ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

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第十二話 一人が平気な人になりたい

「おぉー、ついたついた。いつ見ても壮観だな!」

 

わたしは【女王の白】の砦を目の前に快哉を上げる。

 

「本当、一時はどうなることかと思った……」

 

Cランク領域に入っても終始硬い顔であたりを警戒していたノアも、ようやく安心したように深い息をつく。

 

「ほんと、ミーシャちゃんが居なかったらわたしたち20回くらいやられてたよ!それに、治療までしてもらって。本当にありがとうね、ミーシャちゃん」

 

キリエがふかぶかーと頭を下げる。

 

「いいよ。わたしだって、あの後護衛してもらったし。結局わたし一人でも、ここまでたどり着いてないさ」

 

これは本音だった。

杖がオーバーヒートでだめになった時点で、わたしが一人で帰還できる可能性は実はほとんどなかったのだ。

 

二人が来てくれて命が助かっているのは、わたしだってそうなのである。

 

なんとなくわたしもキリエを真似て頭を下げ、謎の「間」が形成される。

 

そこにノアがおずおずと入ってきて、

 

「それで、ミーシャ、その……腕のことは、本当にごめん。杖もない魔術師にここまでさせたんだから、絶対、責任はとらせてもらうから」

 

あぁ、それか。

なんか二人ともずっと気まずそうにしてると思った。

 

「ん?それか?そんなのもう回復したよ。ほら」

 

両腕を上下にぶんぶん振って見せる。

 

ノアはぽかん、と口を開けて固まってから、

 

「え……。魔力瘴、だよね?高濃度の魔力に中てられた人体って、動かなくなって二度と回復しないはずじゃ……」

 

なるほど、そういう感じか。

 

くくく、浅いな。

 

わたしはぐんっと胸を張って、

 

「あ?そんなの簡単だよ。いいか、確かに魔力の触媒に人体を使うと不可逆の破壊が起きる。だから、術式を使う寸前に腕の魔力脈を覆うように細かく【青色術式】を張っておくんだよ。その内側に本命の大きな術式を流す。そうすれば、腕の組織の大部分は守られるだろ?もちろん、影響は完全にゼロにはならないけどな。ま、長期ダンジョン組の生活の知恵ってやつさ」

 

メッチャ早口で言い切る。

本当はまだ腕の感覚はほとんどないし、杖があってもしばらくは術式を使うことはできないだろう。

それでも経験上、魔術を使わずに安静にしていれば二週もしないうちに元通りだ。

 

「う、うん……?言ってることが高度過ぎてよくわからないけど、そんなことが……?」

 

キリエが両人差指でこめかみを抑えて悩みだす。何そのポーズ。

 

「出来るんだよ。ま、ちょっと練習はいるけど。それから、お前ら二人を治療できたのは『神官』の杖のお陰だから、お礼言っとけよな」

 

『神官』から受け取った杖はなかなか優秀だったが、すでにかなり老朽化が進んでいて、キリエとノアを【白色】術式で治癒したところで崩れ落ちてしまった。持って帰れば育て甲斐のある杖になっただろうに、残念だ。

 

「そ、それはちょっと違うような……わたし腰から下が宙ぶらりんにされたし……ノアセンパイも墜落させられてばらばらになってたし……」

 

「そこまでにはなってない。せいぜい両足がへし折れたくらい。断じてばらばらにはなってない」

 

「あははっ、意地の張りどころ、そこ?」

 

頬を膨らませるノアが面白くて、ちょっと噴き出す。

変なところで子供っぽいんだよな。ま、いいけど。

 

「じゃ、世話になったな。わたしはもう行くよ」

 

ひらひらと手を振って、わたしは砦に歩き出す。

 

「えっ、あっ、あの……ミーシャちゃん!ミーシャちゃんはこれから、どうする、の?」

 

振り返ると、キリエがもじもじと両手を組んで、こちらを上目遣いで見ている。

 

「あぁ、そうだな。砦より南側に帰るのも実は半年ぶりだから、しばらくゆっくりするよ。目的も仲間もなくなったけど、なにもせずにのんびりするのが長年の夢だったからさ」

 

「!……そ、そっか。そうなんだ。……えへへ、じゃ、しょうがないね。よかったら、これからも一緒に……なんて、ちょっと思ってたんだけど」

 

「…………、」

 

咄嗟に言葉が出てこなかった。確かに、二人とはウマが合うというか、一緒に居て楽ではあった。

言っちゃ悪いが、二人の実力に合わせたクエストを受けるのなら、魔力瘴の影響があるとはいえ、わたしが失敗することなんて当分ないだろう。

 

いい提案だ。メリットしかない。

 

それでも、それでもだ。

瞬時にフラッシュバックした。8年毎日一緒に過ごした仲間達から、唐突に捨てられる瞬間が。

なんだよ、自由だなんだと喜んでおいて、ちゃんとトラウマってるのかよ、わたし。ださい。

 

ノアがキリエの肩にぽん、と手を置いて、

 

「キリエ、あきらめよう。……ミーシャにも色々事情があるんだよ。あんなに強い魔術師なんだから、なおさら」

 

「あっ……えぇっと、本当にそういうのじゃなくて。ちょっと充電期間作るだけというか、なんというか。元気になったら、またお願いするよ。うん、本当に」

 

嘘と真実を織り交ぜた台詞が、空気の上っ面を白々しく撫でる。

 

「……そっか!じゃ、どこかで会ったら、また一緒にクエスト行こうね!」

 

それでも、目を服の袖で擦って、キリエが元気よく返してくれた。

 

空元気だろうけど、少なくとも、それで、救われた。こいつはやっぱりいい奴だ。

 

「あぁ。万全のわたしに戻れてたら、そのときはまた会おう。約束する」

 

「うん!約束だからね!!私とノアセンパイも、それまでにもっと強くなるから!」

 

わたしは手を振って、砦に足を踏み入れる。

 

振り返ることは、できなかった。

 

 

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