「マコ█先輩」って、知ってますか?   作:有馬Hidden

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後書きを読んでください。


蛇足

「ふんふふ~ん」

 

 チアキは、上機嫌だった。誰がどう見ても、キヴォトス全体を巻き込みかねない異変が発生しているとは思えない様子である。

 

 しかし、今までずっと探していた羽沼マコトに会えるかもしれないという喜びが、異変に対する恐怖を上回っているのだ。

 

 いや、ずっと探していたというよりは、忘れてしまったの方が正しいのだが。それはそれだ。感覚の問題である。

 

「さて……どうしましょうか」

 

 駅のホームに降り立ったチアキは、手元のミレニアム土産を見ながら考えた。

 

 いきなりミレニアムに行ってしまったのだから、お礼も兼ねてお土産を買ってきたは良いものの、結構いい時間である。今からゲヘナに戻ったところで、誰も残っていないだろう。

 

「うーん、渡すのは明日とかですかねぇ……」

 

「あら、チアキさん」

 

 チアキの背後から、馴染み深い声が聞こえた。

 

「ハルナ先輩!」

 

 振り返ると、そこにいたのは我らが万魔殿の議長、黒舘ハルナだった。

 

「マコトさん、見つかりました?」

 

「えっと、見つかってはいないんですけど、手がかりは!」

 

「それは良かったですね」

 

 ハルナは、チアキの元気な返事を聞いて、柔和に笑う。

 

「はい! あ、そうです!お土産買ってきたんですけど……」

 

 チアキは、鞄から『ミレニアム銘菓 アバンギャルド焼き』を取り出してハルナに見せた。

 

「あら、ありがとうございます。今頂いてもいいのですが……私、これから外部の方との『会食』に向かわなければなりませんので、明日にでも皆さんと一緒にいただきますわ」

 

「あっ、そうだったんですね。それはそれは失礼しました」

 

「いえ、急いでいるわけではありませんよ。時間には余裕を持って行動していますので」

 

 それもそうかと、チアキは納得した。食事という行為に対して並々ならぬ情熱を注いでいるハルナ議長が、会食に遅刻するなんてことをするはずがない。

 

「会食かぁ……きっとおいしいものがいっぱい食べられるんだろうなぁ……」

 

 前にも説明したが、黒舘ハルナという生徒は『そこそこいいところのお嬢様』であり、黒舘家の次期当主である。当然、会食相手も『それ相応の立場』の人々なのだ。

 

「…………そうですね、食事はとても美味しいですよ」

 

「くぅ~っ、ちょっとでいいから食べてみたいです!」

 

 ハルナは、ゲヘナ学園のトップとして(若干の)治安改善を成し遂げていることから分かるようにその手腕とカリスマ性はすさまじいものである。

 

 きっと卒業した後は、普通の生徒でしかないチアキには想像もできないぐらい遠くへ行ってしまうのだろう。あと1年もしたらハルナは卒業してしまうという事実が、少しだけチアキを寂しい気持ちにさせていた。

 

 

 ──だが、それは今日ミレニアムに行くまでの話である。

 

 ノアによれば、本来の万魔殿議長は『羽沼マコト』であり、黒舘ハルナはいなくなってしまったマコトの『代わりに』その座に収まっているだけらしい。

 

 言ってしまえば、万魔殿議長という席を『押し付けられている』状況である。

 

 きっと本人は何も覚えてはいないのだろうが、『本来の黒舘ハルナ』は何をしていたのだろう。

 

 ここまで凄い人なのだから、やっぱりどこかの部活動でリーダーでもやっていたのかもしれない。

 

「……もし、ハルナ先輩は万魔殿じゃなかったら、どうしていたんでしょうか」

 

 チアキの口から、その疑問が言葉となって溢れ出してしまった。

 

「あら、突然ですね」

 

「……あ、えっ!? 口に出てました!?」

 

 本来であれば、これは今聞くべき質問ではない。聞くべきなのは『食堂の主』に関してのことだ。

 

 だが、チアキはそれらを差し置いて『ハルナの本来の活動』が気になってしまったのだ。

 

「さぁ、どうしていたんでしょうね。私には分かりませんわ」

 

「……そうなんですか?」

 

 ハルナなら、給食部あたりだろうかとチアキは考えていたが、本人としては『作る』より『食べる』方が好みだろう。もしかしたら、放課後スイーツ部のように放課後にのんびり食べ歩きをしていたりするのかもしれない。

 

「あいにく、『万魔殿の議長』以外の道は残されていなかったものでして」

 

 ハルナは、ゲヘナ学園校舎の方向を見ながら答える。

 

「……では、この辺で失礼しますわ。時間に余裕があるとはいえ、ずっとのんびりしているわけにはいきませんから」

 

 チアキには、ハルナが『話を切り上げた』ということが分かってしまった。

 

「あっはい! また明日!」

 

 それを悟られないように、別れの挨拶をする。

 

「はい。また明日お会いしましょう」

 

「…………」

 

 夕日に背を向け、歩き出すハルナ。チアキには、その背中が、とても寂しそうに見えていた。

 

 

 

 もしかしたら、自分は『羽沼マコト』ばかり見ていて、『黒舘ハルナ』と本当の意味で向き合っていなかったのではないか。

 

 チアキは、そんな気がした。

 

 

 

==

 

 

 

「あっ、見つけました。2週間前の『道路補修』が消えています」

 

 チアキがミレニアムを去ってから、エイミたちは、書類とにらめっこしているノアのサポートをしていた。

 

「これは確か……ゲヘナ学園の温泉開発部が道路の一部を破壊した際のものですね」

 

「温泉開発部が?……まぁ、確かにメグはちょっとそういうことしちゃうかもしれないけど」

 

 先生は、何度か会ったことのある『下倉メグ』のことを思い出していた。いろいろと凄い生徒だが、先生からすれば、可愛い生徒の一人である。

 

「なるほど、消えたのは『鬼怒川カスミ』ですか」

 

 だが、先生のその言葉だけで、ノアは『何がどうなったのか』に辿り着いた。

 

「鬼怒川カスミ……うーん、メグたち温泉開発部とは何回か会ったことあるけどカスミって子は居なかったね」

 

 先生には、心当たりがないが、ノアには心当たりがある。前例から推測するに、鬼怒川カスミの身に『何か』があったのだろう。

 

「……いや、ゲヘナ学園の『鬼怒川カスミ』には心当たりがある」

 

 ノアと先生がそう考えたところで、エイミは否定した。

 

「ゲヘナについて『色々』調べた時、『危険人物』として拘束されている生徒の名前として、鬼怒川カスミがあった」

 

 今のエイミは、他校に対して『多少の』探りを入れたことがある。その時に、鬼怒川カスミがリストアップされていたのだ。

 

「……? 鬼怒川カスミは、まだ『本人』として実在しているのですか?」

 

「調べたデータが本物なら。でも、嘘だったとしても『偶然の一致』ではないと思うよ」

 

「そうですか。では、消えたのは…………なんでしょう?」

 

 温泉開発部も鬼怒川カスミも残っている。となれば、カリンのように『消されたもの』は一体何なのか。

 

「ゲヘナ学園の方で起こっている現象は、ミレニアムと傾向が違うと見てよさそうだね」

 

「ですよねぇ……」

 

 エイミは、ヒマリの呟きを聞きながら、脳内で情報を整理し始めた。

 

 まず、ゲヘナ学園に関連しているのは、『万魔殿議長(羽沼マコト)』に『敵組織(アリウス)』、そして今判明した『危険人物(鬼怒川カスミ)』。

 

 だが、それに対し、ミレニアムでは『C&Cの02(角盾カリン)』『ヴェリタスの副部長(各務チヒロ)』だ。

 

 ゲヘナの方では、『何かの目的』があって『対象』を選んでいるように思えるが、ミレニアムはどうも『無作為』というような印象を受ける。

 

 もしミレニアムの『何か』を変えようとするなら、アリウスのように出来事の前提条件からひっくり返るような『対象』を選ぶだろう。それに、C&Cやヴェリタスにおいても、美甘ネルや明星ヒマリ、または和泉元エイミを選んだほうが『影響』は大きい。

 

 

 もしかしたら、『テスト』としてカリン達は選ばれたのかもしれないが、そうなると今度は『時系列』がおかしい。

 

 現状、最新の被害者はカリンであり、その直前がチヒロなのだ。

 

 まぁ、相手が過去の記憶を改竄できる以上、時系列はあまり信用できないと言われればその通りなのだが。

 

 

 

 それはさておき、エイミ達にとって最も奇妙なのが……

 

 

 

「やっぱり、『黒舘ハルナ』がこの現象の鍵になっている可能性が高い」

 

「ええ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですから、本人の自覚の有無に関わらず、重要人物であることには変わりないでしょう」

 

 ここまで、事件解決の最も重要な手掛かりであった『生塩ノアの記憶』にも存在していない『黒舘ハルナ』という生徒の存在である。

 

「私が把握していなかっただけという可能性もありますが、私の記憶すら消し去っているという可能性も否定できません」

 

 ノアの記憶は確かなものだが、『確実な安全地帯』として扱うほどエイミ達は信頼していない。相手がどれぐらいの力を持っているのかはまだ不明なのだ。

 

「無から出現したのか、それとも元々居た生徒が私みたいに押し込まれているのか……」

 

 仮に、ゲヘナ学園で『何かの目的』があって異変を引き起こしているというのならば、それは何か。万魔殿の議長、条約を妨害する敵組織、そして危険人物として幽閉されている生徒。この3つを消すと、どうなる?

 

 エイミは、歴史学者のようにIFのゲヘナ学園を考察した。そして、一つの考えに至る。

 

「……仮にもし、この異変の元凶が『何か』を成し遂げようとしているならば、その過程に『黒舘ハルナを万魔殿議長にする』ことが含まれているのは、可能性として考慮できるかも」

 

「ふむ……確かに『現万魔殿議長』も『敵組織』も、学園に幽閉されるような危険生徒も……『万魔殿の議長』として立つための『障害』になり得る存在ではありますね」

 

 ヒマリの言う通り、この3つはゲヘナ学園のトップの座に就くにあたって『超えなければならない壁』であるのは間違いない。

 

 最終目標が何であれ、ひとつのゴールとして『黒舘ハルナが議長になること』が設定されているだろうというのが、エイミの推理だった。

 

「じゃ、じゃあ……この異変は『何者か』がゲヘナの支配を目論んで……!?」

 

 先生は、目に見える形で狼狽える。確かに、『ゲヘナのトップに立つ』というのは『ゲヘナを支配する』と捉えることもできるだろう。

 

「それにしては、ゲヘナ学園が平和過ぎます」

 

 ノアの指摘が、先生を射止めた。

 

「平和ボケさせて弱体化を図っている可能性は?」

 

 平和が続くという楽観視状態にさせることで実質的な弱体化を図るという戦法は、キヴォトスの歴史にも存在している。エイミは、それを思い出していた。

 

「週刊万魔殿によれば、犬猿の仲だった風紀委員と万魔殿の関係はハルナ政権になってから改善傾向ですし、データベースによれば事件発生件数も減少傾向。支持率も過去最高レベルですし、治安はかなり改善しています」

 

 ヒマリは、週刊万魔殿のデータをエイミたちに共有した。

 

「それがプロパガンダでないならば、私の記憶の中よりもゲヘナ学園の戦力自体は強化されているように思えますね」

 

「チアキはそんな子じゃないよ」

 

 全員、先生と同じ意見だった。さっきまで会話していた元宮チアキは、プロパガンダを流すような生徒とは到底考えられないし、そもそも流す意味が分からない。

 

「あ、『議長が黒舘ハルナだと都合が良い』のかも」

 

 先生は、良いことをひらめいたという様子で、発言した。

 

「ゲヘナ学園の結束を高め、治安を改善して支持率向上させているのですから、沢山いるでしょうね」

 

 その通りである。

 

「うーん、それもそうか……」

 

「逆に、『議長が羽沼マコトだと都合が悪い』のかもしれません。まぁ……その仮定ですと、私の記憶の中にいる生徒の中で最有力候補になるのは『空崎ヒナ』ですが」

 

「そっちの方があり得ないなぁ……」

 

「まぁ、現状はどうとでも考えられます。新しい情報が掴めるまでは、堂々巡りでしょう」

 

 ヒマリの言う通り、調査は難航していた。

 

 とりあえず、先ほど判明した『鬼怒川カスミ』についても、後ほどチアキに訊ねることになるだろう。もしかしたら、カスミ本人は何かを知っているかもしれない。

 

「『本来の黒舘ハルナ』を把握している人が居れば手っ取り早いんだけどなぁ……」

 

 先生は、愚痴を零すように呟いた。

 

「……居るのでしょうか。ノアさんの記憶の中にも存在しない生徒のことを覚えている方なんて」

 

 その言葉に、ヒマリは不安げな反応をする。

 

 じわじわとキヴォトスが書き換えられているというのに、何も手がかりがないという現実が、特異現象捜査部とノアと先生の両肩に伸し掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──現在のキヴォトスにおいて『本来の黒舘ハルナ』を把握しているのは、『一人未満』である。

 

 




一区切りついたので関連作品を見せられる範囲だけ公開(読まなくても作品の理解には問題ない)

ここまで読んでいる方にはほとんど既知のことばかりの内容ですが、カリンに何があったのかが書いてあります。

和泉元エイミの活動記録『個人情報』【先行公開版】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27202218

『和泉元エイミの活動記録』自体はハーメルンでも連載しているので気が向いたら読んでみてください。
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