ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

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第二十四話 逆にバイクは持ってないんだ

 

「いたたたた……落ちたなぁ……」

 

今日はなんだか落ちてばっかりだ、と間延びした感想を抱きつつ、土を払いながら立ち上がる。

 

上ではキリエが例のドレッドと戦っているはずだ。実力は互角だと思うけど、能力の相性はどうだろう。

 

「戻らないと……って、どうやって……」

 

思わず口をついて、そんな感想が出る。上を見れば切り立った崖。うわあこれ何メートルあるんだ。迂回したほうが速いか?いや、でも……と考えていると、人の気配がして、わたしはそちらのほうに視線をやる。

 

その男は、隠れるでもなく、のそりと姿を現した。

 

「ふん。あのドレッド野郎、やっとかよ、オォ?」

 

「……誰だ」

 

わたしはじり、と後ろに下がる。異様と言えば、その姿は異様の一言だ。なにがって、何その昭和の暴走族みたいな白い改造学ランとだぼだぼズボン。

なんで金の刺繍で『ぶっちぎり』って縫ってあんの。公用語で。楷書で。なんでカチカチのリーゼントなの。なんでメリケンサックしてるの。いやそれはもういいか。武器か。やばい。思ってたのとは別の意味で怖すぎる。

 

「ち、珍走団……?」

 

「はぁ?んだそれ。どこのギルドだよ」

 

「え、あの、ごめ……」

 

「ミーシャ・ラッシュライフだな!?あぁ!?」

 

「人違いです……」

 

「ンなわけ無ェだろうが!!こちとらお前に言いたいことがあって、アイツに頼んであの女と引き離してもらったんだよ文句あっか!?」

 

「い、言いたいこと……?」

 

「ビビってんじゃねえぞオラァ!」

 

「わぁぁ!?声が大きい!」

 

混乱はある。だけどなんだろう。単純にこう、なんだろう。うぅ。

 

なんなんだ、次から次へと。少なくともわたしとキリエの知らないところで何か作戦が立てられて、その通りに事が進んでいるっぽい。正体不明の焦りが、じりじりと胸を焼く。

 

(こんなFランクコンビを狙って何考えてる?……いや、あぁ、そっか)

 

脳裏にキラザの憤怒の形相が浮かぶ。ギルドでキリエに向かって血の槍を飛ばした時の顔だ。

だとしたら、狙いはわたしじゃないかもしれない。スイッチが切り替わる。ここでのんびりしている暇は、ない。

 

「あの日ギルドで【盾】かましたのはおめぇだな?オゥ?」

 

「は?あの日?って?」

 

「知らねえとは言わせねえぞ!!あんなキレーな盾、コンマ1秒で出しやがってよぉ!!しかもA級相手に通用しやがってよぉ!!!」

 

「……?」

 

だめだ、要領を得ない。

 

「……よくわからないけど、わたしは急いでいるんだ。退いてくれないなら、悪いけど本気でぶっとばす」

 

白ラン男は。

にたぁり、と威嚇たっぷりの笑みを浮かべて。

 

「オゥ、いい眼になりやがったなァ。さっさと術式比べ(タイマン)張ろうぜ、おぉ?」

 

「そのおうおう言うの、やめときなよ。かえって小者っぽいぞ」

 

---------

 

「でやぁァ!!」

 

果たして学ランリーゼントから飛んできたのは、イメージ通りの右ストレートだった。

何の工夫もないそれを、こちらも棒立ちのまま無言の【即応防壁】で弾く。

 

「はっ!やっぱ良い【青色(アオイロ)】使うじゃねえか、オラァ!!」

 

男は調子付いたのか、そのままずどどどど!!と左右の拳でラッシュをかけてくる。が、わたしの青色術式には傷一つつかない。

 

「どうした!守ってばかりじゃ何もできねえ、ぜ!!」

 

男が大きく引いて、大きく右拳を掲げる。そこに魔力が急速に集中し、蜃気楼みたいに空間がゆがむ。魔力総量はまあまああるな。

 

「【超絶仏千切拳】……受けてみろよ、オォ!?」

 

「おっ、さっきまでよりはマシだな。威力は最初の右の200倍ってとこか?」

 

「……あぁ?正面から受ける気か?いくらなんでもお前……!ナメてんのか?オォ?」

 

「いいよ、さっさとしなよ。どのみち許容範囲内だから」

 

「……ッ!!」

 

ぶちぃ、と、男のこめかみから確かに音が聞こえた。ごごご、と地鳴りのような音を立てて、分かり易く魔力の質が変質する。

 

「良い度胸だ、気に入ったぜ……ここで死なすのが惜しいくらいにはなァ!!!」

 

ずどん!!と。型も何もないぶっきらぼうな動作で、拳がおもむろに振り下ろされる。振り下ろされて、青色の防壁に突き刺さった。

 

「……だから言ったろ。どのみち破れやしないって」

 

「……ッ!!」

 

【電撃防壁】。

 

高位術式を立てるだけの時間が、今のやり取りの間にじゅうぶんにあった。

男の身体に、高圧魔力が走り抜ける。

 

……はずだった。

 

「……あ、あれ?」

 

わたしは思わず素っ頓狂な声をあげた。男も呆気にとられた顔をしている。

 

「……お前、右腕……【青色術式】で守ってるのか?」

 

「あぁ?俺の【青色術式(アオイロ)】【超絶魔導コーティンググローブ】があんだって?」

 

「いやいや、待て。狂ってる。なにそれ、誰に習った?」

 

「俺に先公なんて居ねェよ。硬いもんで殴った方が強いのは当たり前だろうがよ」

 

「……うん?いやまあ……うんっ?」

 

まじかよ。青色防壁は、座標を固定して魔力を流すことで出現する。つまり、原理上一度出したものは固定され『移動できない』。いや、できないこともないけれど、青色術式の壁を出してから移動させるのは、極めて魔力効率が悪い。米粒みたいな結界を移動させるだけでもその辺の術者なら魔力切れを起こすレベルなのだ。

 

それをなんだ。腕とスムーズに連動する防壁だと?

 

しかもよく見ると無数の結界を組み合わせて、荒いポリゴンみたいに腕を覆ってるよな。

 

気付かなかった。でも、擬態も隠しもしていない。はじめからその術式はそこにあった。わたしのなかの『青色術式』とはあまりにもかけ離れていて、そうと認識できなかったんだ。なんなら普通に固有術式かと思ってた。

 

わたしの『青色術式』が、即効性のある『即応防壁』中心の我流に派生したように。こいつも全く異なる『青色術式』の概念を作り出していた。

 

「ふ、ふふ、成程、なるほどなぁ」

 

笑っている場合ではない。それでも思わず笑みがこぼれる。

 

「……っくく、ごめん、ばかにして悪かったよ。やるじゃん。すごいよ、それ」

 

「は……はァ!?何急に笑ってんだてめっ!!」

 

だがそうか。

 

そう言う使い方もあるのか。

 

「そんで、ありがと。良いもん見れた」

 

言い捨てる。あっけにとられた男を放置し、口元に手を当てて思考に耽る。

 

さて、あれがわたしにできるか。あれを理解できるか。

もちろん一朝一夕であんな狂った壁の張り方なんてできる筈もない。そもそも素の腕力が弱すぎてやっても大した威力にはならない。鈍器でも持って殴りかかった方がはるかにましだ。

 

でも、そうだな。

こういうのはどうだろう。

 

「な、なんだってんだ!よそ見してんじゃねぇ!!もう一発、行くぞオラァ!!」

 

「うん、いいよ。来て」

 

だん!!と、男が大きく踏み込んでくる。

わたしも一歩、脚を踏み込んだ。

至近で目が合い、男が一瞬だけ距離を誤って怯む。

 

それで十分だ。

 

「がっ!?」

 

私の反撃は、地面から。

 

脚経由で地面沿いに張った『薄いいつもの』結界、そこを経由して、今度は地面に垂直に『分厚く硬い盾』を高速でせり出させる!

 

地面から急速に伸びた分厚い壁は、アッパーカットよろしく男の顎先を景気よく打ち上げた。

 

「効いた……ぜ、熱いじゃねえか、お前ぇ……」

 

脳を揺らされた男がよろめいてふらつき、そのまま大の字になって倒れた。

 

--------

 

「うんうん、やっぱりな。『固定用の盾』をあらかじめ出しておけば『殴るほうの盾』の座標も半固定だし、動かすにしても魔力はかなり節約できる。ちょっとタイミングは遅れるけど、やっぱりシンプルに動かす壁を立てるよりはこっちのほうがいいか」

 

「……オイ」

 

「それにしても、いい知見をゲットしたぞ。そうか、座標は固定する部分としない部分があっていいんだ。全部動かす前提だから『青色術式の盾は動かすものじゃない』なんて間違った常識ができたんだ。

 ふふ、いいぞ。やっぱりこの術式はかなり自由だ。絶対色々悪さができるぞ、あぁ、膨らむなあ!」

 

「……オイ!!」

 

「んっ?なんだようるさいな!」

 

ウキウキで早口考察していたら、下のほうから声がした。見ると、大の字に倒れたままのコテコテのヤンキー。

 

「あ、やば。あれだ、もういいだろ。わたしは上に戻るよ」

 

「お前……今絶対上の女のこと忘れてただろ」

 

「何を言う。さっきからキリエのことしか考えてなかったよ。友達だからな」

 

「……チ、まぁいい。俺達が下げた縄梯子がそこ岩場の裏にかかってる。使えや」

 

「へ?言っちゃっていいの?」

 

ヤンキーは明後日の方向を向きながら、

 

「いいんだよ。もともと俺がテメェと戦ってみたかっただけだ。ブーシュカのやつも俺が巻き込んだ。あのキラザのクソ野郎の槍を正面から止めたお前の青色(アオイロ)、近くで見たかったんだよ。同じ術式使いとしてな」

 

「……え?キラザの差し金でわたしとキリエを切り離したんじゃないのか?宝玉の奪い合いのどさくさでキリエを誘拐して脚とか折る気じゃなかったの?」

 

「お前、やっぱり相当キレてんな……」

 

「まさか、違うの?なんだよぉ、怒って損した……」

 

「違うっつってんだろ!なんであんなカスハラ野郎と俺様がつるまなきゃなんねンだ!むしろあれに立ち向かったお前らのほうが『漢』だろうが」

 

「女です……」

 

「あん!?関係ねえよそんなもん。さっさと行けや。上に加勢すんだろ?」

 

「……うん、行ってくる。お前あれだな。めっちゃ意外だったけど、いい奴だな」

 

「は。良い奴は余計だ。さっさと行け」

 

「めっちゃ意外だっただけのやつがいいの……?」

 

ヤンキーの言ってた岩場に回ると、丁度死角になる位置に、確かに崖上まで縄梯子が設置されている。

わたしはそれに手と足をかけて、

 

「あ、待ちやがれ!!」

 

「行けって言ったじゃん!?」

 

振り返ると、なにか小さな物体が飛んでくる。反射的に受け取ると、赤い宝石だった。『参加証』だ。

 

「持ってけ。お前の『勝ち』だろうがよ」

 

「あぁ。ありがとな」

 

ヤンキーがぐっと、倒れたままサムズアップする。

 

さて、急ぐか。




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