ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
断っておくが、わたしに物理攻撃の才能は全くない。
腕相撲なら間違いなく同年代でも最弱クラスだし、攻性術式だって杖がなければ高位の魔物にはろくに通用しないだろう。
そう、杖がなければ。
わたしは骸骨に向かって---------ではなく、骸骨が抱えている銀色の錫杖に向かって、全力で飛びついていた。
骸骨の攻撃様式はカウンター。ならば、貧弱なわたしが飛び掛かってもろくな反撃は出ない!!
「ははーん。真錫だな。埃っぽいのが気になるけど、いい杖使ってるじゃないか」
なにも、杖を奪い去る必要はない。借りるだけだ。
骸骨に握られれているそれに、左手一本で強引に魔力を流す。
使う術式は、聖属性。【白色術式】の基本中の基本。
「【れすといんぴーす】!だよこの野郎!!!!」
そう、死者をあの世へ手向ける、葬送の術式。
さぁ、と。
骸骨の中から、無数の白い煙が立ち上る。
多分、コイツが飼ってる残りの死霊か。安らかに眠りな。
骸骨自体もがくがくと振動するが、反撃はない。当然だ。わたしは生きてる。【浄化術式】が帰ってきたとしても、何の意味もない。
「消えろぉっ!!!!」
全力の魔力放出とともに、錫杖を押し込む。いける。
骸骨の上腕ががしゃん!!!と嫌な音を立ててへし折れる。効いてる!
(もうちょっと---------!!!)
そう、あともう数秒。もう一押し。
その瞬間。
がくん、と。左手から握力が消えて、杖を取り落とした。
…………。
しーん。と。
骸骨とわたしと。
何か知らんが見つめあっている。目と目が合ってる。
きまずい。
きまずいけど、もう両腕が動かない。
魔力灼けの限界が、最悪のタイミングで訪れやがった。
唯一の勝ち筋だった錫杖も、骸骨が残った腕で拾い上げている。
詰んだな。
「……はは、惜っしいな。キラザが負けた相手にわたし一人で勝ってたら、メチャクチャ煽ってやれたのに」
不思議と後悔はなかった。まぁ、そんなもんか、程度のものだ。
数時間前まで、あんなにワインが飲みたかったのに。
「あー、伝わるかわからないけど、あの二人は許してやってくれよ。『亡霊街』最下層にたどり着いたのは本当に偶然だと思うからさ。あいつら雑魚だぜ」
骸骨は。黙って、杖を掲げる。
どんな術式で殺してくれるのだろう。
SSランクの魔物の術式、気になるな。
でもダメだ、やっぱこわい。
目を瞑って、心を無にして。
何も来ないから目を開けてみたら、骸骨が、『錫杖持った古の神官』が。
恭しく膝を折り。
折れた両手で、わたしにその杖を差し出していた。
---------
「……は?」
わたしはぽかん、と口を開ける。
とりあえず杖を受け取ってみたら、そのまま骸骨が首を垂れた。
「……まさか」
いやわからん。わからんけど、思い浮かぶのは、一つの可能性。
こいつは300年もの間、戦っていた、わけではないのかもしれない。
死霊が現世を彷徨う理由は、一般的には未練、でなければ『救済』。
未練じゃないなら、もしかして。
こいつ、死にたかったのか?
アンデットと化した自分を祓ってもらうため。
強い白色術式の使い手を探すために、あの『街』を作ったのか。
いや、探しているうちに、自然とあの街(ダンジョン)が出来ていたのか。
「お前……まさか、浄化術式まで跳ね返す、のか?」
わたしは思わず、骸骨に普通に話しかける。
【錫杖持った古の神官】。
有名過ぎて、その攻撃パターンは知られている。
無類の魔力防壁を有し、あらゆる術式を停止させ、弾き返す。
それを打ち破るには、魔力防壁を貫通するだけの過剰すぎる魔力が必要だ。
わたしは補助術式使いにしては珍しく、その条件を。
錫杖を骸骨の頭に当ててみる。骸骨はぴくりとも動かない。
言葉はない。だけど、本当にそうだとしたら、
「……だとしたら、やりすぎだよ、ばかやろう」
ざぁ、と。
骸骨がほかの霊体と同様に、光の粒子になって消える。
消え際に、骸骨のエナメル質が、笑ったような気がした。たぶん、気のせいだと思う。
まいにち投稿予定です。
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