ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
つまみだされた不審な二人組は、意外にもそのまま退散していった。
周りの酔っぱらいから聞いた話では、チハルさんに『出禁』にされた存在は指定の期間、ギルドに入ることもできなくなるとか。
よくできた、というか、固有術式にしたって単独の魔術としては強力すぎる効果だ。
多分よっぽど燃費が悪いか、複雑な発動条件があるんだろう。
「んんっ、もぐもぐ、ごくん。多分、固有術式の範囲を『この建物内』みたいに限定することでいろんな効果を上乗せしてるのかな?それからたぶん、ごきゅ、『敵が魔術を使わないと発動できない』とか、『こっちから敵意を出してはいけない』とか……んぐ、なんなら『スマイルを崩していないこと』みたいなのも発動条件にしてたり?もぐっ、うん、美味しいなぁ」
「ミ……ミーシャちゃんはなんでそんなに落ち着いているの……」
キリエはあれからひとしきりチハルさんを慰めた後、しばらくギルドの面々の拍手喝さいを浴びていた。
が、そんなハイテンションも落ち着いたのだろう、正気に戻ったキリエは今はわたしの隣で悶絶している。
「ビビりようがないよ。なにせ、わたしはキラザに会ったこともないんだから。ほら、キリエも自分の分食べな?」
「う、うん……」
キリエが顔面蒼白だ。さもありなん。
「ねぇミーシャちゃん。あのキラザさんの槍の攻撃、ミーシャちゃんが守ってくれなかったら、私、その、し、死んでた……よね?」
「……あー」
気もそぞろと言った感じでテーブルに視線を落とすキリエ。まぁ、そう思うよな。
「まぁ、気にするなよ。あの固有術式はA級のなかでもかなりの上澄みだから。怖かった?」
言葉に、F級は奥歯をかみしめて、
「うん……。ぜんっぜん見えなかった、動けなかった……怖くて……悔しいよ」
わたしはさらに質問する。
「そんなに真っ青になるんなら、なんで出て行ったんだよ。あいつらがAランク冒険者だって知ってただろ?」
結果論だけど、黙っててもチハルさんが何とかしただろうし、そうでなくてもギルドにたてついた奴などほっとけばいいのだ。
チハルさんが対処できなかったとしても、その上司のもっと洒落にならない奴が出てくるだけなのだから。ギルドマスターとか。
少なくとも、部外者のキリエが突撃する意味は正直、薄いように思えた。
言葉にキリエは曖昧な表情を浮かべて顔を上げる。
くりくりとした瞳は弱り切っていて、それでもわたしをまっすぐに見ていた。
「えっと……?だって、チハルさん、困ってそうだったし……あいつらもすっごいコウアツテキで、ヤなやつだったし!?……とにかく、あんなの酷いよ!ほっとけないよ!」
「…………………」
「うんっ!だよね!!立ち直った!わたし、まちがってない!!」
なにやらセルフリカバリーをキメて、ぐっ!と力強く両の拳をに握るキリエ。
……えぇ。
それでいいのか。いいのかそんなんで。
「そっかぁ……。でもあれだ。ちょっと間違えれば大怪我だったんだから、そこは反省しろよな。槍が飛んできて流石に後悔したろ?」
「え?そんなことないよ。なんで?」
真顔で返された。即答だった。
「なんでって、自分で言ってただろ。死にかけたんだぞ、お前」
「あ!それは怖かった!怖かったけど、でも、あそこで黙ってたら……」
キリエが何かを逡巡して、少しだけ目を伏せる。
「黙ってたら?」
「……なんか、嫌じゃん!それだけ!」
「……っふ!あっはは!キリエ、やっぱ変わってるよな!」
「えぇ!?そんなっ!褒めてくれるんじゃないの!?」
キリエがだん!とテーブルに両手をついて立ち上がる。
表情がくるくる変わる奴だ。あぁもうなんて顔だ。
「褒めてるよ、ばーか」
「そ、そんな……罵倒するおかおさえ可愛い……かわいいけど……でもなんでぇー……?」
本気で頭を抱え始める姿がおかしくて、わたしはひとしきり笑う。
笑ってから、悶絶するキリエと、こんどはちゃんと目を合わせて、
「……それで、【掌の上の小宇宙】だっけ。なんで欲しいんだ?」
「……へ?」
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