「東方ダーマの地にて、賢者誕生す」
このニュースは瞬く間に世界を駆けめぐった。
どうも数十年振りの賢者の誕生らしい。
「喜ぶのだ皆のもの!賢者の誕生である!」
テンションマックスの司祭様と歓喜に沸く周囲の反応を見渡し、賢者になったばかりの黒髪の青年はふっ、と穏やかな笑顔を浮かべ
「ルーラ」
と呪文を唱え静かに立ち去ったという。
喧騒を嫌ったのではないか?
いや、どこかの王家にスカウトされるのが煩わしくて立ち去ったのでは?
賢き者というくらいだ、何か余人に明かせぬ理由があるのやもしれん。
などなど人々は口々に噂をしているそうな。
それだけ世界的にもインパクトのあるニュースだったのだろう。
遠いダーマの地から離れたこのロマリアにも、その翌日には賢者誕生のニュースが届いたのだから。
それから2日経った今も、街の噂話といえば賢者の話題ばかりである。
そんな世界的なビッグニュースを横目に、当の本人は女の部屋で種を貪り食ってるのだが。
「…これでラスト、1個か」
「あらお疲れ様。今お茶淹れますわね」
げんなりした顔で最後のかしこさのたねを口に入れる。
盗賊時代に集めたかしこさのたねとすばやさのたね。
レベリングの邪魔になるのでフローラに預けていたのだ。
晴れて賢者になったので、その種を使うことにした。
使うイコール食べるである。
集めた種はかしこさのたね100個。すばやさのたねも100個
…全て食べるのに3日かかりました。
ゲームでは種の効果は各ステータス値を1〜3アップ。
種を100食べて、まあ平均的な数字の割り振りだとすれば200程のステータスアップになったと思う。
ステータスが伸びない遊び人とは言えレベル45まで引っ張って育てたのだ。
おそらくかしこさはゲーム基準で255以上。
すばやさにいたっては350辺りまでこれで成長したと思う。
やりきったなあ…
フローラの淹れてくれたお茶を飲みながら感無量といったところ。
去年ロマリアの森で助けた地方貴族の女の子とこっそりお茶してるのがバレて、フローラに全部の種を捨てられそうになったときムーンサルト土下座で謝り許してもらった甲斐があったというものだ。
なお地方貴族の女の子の名前はゼシカちゃん
何がとは言わないがとても立派なものをお持ちの赤髪の美少女だ。
まだ15歳とのことで、一体あれはどこまで成長してしまうのか…年長者の義務として、心配さ故お茶に誘って定期的に安全性を確認をせずいられなかったのだ。
なお異世界のため他人ですよと定期。
「凄いですわね。街ではマトリフ、皆貴方の話題ばかりよ」
淹れたお茶を飲みながらフローラがそう言う。
そういう彼女も俺が賢者になった時の反応は中々愉快なものだった。
また俺がダーマに飛んだと知り、すわまた変な転職でもして来たらただではおきませんわー!と腕組みして待ち構えていたのだ。
なお賢者爆誕である。
怒るつもりで待っていた彼女は喜ぶべきなのに怒りモードを崩せないという中々愉快な百面相を見せてくれた。
普段落ち着いているフローラにしては珍しい反応であった。
「私は別に貴方が特別凄い人にならなくてもよかったんですけど」
穏やかな声でフローラは続ける。
「ただ、2人で…もう2人で、というのは諦めましたが…お父様の商会の一部を引き継いで、何も特別でなくて穏やかな普通の家庭でも出来たらなって…」
そう、思っていました。
彼女は心配なのだ。
街を飛び交う賢者の噂。
一番多いのは。
【賢者は、アリアハンの勇者の旅立ちを待っている】
というものだ。
当初の予想より1年ほど早い2年後。アリアハンの勇者は16歳になり魔王討伐に旅立つ。
フローラは俺がその旅について行く。もしくは行かざるを得ないのではと懸念している。
明確に俺は否定したのだが、周囲の圧力もあり旅に同行せざるを得ないのではと心配しているのだ。
そろそろ俺も、色々覚悟を決めないと行けないかな。
彼女を安心させるためにも。