勇者が死んでしまった後の世界で   作:のりしー

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最終話 勇者が死んでしまった後の世界で

…ちゃーん

…じいちゃーん

 

「起きて、起きてよマトリフひいお祖父ちゃん!今日は呪文のこと教えてくれるお約束じゃない!」

 

「お姉さま…ひいお祖父さまも気持ちよく寝ていらっしゃるんですから…」

 

「でもでもー!約束したんだってば!」

 

…どうやら、庭でうたた寝してしまっていたようだ。

曾孫のベロニカとセーニャの2人の姉妹に起こされ、俺は眠りから意識を呼び起こす。

 

ベロニカと、セーニャ。

ビアンカとの間に出来た、レックスの孫にあたる。

 

「あ、起きたわねマトリフひいお祖父ちゃん!」

「お姉さま…これは起こしたと言うのでは…」

 

仲の良い美人姉妹だ。

初孫も可愛かったが、その孫の子。目に入れても痛くないほど可愛かった。

 

「おーい!マトリフひい爺さーん!」

 

遠くから小走りに駆け寄ってくる逆立った青髪の少年。

カミュだ。

こちらはフローラとの間に出来たタバサの孫にあたる。

 

「ひい爺さん。明日の洞窟探索のことなんだけど…」

 

最近、同い年くらいの仲の良い友達が出来たそうで、その子との洞窟探索についてきて欲しいというのだ。

 

「全く、年寄りにあんま無茶いうもんじゃねえよ」

「でも、この前の洞窟行ったときのアレ!バギ使ってモンスターを湖に落としたの!俺ああいうの出来るようになりたいんだよ!」

 

最近出来た友達にいいところでも見せたいのだろうなあ。

少年特有のそういう気持ち、わからないでもない。

 

でもあれはやりたくてやってるわけじゃない。

年を取り、昔のように大呪文が唱えられなくなった。

老いた体が反動に耐えられないのだ。 

必然的に小技の応用ばかりになる。

 

ほんと、年なんて取るもんじゃない。

 

「あーマトリフひいお祖父ちゃん。こーんなとこにいたのね!」

また1人赤髪のくりくりの女の子がやってくる。この子はマリベル。

ゼシカのひ孫だ。

全く、こんな老人にみんなそんなに何の用があるんだか。

 

でも、こうしてひ孫、孫と触れ合うのは幸せでもあった。

年を取るのも悪いことばかりではない

 

何となく、ふと昔にやったエロゲーを思い出す。

 

ランス10

 

確かラストが似たようなものだった気がする。詳細まで覚えてないが。

 

だが、この異世界に転生し、結婚し子供が出来、今では孫やひ孫に囲まれている。

 

幸せだ。

幸せだった。

 

恐らく、転生者の結末としてこれ以上のものはないほど俺は幸せなんじゃなかろうか。

 

 

ゾーマとの決着から、だいぶ時間が経った。

俺は80歳になっていた。

 

あれから本当に色々な事があった。

この世界の大切な記憶。

 

それを1つ1つ、宝箱を開けるように、そっと中のものを取り出していく。

 

なに、混乱する必要はない。

時間はたっぷりあるんだから。

 

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

ゾーマ戦後、少し落ち着いてからゼシカとの結婚式を上げた。

 

「センセ…じゃなくて、これからは旦那様って呼ばなきゃね♫」

純白の美しいドレスをまとった、美しいゼシカ。

皆に祝福され、素晴らしい式が出来たと思う。

 

ちなみに、1年後にはミオ、アリシア、レナの3人とも式を挙げる予定だ。

 

一緒にやったほうがいいじゃん?

って軽い気持ちで聞いてみたら。

 

「「「だめ、順番大事」」」

 

とのこと。

色々あるらしい。

 

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

そして、1年後

「マトリフさん…ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いいたしますわ」

美しいレナ。

 

「初恋ってかなわないってゆうけど、そんな事もないんだなあ…」

これはミオ。こちらも美しい。

 

ん?初恋?

 

「わ、わ、わわわわわ!」

「あーそーそー今さら恥ずかしがらずに言っちゃえはいいのにー」

これはアリシア。セクシーギャルも式の時はちゃんとウエディングドレスを着る。

 

3人の美しい花嫁。

 

「これからもよっろしっくね、マー君♫」

ギャルピースは合わないかと思ったが、不思議とウエディングドレスでもいけるようだ。

 

 

最終的には嫁6人。

それぞれ3子を授かることになる。

 

「いつもマトリフは私の予想を越えてきますわね」

「なーんかマトリフらしいよね、こーいうとこ」

 

フローラとビアンカにそう言われる。

そうだったかな?

そうかもしれない。

 

ああ、そういえばイシスの女王にも夜明けが来たそうだ。

深い事情があり、相手は明かせないそうだが。

まあ、そういう事もあるだろう。

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

「さて、マトリフ。こうして君を呼んだのは他でもない」

 

ここはロマリア王城。謁見の間。

 

「わかってはいるだろうが、そろそろ君にはこの国を出ていってもらわねばならない」

 

「は!承知いたしました」

 

まあ覚悟していたことだ。

3人娘との結婚式後、しばらくして、俺はこのロマリアを離れる事になった。

 

式を挙げさせてもらえたのは温情だろう。

 

正直、俺の存在はこの国で、世界で大きくなり過ぎた。

いずれ、この国に災いをもたらすことは予想できる。

 

国王を遥かに超える存在。

世界を救った大魔道士。

将来における特級の厄のタネだろう。

 

予想はしていたし、何となく嫁達とは話もしている。

さて、何処に行こうか?

 

色々候補が浮かぶなか…

 

「マトリフよ、この国を去る君に、実は1つ提案がある」

 

大きくなったアッサラーム。

そのアッサラームを国とし、君は初代国王にならないか?

 

「アッサラームの町長。そして他の国々にも根回し済みだ。後は君次第のところまでは整えておいた」

 

…この選択肢は予想していなかった。

「少々、お時間を頂けないでしょうか?家族にも聞かねばならぬことですので」

 

「はっはっは!で、あろうな」

 

笑うロマリア王。

 

しかし考えると名案というか、これ以上の落としどころはない気がしてきた。

 

この世界の権力の中心は、各国の国王だ。 

俺は存在が大きくなり過ぎた。

その下に入ることが難しい。

ならば、新しい国を作り、そこの王になればいい。

 

確かに、合理的ではある。

 

しかし、陛下…すでに各国にも根回し済みとは…

実は貴方の転生特典「政治チート」とかではありませんか?

 

家に帰って、家族と相談する。

6人の嫁は声を揃え

 「「「「「「遊びにいくのは、月に2度まで!!!!!!」」」」」」

 

それならいいとのこと。

 

はい…かしこまりです…

 

 

そうして、俺は陛下の提案を受ける。

 

そして新たに作られた王国。

アッサラーム王国の初代国王となった。

 

レックスとタバサは図らずも王子王女となったのである。

 

国立ち上げ当初は、ロマリアより人材を借りて、国を軌道に乗せていく。

もともと経済力は抜群なので、後はロマリア式の体制を整えるだけである。

 

まったくロマリア王には頭が上がらない。

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

そんなロマリア王も、40年ほど前にお亡くなりになった。

 

「そろそろ死にそうだから、最後に顔が見たい」

 

すでに王位を譲り、隠居の身となっていたロマリア王に呼ばれ、俺はルーラでロマリアに向かった。

 

久しぶりに会ったロマリア元国王は、痩せ衰え、ベッドに寝たきりとなっていた。

昔も今も変わらない、知性の炎だけが今も瞳でキラキラ輝く。

 

「やあ、よく来てくれたねマトリフ…ぬるぽ」

「ガッ…って、あ…」

「ふふ…どうやらこの勝負、僕の勝ちだねマトリフ」

「ご隠居殿…控えめに言って、今のはそちらの反則負けでは…?」

 

お互いを転生者と確信しながら、結局最後まで俺達はその話をする事はなかった。

 

どうにも、それをはっきりと言葉にして言い出すのが野暮に思えたからだろう、お互いに。 

 

お互いのそれっぽい匂わせからのツッコミ待ちは、やがてエスカレートし、お互いの仕掛けに対しどっちが先に決定的なボロを出すかという真剣勝負となった。

「その反応!貴様!やはり転生者だな!」

とお互いやりたかったのである。

 

最終的には「誰も死なないデスノート」のような知的勝負となり、平和な世界での俺の知識欲を大いに満たしてくれた。

 

「楽しい…実に楽しい『今生』だったね、マトリフ」

「はい、まさに」

 

本当そうだ。

転生して、よかった。

この人も、きっとこの世界を楽しみきったのであろう。

 

体力の問題もあり、面会はそろそろ終わりとのこと。

恐らく、これが最後の会話になるだろう。

 

「では、ご隠居殿…あの世でもお元気で」

「ふ…どこまでも傾きよるわ…あ」

 

はいダウト。

この世界に歌舞伎は存在しません。

傾くなんて表現はないんですよ。

 

まあ、最後に勝ちを譲る為、ワザと負けてくれた気もするけど。

さようなら、ロマリア元国王。

 

本当にお世話になりました。

 

40年後の世界で

  

『ロマリアの賢王』

『ロマリア中興の祖』

 

と讃えられる、まさに名君であった。

 

俺との面談の3日後、穏やかに息を引き取ったという

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

ハーゴンと竜の女王の卵については、特に語ることもなかった。

卵は、まだ、孵っていない。

 

でも、もう大丈夫な気がする。

 

メドローアの閃光の中で、ゾーマは不吉な予言を残す事なく消えた。

だからという訳ではないが、多分大丈夫だろう。

 

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

最後に、勇者について話そう

 

「多分、男連中だけで行った方がいいと思う」

アリシアの言葉だが、同感だった。

 

浅瀬のほこらに男性メンバー全員で行き、念の為マホトラした後勇者を起こす。

 

起きた勇者は最初暴れだそうとしたが、魔力0でねむりのつえに囲まれた状況を見て諦めたようだ。

 

というかいじけだした。

めんどくせえ。

 

 

正直両手両足縛って岩にでもくくりつけて海に落とすのが一番楽なのだが、流石にそれも寝覚めが悪い。

 

なにせこの勇者、迷惑はかけたものの、別に誰を殺したとかでもないのである。

更生の余地はあると思う。

 

「なあ、何でこんな事したんだ?」

「………」

 

無言。

 

「この後、どうするつもりなんだ?」

 

無言…困ったもんだ。 

一案として、しんりゅうに頼んで元の世界に送り返すとかも考えていた。

そのアイデアを伝えると。

「…それは、やだ」

 

嫌だとのこと。

 

「向こうに戻っても、僕は結局何にもなれないし」  

 

…なるほど

 

勇者のポジションを取られたけど、でも向こうよりはこっちのがマシと。まあこっちはチートあるしなあ。

 

少し、前世の話を聞いてみる。周りの仲間は何のこっちゃって感じだったけど。

 

 

予想はしてたけど、やっぱ若かった。 

中学生かあ…

 

頭も別に悪くない感じだし、本質的にはいい子なんだろう。

 

上手いこと欲望をゾーマに突かれた様子。

 

3人娘も真面目でいい勇者って言ってたしな。

打算はあったんだろうが。

 

打算ねえ…

 

その方面で、少し突いてみるか、

 

「勇者…というか、アルス。お前、1からもう1回この世界を冒険する気はあるか?」

 

「……」

 

無言でこっちを見る。

 

「アルスは強いし、顔もいい。大魔王は倒したけど、まだモンスターはいるしな、困ってる人を助けて、世界を廻る旅とかしてみたらどうだ?あまり、一つの街や村に留まって活動したことないんだろ?」

 

知ってるか?アルス?

 

「この世界な、強いヤツはそこそこモテるんだぞ。お前は顔もいいし、強い。それを上手く使えば、モテモテ異世界ライフが楽しめるかもしれないぞ」

 

「……(ピクッピクっ)」

 

あ、やっぱこの方向なんだ…

 

まあチート持ちで異世界転生する中学生なんて、みんなこんなもんだろう。

 

「…でも、ミオとかはダメだった…」

「それは、お前がバラモス倒すの優先してたからだろ。その街、その村に住んでる人を見て…名前を呼んで…大切な誰かを作って、その人たちの為に戦えば、また違ってくるだろうよ」

 

勇者は死んだ

 

「勇者じゃなくて、ただのアルスとして生きてみたらどうだ?魔王を倒すんじゃなくて、目の前の人を守るアルスに。お前が目の前の人を大切にすれば、きっとその人もお前の事を大切にしてくれるよ」

 

ゲーム感覚で異世界チート転生ハーレム万歳とかやるからダメなんだろ。

この世界、強ければそこそこモテる。

顔もいいお前なら尚更だ。

 

試しに1年、勇者じゃないただのアルスとして生きてみたらどうだ。

一つの街に最低一ヶ月くらい留まり。 

街の人と話して。交流して。

名前を、顔を、覚えよう。

この世界で生きている人の、顔を。

 

「アルス、お前は、ここまでゲームをプレイしてたんだな。だから試しに、この1年、この世界を生きてみたらどうだ?」

 

「……」

 

「それでもどうしても嫌なら、ゴールドかき集めて金でハーレム作って引きこもればいい。そのくらい金稼ぎは出来るだろお前」

 

「……」

 

さっきより真剣にこっち見るんだよな…闇バイトにはまる青少年を見ているようだ。

 

「だからアルス…お前がこれから最初にやる事は、アリアハンの家に行って、お母さんに自分が生きてたと伝える事だ。お母さんは間違いなく君を心配している。まずお母さんを大事にしてあげるんだ」

 

「でも…実の母親じゃないし…僕16歳の朝にこっちきたから、母親とも思えないし…」

 

 

おおう…

 

 

話を聞いていた皆が天を仰いだ…

 

こーゆーとこなんだよなあ…

 

頭は悪くないし、基本は善人。

でも、ちょっと空気の読めないところがある、人の気持ちを汲むのが苦手。

 

ほんとに、普通の子。

 

「マトリフ殿、もしよろしければなのですが、私がアルスの旅に同行しましょうか?」

 

戦士が申し出てくれる。

 

「何となくですが、アルスはもう安心でしょう。元々私はこの戦いが終わったら世界を旅する予定でいた。一緒に旅することで、彼も何かに気づいてくれると思います」

 

あ、なら私も。じゃあ、ワシも。

 

僧侶と魔法使いが続いてくれる。

…正直ありがたい。

3人は念の為の監視も込みでアルスに付き合ってくれるつもりらしい。

 

彼らは勇者ではなく、アルスという人間の本質に今触れた。

 

彼らとの旅で、アルスが変わってくれるといいんだけど。

 

最終的にアルスは

「じゃあ、試しに1年だけ」

 

という条件で世界を旅することになった。

 

どうしても嫌なら1年後に俺に会いに来い。どっかの無人島買ってハーレム作る手助けしてやるからさ。

 

 

そうして、俺達は別れた。

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

 

それが、アルスと会った最後だった。

この年80になる。

あれ以来アイツは俺に会いに来なかった。

 

旅の間に、この世界の人達に本当に触れて、この世界を好きになってくれたのだろう。

そうであったらいいなと思う。

 

俺はこの世界が、ドラクエ3の世界が好きだ。

 

だからアルスもこの世界を好きになってくれたなら嬉しい。

 

過去に思いを馳せるうち、また眠気が俺を襲ってくる。

遠くなるひ孫達の声。

幸せだ。

幸せな、今生だった。

心からそう思う。

 

 

勇者が死んでしまった後の世界でも

こうして世界は続いている

 

 

願わくばこの子達の行く末に、幸せがありますように。

 

 

 




ここまでこの作品を読んで頂き、誠にありがとうございました。
これにてこの物語は終了となります。
落ち着いてから後書きでも書こうかと思ってはおりますが、ひとまずこれで区切りとなります。

誤字報告でご協力頂いた皆様。厚く御礼申し上げます。

感想を書いて頂いた方もありがとうございます。
全て目を通させて頂いております。
まことに勝手ではありますが、仕事プラスプライベート、あと物語の先を書きたいという思いから1日1回、お一人様1件くらいの返信とさせて頂いておりました。
漏れありましたら大変申し訳ありません。

次回作も考えてはおりますので、もし見つけて頂いたら読んで頂ければ幸いです。

あらためて、本当にありがとうございました。
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