私は『梔子ユメ』、その後輩は『小鳥遊ホシノ』。
例え中身は違えど、私は梔子ユメでなければならない。私の所為だなんて思うつもりはないけれども、少しは私が関係したナニカによって奪われてしまったこの世界の『梔子ユメ』の遺志というものが……違うな、この世界では物心ついた頃から私は梔子ユメだった。
まあ、とくにやりたいこともなかったからそんな欠片みたいな罪悪感と責任感を感じながらもただただ平々凡々と過ごしてきた。
しかしアビドスではカイザーやネフティス、アビドス外でもアリウスのゲマトリアを始めとしたキヴォトス中の学園の出来事はどれも聞いたことがあるものばかり。
それはおかしいんだ。私が大学で学んだ知識では世界はランダムに満ちている。例え、すべての物質が全く同じ位置に、全く同じエネルギーをもっていたとしても、世界はランダムに進む。それが当たり前の認識だった。
なのに、この世界はそれが当然であるかのように原作をなぞっている。
きっと、このアビドスは原作よりよほどマシな状況になっていたんだ。それなのに入学願を提出したのはあのナイフみたいな雰囲気を纏った小鳥遊ホシノ1人だった。
そんな彼女を見て、何故か可愛いと思う自分の感性に寒気が走った。私はこんな人間を可愛いと思うような人間ではなかったはずだ。にも関わらずそんなことを思ってしまうのは私がどうしようもなく『梔子ユメ』だからなのだろう。
そして気づいたんだんだ。ホシノが入学して暫くしたら『梔子ユメ』は……私は死ぬんだって。
だから私を『梔子ユメ』たらしめる、あの『小鳥遊ホシノ』が嫌いだ。
あの『小鳥遊ホシノ』に愛着が湧く我が身がこの上なく憎い。
やれることはやったはずだ。それでも逃れられないなら、縋るものはもう『奇跡』しかない。
そう思っていた筈なのに、いつの間にか奇跡を手繰り寄せようとする手すら疲れて止まってしまっていたんだ。
結局何をやっても現実逃避、役割を全うするなんて大層な言い回しをしているが実際は、役割に抗うことに疲れた、ただそれだけ。
まあとにかく、私が小鳥遊ホシノのことが大好きなのは、私がどうしようもなく梔子ユメであることの証明に他ならない。
だからその役割を全うする。それで、いい。
「クックック」
「……」
仰向けでぼーっと眺めていた白い天井がヌッという擬音を伴って不審者の顔面で埋めつくされた。
すぐに右手を伸ばしてナースコールを押すが反応がない。仕方ないので連打するが何も起こらない。
「お目覚めのようで何よりです、少々お時間を頂きますね」
「……」
ナースコールを押すことを諦めた私はそれをギュッと握って思いっきり引っ張った。
「あ……失礼します」
断線したら、繋ぎに来なきゃいけないからね。
やあやあ我こそは骨折して靭帯断裂してなんか外れかけて入院中の者なり!
悶絶の日々を耐えし我に敵はない!入院中なり!