勇者、火口に落ちて死す。
その報は瞬く間に世界を駆けめぐった。
世界中の人が勇者の死を悲しんだ。
そして、同時に不安を覚える。
世界は、世界はこの後いったいどうなってしまうのか、と。
数日後、我が家に王城から迎えが来た。
陛下からだ。
相談役として、城に来てほしい。
王の伝言を伝えた兵士は家の外で待機している。
一緒に、城まで連れて来るよう厳命されているのがその様子からわかる。
「マトリフ…」
タバサを抱いたフローラが不安そうに話しかけてくる。
「大丈夫だフローラ。ビアンカ、ゼシカもそんな顔するな」
極力3人を安心させようと心がけ、こんなこと何でもないさ、とそんな気楽さで話しかける。
伝わってくれれば嬉しい。3人とも聡い子だ。
「マトリフ気をつけてね」
ビアンカはレックスを抱き、そう言う。
「センセ…あまり無理なお願いだったら聞いちゃダメよ」
ゼシカはそう言う。
ことさら反論はしないが、まあ難しいだろうなあ。
無理な話だから、相談役の出番なんだろう。
「行ってくる」
「「「いってらっしゃい」」」
見送りを受け、兵士とともに城に向かう。
兵士は申し訳なさそうではあった。が、任務の大事さをわかってるのだろう。口を引き締め無言で俺を先導する。
2人、無言で街を歩く。
道中、ふと思う。
そういえば最近ゼシカは家に入り浸るようになった。
部屋は余ってるので構わないのだけど。
嫁入り前の娘が、嫁さん2人の男の家に入り浸るのだ。
さぞかしブラコン兄貴がキレるのではと最初は心配だったのだがそうでもなかった。
元々ゼシカの兄貴ともゼシカと知り合いとなった同時期からの友人だ。
ヤツをアッサラーム漬けにした張本人とも言う。
真面目なヤツほどハマると怖い、そんな街、アッサラーム。
今では月に2回のアッサラームはいつ行くのか月初に聞きにくるほどである。
金持ちイケメンで戦闘もこなせる若き地方貴族。
…とんでもないモンスターを夜に解き放ってしまったものだ…
アッサラームから初めての朝帰りがゼシカにバレ、1週間も口利いてもらえないと凹んでいたのが懐かしい。
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「やあ、よく来てくれたねマトリフ」
城に辿り着くと、すぐに謁見の間に呼ばれる。
重臣が列をなしているというわけではない。
だが、実務に関わる重臣は全員この場に揃っているようだ。
皆一様に厳しい顔をしている。
陛下だけがポーカーフェイス。大したタマだね。
「来てもらったのは他でもない。勇者の死を受け、各国が今後の事を話し合う場をイシスで設けることになった」
君には、それに相談役の立場で同席してもらいたい。
普段と変わらぬ声で、そう伝えてくる。
「謹んでお受けいたします」
「これから余とマトリフ以外の同席者の名を呼ぶ。それ以外はロマリアの治安維持と民心の安定に努めてもらう。それぞれ重要な役割である。各自最善を尽くすように」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
そう言うと同席者数人の名を呼ぶ。
呼ばれた者は準備のためここを足早に立ち去り。また残りの者達もロマリアで最善を尽くすため行動を始める。
「いい国だろう?ロマリアは」
「まさに」
陛下の言葉に答える。
「マトリフ、いつかの約束を君に果たしてもらう時が来てしまったみたいだね」
いつか本当にこの国が困った時は力を貸してね
いつかのそんな約束を思い出す。
言葉に出さない。2人とも本当はそんな事態にならなければいいと思っていただなんてことは。
だが、約束を果たすべき時が来てしまったのだ。
勇者が死んでしまった後の世界で