ーオープニングー
ニューヨーク、マンハッタン
街灯の光が照らす薄暗い夜道。
幼い自分を真ん中にして両側を歩く父と母の手をとって歩く。
その日はブロードウェイをみた帰りだった。腹を空かせながら、安いピザ屋を探す。
父が近道だといって、路地裏を通っていた時。
突然、空から降ってきたように地面に何かが舞い降りてきた。
それはなんと世界を守る正義のヒーロー、キャプテン・ジャスティスだった。
目を疑ったが、なぜ自分達の前にいるのか聞く間もなく、隣にいたはずの父が壁に叩きつけられていた。「へ?」本当に一瞬だった。
だが鮮明に残っているのは、何も言わず黙々と父を殴る憧れのヒーローの姿だった。ひとしきり血が飛び散ったあと、父は動かなくなった。
自分より先に動いたのは母で、叫び声をあげようとしたのか口を開いたまま、次の瞬間にはキャプテンが投げた盾に母の首は貫かれていた。
僕はまだ動けなかった。彼のシンボルであるハートとハトが描かれたその「ヒーロー」は、父の顔をもう一度見たあと、自分の名前を聞いてきた。
答えられずにいると、自分が肩から下げていた子供用のカバンを手に取り、名前を確認した。「しまった…クソ…」そういうと彼は誰かに電話をして、速やかに飛び去った。
そのあとのことは…パトカーのサイレン以外、何も覚えていない。
「お客さん、降りてくださいー」
しまった。ボーッとしすぎていた。たまにあのことを思い出しては周りが見えなくなる。「ペンシルバニア駅前ですよ。運賃は…」
タクシーを降りて、駅に入る。目的地までタクシーで行きたかったが、電話では最寄り駅まで電車で来て、徒歩で気づかれないように来いとのことだった。電車に揺られて、ふと前の広告をみる。
『人々の愛と平和を守り抜く戦士 LOVENGERS(ラベンジャーズ) ファンクラブに入ってプレミア特典をもらおう!ーL.O.V.E. コーポレーションー』
くだらない。そう、くだらない。この世界は常にこいつらの話題でもちきりだ。自分が生まれたときから、この世にはスーパーヒーローと呼ばれる者たちがいた。
今思えば、超人的な力を持っているというだけで馬鹿馬鹿しいコスプレをして、人々からもてはやされる存在なわけだが…
当時幼かった自分の心には深くささったものだ。
彼らは「人々の愛と平和を守り抜く正義」をモットーに、国とも繋がるL.O.V.E.コーポレーションという会社が設立したLOVENGERS(恐らく会社の名義からとったのだろうが…)というチーム名で活動をしていた。
たった6人だったが、超人ということで警察の仕事をとって変わってしていたため、犯罪率は激減し、警察というのはほとんど事務処理をするだけの仕事になっていた。
それもそうだ。あいつらの力をこの目で見れば、全ての犯罪者が恐れおののくだろう。
気づけばタイムズスクエア駅に到着していた。電車を降り、改札を出てタイムズスクエアを歩く。
この道は嫌いだ。あの日を鮮明に思い出させる。
だからこの道が"通勤路"だと知った時はガッカリしたが、今となっては仕事前に奴への憤りを掘り返してくれるいい活力剤だ。
ここでさえも、そこら中にラベンジャーズの広告が張り巡らされている。目の前ではメンバー紹介の映像が流れている。
アマゾネス・ガール 女。 名の通り、女戦士の格好をしていて、常に優しく、並外れた身体能力と、その手から作り出せる光る武器が特徴的だ。だがその素性はただのビッチ。クソ女だ。
マンスティール 男。 彼は身体がスティール(鉄)でできていて、ナノテクノロジーのマシンのように身体を自由自在の武器や道具へと変えることができる。だが過去に複数の犯罪経歴があり、それらは全て隠蔽されている。
ファストフィート 男。 赤とオレンジの稲妻をイメージしたコスチュームを来ている青年で、足を高速で動かすことができ、高速移動はもちろん、足技もあいつの十八番だ。が、まあ性格に傲慢さが垣間見れる。メンバーの中では唯一マシなほうに思えてしまう。
フレイムボーイ 男。身体を炎に変化させ、また炎を自由自在に操ることもできる。こいつのミスで何件か火事が起き、人が犠牲になった例もあるが…何故かほとんど非難されない。国の圧力だろう。
ビーム 女。手の平や指先から熱線、ビームが出せるのが特徴だが、この女は出動件数が少ないのもあり、他にあまり情報はない。だがまあ、どうせ腐った人間だろう…
そして最後には…ああ、自分が今最も苦しめて殺したい奴だ。
キャプテン・ジャスティス リーダー、 男だ。 名に正義かかげているくせに、チームの中で1番腐りきった野郎だ。常人の何十倍もの身体能力と鋼の体、透視能力と地獄耳…さらにはあの汚いハートとハトが描かれた超強化合金の盾。そしてまさに、自分の両親を殺した張本人。彼は表では紳士的なスーパーヒーローだが、自分がこの目でみた通り、裏では傲慢で強欲な狂人だ。
とまあ、ここまでが自分の"勤務先"の奴らの経験談と捜査から得た情報だ。そう、自分の生きる目的はただひとつ、キャプテン・ジャスティス。あの怪物をできるだけ苦しめて殺すこと。
全て失ったあの日の俺と同じ思いをさせること。
そして自分の居場所は同じくヒーローたちを潰すために集ったヤツらの集まり。そこは自分たちにとっては唯一の「ヒーロー」なのだ。
思い知らせてやる。正義はひとつじゃない。
目的地へ到着し、カバンから名札を取り出してつける。自分の名前はサンディ スミスだが、SandyのSANとSmithのSをとったSANS(サンズ)
が通り名で、なぜだか名札もそう書いてある。
仕事場の玄関の扉を開くと、なぜだかいつも暖かい。奴らの目は冷酷な殺意でみなぎっているはずなのに。
「サンズ!遅いぞ〜」「サンズ、昨日いった書類はまとめてきたか?」
今日も自分はあの日から俯いている自分を救うべく奮闘する、ひとりのヒーローとして目を覚ます