ポケットモンスター・リベンジ   作:庭音

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2025/01/20 誤字修正







Ep.002 襲撃の夜

 

 それはラテリアがサクラとジム戦を行った翌日の夜のことだった。

 フォクシア(マフォクシー)からの思念を受け取った瞬間、ベッドから跳び起きた。

 

(…危険!…緊急!)

「すぐ起きます…!」

 

 既にボールから出ているフォクシア(マフォクシー)を尻目に、ベッドサイドに置いておいたモンスターボールホルダーを腰に巻いた。そのまま上着だけ羽織って、急いで寝室を飛び出した。

 

「「……ッ」」

 

 思わず息をのむ。リビングには黒いローブ姿の──背格好からおそらく男だろう──が居た。

 私の登場を予期していなかったのか、一瞬動揺したように見えた。

 

「何者ですか!」

 

 黒ローブの男が何も答えず、腕を振った、その刹那。

 

「──…ぇ」

 

 痛い。なにが、これは──一体何が起きた?

 顔に血がかかって、前がよく見えない。

 血が出ている。私の首筋…いや、ぎりぎり逸れている。首元…鎖骨あたりから血が噴き出しているんだ。

 

「うそ……」

 

 違う。顔にかかった血は私のじゃない。

 いつの間にか私の前に居たフォクシア(マフォクシー)が、血しぶきを上げて倒れ込んだ。

 私を庇ったんだ。

 フォクシア(マフォクシー)の、彼女のもとへ駆け寄りたいのに、身体が固まってしまったように動かない。掠れた意味を成さない声しか出ない。

 気付けば男の傍にはゲッコウガが居て、私を狙っていた。

 理解できない。理解を受け入れられない。どうして、なんで。目の前の状況に付いていけなくて、そして──。

 

 目の前に水のナイフが迫っていた。

 

「……ぁ」

 

 死を予感して目を瞑ったその瞬間、轟音──。

 

 ……私は生きている?

 思わず倒れ込んでいたようだ。それより轟音の正体──たった今崩れた左側の壁の方を見ると、1匹のルカリオが居た。

 これはどういう状況、いやそうじゃない、あの男は?

 男の居た方を見遣ると、男とゲッコウガが倒れ伏している。そしていつの間に居たのだろうか、少年が男の背を足で踏みつけていた。

 どこか見覚えがあるような気がする──と思った瞬間、少年の頭上から黒い影が降ってくる。

 思わず声を掛けようとするが、声にならない。

 

「危な…ッ!」

「オルカ」

 

 少年がそう呟いたとき、ルカリオは既に動いていた。黒い影──カブトプスはルカリオが放った波動に吹き飛ばされると、そのまま動かなくなった。

 その直後、再び轟音。

 今度は崩れてもはや吹き抜けになってしまった壁の向こうを見ると、庭には大きなメタグロスが居た。

 庭先の街灯の明かりではよく見えないが、2匹のポケモンがメタグロスに踏み潰されているようだ。あれは確か、ゴチルゼルとアーマーガアだったか。あれらも黒ローブの男のポケモンだろうか。

 

「オルカ、ネム。もういいよ」

 

 少年は男の物と思われるモンスターボールホルダーを抱えていた。直後、ゲッコウガをはじめとした4匹が一斉にモンスターボールの中に戻っていく。そのモンスターボールには鎖のような紋様が浮かび上がっていた。

 確かあの紋様は禁製品の……。

 

「間に合って良かった。でも半分ハズレだった、かな」

 

 少年はそう呟き、こちらへ駆け寄ってきた。意味はいまいちわからない。

 

「オルカ、現場保全を頼む。オレはラテリアさんたちを病院に運ぶ」

 

 病院…。そうだ、フォクシア(マフォクシー)が……彼女を早く……。

 

「間に合いますよ。大丈夫」

 

 世界の輪郭がぼやけてきた。忘れかけていた傷が酷く痛む。

 少年が呼び出したボーマンダの背に乗せられたところで、街灯の明かりが彼の顔を照らした。

 

「君は、もしかして、……」

 

 ジンくん…?

 少年の答えを聞く前に、私は意識を手放した。

 

 

 

*****

 

 

 

 その夜、サクラは妙な胸騒ぎがしていた。

 今朝から、やけに警察のパトロールが多かった。その割に、理由を訊いても特に事件は起きていないという。

 落ち着かないから、ピカくん(ピカチュウ)を連れてベランダに出てみた。

 そういえば4年前のあの日、あの夜も。今みたいな、少し渇き始めた秋風が吹いていたっけ。

 

 ピカくん(ピカチュウ)が少し寒がりだしたから、部屋に戻ろうと思ったそのとき、遠くで小さな爆発音のような音がした。いや、遠くてこの音量なんだから、きっととてつもない音だ。

 音のした方を見てみると、煙が上がっているように見える。大丈夫だろうか。

 パトロールはこれを警戒していたのかな。そんなことを考えていると、ピカくん(ピカチュウ)がベランダの縁に乗って、私の袖を引っ張ってきた。

 

「~~どうしたのピカくん~~」

「~~あっちって、グレンジムの方だったよね?~~」

「~~うん、そう…だね……ぁ~~」

 

 妙な胸騒ぎの答え合わせをされたような気がした。

 急いでボールホルダーを身に着けて上着を羽織り、ママに声を掛けに行く。

 パパも帰ってきていたみたいだ。

 

「パパ!ママ!わたしちょっと出てくる!」

「サクラ?どこに行くんだ、もうお風呂も入っただろう?」

「ごめん、後で!」

 

 靴を履いて家を飛び出し、エリザ(リザードン)を呼び出してそのまま煙の上がる方へと、空を一直線で飛んだ。

 空の道中、パトロールの人たちも同じ方向へ向かっていることがわかった。

 パトロールのお姉さんが飛行中のエリザ(リザードン)の傍にピジョットを寄せてくる。

 

「サクラちゃん!?どうしたの、こんな時間に!」

「お姉さん!あっちで何があったんですか!?」

「それは…私もわからないの。何か襲撃事件があったとしか。でも、きっと危険だからあなたは帰りなさい」

「…ごめんなさい、ラテリアさんのことが気になるんです!…エリザ!」

「あ、サクラちゃん?!」

 

 速度を上げたエリザ(リザードン)の背にしがみつく。間もなく、その場所に到着することができた。

 果たしてそこは、やはりラテリアさんの家だった。壁が崩れ、ほとんど半壊に近い……。

 

「ラテリアさん!ラテリアさん!!」

 

 彼女は無事なのだろうか。

 エリザ(リザードン)の背を跳び降り、ラテリアさん宅の敷地内に駆け込むと、既に何人かのパトロールが居た。庭先には簡易的なロープが張られ、パトロールのサイレンがけたたましく鳴り響いていた。

 黒いローブ姿の男がパトロールに抱えられて連行されていくのが見える。あれが襲撃者…?

 待って。襲撃者ってことは、ラテリアさんは?

 

「あの!ラテリアさんは無事ですか…!?」

『無事よ』

「え…?」

 

 いつの間にか隣にルカリオが居た。ルカリオ?

 ……、そうだ、あの夢、あのときジンが言っていたのは──「サクラ、それはきっと──ルカリオだよ」──って言ってた気がする。ルカリオは波動を通してコミュニケーションをとれるんだ。わたし、アプリなしでポケモンと話すの初めてだ。

 って、そうじゃない。今はそれどころじゃない。

 

「えっと、ルカリオさん?ラテリアさんが無事って本当ですか?」

『ええ。精確には言えば負傷してしまったけれど、もう病院で治療を受けている頃だと思うから無事っていうところね』

「ええ!?全然無事じゃないじゃないですか!」

『それでも、命に別状はないはずよ。彼女の波動は安定しているし。それに彼女のマフォクシーが優秀だったのね。彼女を守り切ってくれた』

「よかった…、でもなんで…、なんでラテリアさんが…」

 

 でも、よかった…。生きてた。

 あの夜のことを思い出していたから、最悪のケースをつい想定してしまっていたのかもしれない。

 そう考えていると、ルカリオがわたしの顔を覗き込んでいることに気が付いた。

 

「あの…、なんですか?」

『……。あなた、もしかしてサクラさん?』

「えっと、そうですけど。どうしてわたしのことを?」

『さっき、ジンのことを考えていたでしょう?』

「ええ!?なんで!!」

『私、波動ポケモンだから』

「そんなことまでわかっちゃうんですか!?というか、ジンを知ってるんですか?」

 

 突然降って湧いたジンの話にびっくりする。目の前のルカリオは一体何者なのだろう。

 

『すべてがすべて、わかるわけではないわ。けれど私はジンのことを知っているから、彼のことを考えている波動ならちゃんと感じ取れたのよ』

「ジンは生きているんですね?ジンをどこで見たんですか!?」

『それは…──』

 

 ルカリオは何かに気が付いたかのように、遠くに視線を送った。わたしも釣られて視線を向けたけど、何もないようだった。

 

「ルカリオさん?」

『ごめんなさい。もう合流したいみたいだから、行かないといけないわ』

「ちょっと!ちょっと待ってください!」

 

 身を翻そうとしたルカリオの腕を咄嗟に掴んでしまった。

 

「ジンはどこにいるんですか!?」

『……ジンはまだあなたと会う覚悟が出来ていないみたいなの。だから私の勝手で、彼とあなたを引き会わせることはできないわ』

「それって、どういう…」

『でもね。正直私は、ジンはあなたと会った方が良いと思っているの。だから、あなたが彼を探して会いに来てくれたらそのときは、私は彼にあなたの波動の接近を伝えない』

「あなたは一体何者なんです……?」

『私はオルカ。ジンの仲間。あなたたちの言葉で言えば、ジンは私のトレーナーと表現するのかしら』

 

 このルカリオ…オルカはジンのポケモン。

 オルカ(ルカリオ)はサクラに掴まれた腕を優しく解いて、声を掛けた。

 

『そういうことだから。機会があればまた会いましょう。きっと、そんな遠くない未来だと思うけれど』

「待って!最後に!」

『何かしら』

「あいつは、今何をしてるんですか?」

『ジンは…』

 

 オルカ(ルカリオ)はそれに答えようとして、でも思い当たる言葉が浮かばないようだった。オルカ(ルカリオ)は顎に手を当てて少し悩んで、そしてこう答えた。

 

『最初は復讐のような何か』

「え?」

『今は…また少し違う何か、なんじゃないかしら。上手く表現できないわ』

 

 オルカ(ルカリオ)にその意味を問おうとしたら、彼女は近くの崩れかけた塀に跳び登ると、一瞬で走り去ってしまった。

 彼女の考え込む姿、ジンと似ていた気がする…。

 でも、とりあえず。

 

「ジンは生きてる」

 

 今もどこかで、何かをしようとしている。

 

 

 

*****

 

 

 

 ラテリアは病院のベッドの上で目を醒ました。半分開いたカーテンの窓から、夕陽が差し込んでいる。

 近くに看護師はいないようだ。そう思っていたら、廊下を通りがかったラッキーがこちらに気付き、人を呼びに行ってくれた。

 

「痛い…」

 

 首の下にきつめに包帯が巻かれている。まだ頭がぼんやりするが、少しずつ思い出してきた。黒ローブの男、助けてくれた少年、フォクシア(マフォクシー)……。

 

「そうだ、フォクシアは!」

 

 身体を起こそうとしたら突き刺すような痛みがはしって、思わず身体を硬直させてしまった。

 それでも少しずつ身体を起こそうとしていたら、女性の医師が病室に入ってきた。

 

「ラテリアさん、大丈夫ですか?まだ無理に動いてはいけません」

「…すみません。それで、あの、私のマフォクシーはどうしていますか?」

「あなたのマフォクシーなら無事ですよ」

「…ッ、よかった……!」

「ここに運び込まれたときには応急処置が済んでいたので、危なげなく治療が進みましたよ」

 

 あの少年──ジンくんなのだろうか──が応急処置までしてくれていたのだろうか。

 わからないことはまだ多いが、フォクシア(マフォクシー)の無事に胸を撫で下ろした。

 

「ラテリアさん。あなたも命に別状こそありませんが、傷で失った分の血液はよく食べて回復させないといけませんよ」

「はい。わかりました。ありがとうございます」

「目も醒めたことですし、色々検査をしましょうね。準備してきます」

「あ、少し待ってください」

「はい?」

「私をここに運んでくれた人はどんな人でしたか?」

「えっと…、14歳とか15歳くらいの少年でしたよ。藤色のキャップを被っていた気がします」

「あの、その男の子、4年前にいなくなったジンくんではありませんでしたか?」

「……どうだったかな。患者のあなたとマフォクシーを診ることに集中していたから、顔まで意識して見ていなかったので」

「そうですか…」

「ええ。あの子、あのジンくんなんですか?それならサクラちゃんが喜びますね」

「もしかしたら、そうかもしれません」

「サクラちゃんといえば、あなたが眠っている間にお見舞いに来てくれていましたよ」

「そうですか」

「ええ。検査の後、食欲があれば彼女の持ってきたもの、食べても構いませんよ。確かゼリーかなにかだったので」

「ありがとうございます。わかりました」

 

 軽く会釈をすると、医師は病室を去っていった。

 フォクシア(マフォクシー)は無事。ジンくんのような少年が助けてくれた。それから…。考えを整理しなければ。結局、あの黒ローブの男は何者で、何のために私を襲ったのか。

 思い返して、身震いする。殺されるところだった。人間に対してポケモンの技を放つことに、なんの躊躇いも無かった。まだ、これで終わりじゃない気がする。

 きっと4年前の事件と無関係ではない。何か、大きな何かが見えないところで蠢いているような、そんな不安。

 わからない。それから……。

 

「ジンくんのこと。後でサクラになんて伝えましょうか。変に期待させ過ぎてもいけませんし」

 

 それにしても流石に疲れた。検査はすぐなのだろうか。そうだとしても、疲れてしまったから今は目を瞑っていよう。

 

 




ポケモンの名前と種族名をルビでわかりやすくしてみています。ちょっとうざったいかもしれないからあくまで試験運用。ルビでの種族名表記は不要などあれば、ご意見ください。

そういうのより先に感想お待ちしていますって言うものなのかしら。果たして。
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