ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

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第二十話 ん?聞いてた聞いてた。完全に理解した

 

そんなこんなで、大会当日。

 

集合場所に少し早めに到着すると、すでにキリエが待ち構えていた。

 

キリエだけじゃないな。他の参加者たちも、もう大勢集まっている。互いが互いを探り合っているようなピリピリした雰囲気の中、キリエがこっちに気が付いてにへっと微笑んだ。

 

「おっはよう、ミーちゃん。待った?」

 

「おはよ。キリエは今日も元気だな」

 

おかしな呼び名にもはやツッコむ気も起きず、わたしはあきらめて手を振る。

 

キリエはいつものオーバーサイズ気味の上着に、どこかの学校の制服らしいブラウスとスカートだ。

武骨なホルダーに入った双剣が腰に吊られていて、女子学生風の服装の中で異彩を放っている。

 

まじまじと観察をするわたしの失礼気味の目線など意に介した様子も無く、キリエもキリエでこっちをじぃっと見降ろす。が、やがて感極まったように両手を合わせて、

 

「ミーちゃん……やっぱりその格好、良いね!改造法衣の白メインの服装もいい、よかったけど。今日のダーク基調でちょっと気怠い感じのもすっごい合ってるっ!」

 

「……そりゃどうも」

 

それはもう嬉しそうにはしゃぐキリエに、わたしは恨みがましい目線を向ける。こいつの言う通り、わたしの服装は昨日までとはすっかり様変わりしていた。

 

「うんうん、じっくり着せ替え人……玩具……吟味した甲斐があったね。これなら中継映え間違いないよ!」

 

「いや、もれてる。邪悪な黒の本性が見えてる」

 

「うわぁ、じとっとした眼がまた今日の衣装にはぴったりだねぇ」

 

「なんでその発言内容でそんなに曇りのない瞳ができるの……?」

 

「えへへ、ごめんごめん。ミーちゃんが素敵すぎてもうね。なんでこんなに可愛いの?ねぇなんで?」

 

「……へいへい」

 

もう返す言葉もない。会話をすればするほど、こいつの深淵に引きずり込まれていく気がする。

 

エントリーしたあの日、大会に出るなら変装したいと言ったのがすべての始まりだった。

瞬時に目付きの変わったキリエにがっしと腕を掴まれ、服屋まで連行されたのだ。

 

爛々と目を輝かせて山積みの衣服を次々押し付けてくるキリエと、何故かノリノリの店員さんから開放されたのは、閉店時間の4時間後。一日魔王領を駆け回った後と同じくらい疲れて、翌日は昼まで寝過ごした。

 

「ミーちゃん…………」

 

「な、なんだよ」

 

抗議も込めて改めてじとりとキリエを睨むが、キリエの無敵時間はまだ続いている。この身長差でこうもじっと見降ろされると、さすがにこう、圧があるというか。

 

こうして見るとやっぱり整ってるなぁ、こいつ。人のことを邪険にされてまで褒め散らかす暇があったら、鏡でも見てりゃ永久機関を形成できそう。なんて、ぼーっと見あげ返していると、キリエがふと真顔になってさらに距離を詰めてくる。

 

「な、なんだよ?」

 

「ねぇミーちゃん。撫でていい?撫でるね?」

 

「なんで……?ってうわちょっ……」

 

突拍子もない要求に呆気に取られ、避けるまもなくぎゅーっと抱きしめられた。

頭を撫でるとかじゃなく、大型犬みたいな可愛がられかただ。

なにこれ、さすがに怒っていいのかな。だめか。

 

これが異性だったら杖で顔面をフルコンタクトしているところだけど、こいつは残念ながら女だ。

同性の友人の奇行に、意識を明後日の方向に飛ばすしかない。

 

あ、天気いいな、今日。雲ひとつないとはこのことだ。

 

「まぁ、動きやすければなんでもいいけどさ……」

 

わたしにはもう、キリエのことがわからないよ。

 

ちなみに本当は髪も染めようとしたんだけど、こいつとサラさん(ショップ店員)に全力阻止されたんだよな。この銀髪が一番目立つのだから、変装するなら染めるの当然だと思っての提案だった。

 

……だったのだけど、そのときのふたりの信じられない馬鹿を見る目はしばらく忘れられないと思う。

『わかってねぇわこいつ』『まったくだぜちくしょう』みたいな。

 

物理的にもっふもふにされて釣られた魚みたいにぐったりと身体を預けていると、広場の壇上で、マイクの電源が入る音がした。

 

「……あ、ギルドマスターさんだ!なんだろうね?」

 

唐突に拘束を解かれ、わたしはふーっと息をつく。

 

「えぇ~、諸君!本日はお集まりいただき感謝する!!ワシが第34代ナザングルギルド・ギルドマスターのギルマス・ダークフィクサーである!!」

 

「うぉぉぉお!帰れ!」「帰れ卑怯者!帰れー!」「そうだ!帰れ帰れー!」「かえれー!で、あれ誰」

 

現れたのは、何を隠そうギルドマスターその人だ。嘘みたいな名前だけど本人は本名と言って聞かないらしい。

 

年のころはたぶん80とか90のはずなんだけど、立ち振る舞いからは、エネルギッシュ寄りの60代くらいには見える。

マイクオンと同時に一斉に集まってきた聴衆に熱烈な歓迎を受けて、鷹揚に手を振っている。

うん、さすがに人口密度が高い。くらくらしてきた。……原因は半分くらい、さっきまでキリエに虐待されていたせいかもしれない。

 

「は~、相変わらず若々しいねぇ。もう今年で99歳だよね?」

 

「そうなんだ。うん、流石にかなりの魔術師ってことか」

 

「……?どゆこと?」

 

「魔力はざっくり言えば、術者の生命エネルギーみたいなもんだ。平常時であの魔力量なら、ちゃんと練って循環させていればそれなりに老化も防げるだろ」

 

その昔Sランクダンジョンの奥に自称泉の精霊というアレな感じの人間がいたけど、どう見ても20代前半だった。実年齢は417歳だってよ。聞いたらブチギレられたけど。

 

「……ミーシャちゃん、大会終わったら、その話、詳しく」

 

「どうしたキリエ。喋り方がロボットみたいだぞ」

 

「ぐ、ぐぅ、そうか、そうだったのか……。ノアセンパイがあんななのも、ミーシャちゃんがロ……年下にしか見えないのも、まさかそういう……!」

 

割と本気でわなわなと震え出したキリエを無視して、わたしはギルドマスターの話をありがたく傾聴する。

 

「帰れ詐欺師!帰れー!」「ねぇあれ誰?ねぇってば。くいくい」「そうだそうだ!今年の景品もどうせ取らせる気ねえんだろ!帰れー!」

 

初手からめっちゃ帰れコールされてた。過去に何があったらこうなるの。怖い。

 

しかしてギルマスは、流石というか、静かな瞳でオーディエンスを見降ろすだけだ。

罵詈雑言に少しも動じてないどころか、反抗期の孫でも見るような柔らかさすら感じる佇まいは、悠然と流れる大河を思わせた。

 

老人はうん、とひとつ頷いて、大きく息を吸い、

 

「はぁぁぁ!?誰が帰るかあぁ!むしろ帰りてぇけど!でもやっぱり帰ってやんねぇー!」

 

きぃぃん!!というマイクのハウリングとともに、全力で絶叫なされた。

 

「うわぁっ!?」

 

びくりと肩を震わせるわたしたちを隅っこに置いたまま、ギルマスはさらに続けて、

 

「えぇい!躾の悪い底辺冒険者(クソガキ)どもが!良いから一旦聞けボケェェー!」

 

「言いやがったアイツ!」「もう許せねえよ!!」「降りてこい!降りて俺達とタイマンしやがれ!」「そうだー。高いところから失礼しますっていえー」

 

「おぉおぉ!言いおったのう!よかろうかかって来いや!わが真空手刀の錆にしてやるわぁーー!!お前か!お前から来るか!」

 

「マスター、そこまで。話が進みません」

 

「……うむ、そうじゃったな」

 

横に控えていた秘書のお姉さんが、控えめに、しかしぴしりと進言する。

 

たった一言、しかし効果は覿面だった。最高潮にヒートアップしたフロアがクールに静まる。

ギルマスもばつが悪そうに豊かな髭を片手で弄ってから、

 

「……うぉっほん!!それでは此度の大会、ルール説明じゃ!!と言っても例年通り!お宝が封じられたボール、『宝玉』がエリア内に無数に隠されておる!それを探し、手に入れよ!奪い合いもオーケー!タイムアップ時に生き残った冒険者は、所持する『宝玉』に封じられた景品をゲットじゃ!簡単じゃろ!」

 

びっしぃと両手で独特のサムズアップを決めるギルマス。

元気だなぁ。

 

「質問は挙手制でお願いします。はい、そこの男性」

 

また騒がしくなるのかと思いきや、秘書さんが機先を制した。

 

「失礼、B級冒険者・新聞記者のウカイです。そのやり方は例年通りとは思いますが、それではやはりクリア者が極端に少なくなる公算が大きいのでは?高すぎる参加料への不満の声もかなり上がっているようですが、そこのところはどうお考えでしょうか」

 

七三分けにパリっとしたスーツの男がスラスラと質問する。記者みたいだと思ったら、本当に新聞記者だった。

 

ギルドマスターは大きく頷いて、

 

「うむ、よく聞いて下すった。確かにここ3年の宝探し大会は、終盤のアクシデントでクリア者はゼロ続きである。ゆえに、今回は追加ルールを組み込んでおる!」

 

「アクシデント……?」

 

「あぁ、ミーシャちゃんは観戦したこともないんだっけ。あのね、なぜか時間制限寸前に超巨大ドラゴンが3年続けて現れてね。参加者全員を焼き払っちゃったんだよ。ギリギリ後遺症が残らない位にね。不思議だねぇ」

 

「……そっかぁ」

 

ねぇそれ八百長……いや、よくないな。

一応王国公認のギルド主催のイベントでまさかそんな堂々と。

 

「うおおぉぉぉお!!信じてたぞジジイ!」「しらないひとー!わぁぁ!」「戦え!お前も戦え!逃げるなぁぁ!!」。

 

「ぅう……うるさぁ……」

 

大きな音で頭がくらくらする。昔からこういう場は苦手だ。

 

「ミーちゃん大丈夫?よりかかってていいよ。お水飲む?」

 

顔色の悪いわたしを見かねたのか、キリエが真面目な顔で肩を抱き寄せてハンカチと水筒を差し出してくれる。ホスピタリティ万全だった。ありがとうキリエ。スキンシップの怪物とか思っててごめん。

 

「ん……悪い、ちょっとだけ」

 

「聞けい!!そこでじゃ!!参加者諸君になるべく多くの景品を持って帰ってもらうために!!」

 

壇上のギルマスの声が、聴衆の爆音をさらに上回る。きぃぃん、と今日一番のハウリングが鳴って、参加者もさすがに静かになった。

 

「今回は『必ず誰か一組は』No.001を獲得できるようになっておる!」

 

ぴん、と。その瞬間、参加者たちの空気が確かに張り詰めた。

ギルマスがにやりと笑って、

 

「うむ、よろしい。それでは追加ルールを説明する。ひとつ、今回No001の球は、確実に【街のどこか】に隠されておる!時価数百万金貨と言われている、例の品じゃ!」

 

「ふたつ、その場所に入るには、他人の『参加証』を一人5個以上奪って所持していることが必要である!みっつ、自分の『参加証』を失えば失格である!」

 

「簡単じゃろ?とにかく戦って倒せばよいのじゃよ」

 

言われるまでもなく。すでに周囲の空気は一変していた。誰もがもう、周りの人間の実力を観察し始めている。

 

……よくないな、これは。

要するに、バトルロワイヤル推奨ってことだ。基本好戦的なキラザのパーティ組と遭いたくない理由がまた一つ増えた。

 

老人はにやりと笑って、

 

「よろしいな?それでは、60分後にスタートじゃ。各々準備するように」

 




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