ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
「でへへ……ミーシャちゃん、髪型変えたんだねぇ。もふもふロングもよかったけど、そうやって上げてるのも似合ってるよ!」
「キリエは相変らず絶好調で何よりだよ。で、何の用だ?そもそもなんでここがわかった?」
頬を真っ白な人差し指で凹まされながら、わたしはピンク女を睨む。ちなみにキリエに出てきたのは謎フルーツのサラダと、それからぶどうジュースだった。やっぱ年下じゃないかよおめー。別にいいけど。
「なんでって……」
キリエは両の人差し指を休めることなくきょとんと首をかしげて、
「愛の力?」
「そっかぁ。ありがとねぇ。黙れ」
「うんうん、気のない返事もかぁいいねっ」
机に頬杖をついて、きっしょい台詞が幻聴かと思ってしまうほどの爽やかな笑みを浮かべるキリエ。それがまた無駄に雑誌の表紙みたいに画になっててイライラする。
私が黙ってしまったからか、キリエが少しだけ真剣な顔になって、
「えっと、そうだね。真面目な話をすると、この辺で一番大きなギルドだよ、ここ?こんな分かり易いところにいるわけないと思って、探すのが後回しになったくらい」
「……ぐ」
「あ、これおいしい!味の濃い鶏肉にぶどうジュースがよく合ってていいね!」
「ここのメニューはだいたい原案チハルさんなんだ。おふくろの味ってやつだ」
ごちん!と、受付のほうで誰かが額をカウンターにぶつける音がする。なんだろう。
「ん?チハルさん、って受付の人?知り合いなの?」
「うん、わたしの恩人なんだ。宿がない間、暫く泊めてもらってた」
「……え、なんで!?困ってるならわたしたちが助けたのに!」
「ギルドに来るまで困ると思ってなかったんだよ。まさかギルドカードがあんなことになるとは」
「あんなことって?」
「あぁ、そうだな、まぁ聞いてよキリエ」
葡萄酒とお肉で上機嫌だったわたしは、キリエに向かってこの二週間をかくかくしかじかと話す。
さすがにキラザとかの固有名詞は伏せたけど、なんとなくぶちまけたい気分だったのだ。
うんうんと聞いていたキリエだったが、やがて話の本筋を理解すると、
「……えぇー!ミーシャちゃん、じゃあ今Fランクから再出発してるの!?ギルドカードの貯金とかアイテムボックスも全部使えなくなってるってこと!?」
「あぁ、まぁ、そういうことだ。も、あきらめたよ。名前もミーシャ・ラッシュライフに変えてるぞ。ほれ」
わたしは真新しいギルドカードをひらひらと見せる。
ちょっとした考えがあって名前は変えなかった。苗字は好きな小説からで、大した意味はない。
キリエは興味津々にそれをのぞき込みながら、
「へぇー……ミーシャちゃん、あんなに強いのに。森で聞いた時はCランク?って言ってたよね?でもBランク上位でも全然おかしくないくらいに汎用魔術も固有術式も完璧だったし、またすぐ上がれるよ!」
残念、本当はAランクだ。まぁ、『静香の森』でSSランクの魔物『ロッド・テイカー』を倒した時に魔力紋が歪み散らかして、青色術式以外の術式は殆ど使えなくなってしまったから、こいつの見立ては当たっているか、むしろ過大評価と言える。
……いいもん。もともとメインウエポンの青色はほぼ無傷だから。
「そりゃどうも。で、キリエは何の用だよ。わざわざわたしを探してたんだろ?」
「あ、そうだった!ミーシャちゃん、あのね……一緒に宝探し、してくれない?」
キリエが顔の前で両手をぱん、と合わせる。
「???」
クエスチョンマークが頭上に三つくらい浮かんで、わたしはひとまず先を促すことにした。
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「お宝探したくない、ミーシャちゃん?」
「え?無理だろ。なんで?」
「む、無理!?まだ何も話してないよ!」
抗議するキリエを尻目に、わたしはローストチキンを口に運ぶ。うまい。そういやこの肉って鶏なのかな。たぶん違うよな。何かの肉ということしかわからん。ロースト何か。
「無理だよ。わたしたちのランクで行けるダンジョンの宝物なんて、もう高ランク冒険者に取りつくされてるって」
ダンジョンが自動生成される魔王領なら実はそうでもないんだけど、今のわたしはFランクだから、そもそも魔王領に行くこと自体許されていない。
フォークを置いて、
「だいたい2人……ノアもいるなら3人か?でダンジョン深層に潜るなんて正気かよ。少なくとも倍はいないと生存率がやばいことになるぞ」
「ちっちっち。そうじゃないよ、ミーシャちゃん。今回はダンジョンのお誘いじゃないのです」
「??」
再び首をかしげるわたしに、キリエは自信満々に一枚の紙を差し出してきた。
「ナザングル……冒険者大宝探し大会?……主催、ナザングル中央商会会長・ギルマス・フィクサ……?」
「うん!ナザングルの街の北地区全体を使って、宝探し大会が開かれるんだ!冒険者にお役立ちなアイテムが中央商会の提供で街のいたるところに隠されて、それを探すイベントだよ!ギルドの冒険者しか参加できないけど、その日だけお試しで冒険者カードを仮発行するのでもOK!でもそれだと手続きが面倒になるから、ミーシャちゃんがナザングルギルドの冒険者でよかったよ!」
「なるほどなぁ……」
そういうことか。
受け取ったチラシの裏側を見ると、目ぼしいお宝のリストが乗っている。どれも入手難度DからFってところか。あ、入手難度ってのは同一ランクの冒険者がだいたい手に入れられる、という意味で決められている。
その中でもひときわ目立つ位置にでかでかと載っている宝石に、何となく目が行く。
それに気付いたらしいキリエが鼻息をふんふんさせながら身を乗り出してきて、
「めも……めも……」
「【
「そ、そっかぁ」
びっくりした。すごい興奮ぶりだ。
「へえぇ……これはその、すごいのか?」
「凄いなんてもんじゃないよ!SSランクダンジョン【玄海の淵】から持ち帰られたっていう伝説の鉱石で、特殊な魔力波で観測したすべての歴史を記録している、世界三大魔宝石のひとつ……なんだって」
「チラシの説明文そのまま読むじゃん……」
「へへ……」
「……欲しいの?」
「うん、欲しい!」
即答だった。
キリエ、そんな宝石とか興味あるタイプなんだ。
「どうかな?ほかの景品も、それなりに役に立つものもあるし、お得だよ?二人一組だから、相方を探しててさ。一緒に出てみない?」
「うーん……」
なるほど人間領内にしてはそこそこのお宝も出品されている反面、参加費もかなりお高い。
チャリティーイベントっぽい雰囲気出しておいて、元手を回収する気もありありって感じだ。
それに主催者のナザングル中央商会といえば、何かと黒い噂の絶えない奴らだったはず。
莫大な資産を運用し、その権力は王国の議会にまで食い込んでいるとか。直近だと、魔王領での
そう考えると、この【小宇宙】はおおかた贋作か、絶対に見つからないようになっているかのどっちかじゃないだろうか。
何の気なしにチラシの景品欄を流し読みして、
「ん…………?」
なんかいま、物凄い違和感があったような。
【小宇宙】に対してじゃない。じゃなくて、景品欄のなか、隅っこのほうに、
「……わたしの杖っ!?」
なんか凄い見覚えのある折り畳み式の杖が、小さく載っている。
細かな凹凸まで見覚えがあるし、柄の部分についてるアクセサリーまでご丁寧にまったく同じだから間違えようがない。
「え?ミーシャちゃんの落とし物?」
「【楡の杖】だよ!森で落とした……!」
「えぇ!?勝手に出品された、ってこと!?酷い!」
「この中じゃかなりのレアものなのに、扱い小さくない!?いい杖だぞあれは!!」
「怒るとこ、そこなんだ……まぁまぁ。でもこれで、一緒に出る理由もできたんじゃない?ね、手伝って!」
「うぐっ……」
キリエが顔の前で両手を合わせて拝む。
たしかに、これを回収できればばか高い参加費も簡単に回収できる。
だけど、だけどだ。
これで目立ったら、最悪元パーティの連中に見つかるかもしれない。
本当なら【小宇宙】だかが欲しい理由くらいは聞いてから考えるべきかもしれないけれど、【キラザのパーティ】とエンカウントする要素は減らして暮らしていきたいんだよなぁ。
「いいよね!ミーシャちゃん!」
キリエがキラッキラした瞳で詰め寄ってくる。
毎日投稿予定です。
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