午前11:20 中央パトロール本部庁舎 10階捜査長官執務室
「アルシオーネ・トラヴィック捜査官がすでに嗅ぎつけたようです」
「さすがは情報戦のプロだね。鮮度が良い内に最高のネタを確保する。諜報活動に向いているかもしれないね」
ユウ・ミズノ捜査長官は捜査長官首席補佐官であるエテルナ・ジンガーから報告を受けていた
アルシオーネが情報を入手したことを受けて、今後の方針について協議をしていた
爆撃機がベルカ基地から離陸したらもはや止めることは難しい
そうなる前に被害を最小限に抑えることが最も重要である
口で言うのは簡単であるが現実にそれを実行するにはかなり難しいことはわかっている
「大統領も無茶なことを考えているみたいだね。聖王教会関係についてトラブルを解決するつもり」
ユウ・ミズノ捜査長官はあることを考えていた。
それは聖王教会を完全に刷新する。そのためには手段を選んでいられる状況ではない
今は問題解決のために使える方法は徹底的に利用しなければならない
「国防省は本気で聖王教会本部を爆撃するつもりがあるかもしれないけど」
できればそれは避けてほしいところだねと彼は言った
「私も同じ意見です」
エテルナも同じ意見であった。もし教会本部の爆撃になればすべての証拠が消えてしまう
それに後始末もかなり面倒になる。次元世界連合への影響も大きい
ミッドチルダ連邦政府の外交政策にも大きな影響が出ることは間違いない
そうなる前に問題を解決しなければならない
「どうします?」
「国防省と連携して対応を。大統領は僕のほうで説得するよ。君は次元世界連合を」
お互い分担することで効率的に事態の鎮静化を図ることにした
効率よく動くにはこれが最適な判断である。現時点ではだが
「それにしても聖王教会関係の問題は続くね」
「同意見です。正しい宗教活動をしていたら良かったのに悪いことをしていた」
エテルナの言うとおりである。
まともな宗教活動をしていたら問題はなかったはずだが
利権という名の甘い果実を食べてしまって組織体制を壊すことになった
腐敗した組織になった。
「今回の査察でまともな組織に戻ることを願いたいね」
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南区中央部 クラナガンハイウェイ10号線(南北線) 南行き
ラジェットたちは順調にサウスセントラル駅に向かっていた
緊急走行で向かっているが無線内容はすべて傍受していた
『サウスセントラル駅での騒動ですがナイフで刺された被害者が発生。至急救急車を手配願います』
「最悪の事態になったな。殺しに発展するかもしれないとなると」
『中央本部からSA11。サウスセントラル駅に到着予定は何分後だ?』
「あと5分以内に到着できる。殺しに発展するのか?」
『今は腹部をナイフを刺された被害者が生まれただけだが、状況はかなり危険になるかもしれない』
「はやて、防弾チョッキを着用してくれよ。鉄板が入っているから少し重いが撃たれて死ぬよりましだろ」
「了解」
「面倒なことになるのは嫌だが今は仕方がないな。はやて、現場では俺のそばから離れるな。ツヴァイもだ」
「わかりました」
はやてが少しでもラジェットのそばから離れた瞬間に暗殺されるかもしれない
リスク管理をするためにははやてをラジェットのそばから話すわけにはいかない
現場の安全確保はかなり難しい状況になっていることは間違いないのだから
まぁ、犯罪現場はいつも安全確保ができるような場所は少ない
何があるかわからないからこそ、危険な現場であることは間違いないのである
「俺は撃たれたことがあるから。鑑識作業中に」
「どうして撃たれたんですか?」
はやては驚きながらも質問してきた。ラジェットが過去に撃たれた案件はコールドケースになっている
今も新しい新情報が出てきたら捜査が再開される。基本的には殺人未遂として処理されている
つまり重大犯罪として指定されているので時効は存在しない
「今もわからないままだ。そんなことは日常的だから気にしたことがないがな」
捜査部捜査官の多くは1度は襲撃にあっている。過去に逮捕した犯罪者からの復讐を受けている
だからこそ今は犯罪者には厳しい処罰が求められている。
時空管理局が司法権を握っていた頃のように今は甘くない
厳しい処罰を受けて長期間の刑務所生活を送ることになっている
仮釈放を受けても厳しい守らなければならない規則が存在する
仮釈放中にその規則を守らなければ再度収監されることになる
「問題がかなり厳しいところまで進んでいるな」
「撃たれることに恐怖を感じないのですか?」
「ツヴァイ。俺たちは死ぬ気で仕事をしているんだ。いつ殺されるかなんてわからないからな」
犯罪の捜査をしていたら誰から恨まれることは当然である
それでも前に進むのは1人でも被害者を減らすという目的があるからだ
捜査官は常に犯罪被害者を減らすために活動している。
そして犯罪が起きれば素早く対応して犯人を法の裁きにかける
上記の目的のために任務遂行をしているのだから
「俺たちはいつでも死ぬ覚悟はできている。それができないなら捜査官になるのはやめるんだな」
度胸がなければこの仕事を続けることはできないのだからとラジェットははやてとツヴァイに話した
『クラナガン市政府は退役時空管理局員が生活保護の申請案件について、最後の砦として承認する意向を発表』
退役時空管理局員の多くは退役後に受け取れるはずだった退職金や年金の運用に失敗してすべてを失った
そのため多くの次元世界国では生活保護の申請をしている人がかなりの数になる
見放すわけにもいかないので厳しい審査をクリアしたものから認可することにしているが
いろいろと問題が発生している。苦労は絶えないのだ
「苦労するのは俺たちだけでもないわけだ」
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南区北部区域 ノースサウスアヴェニュー 北行き
フィリーは銃や車での体当たりなどの攻撃を受けながらもなんとか逃れようとしていた
今は少しずつ応援が集まっている。少しでも良いのでこちらは時間を稼ぐだけでもいいのだが
簡単にできることではない。時間稼ぎができたとしてもそのあとの後始末。
それがかなり苦労することになってしまう
「本当に面倒なことになっているわね」
なのはは助手席で外から見えないように隠れていた
捜査部の使う車は防弾仕様になっているので簡単には突破されることはない
だが対物ライフルや対戦車ロケット砲などの攻撃をされたらひとたまりもない
そんなことにならないように対応したいところである
「今は急がないと」
少しずつ応援は集まってきているがそれでも攻撃を仕掛けてくる連中はあきらめることを知らないようだ
どうやってもこちらをつぶしたいことは明白である。ひどい話だ。1日目からこんなスタートになるとは
できることなら少しは余裕があると思っていたのだが、まったくもって想定外の事案である
「こんなの全く想定外よ。迷惑すぎるプレゼントね。車の修理代が出ると良いけど」
防弾仕様の車だ。通常よりもかなり修理代は高い。もちろん経費で落ちる。
しかし事務部から文句を言われることは覚悟しなければならない
嫌な話ではあるが、経費の無駄遣いをしていないかと疑われるのだ
多少の苦情は覚悟しておかなければならない
「少しはこっちのお財布を気にしてくれると助かるんだけど」
「それってどういう意味ですか?」
「車の修理代は時には自腹の時もあるからってことよ」
すべてが経費で落ちるわけではない。時と状況によっては自腹になる
痛い出費になることは間違いない。ちなみに捜査部でも独自の予算基金が存在している
基金の元手は捜査部が事件捜査を行って事件解決した際に犯罪組織から押収した財産を現金化したものである
もちろん現金化するときは合法のものであるが。麻薬などは焼却処分されている
基金の運用はクラナガン捜査局や中央パトロールの監査組織が厳しく監査をしている。
不正な使用は禁止されている。資金は様々な技術開発などに使われる。
そのほかにも物資の補充などの目的にも利用する
鑑識キッドは常に清潔なものが求められる。証拠を汚染したら事件捜査は難しくなってしまう
それを抑制するためにも今は捜査部が独自で運用している捜査部基金は利用されている
「捜査部のお金を無駄にすることは認められていないから必要最低限しか出ないけど」
無駄遣いは認めてくれないということである
それは当然である。無駄遣いを認めていたらとんでもないことになる
だからこそ、何度も言うが厳しい規則が存在している
「あなたたち機動六課組は嫌われているわね」
「そうですね。私も今は同感です」
「これでよくわかったでしょ。機動六課組はいつも狙われているということを」
嫌な選択をしたことは間違いないわねとフィリーは愚痴るかのように話した
『中央本部からSA13。上空に港湾パトロール海兵隊が展開している。さらにアパッチヘリも展開中』
「早急に後始末を求める。これ以上のダメージは食らいたくない」
『了解した。海兵隊に現場制圧に入るように要請を出す。アパッチヘリからは機銃攻撃などをさせる』
「派手なパーティーになるわね。なのは!しっかりと何かにしがみついておいて!」
どうするつもりですかと聞いてきた。フィリーは急ブレーキを踏むだけよと回答した
この車は防弾仕様だ。多少の衝突には耐えることができる
特に前と後ろには装甲版が入っているので普通のセダン車両なら派手に損傷することになる
こちらから攻撃するタイミングをすべて整ったら作戦開始である
問題はそのタイミングを計るのが難しいということである
あらゆる準備が整ってから弟子化することができない最後の手段である
「私が構えてと言ったらどこかにしがみついて体を固定して!」
「わかりました」
フィリーはいよいよ始めることにした。最終手段に
「構えて!」
フィリーはそういうと急ブレーキを踏んだ。
そして見事に追跡してきた敵車両は大きな損傷した
「海兵隊の皆さん。あとは任せるわ」
『了解した』
フィリーが無線機でそういうと上空から降下部隊が下りてきた
海兵隊の空挺部隊である。彼らの実力は本物だ。あとは任せるだけで良い
『報告書は後でそちらに転送する』
「了解」
フィリーはなのはとともに車でその場から去って中央本部に向かった
「良いんですか?」
なのはは自分たちが捜査活動をするべきではと言いたいのだろう
しかし今のフィリーの目的はなのはを中央本部に連れていくことだ
安全確保のためにはそれが最も安全であることは間違いない
選択肢は限られているのだから素早い決断と対応が必要である
応援が必要なら無線で連絡してくることもわかっている
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ベルカ州中央地方ベルカ市郊外 港湾パトロールベルカ基地 基地管制センター
マイアはそこですでに聖王教会に向かった相棒であるステラのために情報収集をしていた
「相棒が危険な任務に行くと苦労しているようだな」
マイアに声をかけてきたのはベルカ基地司令官であり統合軍司令官でもあるレパーズ・サットンである
軍事的緊張バランスの維持が求められるベルカ州を管轄している有能な指揮官だ
「これはいつものことですよ。私たちにとっては」
「そうだな。捜査部捜査官はいつも貧乏くじを引かされることだからな」
「嫌なことは言わないでください。それで教会の状況はどうですか?」
マイアは本格的な話を始めた。
レパーズの話によると聖王教会はかなり証拠隠滅活動を実行している可能性が高いと
暗い過去の内情が漏れたら最悪のことになるのだから当然である
「連中たちは真実を隠蔽しようと必死になって動いているとの情報が入っている」
「闇に葬らないと自分たちの立場が危険になることはよく理解しているようですね」
「ああ。その通りだ」
「そんなところに潜入するなんて、相変わらず無茶な話ですね。押し付けられるのは苦労することはいつもですが」
苦労人だなとレパーズはそう言うとマイアに今わかっていて、
開示できる範囲の聖王教会の行動状況をまとめた資料を手渡した
「相変わらず分厚いですね」
紙媒体の資料はかなりの分厚さがあった。機密資料の多くは紙媒体で保管されていることが多い
電子情報で保存するとハッカーでセキュリティを突破される可能性があるからだ
だからこそ機密事項の記載された資料の多くは紙媒体のことが多い
マイアは管制センターのすぐそばにあるミーティングルームに向かうとそこで資料の確認作業を始めた
聖王教会の内部資料。かなりひどい状況であることはすぐに分かった
財務記録はさらに悪い。支出の金額があまりにも多すぎるからだ
もともと聖王教会の収入は寄付金や教会が株主の企業から寄付という形で得ていた者がメインの収入だ
その企業の株式もすべてベルカ州証券取引所で売却された。最後のお金を得るために
しかし大部分が買い叩かれる結果になってしまったが、おかげでかなりの低価格でしか売却できなかった。
さらに教会が発行していた聖王教会債の問題もある。教会債はかなりの金額になる。
その償還にも追われている。今後、財務状況でかなりの苦労する道が待っていることは間違いない
「酷いですね。これは。想定していたよりも」
聖王教会はあらゆる財産を処分しようとしていた。残っているのは不動産関係がメインである。
教会の支部がある不動産物件は多くの次元世界国の一等地にある
ただし、それらの物件も安値で買いたたかれることになることは間違いない
「不動産物件を全部売ったとしてどれくらいになるか計算させるしかないですね」
マイアは港湾パトロール安全保障局の友人に連絡を取ってみることにした
聖王教会の不動産物件をすべて売却した時の売却益がどれくらいになるかを計算させた
すると結果はすぐに帰ってきた。売却益は最大で5000兆ミッドぐらいだろう
それでも足りないことは間違いない。何が何でも金を回収しようとするだろう
「かなり金銭関係に問題ありね」
おまけに聖王教会の財産を横領していた人物もいた
面倒な案件がどんどん増えていくことにマイアは大きなため息をつきたくなった
ここまでこじれるとは最悪の状況であることは間違いないのだから
教会の運命は今回の次元世界連合による強制査察に命運がかかっているといっても過言でもない
「聖王教会の運命は次元世界連合の強制査察にかかっているわけですか。失敗は許されない」
いろいろな意味でミスは危険になってしまう。聖王教会の財務情報の調査をされたらどうなるか
これはやってみなければわからない。査察の行き先によってはどうなるかは検討もつかないのだから
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クラナガン自然保護区 西部 パークハイウェイ
エルガとヴィータの2人は山小屋の近くに到着した。しかしそこで待っていたのは想定外のトラブルである
体長1mほどのクマがいたのだ。それも小屋の扉を何度もひっかいていた
何か中にクマが欲しくなりそうなものがあるようだ。腹が減っているなら『エサ』があるのかもしれない
それはそれでかなり危険な事態になることは間違いない。
「どうするつもりだ?」
「こういう時のために良い物を持ってきた」
エルガはそういうと爆竹を取り出した
ライターで導火線に火を付けるとクマがいる場所に放り投げた
爆竹の大きな音に驚きクマはその場を逃げるかのように去っていった
「簡単だろ」
彼はそういうとホルスターから銃を抜くと車から降車して小屋のほうに向かった
ヴィータは助手席で待機させた。今はまだ慣れていないのだから当然の判断である
現場の証拠を汚染されたら捜査に大きな影響が出る。それを避けるためにも今は待機任務が好ましい
エルガは小屋のドアロックを開錠すると室内に入った
室内には頭部から出血している遺体があった
「SA12から自然保護区分署。山小屋で遺体を発見。至急こちらの現在位置に鑑識チームと検死官の派遣を」
『了解した。直ちに派遣する。動物に証拠を汚染させないように現場確保を行え』
遺体は男で年齢は30代ほどと思われる。右側頭部に穴が開いていた
穴の大きさから25口径と思われる。頭蓋骨に入る威力はある。
しかし頭蓋内で跳ね回って銃弾のライフルマークが破壊されてしまう
「調べるのに苦労しそうだな」
エルガはとりあえず車に捜査キッドを取りに戻った
検死官が来るまでは遺体に触れることは通常は認められない
しかし捜査部捜査官は検死官資格を持っているので死亡推定時刻を割り出すことぐらいは簡単である
肝臓の温度を測定すればすぐに割り出すことができる
「ヴィータ。お前は助手席で待機していろ。何か危険を察知したらクラクションを鳴らせ」
無線では通信が傍受されるかもしれない。
クラナガン捜査局で使用されている無線は暗号回線なので簡単に傍受することはできない
しかし万が一ということもある。そのため一番早いのはクラクションを鳴らすのが対応しやすい
「わかった。しばらく車で待機しておけばいいんだな」
「そういうことだ。今は安全確保ができていないからな」
エルガはSUVの後部トランクから捜査キッドを取り出すと小屋に戻った
肝臓の温度を測定したところ。死後5時間ほど経過していることが分かった
ここで殺されたのかどうかについては断定できない
それについては検死ラボで遺体の検死を行ってから判断する。
「頭部に22口径となると弾はつぶれているかもしれないな」
22口径の小さな弾は頭蓋骨内に入る威力はあってもそこから外に出るような威力はない
だからこそ頭蓋内を跳ね回って弾がつぶれてしまう。
「本当にひどいな。問題は身元がだれかだな」
携帯型指紋識別装置で指紋を照合した。犯歴者や公務員などであれば登録されているはず
『ピッ』
「一致したか。さてどこの誰だ?」
携帯情報端末を使ってその人物を確認すると名前はポール・ワレンズキ。退役時空管理局員だ
グレイ・ドースンとは一緒に会社を経営していた関係だった。今は脱税などの罪で捜査対象になっている
「グレイ・ドースンを探し出すしかないな」
今も行方不明になっているグレイ・ドースンの足取りを追いかける事ができれば、
事件解決に大きく進めることができる。問題はどうやって捜索するかである
すでにクラナガン市内にはいない可能性はかなり高い。FBIも連邦法違反で追いかけている
さらに懸賞金がかけられているので賞金稼ぎが生け捕りで身柄を拘束して司法機関に引き渡せば金がもらえる
おかげで懸賞金目当てに多くの人間が追いかけている
「あとは現場鑑識チームに詳細な鑑識作業をしてもらうしかないな」
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東区中央部イーストセントラルサウスウエスト地区7番街3丁目4番地201号室
アルシオーネは文書の一部が黒塗りされた機密文書について確認していた
時空管理局の機密文書であることはわかっているが詳細な内容はわからない
大部分は黒塗りされているので詳細な内容を確認することはできない
「シエル首席に頑張ってもらうしかないわね。それかリヴィナに頼むしかないか」
すでにシエルは動いているが機密情報の開示は簡単なことではない
内容によっては簡単に開示されることがないことも珍しいことではないからだ
いくら捜査部からの要請でも内容によっては断られる。その時は裏口をノックして開示させるしかない
すでにキャリス・ゴールドは死亡している。問題はだれが殺したかだ
機密情報を知りたくて殺したのかそれとも何か別の動機があるのか
そのあたりをしっかりと探ることが求められる
入念に、慎重に捜査をすることが求められることはわかっている
だからこそ安全第一で危険な地雷を踏まないように進んでいくしかない
「それにしても本当にリスクがかなりある仕事ね」
こんなに大量にあるリスクのある仕事はできれば引き受けることはしたくない
だが捜査というのは選り好みをすることは許されない。
割り振られている事件捜査を確実に解決に進めるしかないのだ
問題解決のためには手段を選んでいるような余裕がないこともまた事実である
「リヴィナに頼んで港湾パトロール安全保障局に掛け合ってもらいましょう」
時空管理局の機密情報収集も行っているあそこなら何かわかるかもしれない
簡単に開示してくれるわけはないが、少しくらいは見ることはできるかもしれない
その少しが事件解決に大きな貢献をするかもしれないのだから手掛かりとしてはそれで充分である
『中央本部から各員へ。東区に爆弾を設置したとの犯行予告があり』
「また爆弾予告。懲りないわね」
クラナガン市では1日に何万件の通報が入る
その中にはいたずら通報ででまかせのものもかなり多い
爆弾予告も同じである。よくあるいたずら通報電話である
だが今回は事情が異なるようで追加の情報に彼女は驚いた
『デモンストレーションとしてイーストセントラル駅を爆破すると予告している。すでに避難命令を出している』
「危険な状況になるわね」
もし駅で大規模爆破が行われたらとんでもないことになる
そうなる前に回収したいところだが、簡単にはあり得ない
「近くだから応援に行ってみましょうか」
アルシオーネがいる場所から駅まではそれほど離れていない
10分もあればイーストセントラル駅に到着することができる
爆弾事件のデモンストレーションをするということは本気であることを見せつけることを示しているのだろう
「SA33から中央本部。イーストセントラル駅に向かう」
『了解。現在駅の出入りは完全に停止。民間人は全員避難命令が出されているので問題ないと思われる』
爆発が起きても民間人への被害は出ないとのことだ
まずは避難させることが最も求められることなのだから当然である
「念のため駅構内に列車は入れないで。万が一に備えて行内に立ち入る人物は最小限に」
爆発物処理チームを大至急派遣するように要請した。
もし爆発前に爆弾を回収することができれば事件解決に大きな証拠につながる
ただし、予告をしてくるぐらいなのだから簡単に見つかるはずがない
証拠は期待できないだろうが。爆弾の破片を回収して復元すればいろいろとわかることがある
爆弾にも個性がある。使用している部品によって個人の特性が出るのだから
まるで指紋やDNAのように特徴がある。アルシオーネは急いでイーストセントラル駅に向かうことにした
最初に現場を見に行くことが極めて重要である。
彼女は車で向かいながら無線機から聞こえる交信に耳を傾けていた
『イーストセントラル駅の完全封鎖は完了。念のために周辺ブロックの立ち入れ規制を行え』
『影響が拡大する前に問題を解決せよ』
イーストセントラル駅はかなり広い駅である。
東区中央区にあるターミナル駅であり1つの鉄道会社だけでなく、多くの鉄道会社の路線が乗り入れている
『先ほどイーストセントラル駅が封鎖されました。一部関係者の話によると爆弾を設置したと』
「マスコミは素早いわね。こういう時は助かるけど」
報道で騒げば誰だって急いで避難するはず。
被害を最小限にするには効率的であることは間違いない
『クラナガン証券取引所では平均株価が一時的に下落基調がありましたが今は安定化しつつあります』
クラナガン証券取引所の株式取引は24時間1年中いつでも売買できる体制になっている
ミッドチルダ連邦の眠らない経済都市といわれている
「安定してもらわないといろいろと困るけど」
『東分署からSA33。イーストセントラル駅構内で停電が発生。電力変電設備の一部に破壊工作の痕跡あり』
「駅構内から至急人員を退避。安全確保を最優先にして対応を」
『了解。証拠が失われるがいいのか』
「人命最優先で対応して」
不用意な接触は極めて危険である。今は安全確保が求められる
「どうして非常用バッテリーシステムが機能しないの?」
大規模交通ターミナルには非常用発電機や大型非常用バッテリーが設置されている
緊急時の外部電源がカットされたとしても最低でも24時間は持つように配置されている
それが機能しないということはかなり危険な状況であることを示している
『こちらでも原因を探っているが状況は不明。今は避難しているので内部に人はいないはずだ』
バッテリーで照明などを維持できていればまだ何かと打つ手はあるが
完全にそれらがシステムダウンしたとなると話は変わってくる
今は最優先で非常用発電機の再起動とバッテリーシステム復旧と避難作業を継続するしかない
1度に3つの作業をするのだからかなりの苦労がある。
現場は混乱するかもしれないがやらないわけにはいかない
それができてこそのクラナガン捜査局員なのだから
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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部2係オフィススペース
ダイナはホレイスト・ギーランの情報を集めていた
様々なルートから集めた結果、あることが分かった
かなり黒い過去があることが深く根深く存在することが
2年前の交通事故で死亡したホレイスト・ギーランのことについてある程度調べることができた
年齢は32歳。交通事故はクラナガン市東区で起きたもの。
ひき逃げ事故でひき逃げ犯は今も不明のままになっている
ホレイスト・ギーランの両親は再捜査を時空管理局に何度も求めていたが証拠不十分で情報待ちなっていた
両親はノースクラナガン魔力精製炉発電所で作業員をしている
魔力精製炉発電所の燃料は次元世界連合全加盟国で採掘することができる魔石を燃料とするものだ
原子力発電所と設備はかなりよく似ている。
原子力発電と異なり魔力精製炉発電では使用済み核燃料などの核のゴミなどは発生しない
魔力精製炉で使用された魔石燃料は完全に反応された魔石燃料はただの石になる。
それらが健康被害・自然被害を及ぼすことはない。魔力精製炉ではすぐに 魔石燃料は完全に消費されない
1度使用された魔石燃料は魔石燃料再処理工場に使用済み魔石燃料を送られるとまだ反応していない部分を取り出す
そこで再処理されてまだ完全に反応されていない魔石燃料は再度魔石燃料棒に加工される
魔石燃料を高濃縮すると核兵器並みの大量破壊兵器を作り出すことができる。これを通称『魔力爆弾』という
次元世界連合全加盟国が加盟している国際条約で高濃縮魔石燃料の製造は禁止されている
魔石燃料製造工場は次元世界魔力エネルギー機関の監査官が常に常駐して監視下に置かれている
1つでも危険な行動を起こすとすぐに施設運用停止命令が出ることになる
さらに厳しい監査で合格が出るまでは設備の運用が認められることはない
AMF装置が開発されて今は分散型電源が求められる。AMFが作動すると魔力精製炉は発電能力を失う
だからこそ火力・水力・風力・太陽光など、様々な電源を組み合わせて利用することになっている
安定した電力供給のために発電所の建設ラッシュが続いている。特に火力発電所が多くなっている
今の技術では火力発電所で燃料を燃やした時に生じる排気は、
除去フィルターを使うことで惑星汚染物質の排出はほぼ0にできる
話は戻るが魔力精製炉発電所の運転員になるには特別な資格が必要になる
運転員になるには訓練を受けてあらゆる緊急事態にも対応できるように鍛えられることが求められる
施設の警備はクラナガン捜査局のカバー範囲内では港湾パトロール海兵隊がおこなっている
国内全域ではミッドチルダ海兵隊が行っている。事実上の軍の管理下に置かれている
あらゆる有事に備えての対応である。
また高濃縮魔石からは強い魔力波長が出るので人工衛星から検知することができる
ミッドチルダ連邦政府とクラナガン捜査局は人工衛星で衛星軌道から監視されている
「両親に連絡してみるか?」
ダイナはホレイスト・ギーランの両親の住所を確認すると南区北部区域イーストハーディー地区に住んでいる
今は生活保護で生活している。財産はある人物に奪われていたのだ
再捜査のために時空管理局員に金を握らせていたが当時の上層部は認めることはなかった
結局のところは無駄な出費になっただけになった。だからこそ財産を失った
おそらくではあるが当時金を握らせていた捜査担当者は捜査をするつもりはなかったのだろう
ただ金がもらえればそれでOKということだったのかもしれない。その捜査担当者は現在拘置所に収監されている
この事件だけでなく多くの事案で冤罪を生み出したと疑われている
「事情聴取が必要だな。関係者全員の証言を突き合わせて、どこまでが正しい情報なのか確認も」
この手の捜査は難しい
正確な情報が少ないほど少しの見落としが命取りになる
それだけは避けなければならない。今はできる限りの手を打つことが求められる
まずは証言の確認だ。そのためには時空管理局犯罪捜査局の協力が必要で、両親は発電所で仕事中だろう
ダイナは発電所に向かうためにヘリが使えないか確認した
幸いなことに屋上へリポートに待機中のヘリがいる。それでノースクラナガン魔力精製炉発電所に向かう
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