ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

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第十話 聞いてないんですが・・・

「…………え?」

 

キリエは思わず疑問の声を上げる。

 

今、間違いなく人生で一番調子がいい。

 

燃費が課題の瞬間移動術式をどれだけ使っても疲れないし、汎用身体強化もよく回っている。

 

下級の死霊がどれだけ群れたところで、少しも脅威に感じない。

 

だから、それを見つけた時も、少しも怖くなんてなかった。

 

斬れる。

いまの私なら、斬れる。

 

高揚感と全能感に後押しされて、その【敵】に向かってジャンプし、大上段から斬りかかる。

 

【敵】は、骸骨だった。薄く汚れたガイコツが、やたら古めかしいデザインの、ぼろぼろの法衣を纏って、大事そうに巨大な錫杖を握り締めている。

 

どう見ても人じゃない、魔物だ。躊躇なく双剣を振り下ろした瞬間。

フードを被った頭蓋骨の奥から、確かになにものかが、キリエを『見た』。

 

次の瞬間。

 

空中でキリエの身体がぴたり、と停止し。

 

その腹に、真一文字に斬撃が入った。

 

「-------------------」

 

深い、痛い、声が出ない。腰から下の感覚が消えた。

 

身体からの悲鳴がいっぺんに脳を直撃する。思考が空転しているあいだに、そのまま地面に投げ捨てられた。真赤な飛沫があたり一面に上がって、それが自分の血液だと気が付いて、キリエは気を失う。

 

「--------っ!!!このっ!!!!!」

 

ノアが悲鳴のような絶叫を上げながら、空中から突撃し、銃を乱射する。

 

が、強化されたはずの魔導弾も、その爆風も、やはり骸骨の手前で停止した。骸骨が錫杖を掲げて、それで、ノアの周囲の大気が突然爆ぜ、制動を失ったノアがきりもみ回転しながら落下する。

 

骸骨は。正真正銘SSランクの怪物、【神官(ロッド・テイカー)】は。

 

聖女を見る。

 

300年探し続けたかもしれないそれを見る骸骨の眼は、どこまでも深い虚空に包まれている。

 

----

 

やらかした。まずい。

SSランクは流石に聞いてないって。

 

脳内に流れ込んでくる焦りに、しかし、身体は勝手に動く。

 

【托生】の白い糸が切れていない以上、二人とも息がある。

ならばやることは、二人に魔力供給だ。

 

骸骨を全力で警戒しながら、糸を通して二人に魔力を送る。

キリエがまずいな。あそこまで深い傷ではなかなか血が止まらない。

 

……それどころか、周囲にはまた死霊が湧き出した。

いつのまにか、わたしたちと骸骨を遠巻きに囲むように隙間なく円を作り、だんだんと肉薄している。

なんて数だよ。

 

くそ。

治癒と再生の【白色術式】は適性が微妙で、杖がないとまともに扱えない。

魔力を流し込んでの治癒に期待するしかない。

 

目のまえの奴を倒すのだって、いまのわたしにはそもそも手札が与えられていない。

 

どうやって戦えと。

 

杖が。

杖があれば。

 

「……あ」

 

絶望的な状況に呻いて。

気付く。

乾坤一擲、あるかもしれない。

 

---

 

わたしは、動かない右手を左手で持ち上げ、敵に向かって突き出す。

未だ左は失うわけにはいかない。

 

「【青よ】」

 

息を吸って、吐く。

 

魔力の流れを察してか、動きを止めた骸骨に、祝詞を続ける。

 

「【深海の青よ】【大空の青よ】【御宙すべての尊き青よ】」

 

右手は魔力灼けで動かないし、左手も命令が入るだけで、ほとんど感覚はない。

 

こんなものを撃ったら、こんどこそもげるだろう。

 

「【分断せよ】【乖離せよ】【峻別せよ】【この身を天地の青に捧ぐ】」

 

だけどもう、しょうがないだろ。

 

死ぬか、生きるか。

 

そして、偶然出会った二人を生かせるかどうか。

 

そこまできているなら、もう、やることは単純。

 

全て賭ける、それだけだ。

 

【錫杖持った古き神官】。

有名過ぎて、その攻撃パターンは冒険者界隈でもよく知られている。

無類の魔力防壁を有し、あらゆる術式を停止させ、弾き返す。

相手の攻撃を吸収し、返す。それまではああやってただ立っている。

 

それを打ち破るには、魔力防壁を貫通するだけの過剰なまでの魔力が必要だ。

 

5年前ならともかく、いまのわたしは条件を満たしている。たぶん。

 

「【ここは盾の内と外】。【青色術式】【深奥】--------頼む」

 

きん。

 

と。

 

大気に、澄んだ音が一度だけ鳴り。

 

横一線。

 

周囲の物体が、全て真一文字に切断され、崩れ落ちた。

 

----

 

【青色術式】の【深奥】は全部で4つ。

 

そのうちの一つがこの【空断ち】。

 

やり方は単純。

盾を『対象に重ねて』出すだけだ。

青色術式の防壁は原理上、空間座標を指定し、その地点に防壁を後付けで出現させるという手順になる。では、その座標に既に何か別の物質があった場合はどうなるか?

答えは、先にあったモノを『押しのける』だ。それも、原子レベルで。

 

言い換えると、『盾が重なった対象は、盾を断面にして切断される』のだ。

 

ただし、子鼠一匹程度の重複面積であっても魔力消費が格段に増えるため、あまりの非実用性から研究すら放棄された出来損ないの攻撃術式。

それ以上に、命を守るために作られた【青色術式】で、絶対的な斬撃を作るという、背信者の術式。

これが、青色術式の深奥の一こと『空断ち』だ。

 

骸骨は。

たしかに腰のあたりで分断されて上半身が一瞬だけずり落ちかけ、それから、すぐに再生した。

まぁ、だろうな。こんなんで倒されてちゃSSランクとは言えん。

 

骸骨のエナメル質が、嗜虐的に歪む。いや、気のせいだ。ガイコツは普通、笑わない。

だが狙ったのは、最初からラスボスじゃない。周囲に大量に詰まってきた死霊どもだ。

 

青い斬撃は、キリエとノアに近寄っていた霊体を瞬時に切断した。

 

それだけじゃない、遥か遠くまで、見える限りの霊体が巨大な日本刀の一振りで両断されたかのように、平行な切断面を見せて一斉に崩れ去る。

 

一瞬、ほんの一瞬、大量の霊体が浄化されたことによる光で、視界が真っ白に染まる。いくらSSランクだからって、見えないもんは見えないだろ?そうだと言ってくれ。

 

私はその間に、両足に全力の身体強化。

 

視界のない相手に向かって全力疾走し、飛びつく!!!

 

「---------------------ここだっ!!!!!」

 

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