ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
「ふーっ、すっごい熱気だったねぇ。私も、ちょっと疲れちゃったかも」
説明を聞き終えてどこかへ散っていく冒険者たちを見送りながら、キリエが苦笑する。
わたしも深く息をついて、
「だな。それでキリエ、『参加証』っていうのが」
「うん、これだね」
キリエが首から下げている首飾りをじゃらりと持ち上げた。
首飾りには深い赤色の宝石がひとつあしらわれており、少ないが確かに魔力を放っている。
「だな。参加者の位置の追跡と、それから最低限の自動防御機能がついてる。量産型だろうけど」
「そんなのわかるの?」
「うん?そうだな。この手のマジックアイテムは魔力の大体の流れとか色を見れば、根っこの式をある程度逆算できるんだよ」
魔王領探索じゃ必須のスキルだぞ。キラザ達はできなかったけど。
「うんうん、その魔力のナガレとか、イロとか見えちゃうのは仙人の類だけって話する?」
「しない。ともかくこの首飾りが奪われたら負け、かつふたりで制限時間内に10個以上集める、か。確か参加者の数が」
「全部で100組くらいって言ってたね。うーん、結構戦わないとだめ?」
「いや、参加証は集めてるヤツからまとめて奪えばいいと思う。まずは景品の封じられた……なんだっけ、『宝玉』を集めたいな。たくさん持ってれば、景品狙いのヤツが向こうから来るだろ」
景品狙いというのはつまり、参加証までは求めない志低めの参加者ということだ。そのレベルもそれなりだろう。
あと、むやみに参加証を集めに言って『キラザのパーティ』組と鉢合わせたくないよね。
「あ、そっか。ミーちゃん頭いいねぇ。じゃ、景品をどんどん探しちゃおっか!」
キリエがうんうんと頷く。こいつの実力からして、その辺の参加者には負けることは無いだろうし、これでいい。
そして、だからこそ、ここは真面目にくぎを刺さねばならない。
「うん、だけどあと一つ」
「?なに?」
「『キラザのパーティ』のメンバーに出会ったら、絶対に逃げるからな」
「『キラザの』……って、あぁ、この前ギルドで揉めた人たちだよね」
キリエが露骨に眉を顰めて、それからぷーっと頬を膨らませて食い下がってきた。
「えー?なんでだめなの?せっかくだしリベンジしようよ!」
「駄目だ、アイツらはヤバい。個人が戦って勝てるレベルじゃない。死ぬぞ、普通に」
「でも、参加証には防御術式がついているんだよね?いくらなんても死ぬだなんて」
「この程度の防御術式なんて、アイツらには意味ないんだよ。奴ら王選魔術師の上級汎用防壁までなら普通に抜いてくるぞ」
これは実際にこの目で見たことがあるから本当の話だ。数が少ないから知られていないだけで、無茶苦茶なのだ、A級とかいう奴らは。
Aになった奴らは順次殿堂入りして消えてなくなってほしい。できればプレミアムな感じで。
「えぇ……?王選上級って……王宮を物理的に守護しているっていう、あの?」
半信半疑のキリエに、わたしはじろりと視線をあわせて、
「キリエ、目的を忘れるな。宝探し大会に参加する目的は『小宇宙』を手に入れることだろ?『キラザのパーティ』をぎゃふんと言わせるためじゃない」
「それはそうだけど。どうしたの、ミーちゃん?なんだか目が据わってるよ。かわいいね」
「いいか。あいつらは他人の命なんて何とも思ってない。具体的にはそうだな、魔王領A級領域のド真ん中でぽい捨てされた奴だっているんだ。見つけたら他の何を無視しても逃げる、いいな?後タンク役の奴は推定ロリコンだから気をつけろ」
「う、うん……わかった」
わたしの勢いに押されて、キリエがこくこくと頷く。わかってくれたようで何より。
「ミーちゃんが言うなら。でも、なんかやたらと言葉に重みを感じるね?」
「実体験だからな」
「あ、あはは、またまたぁ……」
「それに、そもそもの魔力差がありすぎる。本気で踏みつぶしに来られたら今の実力差じゃまずい」
「……ミーちゃん」
わたしが滔々と奴らの危険性を説いて、ふと振り向くと、キリエのジト目が思ったより近距離でこっちを見ていた。
「うわぁ、びっくりした。なんだよ」
「ミーちゃん、『キラザのパーティ』に詳しいね?」
「あぁ、うん?だから、言っただろ。昔一緒に行動してたことがあるんだよ。小間使いだけどな。でも、顔と名前と性格くらいは知ってる」
うん、嘘は言っていない。
「ふーん……」
キリエはしばらくわたしの表情を観察していたが、やがてすっと離れ、
「うん、了解だよ。大丈夫、目的はちゃんと覚えてる!それじゃ……ミーちゃん!」
見あげると、キリエが右手をグーにしてこっちに差し出してきている。一拍遅れて意図を理解し、こつん、と拳を合わせた。
「うん、よしっ。とりあえず『お宝が封じ込められた玉』から集めようね!えいえい、うおーっ!」
キリエが馬鹿みたいな掛け声とともに、非常にバカっぽい動作で両手を天に突き上げる。
みられてるみられてる。
周りから怪訝な目を向けられてるよ。
気付けキリエ。
「……あれ?ミーちゃん?おーっだよおーっ!ほらお手手バンザイして!あれ?聞こえてないのかな?立ったまま寝ちゃった?」
「え?あれ、すみません。お知り合い……でしたっけ」
「ちょっとぉ!?」
『それでは、各人。今から組ごとに、エリア内にランダムに転送します。お荷物を持って、組ごとに両手を繋いで待機してください。転移終了とともにイベント開始です』
唐突に、さっきの秘書さんの声が耳元に割り込んできた。『念話』の一種だな。汎用術式とはいえ、多才だ。
『それでは……グッドラック。【転移】』
声とともに、ふわり、と身体が宙に浮く。
「……あ、待った、これもしかして」
嫌な予感も束の間。
「う、うわぁぁぁぁああああ!!!???」
両手を繋いだわたしとキリエは、ロケットみたいに上空に打ち出され、【転移】先に向かって物凄い速度で飛翔を始める!
「ちょ……うわぁぁあ!!」
「うーん……速いっちゃ速いけど……ノアセンパイほどじゃないかも」
「無敵かお前は!なんかおかしいぞ、この術式っ!」
「へ?」
【転移】は初めてじゃない。ゆえに、記憶と比べて魔力の流れに違和感。
数十秒ほど飛行していたかと思うと、今度は降下が始まり、超高速で地面が近づいてくる。
そこで、違和感の正体がわかった。着陸するのに全然減速してない、気がする。いや、絶対してないというか、加速し続けてるぞこれ!
「っ……!【即応防壁】っ!!」
キリエの頭を抱き込んで、地面に向かって青色術式を展開する。
なんだろう、前にもこんなことあったよな。
案の定転送術式は一切の減速を見せず、ががががが!!!と地面を削りながら数十メートルは滑り、ようやく停止した。
防壁がスキー板みたいな役割を果たしたな。なんとか無事だったけど、相当スリルあった。一歩間違えればすりおろしりんごだった。
「はぁっ、はぁ……!あ、危ない……!」
「?」
肩で息をするわたしと、何が起きたのかよくわかっていないキリエ。
まぁいいか。今は宝探しだ。わたしは気を取り直してあたりを見回す。
見渡せば、なだらかな丘陵と背の低い草原が一面に広がっていた。振り返ると、遠くにナザングルを囲む城塞が見える。街の外だな。
他の参加者のすがたは見えない。とりあえず襲われる心配はなさそうだ。
……しかし、宝玉がありそうな手がかりもないな。運がいいやら悪いやら。
「随分飛ばされたな。……まぁいいや。とりあえず宝探しするか。こんだけなんにもなれば一周回って探しやすい」
「うぅん、でもこの草原に適当に転がされるだけでも、相当分かりにくいよ。広いし……」
キリエがどこからか地図を取り出し、難しい顔をする。おや、こいつマジか。
「?どうしたの、ミーちゃん?」
「キリエ、景品について、ギルマスはなんて言ってた?」
「へ?景品じゃなくて、それが入った『宝玉』を探せって……あ」
キリエも気が付いたらしい。
「だろ?景品が数百個もあるのにの『宝玉』大きさが全部同じなんだから、多分魔力で空間を弄って封じ込めてる。それなら、いくらでも探しようはある」
毎日投稿予定です。
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