午後00:20 中央パトロール本部庁舎 8階捜査部オペレーションルーム
シエルはアンドレア・ゲーリー大佐から依頼された捜査を担当していた
彼女の両親の居場所は今もわかっていない。街灯観測システムの監視カメラ映像で検索をかけているが
現状ではわからないままである。誘拐だとしたら最悪のことも想定される
できればそんなことにならないことにならないことを祈っているが、
誘拐と判断されたら大掛かりに捜査になってしまう
陰でこっそりと捜査をするわけにはいかないのだ
「港湾犯罪捜査部に話を通すことが必要になるかもしれないわね」
アンドレアには悪いけどとシエルは思っていた
このままヒットしない状況が続けば、本格的な捜査が求められる
問題を早期に解決するには大規模捜査が求められる。特に今回の場合は重要である
アンドレアは事を荒立てなくないと言っていたが仕方がない
これ以上、確認作業をしてヒットしなければ港湾犯罪捜査部に連絡するしか道はない
もちろんその前に依頼をしてきたアンドレアに連絡して情報を伝える
事前合意を得ることで本人の捜査協力も得やすくしておく必要がある
「本当にどこに隠れているの?」
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中央区中央部 セントラル分署ラボ棟 3階レイアウトルーム
カリーとシグナムはラボの分析官が調べた報告書をさらに詳細に確認作業をしていた
『ピーピーピー』
レイアウトルームの電話機が鳴りだした。
セムテックスに含まれていた不純物を分析してくれている分析官からの連絡だった
「カリーよ。何か面白い成分でも出たのかしら?」
『はい。不純物をより詳細に分析したところ、あるものが出ました。軽油です。それも船舶燃料に使われるタイプの』
「だいぶ絞り込めてきたわ。港付近で工房を持っている可能性が極めて高いということになるわね」
船舶燃料に使われる燃料で軽油には環境保護のために特殊な成分が入れられている
だからこそ識別することができるのだ。車の場合はまた別の特殊な成分が混合されている
『他にも船舶塗料なども出ましたので、今塗料のブランドを照合中です』
「わかったら携帯電話に連絡を。もしかしたら手掛かりを追ってラボから港の捜索に向かうかもしれないから」
『了解です』
これで港付近に爆弾ラボを持っていることは間違いない。問題なのは港には多くの同様な設備がある
ある程度は絞り込めるが、そこからさらに絞り込むとなるとかなり苦労することになる
「どうやって絞り込むつもりだ」
「サウスクラナガン港付近にある建物で今は何も使用されていない場所を探してみるところから始めてみましょう」
つまり空き部屋を徹底的に調べていくことである。まずはデータベースを使って調べる
現場については港湾パトロールのサウスクラナガン港分署に調べてもらう
あとでカリーも自ら確認のために向かうが、
今はサウスクラナガン港のことをよく知っているサウスクラナガン港分署に任せたほうが良い
管轄権でもめることも避けるためにも協力してうまく連携プレーで捜査をしなければならない
「シグナム。市政府のデータベースからサウスクラナガン港付近の各種建物の所有者を調べて」
怪しい経歴があればすぐに裏を取るようにと指示を出した
指示を受けてシグナムはレイアウトルームにある情報端末を使って検索作業を開始した
カリーも同じように不審な記録がないか並行して調べていった。
シグナムとは違って機密情報の閲覧も行っていた。
機密情報の中には港湾パトロール安全保障局のものも含まれているのでシグナムに見せるわけにはいかない
「何か面白い情報があればいいけど」
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ベルカ州中央地方ベルカ市中央区 セントラルベルカ医療センター 伝染病治療隔離室
マイアはベルカ市警察の友人であるフォーリ・パレイズンと情報共有を行っていた
「今、感染者と接触があった人物の隔離措置を行っているところよ」
マイアとはいろいろなことがあって友人関係を持っていたこともあり情報共有はスムーズにできていた
ベルカ市政府の公衆衛生局も活発に活動していた。
天然痘によるパンデミックを避けることを優先しなければならない
そのためにも隔離措置は当然のことであり、
すでに類似する症状を持った患者が出た場合の対応についても市内の医療関係者には通達が出されている
市警察にも情報収集を行うように市政府から命令が出ている
今は少しでもパニックを避けることが求められているのだから
マスコミにはまだ情報は漏れていないがそれもいつまでもつか正直なところはだれも予測できない
「問題が拡大する前に対応しないと」
「マイア。あなたの対応は賢明よ。今は類似症状患者は出ていないけど濃厚接触者にはワクチンを接種させないと」
「イーストフローレンス基地からワクチンなどの輸送を手配しているので1時間もあればこちらに来るはずです」
「さすがはクラナガン捜査局ね。連邦組織よりも対応が早いわね。あなたたちのそういうところが本当に羨ましい」
現状で対応できることはこのあたりが限界だ。
派手に行動するとマスコミに情報漏れが出てしまう。
ある程度のめどがついてから漏れるならいいが、
なにもこちらの準備が整っていない段階で漏れたら対応が後手後手になる
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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部取調室
サイノスは連行してきた麻薬の売人の取り調べを行っていた
しかし黙秘権の行使を行っているようでだんまりを決め込んでいる
それも権利なのだから文句は言えない。犯罪者にも一定の人権というものが存在する
黙秘権も当然のその中の権利の1つである
「麻薬の密売で長いお勤めは確実だぞ。元締めをしゃべって協力したほうが利口だと思うけど」
司法取引を促すが元締めをしゃべれば刑務所で殺されるリスクを覚悟しているのだろう
だからこそ証言しないことは容易に想定できていた。所持していた麻薬の量によっては刑罰が重くなるのだ
今回の身柄拘束時に所持していた量ではかなりの重罰になる
司法取引をしたほうが利口と考えるだろうが、組織を裏切ったとして暗殺者を送り込まれることは間違いない
だからこそ警備が厳重な刑務所に収監させる。ただしこれは司法取引をした場合だ
取引がなければ長い刑務所暮らしが待っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何もしゃべるつもりはないようである。
それが自らの首を絞めることになることはわかっているのだろうか
「何も証言する気はないわけだね?」
「俺は組織を裏切らない」
「良いよ。なら証拠に語らせるまでだから」
サイノスは取り調べを終えることにして地下の留置施設に身柄を送ることにした
売人が持っていた携帯電話などの通信端末を調べればバックに誰がいるのか見えてくるだろう
外堀から埋めていけば真実が明らかになることは間違いない
取調室の外で待機していたパトロール捜査官に地下留置施設まで連行を依頼すると
サイノスはティアナを連れてラボ棟に向かった。奴から押収した通信端末の解析状況を聞くためである
誰と通信していたのかがわかれば大物が引っかかるかもしれないからだ
「解析できるんですか?」
「ティアナ。ラボの分析官はプロだよ。よほど特殊なものでない限りは心配することないよ」
サイノスはラボ棟2階にあるマルチメディアラボに向かった
中央本部マルチメディアラボはラグナ・ヴェルサティスが担当している
クラナガン大学で映像分析や分署鑑定を専攻していた
中央パトロールに入局する前は一般企業で仕事をしていた
それでも各種情報端末の分析に関してはかなりの力量があることで有名である
2人はラグナの仕事部屋であるラボ棟2階のマルチメディアラボに到着するとサイノスは早速報告を聞いた
「ラグナ。どんな感じかな?」
「発信者の番号を逆探知をしてデータベースと照合した。大物が釣り上げることができそうだ」
「どこの組織の番号だったのか期待できるみたいだね」
「アガレスの幹部とされている人物の番号が含まれていた。最高のネタだろ」
アガレスとは麻薬密造組織として最大手の組織である。
ミッドチルダ連邦法では犯罪組織対策法に指定されている組織だ
裁判所の令状などがなくても盗聴ができる。
市内に麻薬を持ち込むルートをつぶすことは極めて重要である
少しでも麻薬の密輸ルートをつぶすことで密売人を減らすことができる
おまけに麻薬関係の犯罪も削減することもできるのだからこの手の問題は早期に解決する方が良い
「誰の番号だったのかな?」
「ボギスト・カーリン。過去に何度も麻薬取締局が逮捕しようとしていたけどうまく逃げられている人物だ」
「有名人なんですか?」
ティアナは聞いたことがないのだろう。だがサイノスたちにとっては有名人であった
麻薬密造組織の大幹部として知られている
「犯罪者の中でもかなりレベルが上。連邦治安当局の麻薬取締局が何度も逮捕しようとしているんだから」
懸賞金がかけられているくらいに重要人物とされている
生きて身柄を引き渡せば1000万ミッドの懸賞金を受け取ることができる
「懸賞金はパトロール捜査官であってももらうことができるから、みんなが賞金稼ぎのようなものだからね」
警察機構などの治安関係者であっても懸賞金がかけられている人物の身柄を確保することができれば、
懸賞金を受け取ることができる
「私達でも懸賞金を受け取ることができるんですか?」
「もちろんだよ。一番最初に逮捕したらもらえるよ。まぁ簡単に見つかるようなタイプじゃないけど」
懸賞金を受け取ることができるのは一番最初に身柄拘束した人物である
それも生きていることが絶対条件である
「もらったことはあるんですか?」
「1度だけあるよ。偶然逮捕した人物に500万ミッドの懸賞金がかかっていたからね」
「そのお金はどうしたんですか?」
「貯金をしているよ。この仕事はいつ引退するかわからないから引退後の生活設計もしておかないとね」
捜査官はいつ命を失うかわからないので貯金や投資などをすることで引退後の生活に備えている
もちろん捜査官は負傷などの影響で引退するときは名誉除隊という形になる
この場合は年金が満額もらえる。さらに一定の退職金ももらえるので引退後の生活は安定している
かつての時空管理局員がもらっていた高額な退職金に比べると低いが、
それでもしっかりとつつましく生活していれば問題ない程度の資金を確保できる
「でも大物がヒットしてくれたことにはうれしいね」
ボギスト・カーリンを見つけ出すことができれば最高にうれしいのだが
そう簡単にはいかないことはわかっている
「市内にいるのかな?」
「今、逆探知をしているところだ。衛星電話を使っていますのですぐに追跡ができるはず」
その報告を聞いてサイノスはバカな奴だと感じた。衛星電話や携帯電話の場合はGPSで追跡することができる
あとは追いかけるだけである。場所が市内ならすぐに急行しなければならない
「結果が楽しみだね」
『ピッ』
「逆探知に成功した。場所は西区西部区域イーストセイラム地区9番街3丁目と4丁目の間の通りだ」
「その情報をすぐに中央パトロール管制センターに流しておいて」
サイノスはすぐに携帯電話を手にするとセイラム地区パトロール事務所に連絡
現場に急行するように指示した。今なら検挙できるはずだ
民生用のGPSによる座標では誤差数十mの範囲で絞り込むことができる
クラナガン捜査局員が使用している特別仕様のGPS座標認識システムを使うと数cmの範囲で絞り込める
「俺は追いつけるとは思えないぞ」
「大丈夫だよ。懸賞金がかかっているなら市民の助けも借りるさ」
管制センターの管制官たちは優秀だからもう手配をかけているはずだよとサイノスは発言した
「クラナガン市緊急情報システムを使うつもりか」
「今頃、管制センターは発信しているよ」
クラナガン市緊急情報システムとは指名手配犯や誘拐情報を市民が持っている携帯情報端末に自動送信をさせる
そうすることで市民からの通報を促すというものである。
検挙率を少しでも上げるために構築されたシステム。
これによりすぐに市民に犯罪に関係する情報が行き渡るようになっている
市民の力を借りるのだ。この街に住む2億人もの人の力を
「市民の協力があればすぐに追いかけることができるよ」
『ピーピーピー』
中央パトロール管制センターからの連絡であった。
予想通り市民の情報提供があったことを示すものだ
「サイノスだけど。何かあったのかな?」
『市民からの通報を受けてパトカーで追跡しています』
逃走に使用しているセダン車両のナンバーは『クラナガンウエストCCA-8003』とのことである
カーチェイスの真っ最中であることを示している
「どこに向かっているのかな?」
『現在クラナガンハイウェイ8号線(西線)東行きを時速150Kmで逃走中。パトカー3台で追跡中』
「上空からの支援は?」
『ヘリが常に見張りについています。1つ問題があり逃走中の車のトランクに熱源を探知』
つまりトランクに誰かがいるということになる。
それはそれで大きな問題である。下手に車が接触すれば死亡する可能性があるからだ
安全を優先をしながら追跡しなければならない
「ヘリからの映像データをマルチメディアラボに送信して」
了解と管制官が言うとすぐにヘリに搭載されているカメラから撮影されている、地上のカーチェイスの映像、
それが送信されてきた。クラナガンハイウェイ8号線にはそれなりの交通量があるが、
クラナガンハイウェイは基本的には片側5車線で構築されている
渋滞などは発生していないしそれほど混雑もしていない。無理な追跡をしなければ問題はないだろう
ただ1つのトランクにいる人物の安否がどうかである
熱源映像に切り替えるとまだ十分熱が探知されている。生存している可能性が極めて高い
誘拐事件の可能性に発展するかもしれない。どちらにしても安全最優先である
「ティアナ。お仕事に行くよ。カーチェイスに参加しに」
サイノスはそう言うとティアナを連れてマルチメディアラボを出ると1度中央パトロール本部庁舎に戻る
8階捜査部で捜査キッドに必要なものを補充すると駐車棟に移動してサイノスとティアナはSUVに乗り込んだ
緊急走行でカーチェイスの現場に向かった
「どうしてカーチェイスに参加するんですか?」
「ティアナ。現場の仕事は何でも経験することが良いからだよ。これは君のためでもあるからよく見ておくように」
サイノスはティアナにそう伝えるとカーチェイスの現場に大急ぎで車で向かった
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東区西部サウスフェアファックス地区1番街2丁目7番地302号室 グエンスト・バーリの住居
アルシオーネは現場鑑識作業を行っていた。
検死官はまだ到着していない。そのため簡易検死を行った
肝臓の温度を測定したところ、死後1時間以内であることが分かった
「死後1時間以内ということは入れ違いになったかもしれないわね」
残念な話ねとアルシオーネは呟いた
もう少しで爆弾を設置した者と接触できたかもしれないのにそのチャンスを逃した
本当に惜しいことをしたものだ
「室内はかなり掃除がされているから何か手掛かりが出る可能性は低いわね」
最後の手掛かりは遺体の頭部にある銃弾だけになる。
薬莢がないことから考えて犯人が回収したのだろう
おまけに銃声がしたとの通報は確認されていない。
銃声を最小限にするサイレンサーを使ったことも考えられる
となると銃はオートマチックの銃。リボルバータイプではないということになる
サイレンサーを使うところからみて相手は間違いなくプロのテロリストである可能性が高い
そうなるとかなり面倒な展開になるかもしれなと考えるとアルシオーネは大きなため息をついた
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