバタさせながら、『見えない何か』に引きずられていく。

 

「な、何が起こっているのかは分からないが、とにかくマズい!ハルナ議長!人を呼んでくれないか‼救護騎士団と……そうだ!近くにハスミ副委員長は居ないのか!?」

 

 サオリは、周囲を見回したが、ハスミどころか野次馬もいない。すでに全員逃走したのだろう。

 

「うわあぁーッ!!!!」

 

 取材班の叫びがトリニティ自治区の街に響く。

 

「……ああ、食堂の」

 

 悲鳴の中、ハルナは、一つの結論に辿り着いた。

 

 特定の人物(元宮チアキ)にだけ視認できて、怒らせてはいけない存在。ハルナがいつも食事を奢っている『食堂の主』がここに居るのかもしれない。

 

「恩でも返しに来たのでしょうか」

 

 

 

 

 

 ──視界の隅に、輝く金色の髪が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

「……今、誰か私を呼ばなかったか?」

 

 サオリは、突然振り向いた。周囲を確認してみるも、それらしき人の姿は見当たらない。

 

「さぁ?私には聞こえませんでしたわ。誰かが私たちの名前を言っただけでしょう。お互い、何かと目立つ生徒ではありますし」

 

「……そうかもしれないな」

 

 

 

 

 

「それでは、お気をつけて」

 

「はい。本日はありがとうございました」

 

 ハルナは、そのまま駅まで歩き、サオリと別れた。

 

 トリニティ自治区はそこまで物騒な治安でもないので、わざわざ駅まで護衛しなくても構わないのだが、サオリとしてはそうしないと安心できないのだろう。チアキもサオリに護衛して貰ったと聞いている。

 

 きっと、そういう人なのだ。

 

 レストランを出てから()()()()()()()()()()()()()、ただ会話しながら歩いただけになってしまったのだが、中々有意義な時間だったとハルナは思う。

 

 

 

「時間もあることですし、お土産でも買っていきますか」

 

 列車が来るまでの時間、ハルナは駅ビルの中を歩いていたが、並んでいる土産物店を見ているうちに、チアキから貰ったお土産のお礼を買っていこうという気分になった。

 

「こうして『将来への投資』以外で人に渡すお菓子を選ぶのは、随分と久しぶりな気がしますね」

 

 そういえば、こうしてお土産のお菓子を『純粋に』選ぶのは随分と久しぶりのような気がする。最近はお菓子のやりとりよりも「やりとりをしたという事実」の方が重要視されることばかりだったのだ。

 

「……ふふっ」

 

 今日、ハルナがあのレストランに行ったのは、チアキの取材メモを見てトリニティで食事をしたくなったから。サオリと楽しく食事ができたのも、チアキという共通の友人がいるから。お土産を選ぶ楽しさを思い出せたのも、チアキがミレニアムでお土産を買ってきたから。

 

「なんだか、チアキさんには助けられてばかりですね」

 

 いや、もしかしたら『羽沼マコト』かもしれない。まぁ、どっちだっていいことだ。

 

 ハルナは、5個入りの菓子を手に取りレジに向かう。

 

「…………もうひとつ買っておきましょうか」

 

 並んでいる最中、理由は分からないが給食部の顔が思い浮かんできたので、列を離れて同じ菓子をもうひとつ取りに行く。

 

 考えてみれば、ハルナが『ただのゲヘナの生徒』として食事ができる場所はゲヘナ学園の食堂だけのようなものだ。あそこでは相手の話『だけ』に集中する必要もないし、マナーを間違えても食事を下げられるようなことも無いし、過剰なもてなしも、過度な期待も寄せられない。

 

 あの場所を作ったのは自分だが、それを維持しているのは給食部だ。日頃のお礼も兼ねて、買っていった方が良いに違いない。

 

「しかし……そうすると、一つ余ってしまいますね……」

 

 給食部は4人。5個入りのお菓子を買っても一つ余ってしまう。自分で食べても良いが、自分だけ2つ食べてしまうというのも気が引ける。

 

「……ああ、もう1人いましたか」

 

 そういえば、食堂には『お友達』が給食部以外にもあと1人いる。いつも食事をしているのだから、お菓子を1つ差し入れても怒ることはあるまい。それに、すぐ食べなければいけないタイプの食品でもないのだ。

 

「もし、私もあの方とお話ができれば……サオリさんとそのお友達の様な関係になれていたかもしれませんね」

 

 ハルナは、食堂の主と会話できるチアキのことを少しだけ羨ましく思いながら、ゲヘナ自治区へと帰還した。

*1
条約反対過激派がハルナを襲撃しようとしているという情報をひょんなことから手に入れてしまった補習授業部がそれを防ぐためにサオリやスズミと協力しながら奮闘した

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