午前10:50 クラナガン自然保護区 中央部 クラナガン自然保護区分署ラボ棟 2階マルチメディアラボ
エルガはそこで自然保護区全域に設置されている監視システムの情報を見ていた
保護区内にも一定の数の街灯型観測システムが設置されている
動植物を奪うものをも見つけるためである。撮影・記録された映像は100年間保管される
「どこかに映っていると良いんだがな」
銃弾を受けているとなると銃声がどこかで記録されているはずだ
サイレンサーを使っていなければの話であるが。
もしサイレンサーを使っていたら銃声はほとんどの確率で記録されているはずがない
相手もプロならばサイレンサーを使っていることは容易に想像できる
苦労する案件になることを覚悟した時にエルガの携帯電話が着信を告げていた
ヴィータが到着したことを知らせる連絡である
「こっちまでエスコートしてくれ。2階マルチメディアラボにいるからな」
電話の相手はわかりましたというとそちらに連れていきますと言って電話を切った
問題児を押し付けられたことは間違いない。
誰が好き好んでトラブルの種を育てたいと考えるか
だからと言って割り当てられた任務についてはしっかりすることが求められる
嫌だと言っても任務遂行をするのがプロというものである
『トントン』
マルチメディアラボのガラスドアをノックされた
そこにはパトロール捜査官の護衛の下でヴィータは到着した
彼は入室をさせるとイスから立ち上がった。
身柄引渡書をもらい引き受けたことを示すサインをすると書類をパトロール捜査官にかえした
「初めましてだな。ヴィータ・八神だな。教導を担当するエルガ・ジャーニーだ」
いろいろ聞きたいことはあるだろうが今は仕事優先にさせてもらうと、
ヴィータを室内に入れると作業を続けた
「陸の孤島からクラナガン捜査局に飛ばされた身はどうだ?」
今の時空管理局員の中には機動六課のことを時空管理局の陸の孤島と呼ぶ者が存在する
周辺から切り離された部隊と基地を持っているという事から陸の孤島と言われている
「それは嫌味か?」
「俺たちだって問題を抱えているんだ。この際だからはっきり言っておく。冷たい視線を覚悟しろ」
「そんなことはわかっている」
ヴィータも今回のことは納得していない
自らは正義を果たしたつもりなのだが現実は時空管理局は悪
機動六課組は時空管理局を破壊したと言われているのだ
周囲の視線はかなり厳しい
「それは良い心がけだ。慣れることは極めて重要だからな」
その時にあるニュース速報が入ってきた。エルガは携帯情報端末で情報を確認した
『ワンワールドバンクが保有していた多くの企業の株や債券の売却によって破産処理の資金に利用すると』
ワンワールドバンクの保有株や債券を売却して徹底的に破産に必要な資金を確保する
破産処理には簡単に進むことはない。徹底的に売却しても不良債権はかなりの金額になる
保有する株や債券の売却で得た資金をすべて使っても不良債権処理をすべてできるはずがない
不良債権があまりにも多すぎるからだ
『ベルカ州内に存在する数多くの魔力精製炉発電所からの発電出力が低下中です』
『一部関係筋の情報によるとベルカ州内にある魔力精製炉発電所の付近にAMFが設置されていると』
ライフラインの中で最も重要な電力供給が途絶えると大きな問題になる
影響はすぐに復旧すれば問題ないが長時間にわたって停電すれば問題どころではない
政府がひっくり返るくらいの大騒動に発展するかもしれない
「電力供給が停止したら通信回線もダウンするだろうな。嫌なことになりそうだ」
ミッドチルダ連邦国内の地上基地局にはバッテリーが搭載されている
さらにそこから通信衛星を経由することでバッテリーが持つ時間は携帯電話などの無線情報端末は機能する
しかしバッテリーはそれほど長時間ものものではないのでかなりリスクはある
ちなみに政府関係者や法執行関係者が運用している携帯情報端末は、
地上基地局がダウンしても人工衛星との通信をすることができる
そのため情報端末のバッテリーが持つ限りは問題なく使用できる
「かなり危険な状況になっていることは間違いない。聖王教会はまさに追い詰められているな」
エルガは今回の停電騒動が聖王教会の強硬派に起こされている可能性があるのだ
教皇であるカリム・グラシアの安全が危険になるかもしれない
それだけは避けなければいけない
「カリム・グラシアの安全を確保しないと危険な展開になるかもしれないな」
そのためにステラとマイアが向かっている。
今の聖王教会に無茶苦茶な行動をさせるわけにはいかないからだ。仮にも国際組織なのだ。
ある程度の粛清は必要だろうが組織そのものをつぶすわけにはいかない
「ヴィータ。お前は良かったな。不幸から逃げることができて」
「・・・・・・本当に誰もが嫌味を言うんだな」
「当然だろ。こっちはとんでもないお荷物を背負わされていると思っている局員は多いからな」
簡単に受け入れられると思ったら大間違いだからなという
そんなことを話しながらも自然保護区内にある各種センサーから銃声らしき音が残っていないか、
検索作業を続けた。ある程度はコンピュータのAIに任せることができるが最後の判断は人間が行う
人間による詳細な分析と確認作業を行わなければ冤罪事案になるかもしれないからだ
それを避けるためにも分析は必要である
「しばらくは冷たい視線には覚悟することだな。後ろから狙われないだけましだと思え」
時空管理局にいたら今ごろ殺されていたかもしれないとエルガは言った
そうなる可能性は高いのだから仕方がない。万が一には証人を消すために動く連中もいる
殺されないようにするためにクラナガン捜査局に異動になった
ここで守られている間に時空管理局内部の徹底的な『掃除と改革』が行われる
『港湾本部から各員へ。ベルカ州内の魔力精製炉発電所の全炉でAMF装置の影響で発熱反応が低下中』
このままいけば数時間以内に発電機能が失われるという事だ
もちろんこういう事態に備えて州外から給電を受ける設備があるので問題はない
ただし影響がどこまで広がるかわからない限りは危険な状況が続く
『ピッ』
分析を続けていた観測システムのデータから微弱ではあるが発砲音らしき音が記録されていた
今から12時間前のことになる。問題はこの時間帯は夜であることだ。
カメラで犯人がどこにいるのかがわからない
さらにあまりに音が小さいので正確なことはわからないという事だ
これでは状況証拠でしか意味はない。物的証拠があればいいのだが
現実はそれほど甘くない。その音が聞こえた場所は運の悪いことに観測装置の死角に入っている
音だけしか記録されていないので顔などの人相を割り出すこともできない
これでは何もわからないと言っても過言ではない状況だ
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クラナガン市とベルカ州の州境付近 高度7000m C-5
ステラとマイアは聖王教会関係の情報を収集していた
次元世界連合が強制査察を命じたことで事態は少し切迫している
教会内部に不穏な動きがあるという情報が入ってきたからだ。
もしかしたら証拠を消すつもりかもしれない。聖王教会の暗い過去の情報の記録を
処分すれば少しは時間を稼ぐことができる。逃亡する時間稼ぎを
「今ごろ聖王教会内部は大騒動になっているでしょうね」
ステラの言葉にユニゾンデバイスであり、大切な相棒であるマイアも同じ意見ですと回答した
ステラは時空管理局に在籍していた経歴を持つ
正式には時空管理局本局戦技教導官をしていた。なのは・高町とは面識がある
さらにマイアはユニゾンデバイスであることから聖王教会にもその情報が洩れている
潜入するにはステラ単独で行く方が安全である。マイアはバックアップを担当
「でもそこが潜入するときにはちょうど良いチャンスでもあるわ」
教会内で混乱が起きている間なら警備も緩いはず
そのチャンスを逃すわけにはいかない。ものにしていく必要がある
「マイア、ベルカ基地から支援を。私は潜入するわ。協力者もいるし」
ステラが言った協力者というのは聖王教会に潜入している工作員のことだ
正式には港湾パトロール安全保障局に属しているスパイである
「信用できますか?今のこの状態で?」
マイアは聖王教会内に潜入している仲間が信用できるのか懸念していた
彼らにとって重要なことは割り当てられている任務遂行である
それができなければ意味がない。諜報活動というのは極めて難しい活動の1つだ
「私は賭け事は得意なのよ。何とかなるわ。きっとね」
潜入は運が求められる。さらに臨機応変な対応ができることが求められる
問題なく対応できればうまく事が進むかもしれない。
「相変わらずのアバウトな主で困りますが、後方支援は任せてください」
『ベルカ州の空域の飛行については民間機は全面飛行禁止区域に指定中』
『飛行許可はクラナガン捜査局と連邦行政機関や州政府機関などの政府機関関係のみに限定する』
「本当に苦労する現場ね。ベルカ州内の電力供給が止まらないことを祈るしかないわね」
「すでに近隣州から給電体制に入っているので州全域がブラックアウトになることはないですが」
マイアは少しの間とはいえ。一部地域でブラックアウトになるかもと懸念していた
ブラックアウトになれば本当に影響が大きい
そうならないようにいろいろと対策をしてきたのだが、すべてを守ることはできない
「マイア。聖王教会騎士団の動きを常に監視し続けて。小さな異変があれば私の端末に情報を」
「了解。他にリクエストはありますか?」
「港湾本部と調整だけは慎重にしておいて。現場が危険地帯のど真ん中となると私もすぐに逃げるから」
マイアはわかりましたと回答すると携帯情報端末で分析を始めた
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東区東部 ミーミルクラナガン貨物ターミナル パトロール事務所
アルシオーネは引き継ぎ作業を行っていた
もうおおよその確認作業は終了した。あとはここの責任者に任せるほうが効率的である
「ようやく私も中央本部に帰ることができそうね」
「支援感謝します。それにしても捜査部はこれから大変ですね。機動六課組のことを考えると」
「そうね。任務と割り切って仕事をするしかない。それができなければ捜査官失格」
『ピー』
アルシオーネの携帯電話にメールが入ってきた
メールの送信者は自らの存在を知られたくないのか非通知設定になっていた
「誰かしら?」
メールを開封すると内容はシンプルである
『機動六課組の受け入れを断らなければ爆弾を爆発させる』
そのように記載されていた
「爆弾予告となると危険な気配があるかもしれないわね」
それもアルシオーネに対して直接予告してきた
何か裏があるのかもしれない。これでは中央本部に帰るわけにはいかない
まずは発信源を特定することにした。メールの発信元であるIPアドレスを割り出して照会をかけた
もし連邦法の犯罪組織対策法に登録されている組織や個人の携帯情報端末なら令状なしで割り出せる
今まで簡単に進んだことはないが、可能性を1つずつつぶしていくことは極めて重要である
「誰が発信したのかしら?」
IPアドレスを照合したところ、ある人物の携帯情報端末であることがデータベースに登録されていた
名前はキャリス・ゴールド。24歳。女性でも最前線で時空管理局本局特殊部隊に所属していた
今はオリアスという反政府組織に所属している。時空管理局からは大量リストラで解雇された1人である
時空管理局犯罪捜査局から指名手配を食らっている。
時空管理局の機密情報を横流ししていた容疑で捜査対象になっていた
今はどこにいるかはわからない状況にある
「発信元は三角測量で割り出せると助かるけど」
もしくはGPSによる衛星測位で割り出せればいいのだが、
すでに位置が特定できないようにしていた。携帯情報端末を物理的に破壊したのだろう
送信した最後の位置は東区中央部イーストセントラルサウスウエスト地区7番街付近である
割り出せたのはそこまでだ。
だがそこからは街灯観測システムの監視カメラの映像で顔認証システムで照合
それでさらに正確な位置と逃走方向を早く割り出すことができるだろう
「割り出せると良いけど」
キャリス・ゴールドの顔はわかっている
顔認証システムで照合をかければ何か手掛かりが手に入るかもしれない
ここからはシステムに任せることにしてアルシオーネは中央本部に今度こそ戻ることにした
問題はこの爆弾情報がどこまで信ぴょう性があるのかだが、調べないという選択肢はない
裏付けをすることは最重要課題であることは間違いない
「ヒットすればいいけど」
アルシオーネは小さな声で独り言のように口に出しながら検索を開始した
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中央パトロール本部東館 8階事件再検討課オフィススペース
ダイナはそこで事件の記録を見ていた
事件記録を確認すると明らかに状況証拠で裁判まで持ち込んだことは明らかだ
目撃証言もそれほど多くない。今の裁判制度なら検事は間違いなく立件することはしない
証拠固めをさらに行えと注文を付けてくる。
JS事件までは司法権を時空管理局に握られていたので仕方がない
「ひどいな。よくもこれだけの少ない証拠で裁判にかけたな。今なら間違いなく証拠不十分で釈放だ」
ダイナの意見にほかの刑事たちも同じ意見ですと返した
冤罪である可能性はかなり高い。今の段階では可能性の段階だ
正式に冤罪事案であることを実証するまでは犯罪者として扱う必要がある
問題は裁判で証言した当時の時空管理局員の証言がひっくり返せるかだ
偽証であるならば裁判では証拠能力はなくなる。
その他に押収された銃と被害者に撃ち込まれた銃弾のライフルマークを照合する
すべて分析を行い偽りの証拠となれば冤罪事案として再度裁判を行い正義が執行される
そこまでたどり着くまでにはかなり時間が必要になる
ダイナは今回の事案で物的証拠である銃弾の分析の結果に興味がある
もしかしたら面白い展開になるかもしれない
「分析をするには銃器刃物ラボのフィアットに仕事を頼むか」
中央本部の銃器刃物ラボの責任者をしているフィアット・ベラクルスは優秀な分析官だ
彼女には変わった経歴がある。フィアットはなのは達と同じで第97管理外世界出身だ
アメリカ合衆国で生まれ育ったが、どういうわけかリンカ―コアを持っていた影響で飛ばされた
その際にクラナガン捜査局の前身であるクラナガン捜査部の捜査官に保護されて分析官になった
アメリカにいたころもフロリダ州で分析官をしていた。特に銃器や刃物に対する知識は豊富である
ダイナはすぐに銃器刃物ラボに連絡をした。フィアットはすぐに出たので分析を最優先で依頼した
『相変わらずの無茶ぶりね。わかったわ。証拠が届いたら1番で対応するから』
「よろしく頼む」
通話を終えるとダイナはこれで本格的な捜査を行う用意ができたなと思った