午前11:40 中央パトロール本部庁舎 8階捜査部首席捜査官執務室
シエルはデスクワークをしながらも聖王教会に対する査察状況について情報収集を行っていた
最大の懸念事項は聖王教会の今後の歩みについてだ
『聖王教会債を抱えていた金融機関は多額の損金を抱えてしまいました』
『現在は次元世界連合全加盟国の金融担当省庁が調査を行っています』
聖王教会債を金融市場で運用していたことでは有名である
時空管理局債も同じで聖王教会債と同様に多くの金融機関が安全資産として保有していたがJS事件後暴落
債券価格が暴落したことで多くの金融機関が多額の損金を出すことになってしまった
最悪の事態になっているところでは金融機関の国有化や公的資金の注入を受けている金融機関も存在している
ミッドチルダ連邦国内でも一部の金融機関で公的資金の注入を求める金融機関が存在する
財務状況が悪い金融機関が多い中で、
それとは全く逆に最も安定している金融機関はミーミルグループの傘下にあるミーミルバンクである
ミーミルバンクは時空管理局債や聖王教会債の暴落を事前に予期していたことで大量の空売りを仕掛けていた
おかげで莫大な利益を獲得することができていた
他の一部の金融機関でも時空管理局債と聖王教会債の暴落を予期、
ミーミルバンクと同じように大量の空売りを仕掛けて多額の利益を獲得していた
そんな金融機関や投資家はかなり限られた範囲だけだ
大部分はかなりの損金を出して破産した投資家が多いこともまた事実だ
「聖王教会は必死ね。自分の組織を守ろうとすることに力を注いでいるから」
その影響がクラナガン捜査局に与えられるのは迷惑な話である
できることなら金融犯罪は担当したくない。数字とひたすらにらみあいをしなければならないからだ
ホワイトカラー犯罪というのは書類との格闘である
数字に間違いがないかをひたすら確認作業を進める。
こればかりは機械に任せるわけにはいかない。捜査官自らが確認しなければならないのだから
『ピーピーピー』
シエルの携帯電話に今は聖王教会本部にいるステラから連絡が入ってきた
『シエル首席。問題発生です』
「今度はどんなトラブルを聖王教会は起こそうとしているの?」
『高濃縮魔石燃料を製造した疑いがあります。それも秘かに』
高濃縮魔石燃料は魔力爆弾というものを製造するときに使われる。爆発威力は核兵器と同じ規模。
次元世界連合の全加盟国では国際条約で高濃縮魔石燃料の製造は禁止されている。
それを聖王教会は破って秘かに隠しているとなると大問題になる
何に使うつもりなのかも気になるところではあるが。
もし何かの攻撃に使うためなら極めて危険な連中がいることになる
「港湾パトロール安全保障局には連絡は?」
『諜報員から入手した資料に書かれていたのでもう伝わっているはずです』
どう話が進んだとしてもこれは国家安全保障問題になる事案だ
捜査部だけで簡単に話を進めることは許されない。それに管轄エリアを超えている
これは連邦政府組織と港湾パトロールの管轄エリアだ。
中央パトロールが土足で侵入するエリアを超えている
「かなり重要な情報ね。魔力爆弾を作るつもりなら衛星から検知することができるかもしれないわね」
魔力爆弾は魔石を高濃縮するので魔石から出る魔力波長がかなり強い
魔力波長は低軌道を周回している人工衛星から検知することができる
だからこそ追跡することは比較的難しいことではない
「こちらで人工衛星を使って検索をかけるからあなたは今の任務に従事して」
『了解です』
シエルはすぐに中央パトロールが運用している人工衛星を使って高魔力波長が確認されていないか
検索条件を入力すると検索を開始した。過去の観測データにもクロス検索をかけてみることも忘れずに
クラナガン捜査局では人工衛星や各種観測システムで得られた情報を100年間保管できるように
データセンターが設置されている。クラナガン捜査局はクラナガン捜査部時代から運用され8年しか経っていない。
また時空管理局の観測データも引き取っているので新暦以降のデータはすべてを保有している
「検索には自動処理にかけてみるしかないわね」
データは膨大に存在している。それを検索するのは簡単なことではない
特に観測されたエリアをベルカ州に限定することで効率良く検索できるようにした
できるだけ急いで確認することが求められるのだから仕方がない
「本当にとんでもない大きな問題を起こしてくれたわね」
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南区北部区域ビューロー地区7番街7丁目・8丁目 中央パトロール医療センター パトロール事務室
ナタリース・コロントの証人保護について手続きを行っていた
今は彼女の証言がなければ刑務所にぶち込むことができないのだから
犯罪をなかったことにするなど絶対に許してはならない
被害者や被害者家族のことを考えるなら、裁判で判決が確定するまでは警護を付けるのは当然である
今回は容疑者の家族が動いている。今後も継続して攻撃を仕掛けてくるかもしれない
ラジェットは事件担当者であるエリザベート・ロンベス刑事と協議を行っていた
「彼女は2つ事件に絡んでいる重要な証人だ。今回の犯罪は犯人側の家族も絡んでいる」
敵はかなり大きなことを考えて再度攻撃してくるかもしれないから慎重に捜査をしてくれと伝えた
ラジェットの言葉にエリザベート・ロンベス刑事はもちろんよと同意した
「それにしても裁判をなくすために証人を脅すなんてリスクのある方法をとったわね」
こういった場合は主犯はもちろんではあるが対象となる裁判を受ける立場の人間の印象が悪くなってしまう
本来なら執行猶予付きの犯罪行為であっても刑務所送りになることになるケースもある
今回の性犯罪の場合は執行猶予はつかないで刑務所送りになってしまうことは間違いないが
刑務所生活の年月はさらに加算されることになってしまう
「まったくだ。危険すぎる行動に出たな。そこまでして無罪判決を求めるとはな」
「これでさらに罪が重くなるだけなのに。逮捕されて裁判にかけられたら」
そう、犯罪の隠ぺい行為は極めて重罪行為と認定されている
隠ぺいをすれば当然ながら罪はかなり重くなる
クラナガン捜査局の規則だけでなく連邦法で隠ぺい行為は絶対に行ってはいけないと定められている
機密情報に関することなら別だが、犯罪行為の隠ぺい行為は禁止されている
もし発覚した場合はマスコミは騒ぎ立てることは言うまでもない
そうなれば組織体制に大きな影響が出ることは間違いない
「とにかく裁判で罪が確定するまでは守れるように手配をかける」
「どこが護衛を担当するの?通常なら査察部になるけど」
「在宅勤務ができるとのことだから、こちらのマンションを利用させてもらう。それと警備体制の強化もな」
警備に関しては在宅勤務ができるから外出時だけに護衛を付ける形でとラジェットは回答した
査察部に極力迷惑をかけないで、なおかつ効率的な警備態勢を敷くことは当然である
「了解。査察部との打ち合わせは私のほうでしておくわ。あとは任せて」
「もし援護が必要なら連絡を。こちらから手配をかけることも検討しておく。必要なら海兵隊に連絡する」
「港湾パトロール海兵隊に依頼なんて大ごと過ぎない?」
「守るためには手段を択ばない。法で裁くまでは守り切るだけだ」
ラジェットはそういうとパトロール事務所を出ると病室に向かった
病室の出入り口には警備としてはやてとツヴァイがいる。もちろんパトロール捜査官も警備をしている
「はやて。ここの警備は査察部とパトロール部に任せることにした。俺たちは緊急の呼び出しがあるまでは待機だ」
「緊急の呼び出しってあるのですか?」
リィンフォースツヴァイの発言に常に備えをしておくことは極めて重要であると返事をした
確かにその通りだ。いついかなる時も備えがあるほうが安全である
バックアッププランを立てておかなければ計画は破綻する。
というのはクラナガン捜査局員なら誰もが知っている
『中央本部から各員へ。明日、次元世界連合の緊急総会が開催される』
『不審人物や不審物品を確認したら素早く対応せよ』
次元世界連合の緊急の総会が明日から開催されることになっている
次元世界連合加盟国の国家元首がクラナガン市に来るということはテロが起きることが予見される
それを最小限にするには不審人物や物には素早く対応して問題解消が求められる
「よりにもよって総会があるのか。総会の議題は聖王教会と時空管理局の後始末だろうが」
「そうなんですか」
「当然だろ。ようやく形になってきた時空管理局の新体制のお披露目をするのだろう」
まぁ当面は冷たい視線を浴びることは覚悟しないといけないがなとラジェットは話した
確かにそのとおりである。今まで内部調査に追われてきた時空管理局は新たな新体制の発足を意味している
時空管理局の局長にはジョセフ・ボナパルトが就任する
彼は以前は港湾パトロール海兵隊司令官をしていた。
現場出身であることから状況をすぐに理解する能力は極めて高い
「時空管理局の現場は大変なことになる。今までと変わって管轄区域は大幅に制限されたことも大きい」
時空管理局の管轄は無人惑星と次元空間に限定されることになった
その他に次元世界連合加盟国で大規模災害が発生した場合には災害救助部隊の派遣が容認される
ただし災害発生国の要請があった場合に限定されることになっている
基本的には無理やりの介入は原則禁止されている。
暴走されてはせっかくつけた制限が意味をなくしてしまうからだ
「今から時空管理局はかなりのものを失うことになるな」
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クラナガン市南西部 クラナガン自然保護区 中央区域 自然保護区分署 4階自然保護区パトロール課オフィス
エルガは携帯型情報端末を使って時空管理局が今回の事件で使用された銃弾を発砲した銃器の資料を読んでいた
簡単に言ってしまえば捜査資料というやつになるが、なかなか興味深い資料であった
ハーディーバンク本店に強盗に入った事件で盗まれた金額は1000万ミッド
銀行強盗としては少額の強盗だが見逃すわけにはいかない
犯罪は犯罪であるのだから。それにしてもその事件で押収された銃器が処分されずに残っているとは驚きだ
書類上は溶かされて処分されているからだ。どこに行ったことやら資料から読み取ることはできない。
事件解決後は時空管理局が管理運営していたクラナガン市内の証拠保管庁舎で保管されていた
裁判が結審して証拠保管の必要がなくなったとして書類上では溶鉱炉で溶かされたことになっている
しかしその後フローレンス州で金のインゴットを1Kgを盗む事件にも使用されている
それが今までわからなかったのは管轄権でもめていたからだ
州を超えた事件では時空管理局地上警察部隊において管轄権でもめることが日常的にあった
だからこそ見逃してしまったのだ。それをエルガたちは掘り起こすことになってしまった
とんでもない大きなお荷物を背負う羽目になったということになる
州を超えた事件となるとFBIの管轄になるし時空管理局も絡むとなると時空管理局犯罪捜査局も関係してくる
3つの組織が管轄権でもめるがエルガが調整役に入ることで円滑に対応することができるだろう
各組織にパイプがある。捜査官にも貸しがある人物は多い
そこをうまく利用することで衝突が起きないようにしなければならない
「この捜査報告書もかなり簡単にまとめられているな。もっと物的証拠に関する報告がないと今は通用しない」
エルガは愚痴りながらさらに銀行強盗の捜査報告書も読み始めた
捜査はかなり雑な事案だ。これも何かがおかしいと考えていた
銀行強盗が1000万ミッドで満足するとは思えない。普通ならもっと大金を盗むはず
なのにたったの1000万ミッドだけ。どこかすっきりとしない事件だ
「当時の犯人は今は仮釈放されているな。早速自宅訪問と行くか」
今の現住所は南区サウスウエストハーディー地区1番街2丁目5番地603号室
仮釈放中なのである程度は令状がなくても話を聞くことはできる
必要なら裁判所から令状を請求して調べるまでだが、
隠している思われると心証が悪くなることくらいわかっているはず
とりあえず南区サウスウエストハーディー地区に向かうことにした
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東区中央部イーストセントラル地区 イーストセントラル駅 駅パトロール事務所
アルシオーネは解体された爆弾を見ていた
すでにすべて信管などは外されて起爆することはない
爆弾の特徴から犯人を確認できないかと調べていた
爆弾犯はそれぞれ個性があるのだ。爆弾1つ1つに指紋と一緒で特徴がある
「これは変わったものを使っているわね」
ある爆弾を構成する部品から特徴的なものを見つけた
爆弾に使われている絶縁体の部分にたばこの箱が使われていた
それもかなりの数のたばこの箱を使用している。もしかしたら指紋が出るかもしれない
すぐに東分署のラボで分析させることが必要だ
「爆弾の絶縁体にたばこの箱。これでかなり絞り込めるかもしれない」
特定の銘柄に限定されることから絞り込むには良い材料である
過去の爆弾事件で使用されたもののデータベースの検索エンジンにそれらを入力
ある程度は絞り込むことができた。その中で今回のことができるのは10人ほどまで絞れた
あとは爆弾に付着している指紋などを分析すればわかる
「これで犯人が見つかればいいけど。早くけりを付けてすべての爆弾を回収しないと」
そう、今は時間との戦いなのである。
何が何でも少しでも早く犯人を見つけ出して逮捕しなければならないのだ
それがこの街の平和につながる
「とにかく証拠をラボで分析させるしかないわね」
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東区東部 上空3000m ヘリ
ダイナはミッドチルダタイムズの記者であり、
事件関係者であるフィエナ・コーラッドとの面会を取り付けるためにミッドチルダタイムズの本社に向かっていた
新聞社にとっても面白い話題と騒ぎ立てるだろう
それはそれで良いことなのかもしれない。犯人側が慌てて動き出すかもしれないからだ
まだどこの連中なのかわかっていないのだから安全は確保されていないが
それでも何か動きを見せてくれたほうがこちらも捜査を行いやすいことには変わりはない
「それにしてもマスコミは騒ぐだろうな」
「これから新聞社に乗り込むなんて危険では?」
ダイナの呟きにヘリパイロットの男性がそう返答した
確かに危険があるがそれでも何があっても実行するしか道がないのも事実である
「選択肢が限られている以上、仕方がないこともある」
とにかく今は新聞記者としてではなく事件関係者として話を聞くしかないと。
確かにそのとおりである。
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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部3係オフィススペース
シグナムはカリーと一緒に話をしていた
まずは親交を深めようというのだ。嫌な仕事とはいえ任務なのだから全うしなければならない
「どうして捜査官になったんだ?」
「私が捜査官になった理由?それは秘密よ」
誰だって知られたくないことはあるでしょとカリーはシグナムに返答した
そう人には知られたくないことの1つや2つはあって当然である
「酷い話だけど、私たちの仕事は過激よ。毎日、死体の山を見ることになるのだから」
覚悟しておきなさいと伝えると死体の山ですかと質問してきた
「現場は最悪よ。血生臭い場所が私たちにとっては職場なのよ」
「それにしてはパトロールにはいかないのか?」
「いきなりの新人を簡単に現場に出すわけにはいかないでしょ。まずは勉強と現場での適切な対応方法を」
学んでもらえると助かるわというとカリーはシグナムに勉強を続けさせた
『中央本部から捜査部へ。中央区中央部ルイス地区にあるバンクオブクラナガンのルイス支店でトラブル発生』
「シグナム。お仕事の時間よ。こちらSA31。これより現場に向かう」
『こちら中央本部、了解。トラブルの内容は銀行の貸金庫を地下から穴をあけられたとのこと』
その報告にカリーはなかなか大胆な連中がいたものだと感じた
銀行の貸金庫には様々なセンサーがある。それを突破するためにモグラになるとは
手間暇とかなりの労力が必要な方法である。クラナガン市内の道路の下には共同溝が設置されている
もちろん共同溝には簡単に侵入することはできない
クラナガン市政府とクラナガン捜査局が厳重に警戒している
共同溝には上下水道だけでなく電話や光ファイバーなどの通信ケーブル。送電線のケーブルなど
ライフラインネットワークすべてが共同溝に収められている。だからこそ重要な施設なのである
共同溝には様々なセキュリティセンサーが設置されている。
常に監視しているのでミスをすることは通常では考えられない
だが今回の銀行強盗犯はその共同溝から穴を掘った可能性が高い
強固なセキュリティを突破されたとなると極めて危険なことになることは間違いない
「本当に危険なのはこれからかもしれないわね」
カリーは捜査キッドを持つとシグナムと一緒に駐車棟に移動した
自分に割り当てられているSUVに乗り込むと緊急走行で現場に急行した
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