「マコ█先輩」って、知ってますか?   作:有馬Hidden

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█████は近くに居ます-2

「そうですよね!あなた、鰐渕アカリさんですよね!?」

 

 チアキは、マホの横を通り抜けて食堂の主……いや、鰐渕アカリに駆け寄った。

 

 何故、今まで鰐渕アカリであると認識できなかったのか。何故、このタイミングで思い出すことができたのか。何故、夏鴨マホは『鰐渕アカリ』を覚えていたのか。

 

 気になることはたくさんある。だが、それ以上に気になることがあった。

 

「どういうことですか!? 美食研究会は一体どうしちゃったんですか!?!?」

 

 アカリに詰め寄る。忘れてしまっているとはいえ、つい先ほどそういうことは止めようと誓ったにも関わらず、スキャンダルを掴んだ芸能記者のような行動だった。

 

 しかし、それも仕方がない。

 

「どうしてハルナさんを議長にしてるんですか!?」

 

 チアキの知る鰐渕アカリ、いや、美食研究会の鰐渕アカリは、ハルナに議長をさせるような人物ではなかったのだ。

 

「教えてくださいよ!!」

「待て」

「うげっ」

 

 チアキは、さらに詰め寄ろうとしたが、マホに首根っこを掴まれて静止する。

 

「なんですか!」

「……それ以上は、『射程圏内』だ」

「射程……?」

 

 首を傾げた。アカリは銃を構えているどころか触ってすらいない。何か武器でも隠し持っているのだろうか。

 

「あって無いような弱点だが、とにかくおよそ2m以内には入るな」

「分かりましたが……」

 

 状況がよく分からないが、まずいことらしいのでひとまず後ろに下がる。

 

「えっと……これって何が起こってるんですか?」

 

 チアキは、物理的にも精神的にも一旦落ち着いたので、状況をよく考え始めた。

 

「まぁ、反応から察するに『アレ』が鰐渕アカリであるということは思い出しているんだろう」

「そうですね」

 

 まず、食堂の主は鰐渕アカリだった。それはいい。だが、理由は分からない。そして、それを思い出したのは夏鴨マホがうっかり名前を言ってしまったことがきっかけである。

 

「じゃあ、なんでマホちゃんはアカリさんのことを覚えていたんですか?」

「あー……、それはだな」

 

 マホの口調は、いつの間にか全くの別人になっていた。アカリに気を取られて気づくのが遅れてしまったが、喋り方と雰囲気がいつもと全く違う。本当に、目の前に居るのは週刊万魔殿を毎週欠かさず購読してくれている夏鴨マホなのだろうか。目つきすら別人になっているような気もしてくる。

 

「まずは、『私』が誰なのかってことからだな。ちょっと借りるぞ」

 

 マホは、そう言うとチアキの万魔殿の帽子と肩にかけていた万魔殿コートを取り上げ、身に着けた。

 

「サイズも合わないし、帽子も議長用ではないが……まぁ、良いだろう。これなら少しは持つか」

「えっ……?」

 

 間抜けな声が出てしまったとは、チアキ自身も思う。しかし、それも仕方がないこと。

 

「こうやって話すのは、久しぶりだな。チアキ」

 

 羽沼マコトは、チアキに対して優しく微笑んでいた。

 

「まっ……マコト先輩!?」

 

 伝えたかった言葉さえも、チアキの口から出てこない。ずっと探していた羽沼マコトが、目の前にいた……いや、鰐渕アカリも、羽沼マコトも、ずっとチアキのすぐ側にいたのに、まったく気が付かなかったのだ。

 

「どうして……、私はずっと探してて……」

 

 チアキの思考回路は、ショート寸前の状態。一度に大量の情報が押し寄せ、まともに考えられる状態ではない。

 

「気持ちは分かるが、感動の再会はもう少し後だ。まだ何も終わっちゃいない」

 

 マコトは、チアキの肩に手を乗せ、覚悟を決めたような表情をしていた。こんな表情のマコトを見たのは、いつ以来だっただろうか。

 

「チアキはここまで、何も知らずに巻き込まれ、頑張ってきたんだ。どうせ記憶ごと消えてなくなるとしても、説明を聞く権利ぐらいはあるだろう?」

 

 アカリは、何も言わずにマコトの顔をジッと見つめていた。少なくとも、拒否ではない。

 

 記憶の中の姿と何も変わっていないマコトとは違い、鰐渕アカリはチアキの記憶と少し雰囲気が違う。一体、彼女に何があったのだろうか、チアキはマコトの言葉を待った。

 

「そこに居るアカリは、鰐渕アカリであり鰐渕アカリではない。『違う歴史』を辿ったキヴォトスから流れ着いてきた鰐渕アカリ……そうだろ?」

 

 マコトの問いかけに対し、アカリは、やはり何も言わない。

 

「……否定しないなら勝手に続けるぞ。そして、羽沼マコトや黒舘ハルナ……いや、ゲヘナが『こんなこと』になっている元凶でもある」

「そ、そうなんですか……」

 

 チアキは、この情報をミレニアムや先生にも伝えた方がいいのではないかと思ったが、携帯は上着のポケットの中である。ここでわざわざ話の腰を折るのも気がひけるので、ひとまずマコトの話に専念することにした。

 

「どうやってそんな力を手に入れたのかは知らんが、アカリに『食べられないもの』は存在しない。モノ、時間、概念……あのアカリは文字通り何でも食べる。そして、食べられたものは、このキヴォトスから消えてしまう」

「消え……!!」

 

 まさか、マコトが居なかったのも、ミレニアムで生徒が何人か消えてしまったのも、そういうことなのか。

 

「ヒトやモノを食べられれば、存在しなかったことになるし、時間を食べられれば食べられる前まで巻き戻ってしまうというワケだ」

 

 チアキの記憶の中の鰐渕アカリは、沢山食べる生徒ではあったのだが、そんなものを食べるような生徒ではない。一体、何が彼女をそうさせてしまったのだろう。

 

「それで、『万魔殿議長の羽沼マコト』を食べられたから、私は『夏鴨マホ』というただのゲヘナ生徒になっていた」

「なるほど……マコト先輩が居なくなったから、その代わりにハルナ先輩が議長に……」

 

 チアキは、アカリを見た。ということは、あのアカリを『倒せば』すべて解決するのではないか。そうすれば、マコトも、美食研究会も元通りになるかもしれない。

 

 けれど、そんな単純なことなら、もっと早く解決していただろうという思いもある。

 

「一つ言っておく。私は、アカリに『羽沼マコト』を『食べさせた』のだ」

「それは、またどうして……」

「……話していいか?」

 

 アカリは、首を横に振った。チアキとしては、かなり興味のあることだったが、本人が拒否しているなら仕方がない。

 

「……そうか。じゃあ、さっきの『射程距離』の話をしておこう。手の届く範囲にないものは食べられない。それはチアキも私も同じだ」

「食べられる範囲は、アカリさんの『手の届く範囲』にあるものってことですか?」

「理解が早くて助かる。同時に、それが弱点でもあるというワケだ」

 

 確かに、手の届く範囲のものしか『食べる』ことができないなら、戦うにしてもやりようがあるように思える。遠距離から狙撃したりすれば、倒すことができるかもしれない。倒すかどうかは別にしても。

 

「食べるには、『その場』に行かなければならない。口を滑らせてうっかりハルナに辞職のきっかけを与えてしまったチアキも、催眠術でハルナが内側に抱えていたものを吐き出させてしまったサツキも、ハルナを暗殺したアリウスの部隊も、ハルナの特ダネを探すクロノスの記者も、████も……おっと、これは言えないか。とにかく、アカリはその本人たちの前に姿を現さなければ食べられない」

「あの、今なんて言いました?」

「気にするな。もう無くなったことだ」

 

 さらっととんでもないことを聞いたような気がしたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。マコトの言う通り、気にしないことにした。

 

「その制約のせいで、ばら撒かれたハルナのデマをインターネットの『奥深く』に回収しに行かなければならず、『変な広告』を踏んでしまったせいで力を一部奪われ、弱体化しているのが今のアカリだが……まぁ、そっちはチアキには関係ないか。そのうちミレニアムが解決する」

「……メモとってもいいですか?」

 

 情報量が多くて、チアキは混乱してきていた。

 

「無意味だと思うぞ。どうせこのやり取りもそのうち無かったことにされる」

「そうですか……」

 

 せっかくマコトに会えたというのに、また忘れてしまうのかと少しだけショックを受けたが、ここで話を聞けたことは、きっと無意味ではない。本当に無意味だったら、マコトがここで説明してくれる意味も無いのだ。

 

「さて、他に何か話すことはあったかな」

 

 マコトは、顎に手を当てて考え始めた。

 

「……マコト先輩は、このキヴォトスで何をしていたんですか?」

 

 チアキは訊ねる。『羽沼マコト』という情報を食べさせて、夏鴨マホになっていたのは分かった。だが、『真実』を知っていたのに、マコトは一体何をしていたのか。それが気になっていた。

 

「簡単に言えば、私はアカリのアドバイザーをしていた」

「アドバイザー?」

「……目的は話せないが、アカリは今『検証作業』をしている。それを『第三者』の視点から観測し、口出しをするのが私だ」

 

 つまり、アカリは、マコトにやったように『情報』を消したり、『時間』を食べて巻き戻したりして、『何か』を確かめようとしているということだろう。

 

「マコト先輩は……」

「なんだ」

()()ですよね?」

「もちろん。イブキにサツキたち万魔殿……いや、ゲヘナのことを考えて私は行動している。こうしてアカリの検証に付き合っているのも、『真実』は私も知らなければならないことだと判断したからだったのだが……」

 

 チアキは、それを聞いてほっとした。ということは、マコトもアカリも、『敵』ではないのだろう。それが聞けただけでも、良かったと言える。

 

 さて、他に何か聞いておきたいことはあるだろうか。チアキは、考えながらマコトの顔を見た。

 

「だが今は……」

 

 マコトは、真剣な顔つきで、チアキではなくアカリの方を見ている。

 

「……なぁ、アカリ」

「…………」

 

 アカリは、何も言わない。

 

「もう、止めないか?」

「…………」

 

 何も言わない。だが、アカリの目つきは、少しだけ険しくなっていた。

 

「断言する。これ以上やっても何も分からない」

「……そんなこと、やってみなきゃわからないですか」

 

 チアキは、今日()()()アカリの声を聴いた。

 

 泣きそうになっている。そんな印象を受ける声だった。

 

「いや、無駄なことだ」

 

 無慈悲に斬り捨てるように、マコトは告げる。

 

「何を根拠にそんな……!!」

 

 今度は、明確に怒りの感情が言葉に乗っていた。その迫力に、チアキは思わず後ずさりしてしまう。

 

「逆に聞くぞ」

 

 

 

「黒舘ハルナはお前を利用して、このマコト様を暗殺しようとする生徒か?」

 

「……ッ!!」

 

 チアキは、思わず息を呑んだ。内容も衝撃的だったが、それ以上にアカリの放つ威圧が、チアキを萎縮させている。

 

 アカリの瞳孔が、ピンク色の輝きを増し始めた。誰がどう考えても、怒っている。「怒った鰐渕、鰐渕イカリ」とかそういうレベルの話ではない。

 

「分からないから……」

 

 果たして、今の発言は自分が聞いてしまってよかったのだろうか。先ほどの説明で、あえて伏せていた部分なのではないか。

 

「それが分からないから、こうしてるんじゃないですか!!」

 

 チアキがそんな心配をする前に、アカリは感情を爆発させていた。まるで火山の噴火かと思うような感情の激流に、チアキは何故か悲しくなる。

 

 チアキの記憶の中では、アカリがこんなふうに感情を露わにすることも、ここまで怒り心頭になっていたことも、なかったはずだ。

 

「ハルナには、マコト議長を暗殺しようとするだけの理由が……私の知らない理由が、あったはずなんです。だから、それを知るために、私はハルナを……」

 

 チアキは、マコトが『食べさせた』理由をなんとなくではあるが理解した。

 

 黒舘ハルナというゲヘナ生徒の運命を左右することとなった『鰐渕アカリ』と『羽沼マコト』が居なくなれば、ハルナの抱えている『野心』が見えてくるのではないか。ハルナが議長になれば『やりたかったこと』が分かるのではないか。そういうことだろう。

 

 ただ、納得は行かない。結局それは『美食研究』なのではないだろうか、という思いが拭いきれないからだ。ハルナ議長が、食堂を作り変えたりしている以上、『本質』は何も変わっていないとしか思えない。

 

 まぁ、だから検証作業をしているのだろうが。

 

「違う。ハルナは『何者か』に操られていた。地下生活者とかいう奴の時に、アカリだってそう納得したじゃあないか。何故続ける?」

 

 マコトは、諭すように続けた。イブキやサツキを甘やかしたり、風紀委員や先生と向き合っているような雰囲気とは、かけ離れた態度である。

 

「それは……」

「犯人は地下生活者とは別だとしても、もはや別物となったゲヘナで、これ以上過去を掘り返しても答えには辿りつかないだろう。私たちは、いい加減未来に進むべきなんじゃあないのか?」

「そしたら……」

 

「これが、嘘だったってことじゃないですか!」

 

 アカリは、ボロボロの手袋を地面に叩きつけた。露わになった()()()()()では、金色の指輪が輝いている。つまりは、そういうことだろう。

 

「ここまで私の心の支えになっていてくれた『これ』が、嘘だって言うんですか……?」

「どうして……」

 

 チアキの口から、そんな言葉が漏れた。

 

 だが、これは誰の何に対しての発言だったのだろうか。チアキにも分からない。こうなると分かっていたのに発言したマコトに対してか、こんなことをしているアカリに対してなのか、それとも、マコトを暗殺しようとしたハルナに対してなのか。

 

 もはや分からない。

 

「まぁ、説得は……私たちには無理だろうな」

 

 マコトは、諦めたようにため息を吐きながら、近くの花壇で囲いになっていたレンガを引き抜いた。武器のつもりなのだろうか。

 

「じゃあ、先生に……!」

「いや、アカリを説得できるのは、ハルナしかいない」

 

 マコトの言う通りである。アカリを説得するならば、先生よりもハルナの方が向いている。マコトを暗殺しようとする動機なんてないと、本人の言葉で語ってもらうしかないのだろう。今のハルナが、それを言ってくれるのかどうかは怪しいところではあるが。

 

 チアキが、そう考えていた瞬間のことであった。

 

「へっ……?」

 

 瞬きする間に、アカリは一瞬にしてマコトの目の前に移動していたのだ。

 

「ふん」

 

 だが、マコトは、まるでそれが分かっていたかのように、既にレンガを振り抜いている。アカリの顎を強打し、アカリの頭が揺れる。

 

 怯んだアカリを、マコトは蹴飛ばし、その勢いを利用してアカリから『2m』ほど距離を取る。

 

「え、えっと……」

 

 チアキには、何が起こったのかさっぱりだった。見ていたはずなのに、理解する前に行動が終了している。対戦ゲーム研究会へお邪魔した時に見学した格闘ゲームの対戦のようだったな、と思った。

 

「……さっき言ったことの応用だ。『アカリは何でも食べられる』『ただし、およそ2m以内に存在しているものに限る』」

 

 マコトは、食堂の近くに止まっていたトラックの上に飛び乗り、帽子とコートの位置を直した。さっきまでチアキが身に着けていたものだというのに、妙に様になっているというか、しっくりくる。

 

「だから2m以内に居なければ食べられることはない。それは分かっているな?」

「ええ、まぁ……」

 

 しかし、先ほどのアカリは、瞬間移動のような挙動をしていた。瞬間移動ができるのならば、その弱点はほとんどないと言っても過言ではない。

 

「だが、アカリは(マコト)との間にある『距離』を食べ、距離を無かったことにしている」

 

 消しているのは『移動時間』の方かもしれないがな、とマコトは付け足した。

 

「ああ!」

「これを利用することで『ハルナを辞めさせようとする原因』や、『アカリの胃袋に手を突っ込んでいる(存在しないものに言及する)生徒』のところへ一瞬で移動することが可能になっているというワケだ」

 

 チアキは、なるほどと思った。確かに、自分と対象の間に存在する距離は、『自分』から始まっている。そういう解釈の仕方をすれば、なんだって食べに行けるはずだ。

 

「射程距離という最大の弱点が無くなった以上、一見完全無欠のように見えるが、そうでもない」

 

 アカリは、頭を振りながら、口に入ったレンガの破片を吐き出していた。おそらく、軽い脳震盪を起こしているのだろう。あと数秒もすれば、復活してくるに違いない。

 

「アカリが何かを消すには『食べる』という行為を挟む必要がある。だが、食べるためには『咀嚼』をしなければならない。つまり、ノータイムで消されるというワケではないということだ」

「じゃあ、さっきは『咀嚼』される前に顎を……!」

「そう」

 

 瞬間移動をして対象を消すには、移動含めて2回も『咀嚼』という『予備動作』を挟まなければならない。そこが隙というワケだろう。

 

 流石はマコト先輩だと、チアキは内心舞い上がっていたが、その攻略法を見つけるまでに、マコトはどれだけアカリのことを見ていたのだろうか。そして、同じ手がもう一度通用するのだろうか。

 

「……ハルナがこっちに来るまで、アカリをこの場所に留め、時間を稼がなければならない」

 

 マコトは、肩にかけていたコートのポケットから、チアキの携帯を取り出し、投げ渡してきた。

 

「あ!私の携帯!」

 

 そういえば、携帯はコートのポケットにしまっておいたのだった。

 

 受け取って画面を確認してみれば、「すぐ 食堂」とだけ記されたメッセージが、3分ほど前にハルナに対して送信されている。

 

 先ほどまでの会話は、ハルナがこっちへ来るための時間稼ぎも兼ねていたらしい。どれぐらい急いでくれるかにもよるが、ハルナが居た場所から食堂の前に来るまで、およそ7分から10分程度だろうか。

 

「見ての通り、アカリは戻ってきてしまった『羽沼マコト』と色々知ってしまった『元宮チアキ』を消そうとしている」

「囮、ってことですか……」

 

 アカリをこの場所に留めておくだけの理由はできた。あとは、時間を稼ぐだけ。まぁ、記憶の中に鰐渕アカリが存在していない黒舘ハルナが、このアカリを無事に説得できるのかという問題はあるが、今はできると仮定して事を進めなければならない。

 

「偶然にも、チアキがアカリの胃袋に手を突っ込むことができたから、チャンスが巡ってきた」

 

 うっかり漏らした言葉をチアキが拾ってしまったことで、マコトは夏鴨マホから戻ってくるチャンスを手に入れたのだ。

 

 マコトの意図していないタイミングであったのは間違いないが、次にいつ巡ってくるかは予測不可能なこのチャンスを捨ててしまうのは、あまりにも勿体ない。

 

「万魔殿の議長として命令する」

 

 故に、マコトはこの場所ですべてを終わらせるつもりなのだ。

 

「ここで全て終わらせるぞ、いいな?」

「はい!!」

 

 チアキは、覚悟を決めた。

 

 結局、『食堂の主』とは戦うことになってしまったので、装備を整えてきて正解だったと言える。今のチアキは、普段のチアキと比較すると1.2倍ほどは強いかもしれない。

 

 それに、だ。

 

「…………」

 

 チアキは、食堂の方へアカリにバレないよう目線を向けた。食堂を超えた向こうの丘には、今の万魔殿が出せる『最高火力』が『何かあった時にすぐ動ける状態』で控えている。マコトとアカリがそれを知っているのかは分からないが、チアキにとって重要な手札であるのは間違いない。

 

 チアキは、それだけ『棗イロハ』と『虎丸』のことを信頼しているのだ。

 

 携帯をポケットへしまう振りをしながら、チアキが今いる場所へ砲撃可能な状態で待機していて欲しいとメッセージを送った。

 

 おそらく、撃ち込めるチャンスは一回。その一回をどう使うかが、勝敗を左右することだろう。

 

 チアキの携帯画面には、錠前サオリがSNSで生配信を始めたという通知が届いていたが、今はそれどころではない。

 

 次に合図を送れば、イロハは正確にこの場所へ砲撃を行ってくれるはずだ。それをどうやって命中させるかは、自分に掛かっている。

 

「悪いな、鰐渕。万魔殿議長の席はそろそろ返してもらうぞ」

「正直状況がよく飲み込めてませんけど、私はマコト先輩が戻ってくるためには何でもするつもりなので!」

 

 うまくアカリを説得できれば、マコトが戻ってきてくれる。そう思うと、チアキは何だってできる気がしてきた。

 




【※ちょい補足】
『経過した時間』を食べると時が戻るが、原因を取り除いてから戻さないと同じことが起こってしまう場合がある。(説明) 
なので先にマコトたちを消してからでないと時間を戻せないが、マコトたちに抵抗されているのが今のアカリ(マコトが協力してくれなくなったら少し困るし、終わったら大人しく消させてくれると思っていたので説明はさせてあげた)

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