午後00:30 中央パトロール本部庁舎 8階捜査部オペレーションルーム
ウルは港湾犯罪捜査部首席港湾犯罪捜査官とテレビ会議を行っていた
「そっちではどんな情報を把握しているのかな?」
『問題は潜水艦の艦長の両親ということよ。政治的要求をしてくる可能性はあるわ』
首席港湾犯罪捜査官であるブランダ・ヴァレンティアは最悪のシナリオを想定していた
「それは十分考える話だね」
『こちらとしても警戒を呼び掛けているところよ』
もし政治的要求があった場合はどんな手段を使っても対応することを示している
人質救出のためにはあらゆる部署と連携して対応する。港湾パトロール会安全保障局とも連携する
情報機関である彼らの協力があればすぐに情報を得ることができるだろう
「もし政治的な要求が来たらどうするつもりなのかな?」
『通信はすべて逆探知しているわ。居場所がわかれば強襲するまでよ』
つまり逮捕よりも安全保障の解決を優先するということだ
それも当然と言えば当然である。弾道ミサイル発射権限はミッドチルダ連邦大統領だけである
軍人は大統領から命令を受けて初めて発射を行う
今までは訓練でしかそれをしたことがない。実際に行えば国際問題になるからだ
次元世界連合との関係を考えるとあくまでも脅しの兵器としてしか効果はない
実際に使えるものではないのだから
「とにかく両親を見つけ出さないといけないですね」
『市内の捜査は任せるわ。こっちは港周辺の捜査をするわ。沖合の島に逃げた可能性もあるから』
沖合にはクラナガン市内とされている島が全部で8島あり、そのうちの7島には多くの市民が住んでいる
残りの1つの島は港湾パトロールの軍事演習を行うための島であり島民はいない
「それにしても何も要求がないのが怖いね」
『それは私も同じよ。何か要求があれば犯人の見当が出るけど、何も行動がないっていうのが恐ろしいわ』
政治的要求もなければ身代金の要求もない
これではこちらは全く打つ手がない。市内の街灯観測システムの監視カメラ映像にもヒットがない
どこに潜伏していることなのかわからない以上、行動を読むことは難しい
「何を考えているのか予測できれば良いのだけど」
『誰だって同じことを考えているわ。とにかく政治的要求には応じないのがこちらの方針よ』
最優先で捜索することにしましょうというと通信は終了した
今は街灯観測システムの監視カメラ映像で手当たり次第に照合するしかない
「いったいどこにいるのか何かヒントが本当に欲しいところだよ」
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東区東部サウスクラナガン港 港湾パトロールサウスクラナガン港分署ラボ棟 2階マルチメディアラボ
ラジェットはそこでクルーザーが放置されていた海域の船舶の航行記録を調べていた
「かなり多いな。沖合で停泊していた貨物船は」
コンテナ船などの貨物船だけでもが100隻ほどが沖合に存在していた
クラナガン市内の港には数多くの貨物船が利用する港湾施設がある
大規模石油コンビナートも複数存在しているので貨物船は多くが利用している
コンテナ船はクラナガン市で貨物を積み下ろしをする。
クラナガン市から内陸には貨物列車などを経由して運ばれていく
「出港している船のリストで絞り込んでみるか」
クラナガン市から出ていく船のリストで絞り込むがそれでも百隻近い船舶が存在する
簡単には絞り込むことはできない。そこでプレジャーボートが発見された海域を経由した船舶、
それを条件に絞り込んだところ、ある程度のリストになった
「全部で10隻ほどか。その中で確実に逃げることができる船はどれだ?」
次元空間を使って他次元世界国に向かう貨物船は今のところはない
となると残るのは他の大陸に向かっている貨物船だ。
遠くに逃げて治安が安定していないとなると限られてくる
「こいつかもしれないな。南半球にあるセントラルミッドチルダ大陸に向かっているコンテナ船」
クルーザーとの接点時間から計算してほぼ間違いないだろうなと、
ラジェットは決断すると携帯電話を取り出した
そして港湾パトロール管制センターに連絡した。貨物船の拿捕を依頼するためである
幸運な事にラーズグリーズ級航空母艦[ 形式:ジェラルド・R・フォード級航空母艦 ]のワルキューレを主力とする、
空母打撃群が近くにいる。
空母から戦闘機やヘリを飛ばしてもらえればすぐに拿捕することはできるはず
「どうやって捕まえるつもりや?もうかなり沖合に逃げているんやで」
「こういう時にものをいうのは人脈というものだ。俺は海兵体で鍛えてきたからな。人脈はある」
ラジェットは一時港湾パトロール海兵隊で訓練を受けてきた
港湾パトロール海兵隊では少尉の階級となっている。
海兵隊での人脈があれば機密情報へのアクセスすることができるのだから
彼は携帯電話を取り出すとアーク・レイリクラナガン統合軍司令官に連絡を取った
「アーク・レイリ統合軍司令官。ラジェット・ハングリーです。実は依頼したいことがありまして」
『そっちから連絡ということはかなり無茶な事かしら?』
「ワルキューレ空母打撃群に貨物船の拿捕をしていただきたいのですが」
ラジェットは情報端末を使って貨物船に関連する情報を送信した
今すぐに拿捕してほしい理由も詳細気に記載されているデータだ
『なるほどね。でも管轄権は港湾パトロールになるけどかまわないのね』
「報告書だけ回してくれればこちらは満足だ。犯罪者を逃がしたくない。俺の目標はそれだけだ」
『F/A-18Fを用意するわ。ワルキューレに行きたいでしょ』
「感謝する。すぐに港湾本部基地飛行場に向かう」
戦闘機の運用資格はラジェットは持っているので問題ない
問題ははやて達である。複座敷のF/A-18Fなら後部座席に乗せればいい
リィンフォースツヴァイは小さくなってもらえれば戦闘機に乗せることはできる
『ヘリでの到着を待っているわ』
「何から何まで感謝する」
ラジェットたちはすぐにヘリで港湾パトロール本部基地に向かうことにした
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東区中央部 上空1000m UH-60
カリーとシグナムはサウスクラナガン港に向かっていた
ゾーイス・タンエルが保有しているクルーザーには見張りを付けていた
報告によるとまだボートにいることが確認されている。
一気に身柄拘束をしても良いのだが今は見張りだけで十分。
下手にこちらから圧力をかけると他の事案に影響が出るかもしれない
時空管理局関係となると複雑な背後関係があるかもしれないことを考慮に入れている
時空管理局犯罪捜査局に迷惑をかけるわけにはいかない
「どうして魔導師の飛行魔法を認めないんだ?」
「シグナム。追いかけている相手が魔導師だったらすぐに追跡されていると気づかれるでしょ」
魔法を使わないのは気づかれないためには当然のことでしょとカリーは答えた
確かにその通りだ。魔導師を相手に追いかけている場合はこちらが魔法を使用してしまうとすぐに気づかれる
そうなれば逃走されてしまう可能性が極めて高いことは間違いない
「私たちが相手にしているのは魔導師の時もあるしそうでもないときもある。だから魔法は極力使わない」
逃げられたら即座に終わりなのだから。逃走を追跡するのは楽なことではない
この広いミッドチルダ連邦国内全域に逃げ場がある。
クラナガン市から逃げるなら貨物を積載した車か列車か船が最適だ
貨物コンテナに隠れたらすぐに市外に出ることはできる
「だからシグナムは絶対に魔法デバイスを使わないでね」
『中央本部からSA31。応答せよ』
「こちらSA31。何か問題でも発生したの?」
『そちらが警戒していた対象者ですが、港湾パトロールサウスクラナガン港分署に自首してきました』
突然の自首のニュースにカリーは驚いた。どういう気持ちの変わりようであるのか
もう駄目だと思って自首したほうが得策と考えたのか。
それとも何か別の考えがあるのか
「とにかく慎重な取り調べとボートの鑑識をお願いしておいてもらえるかしら?」
サウスクラナガン港分署は港湾パトロールの管轄である
もちろん中央パトロールとは常に連携しているが、今は慎重な捜査が求められる
突然良いことをしようと考えているわけではないはずだ。何か裏があるかもしれない
だからこそ慎重に捜査を進めることを指示したのだ
「とにかくこっちは急いでいかないと」
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南区北部 クラナガンハイウェイ6号線( 南線 ) 南行き
フィリーとなのははSUVに乗ってエレスコ・フォーゲル君の自宅がある南区南部ボルシア地区に向かっていた
すでに逮捕状が出ているので問題はない。
子供の告発で親を逮捕するのは心苦しいがこれも仕事である
仕方がない。犯罪捜査というものは忖度するものではないのだから
「本当ならこんなことはしたくないけど。あの子は父親に立ち直ってほしいと思っているのよ」
「そういうものですか?」
「なのはだってヴィヴィオちゃんの母親でしょ。子供は親が苦しんでいる時に立ち直ってほしいと思うものよ」
たとえ犯罪行為であることがわかっていても告発する勇気を持っている。
それくらい子供は正義感を持っているはずよとフィリーはなのはに話した
その時ニュース速報が入ってきた
『次元世界連合は先ほど声明を発表。聖王教会に対する強制査察は無事に終了したと記者発表』
『聖王教会の暗い闇については今後も徹底的に監査を行うとしながらも現段階では問題はないと』
『聖王教会が保有している不動産物件の売却についても認可を出すことも同時に発表しました』
『これにより教会財源不足が補えるのではないかと思われます』
「ようやく許可が出たけど買い叩かれるでしょうね」
聖王教会は様々な次元世界国に不動産物件を持っている
それも優良物件の不動産もかなりの数になるが売却するにしてもかなり足元を見られることは間違いない
実際の取引価格よりも安価で買い取られることになれば聖王教会にとっては財務上よろしくない
それでも慌てて売りに出さなければならないほど財務状況は良くないということである
「そんなものですか?」
「なのは。不動産会社は聖王教会にお金がないことを知っているのよ。最安値まで下げられるでしょうね」
教会の弱いところをよくわかっているならなおさらのことでとフィリーは続けた
彼女の言う通りで多くの不動産会社が聖王教会が保有している不動産を買いあさるだろう
それもかなり低価格で。完全に足元を見られている。運がないとはまさにこんな感じである
「まぁ世の中、弱肉強食の世界だからね。どんな場所でも」
駆け引きだって立派な弱肉強食である。
これから聖王教会はその渦に巻き込まれていくのだから
大変なことになる
『ベルカ州証券取引所ではベルカ州平均株価が5万ミッドまで急上昇』
『州商品取引所でも原油先物価格が大きく下落。そのほかの商品先物価格も下落しています』
安定供給に問題がないという思惑から商品市場では売りが殺到している
また今後もエネルギー資源開発が進めば供給過多になるのではという思惑も出ているのだ
「ベルカ州は今は好景気になっている事は間違いないわね。教会が波にのれたら高値で売却できるけど」
ベルカ州内には教会が保有する不動産はかなり存在している
それらも売却対象になっている。どんな小さな金額でもいいから今の聖王教会にはお金が必要なのだ
「金欠の組織は大変。捜査部もいつも予算はぎりぎりだから自腹を切ることがあるけど」
「捜査のために必要でも自己負担をするんですか?」
「当然でしょ。なのは。なんでも捜査に必要だからといって経費と認めていたら予算では足りないわ」
自己負担は仕方がない事よとフィリーは当たり前のように言った
実際のところ月に数万ミッドは自己負担で捜査のためにお金を使っている
仕方がない事なのだ。予算にも限りがある。経費をすべて認めていたら足りなくなってしまう
だからこそ事務部財務管理課の査定は厳しいのだ
捜査部では犯罪組織から押収した資金のうち一部を捜査部基金として積み立てをしている
その中で一部は犯罪捜査のために利用される。
また犯罪捜査の過程で必要な道具の新技術開発にも使われたりしている
もちろん事務部や査察部の監視下の元手はあるが。基金のお金の使用は厳しい監視の目がある
「経費の認定はそんなに難しいのですか」
「そうよ。安月給の上に自己負担の経費。資格保有による手当てがあって何とか生活ができているのよ」
クラナガン捜査局では様々な資格が可能であり、それらには手当てがついている
資格を取得すれば手当てが増えるので給与も増える構図になっている
だからこそ多くの局員は資格取得のために勉強をしている
捜査部捜査官も例外ではなく、港湾パトロールで訓練を受けて様々な資格を得ることで手当てがついてくる
「本気で捜査部捜査官を目指すならあらゆることに目を向けることが必要よ。どんな些細な情報も見逃さない」
「はい」
「逮捕をした後はあの子の自宅の家宅捜索をするわ。どんな証拠も見逃さないで」
「了解」
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南区北部サウスウエストハーディー地区1番街2丁目5番地603号室 アズレエル・バーシンの自宅
エルガとヴィータは現場鑑識作業を続けていた
死亡したアズレエル・バーシンの遺体は中央本部の検死ラボに移送されている
室内の鑑識作業も大部分が終了している。現場に第三者がいたという痕跡は確認されていない。
だが自殺にしてはタイミングが良すぎることがエルガは疑問に思っていた
誰かに追い詰められて自殺したのではないかとエルガは疑っていた
「本当に自殺かどうかは銃の指紋を調べてみたらわかるかもしれないな」
自殺に使用された銃は『SIG SAUER P238』と同型銃。
小型銃なので簡単に隠すことができる。おまけに銃声もそれほど大きくない
「どうして銃の指紋を調べたらわかるんだ?」
「自分で弾を込めたのかそれとも第三者が弾をマガジンに弾を込めたかによって判断できる」
今はそれが唯一の物的証拠になるかもしれないとも言った
「ラボで調べたらよくわかる」
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東区西部サウスフェアファックス地区1番街2丁目7番地302号室 グエンスト・バーリの住居
アルシオーネは東分署の検死官の到着を待っていた。
遺体に関してより詳細な情報を得るには本職の力が必要である
「アルシオーネ。待たせてごめんなさいね」
ようやく東分署の検死官であるヴィラ・フォーリンス検死官が到着した
「ようやくのご到着ね。悪いとは思ったけど肝臓の温度だけは測定させてもらったわよ」
「かまわないわ。遅くなった私が悪いのだから」
彼女はアルシオーネを責めるようなことをしなかった
誰だって少しは最新の情報を知りたいものだ。特に捜査となれば当然である
グエンスト・バーリの検視を始めると死因はおそらく頭部に撃ち込まれた銃弾であると、
貫通していないので検死で摘出するとのことだった
「その銃弾は急ぎで銃器刃物ラボに回して分析を。線条痕の照合を最優先でやらせておいて」
「了解」
その後も彼女は一通りの検視を行うと遺体を遺体袋に入れて搬送していった
アルシオーネも現場鑑識では目立った成果はないので、残るは頭部に残っている銃弾だけである
それにかけるしかない
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