午前10:35 東区東部 上空2000m CH-46
ジャスティはバレットM82を構えていつでも発砲できる体制を整えていた
『中央本部からSA32。引き続き警戒態勢を維持せよ。必要であれば実力行使を許可する』
「こちらはいつでも反撃ができる状態で待機中。何か気配があればすぐに連絡を」
『了解した。何か情報が入ればすぐに報告する』
情報が送られてきたときには手遅れになっていることが多い。
つまりジャスティも情報収集を念入りに行って安全確保に努めなければならない
難しいことではあるがこれは仕方がない。任務なのだからやりきるしかないのだ
「命がいくつあっても足りない仕事だな」
ジャスティはそういいながら携帯情報端末で情報を確認していた
今はどんな小さな情報も見逃すわけにはいかない
『港湾本部から機動六課部隊移送チームへ。アパッチヘリが護衛につく』
アパッチヘリ、正式にはAH-64D
攻撃用ヘリコプターとして様々な武装をしている
機関銃から小型ロケットまで多種多様に
「ようやく来たか」
携帯情報端末にレーダー情報を映し出すとAH-64Dが3機が護衛についていた
これで少しは安心できる。だが油断をするわけにはいかない。
いつでも攻撃できる体制を整えることが最も重要なのだから
「休みが欲しいな」
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中央区南部サウスサーストン地区4番街6丁目と7丁目の間の通り
カリーが現場に到着するとすでに銃撃戦が終了していた
セントラル分署の現場鑑識チームが鑑識作業を行っていた
つまりカリーの出番はないということになる
「私は必要なかったみたいね。来たついでだから状況確認はするけど」
銃撃戦で使用されたのはアサルトライフルである。それもM4カービン
その他にAK-47も複数あった。様々なところに弾痕が存在した
すべて回収して分析するのはかなり苦労するだろう。今回の騒動の発端はただの喧嘩だ
それが銃撃戦にまで発展するとは何があったのか
周辺の街灯型観測システムに組み込まれている監視カメラ映像を調べた
発端は肩が当たったとか当たってないかとの論争だったようだ
それももめた相手が悪かった。ギャングの構成員だ。謝って終わりという道はない
けんか腰になった結果、銃まで持ち出す事態になったのだ。迷惑な連中だ
「この事件は組織犯罪課の担当ね。死人は出ていないし抗争に発展するのは間違いないから」
これでけりがついたとは思えない。ギャングたちはこれからも抗争を続けることはすぐに察しがついた
犯罪組織の抗争というのは終わりなどは存在しない
何処までも続いていくものなのだから仕方がない
「終わりのない戦争か」
カリーはそういうと一通りの現場鑑識の状況を記録すると中央本部に戻ることにした
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西区中央部ウエストセントラル地区2番街 西分署 3階分署地域情報センター
エディは分署地域情報センターに来ていた
ここは中央本部庁舎にある中央パトロール管制センターの小型版のような設備がある
各分署に設置され、中央パトロール管制センターを分署用に小型化・簡素化したセンター
必要に応じてここから細かな指示が出る
「北分署に捜査を依頼したがどうなることか」
司法取引で聞き出したモーテルの部屋には北分署の刑事とパトロール捜査官が向かっている
そこで身柄を取り押さえることができれば良いのだが簡単に事は進むことはかなり少ない
ほとんどの場合はもう逃げている可能性が高いが、情報の精度を確認するのも仕事である
「グレス・パエラストがいてくれると助かるが」
無線情報を聞きながら状況を把握しようとしていた
管轄が違うとはいえ分署地域情報センターには様々な情報が入ってくる
ここなら最新情報を入手することは容易なことである
『北分署からSA38。グレス・パエラストの身柄をモーテルで確保。これより中央本部に移送する』
グレス・パエラストは時空管理局犯罪捜査局も追いかけているので北分署で単独捜査は危険である
中央本部で時空管理局犯罪捜査局の捜査官と連携捜査が望ましい
エディはそれを了解したと無線で答えると彼も中央本部に戻ることにした
これで安全確保ができた。容疑者も逮捕することができた
あとは事情聴取で情報を聞き出すだけだ
『ワンワールドグループ企業が保有していた多くの証券や債券などの金融商品が市場に流れた影響で取引が活発化』
『今後の値動きは慎重に見定める必要があると一部のアナリストがコメントを出しています』
「金融市場には動揺があるな。おまけに退役時空管理局員は退役後の年金運用に失敗して大損だ」
日々の生活費の確保にも困難を極めている。
退役時空管理局員の多くは金融機関から多額の融資を受けていた
JS事件までは多くの金融機関は時空管理局関係の融資は安全とされていた。
そのためかなりの金額になる融資を行っていた
今はその信用はなくなった。回収に必死になっている金融機関はかなりある
しかし回収をしたくても肝心の資金がないことから不良債権となっているケースが多い
融資の回収ができなくて経営に少しずつ問題が出始めている金融機関も増加傾向にある
連邦準備銀行は万が一に備えての対応として無担保コール市場に資金供給を行っている
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南区北部ハーディー地区6番街2丁目1番地 ハーディーバンク本店
フィリーは爆発した銀行内の安全宣言が出るまで待機していた
すでに爆発物処理チームが来ている。内部の安全確保ができればすぐに鑑識を行うがそれまでは待機だ。
銀行周辺には多くの救急隊が駆けつけてきていた
爆発の影響で当時現場にいたパトロール捜査官や刑事たちが負傷していた
今は応急処置を受けている。命がけの仕事とはまさにこの現場のことを意味しているのかもしれない
こんな現場は久しぶりであるが完全にないわけではない。
爆弾関係の事案はこういうトラブルに発展するのはいつものことだ
「私たちって貧乏くじを引かされているようなものね」
爆風の影響でこの近辺の様々な場所にあったガラスが割れたりひびが入っている
クラナガン捜査局の車は防弾仕様のため特に問題はないが
民間車両や民間企業が入っているビルの窓ガラスかなり多くの損傷を受けている
後始末がかなり苦労することは間違いない
「被害総額の金額をはじき出すのはあまりやりたくないわね」
爆弾事件の場合は爆発の影響で被害が出た建物も被害物扱いになる
それらも調べることが求められることから時間がかなり必要になる。面倒な話だがこれも任務である
『連邦政府は外国為替市場で異常な動きがあれば介入する用意をしているとしています』
「本当に介入をすることになれば大きな問題になるわね」
金融犯罪は面倒である。管轄権でもめることがあれば、誰が主導的立場に立つかでもめることもある
どう進んだところで争いごとは生まれてしまうことは間違いない
『中央本部から各員へ。港湾本部がデフコンレベルの引き上げを検討中。クラナガン市内でも警戒されたし』
港湾パトロールの防衛準備レベルを示すデフコンレベル。少し動くだけでも大掛かりな騒動になる
マスコミはもちろんだが、連邦政府の安全保障政策や外交政策にも影響が出る
「ベルカ州は混乱にならなければいいけど」
そんなことを考えながら待っているとようやく安全宣言が出された
フィリーたちのお仕事の時間がようやくやってきた
爆弾の影響で現場鑑識を行いたくても肝心の証拠が粉々である
爆弾について処理チームが部品を回収して分析をしてくれる
専門家に任せるほうが効率的だ。問題は今回の爆発は何を目的にしているかである
こちらに対する先制攻撃。それとも銀行に恨みがあるからすべてを破壊してやろうとしたのか
どちらにしても調べなければいけないことはわかっている
「銀行内の監視カメラ映像を分析してみるしかないわね。店内の様々な場所にカメラが設置されているはず」
フィリーは警備室に向かうと監視カメラの映像を確認した
するとある仮面をかぶった人物が大きな袋を持って裏口から逃げて行ったシーンが記録されていた
その仮面の人物は貸金庫室から出てきていた。
入る時は何も持っていないのに出る時には40Lサイズの袋を持っていた
貸金庫内には監視カメラは設置されていない。つまり何を持ち出したかを追及するのは難しい
それに金融機関には守秘義務があり顧客の秘密を簡単に公開することはできない。
顧客の同意がない限りは開示することは基本的にはできない
もしくは裁判所からの開示請求があれば強制力があるので開示することはできる
しかし裁判所もプライバシー保護の観点から犯罪関係でない限りは開示令状の発行はしない
難しい問題である。おまけに貸し金庫室の出入り口に設置されているカメラ映像、
それはあの大爆発をしたときに大きな損傷を受けていた
貸し金庫室にもかなりの量の爆薬が設置されていたようだ。
証拠を消すためにはすべてを破壊する方が効率的であると考えたのだ
犯人はかなり利口である。何を盗まれたかがわからないとなると捜査にはかなり時間が必要になる
下手をすれば未解決事件としてコールドケースになる可能性はかなり高い
「事件がコールドケースになる前に捜査を行って逮捕することができれば助かるけど」
この状況ではかなり難しいとフィリーは理解していた
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東区東部サウスクラナガン港 港湾パトロールサウスクラナガン港分署 ラボ棟2階マルチメディアラボ
『連邦上院議会では現行の連邦移民規制法で限定されている移民政策を大きく変えるための議論が出ています』
シエナはマルチメディアラボである報道番組を見ていた
現在の連邦移民規制法では移民できる者は現在は一定の学歴があり、
ミッドチルダ国内において生活に困らない程度の収入が見込まれる者に限られている。
これをさらに緩和しようというのだ。とはいってもそれは簡単なことではない
移民政策の変更というのは簡単に進めることができない外交政策の1つであるからだ
移民を簡単に認めてしまうと国内の治安状況や経済に大きな影響を与えてしまう
それだけにミッドチルダ連邦はもちろんだが次元世界連合全加盟国では慎重な立場をとる次元世界国が多い
移民希望者の中には時空管理局関係者がかなりの確率で混じっている
時空管理局所属時に違法行為をしたものを入国させたいなど誰も考えたくない
だからこそ、移民申請にはかなりの時間が必要になるのだ
申請手続きにはかなりの時間があるので申請を出してすぐにというのは現実的にはかなり難しいと言える
「違法移民対策で港湾パトロールは大変ね」
次元空間航行貨物船に隠れて違法入国しようとする密航者は今年の4月までで数万人に上っている
さらに犯罪捜査から逃れようと隠れて違法出国しようとした者も多い
おかげで水際対応に追われているのだ
『連邦上下院議会では議論が熱く交わされていますが、慎重派の意見が多いのは事実です』
「まぁ当然の結果だと思うけど。下手にこちらに面倒を持ち込むことはやめてほしいわね」
『港湾本部から各員へ。サウスクラナガン港の沖合30kmの海域で船舶情報信号を出していない船舶を確認』
確認のためにF/A-18Eが現場海域にスクランブル発進したと
連邦法であらゆる船舶には船舶情報信号を衛星や地上基地局経由で発信することが義務付けられている
すべては密輸や密航対策のための措置である。シエナはレーダー情報を空間モニタに映し出すと確認した
確かにF/A-18Eが2機もスクランブル発進していた。船舶情報を発信していない船舶は小型クルーザーだ
密輸関係でもしているのかそれとも別の犯罪に関与しているのか
調べる作業は膨大になる。
「どうして問題だけを生み出してくれるの?」
これ以上の問題が起きることなど誰も望んでいない
そもそも犯罪が起きることを望んでいる者などいない
犯罪が起きれば誰かが傷つくことになるのだから
それを最小限にするにため、様々な法執行機関が存在ししている
クラナガン捜査局もその法執行機関の1つである
『ピーピーピー』
「シエナ・アルフォードよ」
『船から押収されたコカインですが純度100%のかなりの大手の物です』
サウスクラナガン港分署の質量化学ラボからの電話だった
「それはすごいわね」
通常、麻薬密売で常習者に麻薬が渡った場合は良くて純度40%で買えればいいほうだ
それどころかさらに混ぜ物が含まれていることも多い
それが純度100%のコカインとなると末端価格では数十億ミッドになるだろう
それだけの麻薬を未然に密輸阻止できたことは大きな成果である
問題はどういう経路で市内に流されるはずだったかだ
裏社会に居座る犯罪組織の重要な資金源を押さえることができたのだから
それはそれで大きな意味を持っている
「わかったわ。他に何か収穫はあったの?」
シエナの質問に分析官は今のところは何もないと回答した
「何か収穫があればいつでも私の方に情報を連絡してもらえるかしら?」
『わかりました。何か発見しましたら捜査官に連絡します』
お願いねと言うとシエナは通話を終えた。これで状況が大きく変わってきたことは間違いない
あれだけの量のコカインをどこに流すつもりだったのか調べなければならない
シエナは他にも事件を抱えているが。だからと言って放置するわけにはいかない
真相究明は重要事項である
「長い話になりそうね」
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西区中央部 中央パトロール西分署ラボ棟 3階質量化学ラボ
レックスはそこで交通事故で死亡した人物であるホレイス・カーズレスが持っていたアンプル、
それが筋弛緩剤かどうかについて分析を依頼していた。今はその真っ最中である。
これで終われば単なるバカということになるのだが違っていたらとんでもないことになる
人を殺すことができる薬が市内にうようよさまよっているようなものだ
「結果が早く知りたいな」
分析官は慎重にミスが内容にアンプルの中身の成分を分析していた
「結果が出ました。成分は筋弛緩剤です。医療機関で使用されるものと合致しています」
その報告にレックスはホッとした。ようやくけりが付いたのだから
犯人死亡というあまり嬉しくない結果ではあるが。
できることなら生け捕りにしたかった
「とりあえず事件にけりはついたな。念のためこいつの背後関係を調べるか」
事件が1件片付いたと思ったら別の方向性で捜査を行う
よくあることなので慣れている。いつもの日常業務でもあるのだから
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南区中央部 中央パトロール南分署ラボ棟 2階マルチメディアラボ
エバックは犯人らしき人物の車について、より詳細な情報がないか徹底的調べていた
現場周辺の街灯型観測システムに設置されている監視カメラの映像、
主要幹線道路に設置されている交通違反観測用カメラの写真まで
気になるものは徹底的に調べていた。基本的にはこういう監視カメラの映像は100年間保存される
中央パトロールが運用しているデータセンターにその映像が保存されている
もし交通事故や犯罪が起きた時には犯人の容姿や事件の流れが記録できるようにするためだ
すべては捜査を円滑に進ませるものなのであり、路上犯罪の捜査ではよく利用される
特に盗難車の追跡などをするときに利用が多い。しかし今回はここまで念入りに証拠を残さない奴だ
簡単に見つかるとは思っていない。それに監視カメラがいくらあると言っても死角は必ず存在する
その死角で降りられたら、車の追跡など意味がないことは誰が見ても明らか
「簡単に見つかるようなミスはしないだろうな」
エバックはかなり悲観的な考えをしながらも分析を続けていた
何かにつながるかけらでもいいのだ。証拠が見つかればかなり大きく捜査は進むのだが
上手くそんな形で話が進むことは基本的にはあり得ない
徹底的に隠ぺい工作をしている人物だ。尻尾を出すことはない
どこかで逃げ切る自信はあるはず。実際にクラナガン市から逃げる方法は何通りもある
上手く逃走することはできる。市外に。だが指名手配を食らうのでその先の道は簡単ではない
逃走生活にはかなりのお金が必要だ。それに偽造IDも必要になる
IDがなかった場合はいろいろと制約が生じる。何かを表社会で貸し借りするときにはIDが必要になる
裏社会の物ならIDなど必要ないが、かなり高額になってしまう
金が余計にかかることを考えると偽造IDは極めて重要で、必ず必要になる
「何かヒントになりそうな情報があればいいんだがな」
今のところは何もない。できることなら自らの手で対応したかった
逃亡犯を専門に扱っているパトロール部署がある
名前は『長期逃走犯追跡課』。逃走が長期化したことになれば管轄権がそちらに移管する
創設されてからはかなりの人数の逃亡犯を逮捕することに成功している
実力は極めて優秀である
「何かないか?」
映像を徹底的に分析していたところあることに気が付いた
逃走者が近くで車から下車、地下鉄の駅に行くシーンが街灯観測システムの監視カメラに記録されていた
その人物の顔を分析して顔認証システムと照合した
今の最も優先される分析だ。最優先モードで照合作業を行った
結果、ある人物と一致した。元聖王教会騎士団に所属していた男性。
名前はエリバート・クインス。年齢は39歳。
現住所は南区北部区域イーストハーディー地区5番街3丁目14番地302号室となっている
しかしそこは短期間だけの住居契約を専門にしているマンションである。設備はかなり古い
そのため家賃は安い。身元確認をしないような業者もかなり存在している
金が払われていたら何も気にしないという不動産会社は多い
つまり市政府に提出している記録がすべて正しいとは言えないということだ
「身元確認はしていないところは多い」
エバックの言う通りで金さえ払えばだれにでも家を貸すという不動産会社は、
ハーディー地区とその周辺ではとびぬけて多いのだ
JS事件前までは時空管理局の幹部に金を握らせてごまかしている例はかなりの数になっていた
現在は規制がしっかりしているので厳しくなっているとはいえ、
旧体制のままの姿勢をとる不動産会社は以前に比べると減ったが存在している
だからこそ面倒なのだ
「あとは自動照合に賭けるか」
エバックは自動照合データベースに登録すると照合作業をシステムに任せて中央本部に戻ることにした
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