「マコ█先輩」って、知ってますか?   作:有馬Hidden

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黒舘ハルナが分かりません-3

 ──風紀委員本部

 

「なんで……『こんなこと』をしたの」

 

 風紀委員長である空崎ヒナが、取調室で一人の生徒と向き合っている。

 

 神妙な面持ちでマジックミラー越しに中の様子を伺う天雨アコ、銀鏡イオリ、火宮チナツ。その他にも、中の様子を確認しようと集まってきた風紀委員が十数名。その辺の犯罪集団ならば、軽く捻り潰せるような戦力が集まっていた。

 

 何故このようなことが起こっているのか理解できていない生徒は、周囲と何があったのか小声で話し合っている。

 

 それほどまでに、信じがたい事件が起こっているのだ。

 

 

 

答えなさい!! 黒舘ハルナッ!!

 

 

 

「……お答えすることは何もありませんわ」

 

 黒舘ハルナは、取調室で空崎ヒナと静かに向き合っていた。

 

 

 

 あまりの緊迫感に、誰もが固唾を呑んで取調室を見守ることしかできない。外に居るのに中の緊張がダイレクトに伝わってくるようだった。

 

「……なぁ、チナツ。いったいハルナ議長は『何』をしたんだ」

 

 緊張に耐えかねて、イオリはチナツに話しかけた。

 

「私にも……さっぱり……」

 

 実際のところ、話しかけられたチナツも何も分かっていない。ハルナが『何かしでかした』という知らせはチナツの耳にも入っていない。だというのに、何故ハルナが、それも万魔殿の議長でもあろう生徒が、あの様子のヒナから取り調べを受けているのだろうか。

 

 だが、チナツが一番驚いたのは、ヒナ委員長にあの剣幕で詰められて平然としているハルナ議長の姿だった。この状況で普段通りのままでいられる生徒が存在しているとは、思いもしなかったのだ。

 

「あの、行政官……」

 

「黙って見守っていてください。この状況を何とか出来るのは、ヒナ委員長しかいません」

 

「……分かりました」

 

 やはり、アコは何か知っているのだろう。ここに集まっている生徒の中では、顔が比較的険しくない。

 

 だが、どうやら理由を教えるつもりはないらしく、他のメンバーは黙って見守ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「……話すつもりはないのね」

 

「…………」

 

 ヒナの問いかけに、ハルナは答えない。

 

「……そう、分かった。じゃあこっちもそれ相応のことをしなきゃならない。アコ」

 

「はい」

 

 取り調べ室の外にいたアコは、返事をすると集まっていた風紀委員を掻き分けて退室。その後、金属製の持ち運び容器、一般的には岡持ちと呼ばれているそれを抱えて戻ってくると、そのまま取り調べ室へと入って行った。

 

「かつ丼よ。食べなさい」

 

 アコが持ってきたのは、かつ丼である。取り調べを行う時の定番だ。

 

 味は中々に好評であり、昼食として店舗まで食べに行く風紀委員が何人もいるぐらい。そのせいなのかは知らないが、ちょうどお昼時ということもあり、美味しそうな香りに釣られて何人かの風紀委員は、腹の音を鳴らしてしまった。

 

 何人かの風紀委員が昼食を摂るために取り調べ室から離れていく中、ハルナは丁寧に割り箸を2つに裂く。軽快な音を立て、2つに分かれた割り箸は、ほとんど左右対称と言っても過言ではない。

 

「……いただきます」

 

 小さく、それでいてはっきりと聞き取れる声でハルナは呟き、かつ丼の蓋を開ける。

 

 そこには、黄金色の衣に身を包んだカツが、圧倒的な存在感を放ちながら、ハルナを待ち構えていた。カツを一口サイズにし、下に敷き詰められていた卵と共に口へ運ぶ。

 

 咀嚼し、味わう。噛み締める度に、卵の甘さと肉汁が溢れ、ハルナの口内で踊り出す。

 

 

 ──間違いなく、美味しい。

 

 

「……それで、何か言いたいことはあるかしら」

 

 ハルナは、カツを味わうことに集中してしまい、周囲の状況を完全に意識外へと追いやっていたが、ヒナの言葉で現実に帰還した。

 

「まず、衣が素晴らしいですね。このサクッとした歯ごたえ、まるで新雪の上を歩いているかのような……」

 

「…………」

 

「タレはこの店のご主人が独学で編み出し、門外不出のレシピとしていたはずですよね。確かに、研ぎ澄まされた剣先のような鋭さを感じつつも、卵のまろやかさと絶妙に絡まって優しさも演出している……まさに表裏一体。ここまでのタレを作り出すのにいったいどれほどの研究を重ねたのか……」

 

「……あの」

 

「お米の方は……この甘さと歯ごたえ、ミレニアムで去年から売り出されている『こまがたり』でしょうか。確かに、かつ丼は一般的にある程度歯ごたえがあった方はタレとよく合うとは言われています」

 

「ハルナ」

 

「しかし、まだ『こまがたり』は知名度も流通量もそれなり……料理研究家やその道の専門家なら知っているでしょうが、一般の方々の耳に届くほどではありません。そんなお米にこの段階で目を付け、採用している……どうやらご主人はまだまだ向上心に溢れているのでしょう。研鑽を怠らないその姿勢……脱帽ものですわ」

 

「ハルナ」

 

「そんなご主人が丹精込めて作り上げたかつ丼だからこそ、米粒の最後の一粒に至るまで、完璧なハーモニーを奏で続けているのでしょう。そして、華麗な舞踏会に参加した後のように、余韻が食べ終えても抜けきらない……そんな一品でしたわ」

 

 かつ丼を食べ終えたハルナは、口元をナプキンで軽く拭いた。

 

「お店のご主人に『美味しかった』とお伝えしてください」

 

「……こういう時に『食レポ』は求められていないのよ」

 

 ヒナは、呆れたような顔をしていた。ハルナがかつ丼を食べ始める前の様な威圧感は、既に雲散している。

 

「あら、そうでしたか。あいにく、こういう経験はしたことがないものでして……私の無知をお許しください」

 

「いや、まぁ……これに関しては無知の方が良いのだけれど……」

 

 ハルナの言葉に対し、ヒナは小さく溜息を吐く。それは、苦労と安堵の両方が混じっている吐息だった。

 

 取り調べの時にどうするべきかなんて、普通は知らなくていい。

 

「それで、満足した?」

 

「かつ丼はとても美味でしたが……」

 

 ハルナは、そこで言葉を区切り、マジックミラーに映る自分の姿を見た。

 

「正直に言ってしまいますと、いつもと何も変わらない食事でしたわ」

 

 マジックミラーに遮られ、ヒナ以外の生徒の姿は見えないが、確かに視線を感じる。おそらく、あの向こう側には、アコ以外にもたくさんの風紀委員が居るのだろう。

 

「そう……、まぁ、良いわ。私も久しぶりに『取り調べの練習』ができたことだし」

 

「ええ。ご協力ありがとうございました。私の我儘に付き合わせてしまって……」

 

「いいのよ。こうしてちょっとした『おふざけ』に付き合えるぐらいの余裕が風紀委員長にあるのは……ハルナ、あなたのおかげだから」

 

「……ふふふ、そうですか」

 

 ハルナは、小さく微笑んだ。

 

 その裏で、今の食事が『戯れ』として処理されたことに、軽く落胆しながら。

 

 

 

 

 

「あの、行政官……これって……」

 

 ヒナとハルナの様子を、マジックミラー越しに見守っていたチナツは、未だに状況を飲み込めていなかった。

 

「見ての通りです」

 

「いや、どういうことだよ……」

 

 イオリも同じ感情らしく、困惑が表に出ている。

 

「見ての通り、ハルナ議長が『取り調べの時に食べるかつ丼がどんな感覚なのか気になった』ようなので、ヒナ委員長と私が協力してあげているだけですよ」

 

 アコは、さも当然のことであるかのように言い放った。

 

 そう、ハルナは刑事ドラマで見た取り調べシーンのかつ丼が気になってしまったのだ。そこでハルナはヒナに話し、今の奇妙な食事が行われたというワケである。

 

「……では、ハルナ議長が『事件』を起こしたわけではないのですか?」

 

「もちろん。ハルナ議長が『そんなこと』するわけが無いでしょう?」

 

「それもそうですね……」

 

 チナツは、もしハルナ議長が大変な事件を起こしたのならば、ゲヘナ学園が傾くような事態だと心配していたのだが、どうやら杞憂だったらしい。

 

 ヒナとハルナの取り調べを見守っていた風紀委員も、チナツと同様に、ホッと胸を撫で下ろした。まぁ、よく考えればゲヘナ学園の治安を大幅に改善したハルナが、風紀委員長にあそこまで詰められるような事件を起こすはずがない。

 

「ハルナ議長って、意外とおちゃめな面もあるんだね~」

 

「私もヒナ委員長に見守られながらかつ丼食べてみたいなぁ」

 

「ねぇ、今日のお昼ご飯はかつ丼にしない?」

 

「賛成!」

 

 ヒナとハルナの会話は、取り調べからゲヘナ学園の近況に関する雑談へとシームレスに移行したので、見守っていた風紀委員たちは自然に解散していった。

 

 

 

 

 

「じゃ、午後の業務も頑張って」

 

「ええ。お互いに頑張りましょう」

 

 ハルナとヒナは、取調室を出た。

 

 風紀委員本部の建物内は、空調が利いていて快適な空間である。食堂の次ぐらいには整っている場所なのだが、ハルナはどうしても『居心地の悪さ』を感じてしまう。

 

 別にハルナ自身、風紀委員のことは何とも思っていないし、関係としては良好である。だが、それでも、だった。

 

 もっとも、それをわざわざ態度に出すような事はしない。

 

 ゲヘナ学園のトップである万魔殿、そしてその実質的なストッパーでもある風紀委員。両者が睨み合っていては、学園の運営が滞ってしまうからだ。

 

 廊下を進むハルナとヒナ。その3歩ほど後ろに、アコが続く。

 

 

 

かつ丼は美味しかったかい? 黒舘ハルナ!

 

 

 

 突然、廊下の向こうに位置する階段。その『地下』から大声が響いた。ハルナは、隣のヒナの表情が険しくなったことを、顔を見ずに理解する。

 

「反応しなくていいわよ。早く行きましょう」

 

 ヒナは、ハルナを急かした。

 

「いえ、ゲヘナ学園での言論の自由は保障されています。何か訴えたいことがあるならば、聞くぐらいはしてあげましょう」

 

「そうは言っても……」

 

 ハルナは立ち止まり、地下にある『特別収容室』へ続く階段へ顔と体を向けた。その部屋は、もはや外に出すことがほぼ不可能な生徒を、卒業まで『在籍』させておくことが目的の部屋である。

 

確かに、『美味しかった』とは思っているだろう。 だが! 『満足』はしていないはずだ!

 

 確かあそこにいるのは『鬼怒川カスミ』という生徒だったはずだ。

 

満足できない理由はただ一つ! 君が牢屋の外側にいるからだ! そこで『かつ丼』のおいしさが理解できるわけがない!

 

 そういえば、どうしてカスミはあの部屋に居るのだろうか。ハルナは、全く心当たりがない。あの部屋を使用するには風紀委員長と万魔殿議長の許可が必要なのだ。

 

本来の黒舘ハルナは、万魔殿の椅子で姿勢正しく座っているような存在じゃあない!

 

 即ち、黒舘ハルナも目を通している案件のはず。だが、思い出せない。

 

君はもっと自由なはずだ! そんな『窮屈な椅子』で何故『つまらなそう』にしている!?

 

 そもそも、あの部屋にいるのにどうして黒舘ハルナがかつ丼を食べたことを知っているのだろうか。

 

こっちに来い! 私が君をもっと自由にしてあげよう! 黒舘ハルナは、『私』になれる!

 

 まぁ、あの部屋に入れられるような生徒だから何かしらの方法で情報を得ているのだろう。それか、風紀委員たちが先ほどの出来事を周囲に話していたのを聞いたのかもしれない。

 

椅子が窮屈なら蹴飛ばしてしまえばいい!それができないなら作り替えればいい!君ならそれができる!

 

「……ハルナ、聞かなくていいのよ。あいつは、変なことしか言わないから、真面目に付き合うだけ無駄」

 

そう! 私は『変なこと』しか言えない! 誰も本気にしない! だから『自由』なんだ!

 

 確かに、大声はとても楽しそうだった。だが、その片隅に『悲しさ』も見え隠れしている。

 

本当に今のゲヘナ学園が『あるべき姿』だと思っているのか!?

 

「アコ、ハルナ議長を出口まで連れていって」

 

空崎ヒナ! 君は私をここに閉じ込めていると思っているのだろう? だが違う! 閉じ込められているのは『私以外のすべて』だ!

 

 ヒナは、地下へ続く階段を下っていった。

 

外にいるのは私一人! それ以外のすべてが牢に入っている! 君たちからすれば逆なんだろうけどな!

 

「ハルナ議長、これ以上は午後の業務に支障が出てしまいます。先に行きましょう」

 

ここに居るのは私の意思だ! 狂っているように見えるかもしれないが、私は正気なんだ! たったの二畳半しかない空間だけが、正気を保っているんだ!

 

「……そうですね」

 

この二畳半に█████は……ああ、今は存在しないんだったな。 ()()()は手を出せない! いや、『口』を挟めない! こんな部屋にいる生徒の話なんて誰も本気にしないからな! ハーッハッハッハ!

 

 ハルナは、アコに連れられ、出口へ向かった。

 

 

 

元宮チアキを呼べ! 『羽沼マコト』を連れ戻せるかもしれない方法を、私は知っているぞ!

 

 

 

「マコトを……?」

 

 だが、黒舘ハルナは、足を止めてしまった。

 

 まさか、鬼怒川カスミは何か知っているのか。もしそうなら……

 

「ハルナ議長」

 

 振り返ろうとしたハルナの動きを、アコが止めた。

 

「まさかとは思いますが、本気にしていませんよね?」

 

「…………」

 

 図星だった。

 

「カスミは、あそこから出るために適当な言葉を並べているだけです」

 

「……それもそうですね」

 

 ハルナは、振り返らずに進む。これ以上のんびりしていては、午後の業務に遅れてしまうかもしれない。

 

 

 ──だが、カスミの言葉が脳裏にこびりついて離れなかった。

 

 

 

 

 

「やぁ、来たか」

 

 ヒナが特別収容室の扉の前に立つと、中から気さくな挨拶が聞こえてきた。

 

「カスミ、静かにしなさい」

 

「ああ、ヒナ委員長に言っているんじゃあない。前は君のことが恐ろしくて仕方なかったが……牙を食べられてしまった風紀委員長など、もはや敵とは思えないね」

 

 まぁ、負け惜しみだろう。その『敵』に負けを認めたからこそ、鬼怒川カスミはこの特別収容室に入っているのだから。

 

 耳を傾ける時間は完全に無駄だ。ハルナがかつ丼を食べる姿を眺めている時間の方がよっぽど有意義である。まったく、こいつもハルナのように『立派な生徒』であればここに来なくて済むのだが。

 

「入ってくるかい?」

 

「入るわけがないでしょう」

 

 ヒナは、即答した。

 

「はぁ……さっきも言っただろう。私は『風紀委員長』と会話しているんじゃあないんだ。いちいち口を挟まないでくれ」

 

 やはりそうだ。

 

 この部屋の中にいる鬼怒川カスミは、狂っている。真面目に話をするというのは無意味な行為でしかない。

 

「君の隣には誰も見えないだろう? だって、『黒舘ハルナに辞めてほしくない』からなぁ」

 

 ヒナは早々に見切りをつけ、特別収容室から離れた。

 

「…………」

 

 階段を上る前に、一度扉の前を見たが、やはり誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「怒ってるのかい⁉ 私を『食べる』つもりかい⁉」

 

 鬼怒川カスミは、誰もいない扉の向こうに向かって叫ぶ。

 

「じゃあ入ってこい! 二度と出られないと思うがね」

 

「ここはゲヘナ学園の生徒を『絶対に閉じ込めておく』ための部屋だ。そんな姿になってもゲヘナ学園に囚われているなら……当然、二度と出られないだろうな」

 

「より『概念的な存在』になっている君なら、なおさらのこと」

 

「ああ、別に私は君たちの『本来の関係』がどうだったか、なんてことは何も覚えてないぞ。君が食べたんだろう」

 

「どうした? 私は『辞めさせよう』とはしていないぞ? 『辞めずに』好き勝手する方法を教えてあげようとしているだけだ」

 

「ええ? 見たいのはゲヘナ学園をめちゃくちゃにする黒舘ハルナじゃあないのか?」

 

「ハーッハッハッハ! なるほどなぁ! そういうことかぁ!」

 

 

 

いい加減にしろ

 

 

 

「私は君がゲヘナ学園を、キヴォトスをどれだけめちゃくちゃにしようが、はっきり言ってどうでもいい」

 

「だが……」

 

 

 

メグを盗られて、いつまでも黙っていられるほど、私は大人しくない

 

 

 

メグは……私に差し込んだ光なんだ。そして、私もメグの光だ

 

 

 

「君とハルナも……『そう』だったんだろう?」

 

「なぁ、そろそろ返してくれないか? この部屋の風呂はつまらない」

 

 

 

「……既に君を『退治』する方法は4()()()()考えてある」

 

「馬鹿でかい食堂を貰って、いい気になるなよ」

 

「君を倒すのには、たった2畳半あれば十分」

 

 

「いいのか? 私は君を追い詰めているんだぞ?」

 

「部屋に入ってこい! 私を食べてみろ!」

 

 

「…………」

 

 

「入れないよなぁ……?」

 

 

「ああそうだ。そのひとつは『君をここの部屋に入れる』だ」

 

「……もっとも、『鬼怒川カスミ』も完全に消滅するから、最終手段だが」

 

 

「おや? 何もしないのかい? 『私』は食べられなくても『この部屋』は食べられるだろう?」

 

「部屋から出せば、鬼怒川カスミも食べられる」

 

「うわぁ~、怖いなぁ~」

 

 

「やってみろよ」

 

「…………ハーッハッハッハ! 食べたな⁉ 今!!」

 

「でも食べられなかったよなぁ! 吐き出しちゃったよなぁ⁉」

 

「噛み砕けなかったのか? 消化できなかったのか?」

 

「それとも……『エネルギー』が足りなかったのか?」

 

 

 

「そうだ! この部屋を消すということは『この部屋に閉じ込めるしかなかった先輩方』を解き放つということ!」

 

「残らなかったんだろう? ゲヘナ学園か? それとも黒舘のほうか?」

 

「もしかして、君自身か?」

 

 

 

「いずれにせよ、これで確信に変わった」

 

「食べられないものもある」

 

「君は数多の先輩とその影響を全て食べきれるほどに強大なパワーは有していない」

 

 

 

「胃袋は無限かもしれない。でも、食べるための『エネルギー』は有限だ」

 

「だから毎日毎日、食堂で万魔殿の予算を『食いつぶして』いるんだろう?」

 

 

 

「……さて、これで君が追い詰められるのも2回目」

 

 

 

あの『和泉元』とかいう『ミレニアムのエージェント』の時以来だな

 

 

 

「どうして彼女はいまだ健在なのか……」

 

「知っているんだろ? 彼女はたびたび『君』のことを調べている」

 

「なのに『マコト』と同じように食べてしまわないということは……もしかして、『ゲヘナ学園に関係ないところ』で世界の命運でも握っていたのか?」

 

 

 

「きっと『ゲヘナ』か『黒舘ハルナ』に関係が深くないと、君は『食べにくい』のだろう?」

 

 

 

「見てればわかるさ。君の好き嫌いぐらい」

 

「和泉元という生徒に関しては調べても『セミナーの下っ端』ってことしか分からなかったが……」

 

「隠されているってことは隠す理由があるってことだ」

 

「あれがただの役員なわけがない」

 

「それほどまでに重要な生徒だったから、直接食べられない。だから君は『ミレニアムの何人か』を『齧って』『忙しくする』ことでゲヘナにまでなかなか手が回らないようにした」

 

「……違うかい?」

 

 

 

 

 

「んん? ということは……ここまでしても食べ残しにされている『鬼怒川カスミ』も、どこかのタイミングで、『君が食べきれないほどの大事件』に関わることになるのか?」

 

「おお! 楽しみだなぁ!」

 

 

 

 

 

「どうした、反応がおかしいぞ? 図星だったか」

 

 

 

 

「どういうつもりか、だと?」

 

「今しているのは『交渉』だよ」

 

「さっきも言ったが、私はメグを盗られて、いつまでも大人しくているような生徒ではない」

 

 

 

早く全部吐き出せ、と私は言っているんだ

 

 

 

「私から『メグ』を完全に奪っていないのは、私の目を『メグ』に向けさせるため」

 

「きっと私は『メグ』の方を向いていないと、『都合が悪い』んだ」

 

「元宮チアキもそうなんだろう?」

 

「中途半端に記憶を残しているのは、彼女の目がずっとハルナに向いていたら『都合が悪い』から」

 

 

 

「間違ってるなら間違ってると言えよ」

 

「別に、ここの部屋に居ながらでも『食堂』をぶっ壊すことはできるんだぞ」

 

「食堂が消えたらどうする? ほかの飲食店に寄生するのか!? それともハルナの実家か!?」

 

 

 

「そうだ! 私の『勝ち筋』の4パターンは、『お前をこの部屋に入れる』『和泉元に全部伝える』『食堂を破壊する』……残りの1つは教えないし、この3つを達成する方法も教えないが」

 

 

 

君がそんな『くだらない検証』をするために、鬼怒川カスミや下倉メグがいいように使われている現状を、私はいつまでも静観しないぞ

 

 

 

「大人しくしていてほしいんだったら、たまには温泉の素でも差し入れてくれ」

 

「あんまり私を退屈させるんじゃない」

 

「君を追い詰めるには、この『口』さえあれば十分なんだからな!」

 

ハーッハッハッハ!

 

 

 

 

 

 

 

【風紀委員より連絡】

 

購買部で万引きが発生しました。

心当たりのある生徒は代金を持って出頭するように。

 

 

 

【追記】

 

出頭しなさい。現金だけ置いていっても無駄です。

 

 

 

【█月█日 購買部日報】

 

どうして温泉の素を『49個』とかいう中途半端な数で仕入れたんですか?

 

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