「阿賀野さんおかえりなさい」
「あ、浦風ちゃん。ただいま」
鎮守府に戻ってきた私を出迎えてくれたのは偶然通りかかった浦風ちゃんだった。
「……長良さんはどうじゃった?」
少し心配そうな表情で私に尋ねてくる浦風ちゃん。言うことは決まってる。
「大丈夫だよ。リハビリも上手くいってたし長良さんも絶対帰ってくるって言ってた。だから絶対大丈夫!」
「そっか……ならええんじゃ……」
私の言葉に表情が柔らかくなる浦風ちゃんに対して私が微笑した瞬間だった。鎮守府の一角から轟音が響き爆炎が広がる。そして衝撃波が私と浦風ちゃんの身体を撫でる。
「何っ!? 敵襲!?」
思わず艤装を構え、黒煙の立ち上る鎮守府へ視線を向ける。
「明石ぃーーーーー!!!!」
「ごめぇーーーーーん!!!!」
すると、大淀さんと明石さんの大声が聞こえてくる。
「……まーた明石さんがなんかやらかしたみたいのぉ……」
「だねぇ〜……」
浦風ちゃんと互いに納得し合ったところであることが頭に思い浮かぶ。
『こりゃ明日鎮守府爆発するんじゃないけぇ?』
浦風ちゃんの方を見やるが彼女は覚えていないのか、頭に疑問符を浮かべていた。
それから一か月後、長良さんが鎮守府に帰ってきたとの報告を受けて、私は早足で鎮守府を移動していた。私が鎮守府に行ったあの日以来、長良さんは今までの苦戦が嘘みたいに急速なスピードで回復していったらしい。本人曰く「阿賀野とリハビリした時にコツを掴んだのかも」って言ってた。でも、私は正直そんなことどうでもよくて……。
「長良さん!!」
長良さんが視界に映ると同時に、私は叫んでいた。その声に、今まで会話していたのであろう周りの妹の人達や十戦隊の子達と一緒に長良さんが振り返る。私は走り出す。
「あ、阿賀野」
すると、長良さんが私の方に気づいて身体が私の方へ向く。
「ただい――」
長良さんがそれ以上の言葉を発する前に周囲に静寂が訪れた。
「……どうしたの阿賀野」
「だってぇ……」
困ったように笑う長良さんと、呆気にとられている周りの人達を気にかけず、私は長良さんにしばらく抱きついていた。
「……もういい?」
「……はい」
そう促され、私は長良さんから一旦離れる。少し間を置いて、長良さんが口を開く。
「ただいま阿賀野」
そう言って笑う見慣れた長良さんの表情が、どうしてだろう、とても愛おしく感じてしまう。
「おかえりなさい長良さん」
そう言って笑う私に長良さんが笑顔を返してくれた。
「じゃあ早速走り込み行こうか阿賀野!」
「それは嫌です」
「なんでよ!?」
「だって私が走ると鎮守府爆発しますから……」
「何言ってんの……」
私の言葉に長良さんが微妙な顔をする。でも実際にそうだったんだから仕方ないじゃないですか。
「ペース落ちてるよ阿賀野! もっと走る走る!」
「うう……」
当然だけど私の理屈は聞き入れてもらえず、結局走り込みをすることになった。病み上がりだというのに手を叩いて長良さんは元気に私を囃し立てる。
「初日から飛ばし過ぎじゃないですか長良さ〜ん……」
「なに言ってんの! 鈍った身体戻さないといけないんだからまだまだいくよ!」
「うえ〜……」
加速する長良さんに追いつこうとゲンナリしつつも足を動かす。しばらく忘れていたしんどさが蘇る。
(あれ……?)
けど何故か自分の口角が上がっていることに気がついた。
(そっか……私……嬉しいのか……今……)
自分の感情に気づいた途端、身体が軽くなったような気がして、走るスピードも自然と速くなっていってた。私の心のざわつきはもうとっくに消えていた。
「いいね阿賀野! もっとギア上げていくよー!」
そんな私を見て、勢いを増す長良さんに少しだけ後悔する。でも、不思議とそこまで嫌な気分にはならなかった。
「ふう〜……とりあえず今日はこんなもんかな!」
「はい……」
日も暮れ始めたあたりで長良さんがそう言って今日の訓練を切り上げる。膝に手をついて下を向く私の身体には疲れがたっぷり貯まっていたけれど、それと同じくらい心地よさを感じていた。
「阿賀野」
私を呼ぶ長良さんの声に顔を上げる。
「また明日ね」
そう言って笑って手を振る長良さん。なんてことないその言葉が、胸の中に溶けていく。
「はい。また明日」
私はそんな長良さんに笑って手を振りかえす。また明日もこうやって笑い合えるように、今日みたいな日が過ごせるようにと願って。