午前10:15 東区東部区域 港湾パトロール本部基地 中央区域 港湾パトロール本部庁舎 第1会議室
港湾パトロール本部庁舎は第97管理外世界にあるアメリカ国防省(ペンタゴン)と同じような建物で建設された
「時空管理局機動六課組の受け入れについて、我々としては一定の線引きが必要であると考えています」
港湾パトロール本部の背広組の主要幹部が集まって議論をしていた
機動六課組の受け入れについて情報開示をどこまでするべきかという線引きである
中央本部捜査部と港湾パトロール本部は密接な関係にある
捜査部では機密情報も扱うのでどこまでを開示することを認めるかを定めるところが難しい
捜査部には開示できても機動六課組に見られてはまずい情報はかなりある
そこが難関なのである。今まで通りに対応は危険と判断しなければならない
そのために港湾本部長や補佐官。さらに港湾パトロールの各諜報組織のトップが集まって議論をしていた
「カザーナ。そんなことは言われなくても私だって理解しているわ。でも捜査部との関係は重要よ」
港湾本部長であるリヴィナの言うとおりである
港湾本部にとって中央本部捜査部との関係は極めて重要である
機動六課組を受け入れしたとしても完全に関係を切るわけにはいかない
「ではどこまでを線引きにしますか?」
港湾パトロール本部安全保障補佐官であるアウル・フタネスの質問にリヴィナはこう答えた。
機動六課組には情報開示はしない方向で現状維持というのはどうかと
確かに彼らに機密情報を見せなければすべては解決する
一時的な対応にはなるが。それでも何も行動しないよりはましである
捜査部との関係は断絶するわけにはいかないことは港湾パトロールの幹部の誰もがわかっている
「機動六課組からの情報開示請求については教導官役に確認をしてから行うように」
その後もいくつかの確認作業を進めると会議はお開きになった
会議室を出て行った誰もがどうしてこっちにまで面倒を抱えるようになったんだと不満を持っていた
最後に会議室を退室したのはリヴィナだった。退室するとアウルにあることを伝えた
「機動六課組の受け入れ対応マニュアルを全局員に配布。港湾パトロールと捜査部との今後の関係についても記載して」
「わかりました。早急に対応します」
「それとシエル首席捜査官には連絡を。こちらの方針について報告だけよろしく」
わかりましたというとアウルは自分の執務室に向かった。リヴィナも港湾本部長執務室に向かった
広い港湾パトロール本部庁舎だ。この庁舎内には様々な港湾パトロールの部署が配置。
部隊を円滑に統合運用できるようにすることを目的に各部署が設置されている
無駄が生まれない部隊運用ができるようにしているのだ
「機動六課組の問題でこちらまで振り回されるのは好きになれないわね」
これも宿命と言えばそこまでの話だ。
時空管理局と聖王教会の関係がどこかで影響してくることは想定されていた
しかしいきなり中枢に影響が出るとは、こればかりは想定外の出来事である
複雑な問題になる前に対応することが求められることはわかっている
安全確保のためには優先的に対応しなければいけない
「安全確保ね。誰のための安全なのか」
リヴィナの言うとおりである。安全確保は機動六課組に機密情報が漏れないようにするためか
あるいは漏れた場合の対策作りをしておくためか。それともほかのための対策作りか
難しい線引きであることだけは間違いない
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南区中央部 クラナガン川クラナガン堰
3係の捜査官をしているエバック・アリオンは水死体が発見されたことを受けて駆け付けてきていた
身元は女性であることはわかる。しかしかなり長期間、水につかっていたことを物語るような遺体であった
簡単に身元が特定できるかどうかと問われるとわからないところである
「ひどい状況だな」
遺体は水に長期間さらされていたことの影響で腐敗が進行している
検死官でも死因を割り出すのはかなり難しいだろう
その他にも凶器の特定も難しい。これが殺しか自殺かの判定も難しい
捜査がかなり困難な案件になる可能性は十分にある
「身元が分かるものは持っていればな」
エバックはラテックスの手袋を着用して女性の着衣のポケットにIDがないか確認した
ポケットに財布が残されていた。そこには免許証があった
おまけにお金も残されていた。強盗という線はないだろう
「名前はグロリア・ホーキン。25歳。住所は西区西部ノースリンカーン地区4番街2丁目5番地か」
近年、都市再開発進んでいる地区である。
「西分署に家宅捜索令状の執行を要請するしかないな」
職業は今は無職だったが、ワンワールドカンパニー社に勤めていた
ワンワールドカンパニーは時空管理局とべったりとした企業であった
JS事件によってワンワールドカンパニーだけでなくワンワールドグループ企業はすべて破綻した
破綻して退職金を受け取ることもできなくて今はクラナガン市政府に生活保護申請をして暮らしていた
「企業の破綻で何もかも失ったのかもしれないな。金融情報の確認は重要だな」
もしお金関係でトラブルを抱えているとなると犯人を絞り込むのは比較的簡単かもしれない
上手くいけばの話ではあるが。現実はそう簡単に事が進まないのが常である
「身元調査はかなり入念にする必要があるな。犯罪組織とつながりがあったのかについても」
ワンワールドカンパニーで勤務していたということは時空管理局と黒いつながりがあったかもしれない
そうなると犯罪組織とも関係があったかもしれないという説が生じてしまう
可能性が少しだとしても追及することは重要であることは間違いない
何が何でも調べることは極めて重要である
「エバック。遅れてすまないな」
そこに西分署検死ラボのベントン・スラード検死官が到着した。
「待っていないから心配するな。身元は分かっているがこの状態では検死は楽には進まないだろう」
ベントンは遺体の状況を見てかなりつらい検死になりそうだとつぶやいた
水死体の検死というのはかなり難しいのだから当然である。検死官としての腕が試される。
些細なミスも許されない検死の中でも腐敗が進行している遺体の検死はかなり苦労が多い
「かなりひどい状態だ。いつ死亡したかを割り出すのはほぼ不可能だな」
水に浸かっていたとなると肝臓の温度で死亡推定時刻を割り出すのは難しい
おまけに遺体に何か証拠になりそうなものが付着していたとしても、水の中で流されているので分析も難しい
完全犯罪が完成するかもしれないがあきらめるわけにはいかない
真実を追求することをあきらめるという選択肢はない
「俺でもこの状態の検死を任されたら苦労する案件だと思うから心配するな」
水死体は検死がかなり難しい。証拠は流されるとなると死因の特定も難しい
仮に性犯罪だとしても精液なども残っていないだろう。
「じっくり時間をかけて調べてくれ。調査をするのに時間をかけてくれて良い」
「了解。だがある程度のめどがついたら簡易報告書を出す」
エバックは無理に急がなくていいからなというと財布の中身を確認してあるものを見つけた
紙幣の中にミッドチルダ連邦紙幣の紙のサイズと同じだが何も印刷されていない
そのお札を見たとき彼の表情が曇りだした。まさかと思ったからだ
「嫌な予感がするな」
エバックは懐中電灯でその紙に光を当てて反射具合を確認すると紙幣と同じような反射をした
これは偽造紙幣の可能性が高いということだ。
もしかしたら偽造紙幣を作るためにその紙を入手させて用が済んだから殺された可能性がある
まだ憶測でしかないが、正確なことは分析することが求められる
偽造紙幣を印刷するための事件になるとこれはシークレットサービスの管轄にもなる
もちろんこちらも捜査に関与することはできる。お互いで教導捜査をしたことは何度かあるので問題はない
どちらにしても苦労が多くなる事件であることは間違いない
「どうにかしたいところだな」
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西区中央部ノースイーストミーミル地区 ミーミル大学医学部
レックスは大学からある通報を受けて駆け付けてきた
「筋弛緩剤の数が合わないのは間違いないと?」
ミッドチルダ連邦法では麻薬や爆薬や毒物の紛失があった場合はすぐに確認することが義務付けられている
もちろん警察などの法執行機関に対して届け出を出すことをすることも義務付けられている
速やかに対応できるようにすることで回収することができるようにするシステム作りが今も行われている
筋弛緩剤は医療品危険物として指定を受けている。安楽死などに使われる可能性があるからだ
だからこそ紛失した場合はすぐに通報することになっている
「昨日までは数が適正に確認されていましたが、夜勤明けの職員が確認したところ、2本足りないと」
「保管室の録画映像に何か証拠は?」
薬品保管庫には必ず監視カメラの取り付けと入退室には専用のIDカードが必要になる
もちろん警備職員も配置されて勝手に持ち出すことができないようになっているのだが
その包囲網も突破したと。管理がずさんだったかしっかり見ていなかったか
どちらにしても大問題である。
「映像データを確認したところある生徒が確認されたのですが、本人は別の場所にいたことが確認されました」
つまり、変装でもされた可能性が高い。手品師のようにうまく工作をしたのだろう
問題は2本の筋弛緩剤をどうするつもりなのか。それを追及するしかない
もし殺人や自殺のために使われたら大問題になってくる
使用される前に回収しないといけない
「とにかく体の動きから割り出すプログラムがある。それである程度は絞り込めるだろう」
人の体の動きというのはDNAと同じで個性がある
同じ動きをすることはできないので識別することができる
過去に犯罪を犯しているか何かのデータベースに登録されていたら識別できるはず
今はそこから絞り込むしかない。筋弛緩剤が使われる前に回収しなければ危険である
レックスは携帯情報端末を使って生体認証を始めた。犯人がここの学生であると断言はできない。
念のためすべてのデータベースと照合してみることにした
照合作業を完全に終えるにはいくら高性能なスパコンがあっても時間が必要だ
「その他にも医学部棟内のすべての監視カメラの映像をデータベースと照合する」
医学部が入っているこの大学校舎の様々なところに設置されている監視カメラの映像、
それらも並行で照合すれば絞り込みやすくなるはず
時間は確かにかなり必要になるがミスが起きないようにするには正しい方法である
「照合作業はかなり必要だ。その間にここの指紋を採取してみる」
「無数にありますよ」
警備スタッフの言うとおりだ。ここは医学部の関係者なら出入りができる
ドアなどには無数の指紋がある。それでも何もやらないよりは良い
少しずつ証拠を集めて追い詰めていくには長い時間がかかっても行うことが求められる
裁判では証拠が物を言うのだ
「これが俺たちの仕事だからな」
本来なら西分署の現場鑑識チームに応援を頼んでも良いのだが、彼らも今は忙しい
ここはこちらで対応したほうが良いだろう
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東区東部サウスクラナガン港 魚市場 1番埠頭
そこには多くの漁船が停泊していた。
漁船からは次々と漁獲された魚の引き揚げ作業が行われていた
できるだけ早く鮮度のあるうちに市場で取引してもらうために誰もが急いでいた
「おい。市場で競りが開始するまでにすべて引き上げるぞ!」
多くの漁業関係者が急いで作業を行っている中でシエナは魚市場内を歩いてパトロールしていた
市場内をパトロールすることで不審な動きをするような人物がいないかどうかを調べることも重要である
何か問題行動することがあれば安全確保のために行動することも必要になってくる
そのためのパトロールである
「今日も皆さん忙しそうね。怪しい船舶は今のところは逃走中のクルーザーだけみたいってところかしら」
できればここだ穏やかに片付いてくれると助かるけどと思いながらもパトロールを続けた
今は活気があり、数多くの市場関係者がいる。荷物の出入りも頻繁に行われている
細心の注意が必要になることは確かだ
『中央本部からSA24。不審な動きをしていた漁船がサウスクラナガン港第1埠頭に入る』
至急臨時検査を行えとのことだ。
不審な動きというのがどのようなものなのかはわからないが、
積み荷の検査作業は極めて重要である
「こちらSA24。了解した。第1埠頭の漁船の積み荷検査を行う」
シエナは急いで第1埠頭に向かった。
まだ入港作業中であったことから積み荷の荷下ろしはしていない
それなら検査はそれほど時間は必要ない。危険物センサーを利用して調べるだけで済むからだ
少しでも異常があれば詳細な検査と分析が必要になる
現場に到着するとすぐにバッジを見せて罪に確認を実行した
「違法物資がないが確認させてもらうわ。今は任意だけど令状が必要なら裁判所からとるけど」
あくまでも今は協力を求めての対応であることを伝えると確認に同意してくれた
積み荷チェックをシエナは開始した。漁船の荷台には魚が数多く収められていた
携帯型危険物探知機を使って船内を確認したが異常はなかった
「異常なしを確認。荷揚げを承認します」
シエナは引き渡し用の書類にサインをすると、再びパトロールに戻った
『サウスクラナガン港分署から各員へ。逃亡していた小型クルーザーを確保』
ようやく確保されたことは良いがこの後の対応は港湾パトロールの管轄だ
もちろん陸地から沖合22km地点までは陸地側の警察組織の管轄であるのでこちらにも関係あるのだ
彼女は携帯情報端末で拿捕された小型クルーザーの位置を確認するとサウスクラナガン港の沖合15km。
つまり中央パトロールにも管轄権が生じる。
この手の事案は共同捜査になることが多いが、今回もそれになるだろう
「SA24からサウスクラナガン港分署。こちらも小型クルーザーのほうに向かいたい。船を出してもらえるか?」
『了解。待機中の艦船が1隻います。それに乗艦することを許可します』
携帯情報端末には20t巡視艇[ 艦船形式:CL「ひめぎく」型 巡視艇] が1隻待機していることが確認できた
その艦船は4番埠頭にいた。シエナは急いで4番埠頭に向かうことにした
今は大至急向かうことが求められるからである
大急ぎで4番埠頭に到着すると出港準備ができている船が待機していた
彼女が乗り込むとすぐに出港した
「待たせて悪いわね」
「こちらも共同のほうが都合が良い時もありますので。それにルールがありますから」
もめているような状況ではありませんと乗組員は言った
船は最大速力を出すと現場海域に向かった。この船は最大40ノットも出せる
捕獲された場所まではそれほど時間がかかることがないはず
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中央区中央部セントラルクラナガンバスセンター 地区パトロール事務所
カリーは身柄を拘束した男性を留置室に入れて落ち着くまで待っているがかなり錯乱している
麻薬常用者の可能性が極めて高い。こうなると手段はかなり限定されてくるので強硬手段に出るしかない
いつまでも放置するわけにもいかない。ここの事務所の留置室で暴れさせるわけにもいかないのだから
とりあえず救急隊を読んで鎮静剤でも何でも注射するしかない
少しでも落ち着いてもらわないと事情聴取どころか証拠採取もできないのだから
まだ身元もわかっていない。早く調べたくてもあそこまで暴れていると接近するのはかなり危険である
「仕方ないわね。鎮静剤を打つことにしましょう」
カリーは捜査キッドから緊急医療セットの中から鎮静剤を取り出した
パトロール捜査官2名と一緒に留置室に入ると男の腕に注射した
効果が出るには少し時間が必要になるはずだが、今回は効果はすぐに出た
男はようやく冷静になった
「指紋を照合させてもらうわよ」
携帯情報端末で指紋を照合をするとすぐに身元が分かった
名前はエクス・ゴライス。34歳。麻薬使用で前歴が1回。
5年前に逮捕されて懲役5年の刑罰を受けた。出所したのは1週間前
1週間ですぐに麻薬を購入して逮捕されるとは呆れたやつである
よほど麻薬が好きな人間のようだ。もう1度、刑務所生活を満喫してもらうことにした
「出所してすぐに麻薬使用なんて馬鹿なことを考えたわね」
再び懲役5年の刑罰を受けてもらうことになる
クラナガン市法では麻薬所持は懲役5年と定められている
つまり再び5年間の刑務所生活は間違いなく確定している
のんびりしているような暇はない。
「うるさい!俺にはあれが必要なんだ!返せ!」
「麻薬を返せなんてできるはずがないでしょ。バカな事を言っている暇があるなら刑務所生活に覚悟をすることね」
今度も長い刑務所生活が待っているのだからと。
クラナガン市法では麻薬所持は懲役5年と定められている
留置室にいた男から柵越しではあるが事情聴取をすることにした
「麻薬をどうしてやったの?」
「仕方がないだろ!。俺は5年間も我慢したんだから羽目を外すくらい良いだろうが!」
男は鎮静剤の効果で少しは落ち着いてきたが、また暴れるかもしれない
今のうちに聞き取れることはすべて確認することが極めて重要だ
「このままだと一生刑務所暮らしになるわよ。やめることはできないの?」
カリーはあきれながらも麻薬と縁を切るように伝えたが無理だと反論した
確かに簡単にやめることができるなら誰だってやめている
一度麻薬に手を出すと簡単にやめることができないのが麻薬の恐ろしさである
それだけに刑罰も重いのだ。刑務所に収監されている間は禁断症状でかなり苦しむことになる
だからこそ出所するとすぐに麻薬に手を出すことが多い
「麻薬所持で逮捕よ。刑務所暮らしを満喫する事ね」
カリーはあとのことをパトロール捜査官に任せることにした
手柄はどうぞそちらで受け取ってくださいと。
つまり逮捕した人物は地区パトロール事務所の誰かにして良いということだ
手柄が挙げることができれば出世ができる
犯罪検挙数を上げることは街の犯罪が多いことを示しているがその分しっかりと摘発していると
そういうことになる。ということだが、カリーは1度中央本部に戻ることにした
今は急ぎの案件はないがあることを確認するためである
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西区中央部 ウエストクラナガンカジノ地区4番街 バナースカジノホテル 予備警備室
エディはパトロール捜査官の3人と一緒に今後の警備について検討をしていた
何か状況をひっくり返す方法があるのではないか知恵を絞る
「どうやって犯人を困惑させることができるかだな」
こちらが彼らに対して想定外の状況を作り出すことで混乱すればスキが生まれる
そのすきをついて一気に強行突入すればことは片付く
簡単な方法ではいかないが、穏便に事を片付けるには最適な方法であることは間違いない
「さてと。どうしたものか」
今はまだ何も思いつかない。一気にことを片付けることはほぼ不可能である
それでも少しでも前に進めるために動くことが求められる
「陽動作戦を展開するといっても方法は限定されてくる」
犯人側にはもう失うものはないはずだ
自爆する可能性がある以上、危険な賭けに飛び込むわけにはいかない
安全な方法で対応することが極めて重要であることは理解している
「ガスを使うか」
「ガスですか?それは・・・」
エディの発言にそれは危険ではないかと回答したパトロール捜査官がいたがそれも事実だ
確かにガスを使えば人質の生命にかかわるかもしれない
「使うのは着色ガスだ。虫も死なないし被害も出ない。陽動としては十分のはず」
「なるほど、火事が起きていると?」
あくまでも陽動作戦として使うのだ。
実際には火事などは起きていない。ただの発煙筒で煙を出すだけ
それでもあちらの動きをセーブすることができるには十分な効果がある
一瞬ではあるが隙を生ませることができるかもしれないことは間違いない
「そういうことだ。ここで何もしないよりも良いかもしれない選択だ」
何もしないよりも少しでも効果的な方法を考えるなら今のこれが最適な方法である
被害を最小限にするにはこれしか道がないのだから
「それじゃ、準備をするか」
この部屋には数多くの発煙筒がある。ただの煙であるので健康に被害が出るようなものではない
火災報知機を作動させるには十分な煙を出すことはできる
犯人側にはさらに動揺させることができるかもしれない
「ミッションスタートだ」
エディたちは発煙筒を大量に持ち出すとホテル1階部分の様々な場所に設置して作動させた
発煙筒からは次々とけむりが出始めた
ここからが勝負の時である。まさに時間との戦いと言っても過言ではない
「火事になっているぞ!」
犯人側の1人が発煙筒の煙を見て動揺しながら大声を出した
効果ははっきりと出た。これで犯人側の行動が少しでも遅れたらこちらに勝機が生まれる
人質にも動揺が走るが今はそこもねらい目である。
人質への監視の視線がそれたら彼らを助け出すことができる確率が上がる
エディたちは一気に強行突破した。
動揺する犯人たちを次々と確保していき最後の1人にまで追いつめることができた。
しかし、ここからが最大の問題であった。親玉はかなり肝が据わっているようだ
手には爆弾の起爆装置を持っていた。腹には爆弾を取り付けていた
最後には自決する覚悟があるらしい。みんな巻き込んで自爆ということは後先考えている余裕はないと
「自爆したら終わりだぞ!」
「うるさい!銃を捨てろ!この爆弾を爆発させるぞ!」
犯人の男はもうどうなってもいいようだ。死なばもろとも。
一家心中するつもりがあることは間違いない
エディはある部分を打ち抜くことにした。それは極めて難しいと言われている
それは起爆装置のケーブルだ。正確には起爆装置と爆薬の間を結んでいるケーブル
通常では不可能であるが射撃の腕がかなり良ければ不可能ということではない
それでも全員死ぬか生きるかの選択が迫られている上はこれが最良の判断だと彼は考えた
エディが発砲した弾は見事にケーブルを切断した。何とか爆発することはなかった
パトロール捜査官の1人が犯人を手錠で拘束した
「SA38から中央本部。バナースカジノホテルの現場制圧作業が完了。鑑識を入れてくれ」
『了解した』
パトロール捜査官たちは犯人を手錠で拘束するとすぐに連行していった
エディは人質の手首に結ばれている結束バンドを切断して拘束を解除した
「私は捜査官のエディ・サンチェスです。事情聴取にご協力をお願いします」
裁判で被害者の事情聴取は重要である。犯罪の数々を明らかにするためにだ
人質全員の合意を得たので外で事情聴取をするためにとりあえずホテルから出すことにした
人質が脱出するルートに爆弾などの危険物がないか再確認を行って安全確保ができたら脱出させた
「これで人質事件は解決するな。あとは事後捜査だな」
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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部オペレーションルーム
ラジェットは正面スクリーンに人工衛星から撮影されている地上画像を見ていた
ベルカ州は今のところは飛行禁止命令は出されていないが、マスコミはいつ出るかわからないと報道していた
実際のところはいつ出るかは全く予測がつかないことも事実である
聖王教会がおかしな動きを示したらミサイル攻撃が行われることになる
港湾パトロールベルカ基地には港湾パトロール海兵隊がいつでも戦闘出動できるように待機していた
「今のところは平穏か。いつ何が起きるかわからないが」
『ビービービー』
オペレーションルーム内の警報が鳴りだした。あるものが察知されたからだ
聖王教会の訓練区域内で魔力爆弾が爆発したからだ。ベルカ州南西部に当たる地方だ
その場所は幸いなことにあまり人が住んでいない地方だ。人的被害はほとんどないだろう
魔力爆弾は次元世界連合加盟国内で豊富に埋蔵されている魔石の魔力を高濃縮したことで爆発させる
核兵器並みの威力がある。核兵器と魔力爆弾の違いは放射能汚染を出さないことだ
クリーンな大量破壊兵器である。次元世界連合全加盟国は魔力爆弾の製造と保有を禁止している
国際条約で定められているのだ。これは時空管理局と聖王教会も加盟している
これが聖王教会の関係者が実行したなら条約違反になる
「ついに始まったか」
ラジェットは今後の聖王教会と時空管理局の動きについて、要注意することが求められる
これがどの勢力によるものかによって行動は変わってくる。
過激派の犯行によるものならさらに危険性は高まってしまう
リスク管理をするなら冷静に判断するしか道はない
「ギブリ。最新の中央パトロール支援衛星からの衛星画像を正面スクリーンに」
中央パトロール支援衛星とは中央パトロールが運用している人工衛星
地上から高度500kmに配置されている人工衛星である
多機能人口衛星で衛星測位や通信や偵察などの様々な機能が搭載されている
現在36種類の軌道で10基ずつ。全部で360基を運用している
これらの人工衛星を使うことでミッドチルダ連邦国内の地上の状況を常に監視することができる
その時、ベルカ基地に待機していた連邦軍と港湾パトロールの部隊が動き始めたことをギブリが報告してきた
「ついに動き出したぞ。今は現場偵察だがどうなることか」
「ようやくか。ダンスパーティーが始まったら誰が最後まで踊り終えることができるか楽しみだな」
踊り終えて最後まで残った者が勝者になる
単純な話である。問題はだれが生き残るかである。ことを急げば面倒になる
ここは港湾パトロールに任せるほうが良いだろう。軍事関係は彼らの管轄なのだから
とはいってもステラたちが派遣されている。彼らの安全確保を要請はしておく必要はあるだろう
「パーティーが始まったら誰が最後に勝ち残るか。俺たちが勝者にならなければこちらの存在意味がない」
クラナガン市と近隣州の首都圏を守るために組織されたのがクラナガン捜査局だ
守ることができなければ大問題になることは当然である
合法な手法ならあらゆる選択をしてでも対応することが求められる
「本当にあそこは困ったものだな」
そこにシエルが入ってきた。ラジェットは一通りの状況報告をした
シエルはかなり危機感を感じていた。まだ続きの魔力爆弾があるのではないかという懸念である
『クリーンな大量破壊兵器』である魔力爆弾を使われると大きな影響が出る
それを動かした組織がどこによるかだけでも大至急追求しなければならない
今回の爆発は聖王教会の訓練地区内で起きた事案だ
聖王教会の関係者が絡んでいることは十分に考えられるが確証はない
陽動作戦ということもあり得る。
時間が経過してから衛星画像を見る限り人的被害は出ていないことが確認された
少しほっとしていた。シエルとラジェットの2人は。
ただし安全保障の観点から言ってまだまだ完全に安全とは言えない
「ラジェット。大至急、魔力爆弾を使った連中を割り出して。必要ならCIAやNSAにも協力要請を」
私の部屋を使って良いからというのでラジェットはオペレーションルームを出て行った
捜査部捜査官のオフィススペースにある自分のスペースではなくシエルの首席捜査官執務室を使う
それはラジェットが首席捜査官代理の権限行使の容認していることを示している
「ギブリ。ベルカ州知事に連絡してこちらの情報が必要なら流すと伝えて」
ベルカ州政府のトップであるベルカ州知事は知事になる前は港湾パトロール海兵隊に所属していた経歴がある
ベルカ自治区が州政府に移行して初めての選挙で圧倒的な得票率で当選した
ベルカ自治区時代から自治制度に反対していた勢力が存在していた
組織の名前は『ベルカ解放同盟』。今はその反聖王教会勢力の組織は完全に武装解除した
州政府の発足に伴い武器などはすべて州政府が発足した時に州警察などに提出した
もちろんすべての罪が許されたわけではない。
一部のメンバーは刑務所に収監されたり執行猶予付きの判決が出ている
基本的に彼らの勢力は非武装組織である政党を立ち上げた。
ベルカ自由党という政党を立ち上げ州内の様々な郡政府や市政府などの議会で第1党になっている
ベルカ自由党は州内の人々から支持率がかなり高い。
ミッドチルダ連邦国内の議会では主要な政党は共和党と民主党と平和党という政党が大部分を占めている
平和党は退役クラナガン捜査局員が組織した政党で犯罪発生率が高い地方からの支持が高い
基本的にしっかりとシビリアンコントロールが機能しているので軍部が暴走することは憲法で禁止されている
議会政治が中心になっている
ちなみに今までは時空管理局員が組織した政党である次元管理党が多くの次元世界国で第1党になっていた
しかしJS事件後は次元管理党は人々の支持を失って活動は完全に停止してしまった
今は賄賂や収賄などの容疑で様々な法執行機関が捜査を行っている
「ひどい話になるわね」
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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部首席捜査官執務室
ラジェットはシエルの執務室を借りて魔力爆弾に関係する情報を集めていた
様々な組織に連絡を行って情報を集めていくとある組織が絡んでいるとの情報をつかんだ
それは『HR』である。時空管理局の暗部である組織が『HR』と呼ばれている
かなり暗い歴史があることがわかっている。捜査にはかなりの時間がかかることはわかっている
時空管理局犯罪捜査局に連絡すると関係があるとのことだ。
「HRが絡んでいるとなると危険だな。聖王教会の過激派とタッグを組んで政権奪還を狙っているかもしれない」
もしそれが現実になればとんでもないことになる
ただでさえ聖王教会と時空管理局の評判は悪いのにもっと悪くなる
存在していることが許されなくなるほどに悪くなればコントロールすることは極めて難しい
そうなる前に止めることが求められてしまう
「頑張るしかないな」
情報収集は慎重に行うことが求められる
こちらが聖王教会の内情を詳しく知ろうと悟られるとかなり危険な状況になる
組織間同士の関係に影響に発展するからだ。それでは意味がない
穏便にこっそりと探っていくしかない。相手に気づかれないように
万が一に備えて保険をかけておくのも良いだろう
『先ほどベルカ州南西地方で魔力爆弾と思われる爆発が確認されたとの情報が入りました』
『今のところはまだ未確認情報ですが、一部関係者は時空管理局や聖王教会をリストラされた人物の実行説が』
マスコミに情報が流れるのが早すぎる。誰かがタレコミをしたのかもしれない
そうでなければここまで急激に騒がれるはずがない。
まだ爆発してそれほど時間が経過したわけではないのだから
政府もまだ公式な記者発表をしていない。何を考えているのか予想がつかない
「マスコミのほうが早すぎる。タレコミをしたのは間違いないな」
非公式にもまだ何もわかっていないのにスクープとして報道するならそれなりの根拠があるからだろう
何も根拠がなくて報道していたら、それは偽情報をつかまされたことになる
マスコミもそんなことになれば信用問題になる。報道したということ、つまり確証があるからだ
「犯罪組織対策法で揺さぶりをかけることができないのが残念だな」
仮にも聖王教会は国際組織だ。ミッドチルダ連邦法の1つである犯罪組織対策法の登録外だ
『犯罪組織対策法』に登録されたら令状なしで盗聴や強制捜査を行うことができる
ちなみにこのリストに登録されるときは組織名は一般にも公開されているので連邦裁判所で異議申し立てができる
だが登録されるということはそれだけ危険な行動をしているということなので今までに異議申し立てはない
「港湾パトロール安全保障局に協力を頼むか」
そう呟くとラジェットは自分の携帯電話を取り出して港湾パトロール安全保障局に問い合わせてみた
しかし回答は意外なものだった
『連絡が遅れてすまない。あれはこちらでも直前に把握したんだが、誤爆との情報が入っている』
「何者かが勝手に製造して自爆したと?」
『ああ、聖王教会の通信をひそかに傍受していたんだがそのようだ』
「だがなぜそんなことをする必要がある?聖王教会も自分で見からの首を絞めるようなことをするとは思えないが」
いくら追い詰められているからと言って自殺行為をするにはまだ早すぎる
まだ組織再編成のチャンスはあったはずだ
『いやそういうことじゃない。聖王教会が独自に保有していた高濃縮魔石の存在を消すことが目的だったらしい』
魔石は高濃縮させることで核兵器やそれ以上威力が出る爆弾になる
しかしそこまで高濃縮させるには大量の魔石と濃縮設備と電力が必要になる
そのため今は国際魔力エネルギー機関が監視を行っている。
魔石の大量保有をしている施設には常時監査官の配置が義務付けられている
魔力精製炉発電で使われる魔石は基本的には低濃縮魔石であるが、
その魔石燃料の濃縮を行う工場にも常時監査官が配置されている
少しでも異常が確認されたら工場の運営が停止命令が出される
監査が終わるまでは稼働が停止することになっている
「聖王教会が秘かに魔力爆弾を作って保有していたが監査が入ったから遠ざけていたが間違ってか自爆か」
『そうらしい。こちらでも今も情報収集中だ。何か情報があれば捜査部に提供する』
聖王教会関係は今はさっさと処理したいからなと。
もし高濃縮魔石燃料を保有しているとなるとなぜ持っていたということになってしまう
その疑いは極めて危険な方向に転がってしまう
「問題はどの程度の魔石を持っているかだな」
まだあるなら大きな影響が出ることは間違いない。
防ぐには魔石から発せられる魔力反応の量を分析すればわかる
高濃縮魔石にまで純度を上げると高い魔力反応が出る
それはある程度の距離からならば観測することができるのだ
高濃縮魔石になれば低軌道の人工衛星で魔力波長の検知ができる
そのため極秘に製造することはかなり難しいとされている。
『こっちでも確認しているが聖王教会がかなりの魔石を保有していたことは事実だからな』
「危険な風向きになっていることは間違いないか」
『このままだとどうなることになるか予測できないところが怖い』
確かにある程度の行き先が予測することができれば少しは楽になる
それができなくなると混乱することは間違いない
「俺の方でもベルカ州で今も反聖王教会活動をしている知り合いに当たってみる。もちろん合法的な方法でな」
『非合法な方法で活動している連中の情報を混ぜることはやめてくれよ』
非合法とは武装して攻撃している連中のことである
もちろんそんな関係者からの情報は信用できるかどうかはわからない
嘘かもしれないのだ。合法的に反聖王教会活動をしている組織や人物の情報なら一定の信頼性がある
それにラジェットなら裏ルートで情報を得ることはそれほど難しいことではない
表では話しにくいことも、裏ルートなら『噂話』として聞いたということで対応できる
あとは出たとこ勝負になってしまうが。それでも何もしないよりは良い方だ
「穏便にこの問題を処理することを最優先にする。マスコミが報道しているとなるとベルカ州の経済にも影響が出る」
今のベルカ州は聖王教会が政権を握っていた時には環境保護を過剰なまでにしてきた
その影響で石油や天然ガスや石炭だけでなく、様々な資源開発が難しかった
今は厳しい環境基準をクリアすることができれば自由に認められるようになった。
そのためベルカ州内の景気はバブル景気の状況にある
だがそれも今回の魔力爆弾の爆発の報道で大きく状況が変わる
ラジェットはベルカ州のベルカ州証券取引所の平均株価を見ると多くの株が売りに出されていた
平均株価は爆発前と比較すると10%以上も値下がりをしていた
今後も値下がりが続くようになると州内の景気に大きな影響を与えることは確かである
ちなみにミッドチルダ連邦には国内の各州に1つずつ州証券取引所や州商品取引所が設置されている
基本的に取引所は24時間1年中休むことなく売買できる。
ちなみに州証券取引所と州商品取引所では州内のを営業範囲としている企業や鉱物資源や穀物資源の売買が行われる
その中でも最も多くのグローバル企業が上場しているのがクラナガン証券取引所である
クラナガン証券取引所ではミッドチルダ連邦国内全域やほかの次元世界国で営業活動している企業が主に上場している
「聖王教会も天国から地獄に落とされて最悪の状況になっていることは間違いない」
その時あるニュース記事をみつけた
『ベルカ州証券取引所では先ほど株価は急激に値下がりを示しています』
そういう記事が急激に増え始めている
「金融事件になるかもしれないな。SEC(連邦証券取引委員会)に頼んで監査を依頼するか」
わざと魔力爆弾を爆発させることでベルカ州証券取引所の株価を下落させる
インサイダー取引をする連中がいるかもしれないということだ
大量の空売りをして利益を出すことを目指しているのかもしれない
空売りとは本来の株取引で利益を出す場合と逆の方法だ
通常の株取引は安い時に株を購入して高くなった時に売りに出す
しかし空売りというのはまず最初に高い時に売りに出して、安くなったところで買い戻す
『信用取引』ともいう。これはかなりのリスクがあるので通常ではやらない
「何を考えているかわからない。そこが重要なところだ」
『空売りのほうはこちらで調べる。SECと連携してみる』
ラジェットはよろしく頼むというと通話を終えた
あとは情報待ちだ。連邦証券取引委員会はもちろんだが、FBIも当然捜査に乗り出してくるだろう
管轄権でもめることは間違いなく生じることを考えておくとある程度の調整が必要になる
それぞれがどの部分を担当するかなどについて、詳細に確認しておく
そうしなければ縄張り争いが起きることは間違いない
いよいよは事件捜査関係が登場しました。
今後も少しずつ事件捜査が続きますのでよろしくお願いします。
なお機動六課組の登場シーンはまだまだないのが現実なのですみません。