多少ストックができたので臨時営業
アビドスではそこそこ希少な冷水をダバダバと足に掛けながら耽る。
ミニスカで良かった。ズボンなんて履いていたらビチャビチャになって洗濯物が増える。
充分に回るようになった頭で振り返ってみれば、偶発的ではあるが、今まで大した成果を出せなかった罪悪感作戦。今回はかなり上手くいくのではないのだろうか。慣れない痛みで私の痛がり方のクオリティも高かっただろうし、待ちに待った限界を迎えたホシノならつけ入る隙もガバガバになっているはずだ。
つまりホシノの風邪が治るまではドキドキの看病イベントまでこなすことができる……めいびー。同棲イベントからの罪悪感イベント、そして看病イベント。
いける、ホシノも充分持っていける即死コンボだ。
そろそろ充分かなとヒリヒリする足をタオルで拭き浴室を出る。
部屋に戻るとホシノはようやっと動き出したのか床を拭こうとしていた。
「いいよホシノちゃん、風邪ひいてるんでしょ。ゆっくり寝ないと」
「でも……」
ホシノはチラッと私の足を見てすぐに目を逸らした。
「足なら大丈夫だよ」
そう言って見やすいように右足を見せつける。全体的に真っ赤になって、所々水疱ができているが、放っておけば治るレベルだ。
とはいえ、痛々しいことに変わりはなくホシノの顔は罪悪感に歪んでいる。
ジャブは中々に効いているようだ。まだまだ攻勢は緩めない。
「暫くすれば治ると思うから病院にもいかなくても平気だから心配しないで!」
訳:安心して監禁してね!だ。監禁されている側にそう言われるのもなかなか乙なものであろう、クックックッ。
今のはキモいなぁ、無しで。
狼狽えて意味もなくあわあわしているホシノを見ずに、奪い取ったタオルでせっせと零したお湯を片付ける。
「ホシノちゃん、ご飯は食べれる?」
『ごめんね、ご飯遅くなっちゃうや』なんてのも浮かんだが流石に嫌味がすぎる。あくまで私はホシノには優しい『ユメ先輩』なのだから。
「はい……」
いい加減うざくなってきた辛気臭い顔で頷くホシノ。
まあ、経口補水液とかはこの家にはないだろうから普通のご飯が食べられるならよかった。
ご飯を食べ終わり、湿らせたタオルと着替えを渡して部屋を出た。流石に『あ〜ん♥』とか『お体拭きますね?』なんてしようもんなら折角の罪悪感ポイントがドン引きポイントにクラスチェンジしてしまう。
そしてホシノのせいで遅れてしまった皿洗いや洗濯をちゃちゃっと済ませた。ホシノが寝ている時にやっては煩いだろうから。
それらが終わり、ホシノの様子を窺うため部屋に向かうとまだ明かりがついていた。風邪をひいている子は寝てなんぼだろうに。手のかかるやつだ。
まぁホシノなら翌朝にはケロッとしてるくらいの生命力はあるかもしれない。今日中に看病イベントをしっかり踏めると思えば悪くないかもしれない。
寝かしつける為にドアを開いた。
「早めに寝た方がいいと思うよ?」
大して考えもせずに出てきたセリフはまるで母親。私も年なのか。
「分かってます」
けど、眠れないと。仕方ない、お姉さんが話を聞いてやろう。
「明日治ってなかったらどうしようかなって……」
「嘘はよくないよホシノちゃん」
今まで相談は割と素直にしてくれていたからか、凄く違和感がある。私には言いたくないのだろうか。
罪悪感と風邪パワーで弱っているから何時もよりするすると絆せると思っていたのに。
急に拒否ったらもっと問い詰められるとでも思って適当な嘘を言ったのだろう。まあ間違ってはいない。
しかし、私の目は誤魔化せん。
「嘘なんて……」
「だって別に治ってなくてもホシノちゃんは行くでしょ?だってホシノちゃんはアビドスが大好きだから」
「……」
「ホントは止めたいけど、情けないことに私はその力を持ってないから」
「……」
「ね、そうでしょ?だから教えてよ。私じゃホシノちゃんをどうこうすることなんてできないんだから」
力ではね。
「……今日の夕方、校舎に戻ったとき柴さんがいました」
大将が?予想だにしなかった人物が出てきて少し驚くが話を逸らさせないように、静かに相槌を打つ。
「彼は良い大人です。私が知っている他の大人とは比べ物にならないくらいに。そんな彼に聞かれたんです『ユメちゃんを知らないか?』って」
ほうほうほう?で?
「返事を言う前に『最近どうも外が騒がしくてな。何時もならあの嬢ちゃんがなんとかしてるみたいなんだが……』とぼやいていました。勿論困っては居るんでしょうけど、それよりも先輩を心配してそうでした」
カチカチやらギトギトだかしらないが、奴等は野生なだけあって縄張り意識が強い。私がなんもしなくても新参者はすぐに潰される。しかし、ホシノがせっせと潰したおかげでできた空白地帯が真の無法地帯と化しているのだろうが、それも暫くすれば落ち着く。
つまり、さほど気にすることでもない。となると大将はほぼ心配十割で態々校舎まで来てくれたわけだ。クレームを入れるほど器の小さい大人でもないし。
やっぱ大将、アンタがナンバーワンだ。
「大将、優しいもんね」
ホシノに後ろめたいことがあることと気付いて私の行方を知っていると判断したなら安心してくれる筈だ。
まさか監禁しているとは思わないだろうが。
「先輩ならもっと上手くできるんですか?」
「うん」
「どうやって!?」
それ聞いちゃうかぁ。まあ私は正直だ、嘘はつかない。
「私はね、疑って、嘘ついて、暴力に頼る。そういうのが当たり前になったら自分を見失っちゃうと思ってる」
だからキヴォトス人は自分のヘイローすら見えてないんだよきっと。
「そして、アビドスをそうなった人たちのものにしたくない」
「だからどうするのかって聞いてるんです!」
煩いなぁ。
「信じて、正直で、言葉を尽くす。それだけだよ」
まあ私の暴力なんてカスみたいなもんだから口先で誤魔化すしかないんだけどね。
「だから困ってる人が居たら、助けてあげて。お腹が空いてる人が居たらご飯を分けてあげて、凍えてる娘にはマフラーをかけてあげてよ。きっと巡り巡って自分の為になるから。少なくとも私はそう信じてる」
「そんな夢みたいなことを語ってもアビドスは……」
「意外となんとかなったよ」
ホシノは怒りと、悲しみと、情けなさと……。色々ものが入り混じったような表情を隠すように枕に顔を押し付けている。
柴大将の話も、アビドスについても詳しく話せたわけじゃない。けれど、感じることがあったのか泣き始めてしまった。
恐る恐る頭を撫でてみても何も抵抗せずに泣き続けている。
暫くして、泣き疲れたのかホシノが眠りについた。
それを確認した私はホシノを起こさないようにそろりそろりと私のスマホを回収して部屋を出る。
そして――久方ぶりに私は夜の砂漠の砂を踏みしめた。
盛り上がってきたのでこれからも暫く長くなりそうです(あくまで当社比)