「なにを……言ってるんですか?」
ホシノは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして聞き直してくる。少しは自分で考えなよ。
「アビドスが復興する方法だよ?色々問題はあるけど、借金がなくなれば大分楽になるからね。利息だけで毎月400万も払ってるんだから」
「400!?……けど、だからってそんなの違法です!仮にアビドス自治区内だけだとしても連邦生徒会が黙ってません!」
そうだね。
「それくらいは私が何とかしてあげるよ。それでも不安なら覆面でもしたら?もうちょっと考えてから喋ろうよ。色々方法はあるんだから」
だから、これはハッタリ。別に本気でやって欲しいわけじゃない。ホシノにそれだけの覚悟があるか問う。いや、覚悟がないと自覚して欲しいだけだ。
「それでも私は……」
「つまり、やりたくないだけでしょ。君は君の倫理とアビドスの復興を天秤にかけ、己の倫理に従ってしまう。君のアビドスに対する思いはその程度ってことだよ」
別に、違法からグレーゾーンを通して合法まで、他にも色々手段はあるのだが、ホシノの頭じゃ私の言うことを否定するだけで精一杯だ。
「なんで……なんでいきなりこんなことを。今まではそんな意地悪なこと言わなかったじゃないですか」
挙句の果てにこれか、論点をずらすどころのさわぎじゃない。まさに論外だ。
「我慢の限界だからだよ。これ以上私が君のわがままに振り回されたらアビドスは終わっちゃうよ?それともホシノちゃんにはどうにかする手段があるの?……現実を見ろ、小鳥遊ホシノ」
別に終わりはしないが、何もなければいずれは借金で潰れる学校に戻ってしまうだろう。
もう、原作をなぞることへの固執はない。『小鳥遊ホシノ』≫その他なだけでアビドスは私の大切なふるさとだ。守れるものなら守りたい。
それは本心で、いつもの演じた言葉よりずっと伝わるはずだ。
「……」
きっと、頭の奥で分かってはいたのだろう。自分が間違えていることくらい。けど、正せない。抱え込んで暴走する。
それはきっと『小鳥遊ホシノ』の本質だ。私が呑み込むしかない。
だからはっきりと教えるんだ、先輩として、君は間違っていると。私が正してあげるんだ。『小鳥遊ホシノ』とは斯くあるべし、ってね。
うっすらと己の過ちに気付いたまま、意地で監禁し続けてたらいつか取り返しのつかないことになって、暴走。そして、私に反省文を残してアビドスから出ていくとか普通にありえたから困る。
「なんて、ごめんね。脅かしすぎちゃったかな。別にこんな極端な選択をしなくていいんだよ。むしろ極端じゃないほうがいい。こないだあげた本にも書いてあったでしょ?中庸であれって」
「……本の内容なんてしっかり覚えてません」
それなら、思い出せるように哲学風に語ろうか。
哲学というのは、謎の説得力を出すには便利なものだと思う。話す内容に困った時には取り敢えず哲学っぽい話題。
当たり前のことでもなんか良いこと言ってるって雰囲気が凄い。
この最強の会話デッキでホシノとの戦いにピリオドを打つ。
「純粋な善人も、悪人も結局最期は碌なことにならないことが多い。利用されて殺されたり、捕まって処刑されたり、干からびたりして死んじゃうの」
私の考えとしては、悪と善の中間ではなく、悪と悪の中間こそが善である、例えば、臆病と無謀の中間に勇敢とかってことだと思うが、今はどうでもいい。
「善人でも、悪人でもないなら何になれって言うんですか!」
「善人でも、悪人でもあればいいんじゃないかな。そんなの矛盾してるって思うかもしれないけど、ヒトは元々そういう生き物だからね。ほら、右からは天使の声が聞こえて、左からは悪魔の声が聞こえるみたいなの」
右耳からは『ダメだよホシノちゃん、例えカイザーが相手でも暴力で捻じ伏せるなんて道理にもとる行いだよ!』
左耳からは『Youやっちゃいなよ、悪人は滅び、アビドスは救われてみんなハッピーじゃないか!』
みたいな。それをちょうどいい感じに保つのが人間の得意分野だからね。
「……」
「神でもなくて、獣でもない。大人ほど絶望してなくて、子供ほど希望を持てない。そんなどちらでもあって、どっちつかずな私たちなんだからさ。ね?」
……決まった。
「このおよそ1ヶ月で私は何もできな……いや、それどころか治安を悪化させた。先輩から無理矢理奪った生徒会の仕事だって何もやっていない。そんな私よりはきっと先輩がやった方が何倍もマシです」
「……」
あまりに失礼だ。ぶっとばしてやろうか。
「だから、すみませんでした。正直ユメ先輩が言ってることはあんまり理解できてないかもしれません。けど、あなたがあなたなりに頑張っていたことは伝わりました。なのにそれを、先入観から何も考えずに否定していました」
「先入観?私の評判ってそんなに悪くないと思うんだけどなぁ」
そう言えばそうだ。てっきり自分で調べたと思ってたがホシノはそんなことしないだろう。
カイザーの回し者にでも吹き込まれたか?
「入学する少し前に、黒い服の大人に色々言われました。特に見返りも求められなかったから真実の可能性が高いかなと」
「……なるほどね」
へー。
きっとホシノは私を好きどころか信用もしてないだろう。私よりも己を信じられなくなっただけで。
それでも、もう6月になる。急ぎすぎているのか、ゆっくりしすぎなのかは分からない。ただ、タイムリミットの足音は少しずつ大きくなってきている。
1章の後書き的なこと書こうと思ったけど、特にないので小ネタを一つ。監禁されてるときの円周率の計算はArctanのマクローリン展開でやってました。
1章 捕まえる、2章 煮込む、3章 食べる
明日閑話が投稿されて、明後日2章始めます。