「『こんなところ』ってまるで私がここにいるとは思ってなかったみたいな言い方だね」
若干悪役くさい言い回しになってしまった。
咄嗟だったとはいえ、もう少しマシなセリフは浮かばなかったのか。
「何が正直ですか、私を騙して出ていっておいて」
必死に想定していたプランの1つを思い出していると、私の御託を完全にスルーし、文句を繰り出すホシノ。黒服と違って会話を楽しむという文化がないのだろう。
そして『何が正直ですか』ってなんだ?……あぁ、ホシノが勝手に泣き始めた時のやつか。
「ごめんね、ホシノちゃんを騙したつもりはなかったんだけど……」
あ、これは誤魔化せないって時のプラン、開き直り作戦。これが通用すると判断したからこそここまでやってきたのだ。
「私が寝てる隙にスマホを盗んで出ていったじゃないですか。これだけやっておいて騙すつもりはなかっただなんて通用すると思ってるんですか?」
人を騙すという行為は別に言葉で嘘をつかなくても態度とかでも成り立つ。
例えば、剣道で面を打つと見せかけて手元が浮いたところに小手を打って一本取ったなら、それは見事に相手を騙したって言えるわけだ。
しかし、証拠足り得るのは言葉と文章だけだ。少なくともこのアビドスでは。
だから――。
「それは誤解だよ。私はホシノちゃんの『ここに住んでもらいます』って言葉に頷いただけだからね。あとは、洗濯とご飯とお風呂と……まぁ家事全般も私がやるって言ったよ。それは守ってるし、これからも守るつもりだよ。けどね、てっきり学校に行くのもダメだなんて思わなかったなぁ。でもホシノちゃんが嫌なら仕方ないね。これからはホシノちゃんの許可なく学校には来ないようにするよ」
まあ監禁されててそこから逃げ出す為の手段なら別に嘘をついていても正義はこちらにある。誘拐して、監禁して、騙されて逃げられたとしても『何逃げてんだこのクズめ!』的な発言をするのはちゃんちゃらおかしい。
「……やっぱり先輩だってやってることは悪い大人と」
……繰り返しになるがどれだけ隠しても、きっといつかボロが出る。だから事実を隠し通すことではなく、如何にいい感じに受け止めてもらえるかが焦点だ。ずっとそのタイミングを探っていた。
それが、今だ。色々な原因で私を取り敢えずボコボコにするという選択をすることはほぼないだろうし、怒っていてもある程度理性的に話も聞いてくれるはず。
今までのように会話の途中で意識を奪われることはない。
そんな言い訳を聞いてもらえるタイミングをずっと待っていた。
「一緒だよ、これが私なりのやり方。でも、私がアビドスをどうにかするにはこうするしかないと思ったし、多分なかった。だから、いつか起きるかも知れない奇跡を祈っていた。そして、実際起きた奇跡をこの上なく尊いと思ってる」
「……奇跡なんて」
今は騙したか騙してないかが争点だ。それを崩すような発言は不快だ。
だが、好都合。言い訳の導入としてはもってこいである。
「ホシノちゃんが今、ここにいることだよ」
「アビドスは私の故郷なんだから必然でしょう」
そら、君からしたらそうだろうよ。
「確かにホシノちゃんからすれば、アビドスの小学校から中学校に上がって、そのままここに来るのは自然かも知れない。けどね、私からしたら奇跡だよ。みんな諦めて出ていってしまう。そんな学校にこんなに強くてかわいい後輩が来てくれたんだから」
「こんな可愛げのない私なんかが来て嬉しいはずがないでしょう。何度も怪我をさせられて、監禁されて」
君からしたらそうだろうね。そして、私から見てもそうだよ。たまには良いこと言うじゃないか。
しかし、『梔子ユメ』として認めるわけにはいかない。
「……本音じゃないんだけどホシノちゃんが納得できるような理由を言うね、なんで『奇跡』なのか。簡潔に言うとホシノちゃんが強いからだよ。今まではホシノちゃんの言う『悪い大人』みたいな手段しかなかった。けど、ホシノちゃんのお陰で選択肢ができたんだよ」
「選択肢?」
監禁されてる間考えてた。何処まで『梔子ユメ』であることを守れるか。例えば、あのバカは真似できない。
あんなお花畑では私の今までを説明できない。
「そう、選択肢。ホシノちゃんが協力してくれれば今まで私がやってきたような手段に頼らなくてもよくなったの」
目的は守れる。アビドスを復興する。その為に頑張ることは変わらない。
「そんなものがあるならなんで今まで黙ってたんですか!?」
性格は……殆ど守れる。清濁併せ呑める性格ではなかっただろうが、それ以外はホシノの好みどストライクのままでいける。
「前提が成り立たないから。ホシノちゃんが協力してくれるっていう」
そうやって1つずつできることとできないことを考えて出した結論がこれだ。
「見くびらないでください、私はアビドスの為になるなら例え、先輩の言うことでも聞きます!」
ここで、守れないと判断したいつか爆発するであろう好感度が下がる要素を完全に消費させる。コントロールできないタイミングよりよほどマシだ。
ここを耐えればあとは上がるだけ。
「じゃあ、カイザーを潰してきてよ」
「……は?」
「カイザーに関連した施設を全部破壊して回るの。そうすれば借金なんてないのと一緒だよ」
どうか、暴れずに聞いてください。
次の話で1章ラストです。3章までやります。