「ユメ先輩!」
黒服が去り、座ろうとしたところでホシノが突入してきた。すわ襲撃かとホシノを見るがそういうわけではないらしい。いったいどうしたというのか。
「この写真、今の校舎と全然違います。窓も割れてるし砂まみれ。……とても人が過ごせる場所には思えません」
「そうだね、頑張ったんだ!」
お魚図鑑より先にアビドスの資料を読んだのか、予想外だ。しかし、見てほしいところをしっかり見てくれたようだ。
「そうじゃないです!幾ら使ったんですか!?こんなことに使うくらいなら少しでも借金を返せばよかっ」
「それは違うよホシノちゃん」
あぁ、そっちにいっちゃったか……。
「違くなんて!」
「借金にまみれてても、生徒が少なくてもここは学校なの。一番大切なのは生徒が健やかに成長できる環境なの」
「そんな綺麗事なんて言って!現実を見てください!」
「……」
こめかみからひぃんひぃんと鳴き声が発生しそうになるがグッと抑える。冷静にならなくては、ホシノを言い負かすことが目的じゃないんだ。
「私は誰よりも見てるつもりだよ、このアビドスの現実を」
「……」
何か言いたそうではあるが黙って続きを聞いてくれるようだ。
「当たり前の話だけど学校ってね、生徒がいないとなくなっちゃうんだ。窓ガラスはボロボロで、校舎は砂だらけ、お金になりそうなものは全部売っちゃって、ロクな設備もない。そんな学校に来たいと思う人なんて誰もいないんだよ。そうしたら借金に呑まれるよりずっと早く、このアビドスは終わっちゃうんだ」
「それでも私は来ました!」
「だから私は嬉しいの、ありがとうホシノちゃん」
「……」
流石にここで『私が来たから誰もいなくなんてない!』なんて言われたら困ってしまうのだがそこまでガキではないようだ。とは言え、黙られても仕方ないので少し話題を変えよう。
「最初の『幾ら使ったのか?』って質問の答えは2000万くらいかな」
「そんなお金アビドスにはなかったんじゃ……」
窓ガラスだけでなく、最低限学園としての体裁を保つには色々なことが必要だった。
「借りたよ、勿論」
「は?」
……私の知る小鳥遊ホシノと梔子ユメの関係を全て再現することは不可能だ。分かってはいたが何かがキレるような音のしたホシノを見て、その確信は深まった。それでも、『ホシノちゃん』の材料として、私への依存だけは絶対に欠かせない。
そして停滞していては間に合わない――ノノミがやってきてしまう。
ホシノが揺らいでる今、賭けにでるべきだ。最悪でもホシノがアビドスを出ていくことはないはず。
「8億、それが今のアビドスの借金だよ。半分はカイザーから、もう半分は私から。ビックリしたでしょ?私これでも結構お金持ってたんだ。トリニティの子に借りたからね」
煽る。どのみち怒らせることに変わりはないんだ。冷静になられては困る。後でホシノ自身が調べて、私がやってきたことを理解して、罪悪感を抱く、そう期待している。だから、手を出させないといけない。
「……」
私からの借金が半分、つまり私のせいで借金が倍になったとでも思っているのだろう。
ホシノはSGを取り出し、私に向けている。
「……」
ホシノの腕がプルプルと震えている。いや、ホシノの腕だけじゃない、部屋全体だ。
ようは、私が震えているらしい……。
なるほど、私は今ひたすらに怖いらしい、目の前の『暁のホルス』が。