ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

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第二十五話 たまには真面目にやりますとも

時は戻って、ミーシャが崖下に吹き飛ばされた、その直後。

 

「み……ミーシャちゃーん!!うわあああ!たぶんあれ位落ちる程度なら大丈夫だろうけどミーシャちゃーーーん!!」

 

キリエの叫びが長閑な丘陵地帯に響き渡る。

 

「こら!そこのデカ男!!あんな華奢な女の子に大のデカ男がマジキックって恥ずかしくないんですか!?」

 

「クックック……いや、これ普通にそういう大会だからさ……」

 

「うん、まぁ……ですね。すみません」

 

「……がっはは!納得すんのかよ!」

 

キリエは小さく肩をすくめる。目の前の相手から殺意までは感じなかった。

 

「そっちはいーんですよ。気になるのはどっちかというと……そうですね、これ分断作戦ですよね?なんで?」

 

「……ほぉう!それがわかっててトークしてくれるのかい?崖下のミーシャが心配じゃないのかぁ?」

 

ブーシュカと名乗った男が、いかにもな大袈裟ボディーランゲージで感心しつつ、愉快そうに大笑する。へらへらしているが、動作の合間にジャケットの下から覗く筋肉は武闘派のそれだ。

ミーシャは油断なく木刀を握り締めて、

 

「あ、そっちは大丈夫でーす。あの子、ちょっと意味わからないくらいに強いですよ。崖のほうに何が隠れてるか知りませんけど、あなたこそお仲間の心配したほうがいいですよう?」

 

「はっはっは!奴が可愛い女の子に泣きべそかかされてんのは見てみたいがな!ま、俺も頼まれの身でね。悪いな嬢ちゃん。あのバカに頼まれてんだ。ちょっと遊んでくれ、や!」

 

言葉とともに、ブーシュカが拳を握り締め、まっすぐ突進してくる。

 

「……ッ!!」

 

キリエが一瞬遅れでだん!と地面を蹴り、真横に飛びずさって躱した。が、空振りしたフックの回転そのままに、流れるように後ろ回し蹴りが飛んでくる!

 

「わぁ!?」

 

なんとか反応した、が、思いのほか長い脚の踵がキリエの太腿に掠る。

 

(-あっぶな!めちゃくちゃ格闘技経験者じゃないですかっ!)

 

「おっと、今のがクリーンヒットしねえか。結構な初見殺しなんだぜ?」

 

「え?今の自信あったんですか?正直当たる気しないかも。動き重すぎ」

 

「がっはは!威勢いいねえ。だが、『掠ったぜ』?」

 

「え?」

 

キリエが軽快にステップを踏んで、大男から距離を取る、その数歩目だった。

 

がくん!!と、突然、左脚が何かに引っ張られたかのように引っ掛かり、バランスを崩す!

 

「へ……!?」

 

何とか転ばなかったが、そのまま大きく体勢を崩す。

 

「ヘイ、嬢ちゃんのスゲー反応に免じて教えてやるよ!そいつは俺の【人工太陽(ミラー・ボール)は眠らない】だぜ!はっは!いい重さだろ!?」

 

言われて、左足を見下ろす。そこにはいつの間にか、ぎんぎらぎんの足枷と、過装飾な鎖で繋がれたボウリング球くらいのサイズの球が、地面にめり込む様に出現している。

 

……そして、そのすべてがキラッキラのミラー素材で作られていた。あとなんかドラゴンやら孔雀やら鮫やらの前衛的な彫刻がゴッテゴテにあしらわれていた。ミラボ素材の。

 

「…………………」

 

「はっは!カッコよすぎて声も出ねえかい!?」

 

「……うわっ、だ、だ、だ、ダサいっ!!ねぇやだ!取って!これ一旦取ってくださいっっ!!」

 

「な……なんだとっ!?ダサい!?!?!??!!??」

 

今までにないくらい真に迫った懇願を繰り出すキリエと、今までの余裕がすべて吹き飛んだような驚愕の表情を見せるブーシュカ。

 

「うわぁぁん!こんなのつけて街中歩けませんよ!これとれるんですよね!?」

 

「おいちょっと待て!ダサくはねえだろ!?なぁ!訂正しろ!」

 

どことなく締まらない戦いは、ともかく男の能力から始まる。

 

---------

 

人工太陽(ミラー・ボール)は眠らない】は、ナザングル繁華街のとあるダンスフロア従業員の固有術式である。

 

術式を発動した状態で相手の四肢か首に素手の攻撃を当てると、そこに『枷』と『鎖』、そして『重石(ミラーボール)』が出現する。重石の重量は当たった攻撃の物理エネルギー量に比例し、繰り返し当てれば重量は加算されていく。そんなわけで、キリエの左足は囚人よろしくミラーボールを引きずる形となったわけだが、

 

(……本当にテンションの下がるデザインだけど、でも別に全く動けない重さじゃない……よね?)

 

そう、掠っただけのキリエの『重石』は、身体強化術式下のキリエには致命傷にはならない。それでも、これをほかの手足に全部つけられたら多分マズい、と直感的に判断し、早期決着のために前に出る!

 

「はっは!いいな、俺の『ミラーボール』つけられてそんだけだけ動くか!鍛えてんな嬢ちゃん!」

 

「うるっさいです、このっ!」

 

だん!と踏み込んで、横薙ぎに木刀を振るう。が、明らかに左脚を引きずったその動きは遅い。

 

「このっ……逃げるなっ!」

 

「逃げるさ!嬢ちゃん重そうだからな!」

 

ブーシュカは馬鹿にしたように、キリエの剣の間合いの少し外側でたんたんとステップを踏む。

 

(なんでっ……!)

 

だめだ、重い。これじゃ、体力ばかり奪われて、弱らされるだけだ。焦りがキリエの思考に紛れ込み始める。

 

攻撃は当たらない。大男の言う通り、この錘をつけてまともに追いすがるのは無理だ。

大振りになって体勢を崩したキリエの脚を、ブーシュカの軽打が正確に捉えた。

 

「おっと、今のはあぶねぇなぁ。まだそんなに動けるかい!だが、さすがにまともに差し合うには重そうじゃないか!」

 

「……ッ、なんで」

 

「だが、気付いてるよな。左足に2発、そんで右にも……『入った』ぜ?」

 

「……!」

 

言葉とともに、鈍い金属音とともに、キリエの右脚にも『足枷』が出現する。

キリエの顔色が明確に変わったのを見、ブーシュカは陽気に笑って、

 

「はっは!ちなみに既にミラーボールの付いてる手足を殴ると、ボールは増えねえがその分重くなるんだ!イカしてるだろ!?」

 

「イヤださいです。とっとと終わりにしません?これ」

 

「はっは。つれないな!」

 

だん!と、男が地面を蹴り、少女と距離を詰める。

 

「……ッ!!!」

 

キリエは殆ど上半身だけで双剣を振り回す。が、さすがに両足を封じられたキリエの旗色は悪い。

 

「はっは!ヒットアンドアウェイってやつだな!?」

 

「ぅー……っ!!この!!ばかに、してっ!」

 

(……、うぅ。右はともかく左脚は重いっ……!しかも、このまま重さを加算されたらほんとに動けなくなる……!)

 

手はないわけではない。だが、一度見られてしまえばあとは通用しないだろう。

 

「あっ!?」

 

「はっはぁ!『右腕』いただきだぜっ!!集中切らすなよ嬢ちゃん!」

 

ブーシュカがスポーツでもしているかのようなテンションで、陽気に言い放つ。サングラスの奥の瞳が笑っているのがわかる。うるさい、こっちは笑い事じゃないのに。

 

(っ、しまっ、焦ったぁ……)

 

がしゃん!と、キリエの右腕に枷が出現する。

 

(しかも、重さもかなり。こりゃもう右は振れないなぁ)

 

「へいへいどうした!終わっちまうぜ!!」

 

なんか陽気なステップを踏み始める男。それが自分への煽りで、こちらをいらだたせようとしているのがわかって。

 

だから、違和感に気が付いた。

 

「はーぁ……もういいです」

 

だらり、と。大男に追いすがるのをやめて、力を抜く。

汗みずくの服と上がった息が気持ち悪い。だけど、これでいいはずだ。

 

「はっは!諦めたかい、嬢ちゃん!だったら俺とお茶でもして時間潰すか!」

 

なぜって、

 

「おにーさん。これ、倒しに来てないですよね?……なんで時間稼ぎなんてしてるんです?」

 

「、……はっは!トークしてくれる気になったのかい?嬉しいね!」

 

「うるさい。質問してるのは私ですよ。お望み通り時間稼がれしてあげてるんですから、教えてくださいよ」

 

大男は、謎のステップをやめて。

 

「ま、いいぜ。なんかクールになっちまった嬢ちゃんに免じて話してやろう。言っちまえば、あのカワイイ魔術師ちゃんとどうしても戦りたい奴が、アッチにいるのさ」

 

「……へ?」

 

「ん?心当たりないかい?アンタは知ってると思ったが」

 

「……、まさか」

 

ぴくり、とキリエの目元が震える。まさかというか、心当たりと言われたら一つしかない。

 

この前のギルドだ。『キラザのパーティ』がギルド内で放った固有術式を、あの子が防いだ。結果としてキラザ達は大いに恥をかいた上に、リーダーは14日間魔力を使えなくなった、はずだ。恨まれる理由としては十分すぎる。

 

少なくとも、目の前の高ランク冒険者-----思い出した、Bランク冒険者第6位、『重枷のブーシュカ』だ--------が、わざわざFランクのキリエ達を分断なんて面倒なことをする、理由。

 

「このっ、あのカスハラやろうに雇われましたね……!」

 

もっとも、神視点で言えば、キリエの推理は外れている。崖下に居るのはミーシャの青色術式に感銘を受けた純情昭和珍走団で、キラザ達と直接的な関わりは皆無だ。

 

けれども、知りようのない情報の不足と、敵対者との短い会話というコミュニケーションエラーが、キリエの思考を最も妥当な誤解へと導いた。

 

「心当たりがあるみてぇだな。ま、そういうことだ。『キラザ』ディスっちまうんだもんな。ナザングルで今最もホットな冒険者だぜ、あんたら」

 

「…………!」

 

だが、その誤解が、結果的には眠れる虎を起こすことになる!

 

「……おっとぉ!?」

 

キリエが。

 

彼我の差5メートルを、一気に飛んでいた。

それだけではない。重石をものともせず、空中から大振りに木の双剣を振り下ろす!!

すんでのところで躱すが、ドレッドヘアの先が剣と擦れた。

 

「なぁ……!?バカな!?『ボール』全部がもう嬢ちゃんの体重くれぇはあるぜ!?」

 

「……っ、だぁぁ!!」

 

が、少女は止まらない。異様な雰囲気を纏ったまま土煙とともに地面を蹴る。恵まれた身体のバネを十分に生かしたキリエ本来の剣戟が、ブーシュカを襲い始める!

 

(な……なんだぁ?急に早くなった……そうか、身体強化術!)

 

「はっは!ヒトがわりいな!嬢ちゃんだって、さっきまで本気じゃなかったってことかい!」

 

重りを紙細工のごとく軽やかに引きずる少女に、防戦を強いられるブーシュカ。しかし、ただで押されるわけではない。ナザングル内でも武闘派急先鋒のブーシュカの目は、少女の異常な強化を冷静に観察し始める。

 

(この子のキリエの身体強化術式、確かにハイクラスの奴らと比べても遜色ねえな!だがこの異様な出力上昇、本当にそれだけか!?なんか……おかしくないか!?)

 

一方、キリエの決死の攻勢は終わらない。

 

ぶん!と振り抜いて、右の木刀の切っ先がブーシュカの頬を捉えた。同時にキリエの残心の右腕が、みしみしと悲鳴を上げる。

 

が、ブーシュカにも確実にダメージは蓄積していた。大男はたまらずたたらを踏んで、口から血の唾を吐き捨てる。

 

「……そうか!嬢ちゃん、限界超えで身体強化術式を使ってやがるな!?」

 

「だったら、なんです、かっ!!」

 

本気を出していなかった、ではない。既に出していた本気を超えて、壊れる覚悟がそこにはあった。そこまでするほどの思いが、崖下の少女に対してあるのか。

 

男が自らの計算違いに、おそらく今日初めて苦虫をかみつぶし。

しかし、キリエもその場で止まる。ぜぇぜぇと息を上げて、膝に手をついた。

 

限界。二人の脳裏に、同じ言葉が浮かぶ。

 

「……作戦変更だ。『それ』をやるんなら、黙って見ちゃいられねえな。嬢ちゃん、あんた優秀だ。ソウルもある。こんなクソイベントで潰れるこたぁねえよ」

 

「だったら、さっさと倒れて……!お願いだから!ミーちゃんが……!殺されちゃう……!」

 

「そうかよ。わかった。せめて、一旦動くな」

 

大男の纏う魔力が変わる。軽薄から真剣へ。陽気から怜悧へ。

 

(え……!?)

 

目のまえの男の変化、キリエが思わず防御の姿勢を取る。

 

が、動かない。

 

動かない。

 

真横に気配。

 

「が……っ!」

 

突如現れた本体の一撃が、キリエの側頭部をまともに捉えた。

 

視覚的に姿を消す『ライトオフミラー』、自分の幻影を大気に映し出す『ミラーバディ』。『鏡』を用いる固有術式から分化した小技の組み合わせが、キリエの意識外からの攻撃を可能にする。

 

キリエがなすすべもなくごろごろと転がり、倒れ伏した。がしゃん!と、キリエの首に枷が付いたが、キリエの反応は薄い。

 

「すまねぇな。『参加証』の防御式で、首は折れねぇようになってるはずだ。だが、それ以上動くならわからんぜ……っと」

 

ブーシュカの顔面に向けて、折れた木剣が飛んでくる。

 

がん!と、頭部……いや、男のサングラスにぶつかって、それを跳ね上げた。

 

「……ふ。まだやるかい。マジでリスペクトだよ、嬢ちゃん。今度はちゃんと、成人してから来、な……?」

 

違和感。

魔力で強化されたはずの木剣は、一体いつ折れた。決まってる、今までにない強烈な一撃を防御した時。

 

側頭部への打撃は致命傷になっていない。

 

(……っ、しまった!)

 

一瞬。

一瞬の油断。

 

絶妙の隙を突いて。木刀でブーシュカの視界が覆われたその瞬間、キリエが『消えている』。

 

(ッ、隠れるところなんてねぇ!どこに……!)

 

「く、らえぇぇえぇ!!!!」

 

正解は、男の背後、上空3メートル。残った木刀を、唯一ミラーボールが付いていない左腕で、思い切り振り下ろす!!

 

「……っぐ!!」

 

気配に男が振り返る。

 

(空間移動の術式!バカな、ここまで隠してやがったってのか!)

 

ブーシュカの脳裏に周回遅れの思考が出力される。が、その時には既に、回避できる間合いではなくなっていた。

 

軽薄男が、歴戦の冒険者でなければ脳天を割られていただろう。『参加証』の保護機能を一撃で破り、ゲームオーバーに追い込んでいたはずだ。

 

しかし、それでも、対ネームド魔獣専門B級冒険者、賞金稼ぎ『重枷のブーシュカ』の経験値が、咄嗟に右手を出させた!

 

ぱぁん!!

 

と、いい音がして。

 

木刀が、男の大きな掌に捕まっている。

 

「……いーぃ打ち込みだ。だがあぁぁぁあああ!!!?」

 

確実に肝を冷やしたブーシュカの脳内を襲う、揺り戻しとしての僅かな緩み。キリエにとどめを刺す前に勝ち誇った、その数秒が命取りだった。

 

木刀には、なけなしの魔力が循環している。アイディアは、少女が絶賛お気に入り中の魔術師の、【電撃防壁】。キリエの土壇場のセンスが、自身の魔力の質の変貌、雷撃への加工を成功させていた。

 

もちろん高等技術で、もちろん完全無意識である。

 

「あー…………えっと、電撃斬り(ビリビリザン)です。や、ごめんなさい、やっぱりまだ技名はなしで」

 

「はっは……お前も、ダサいん、かよ…………」

 

断末魔とともに、男が崩れ落ちる。

 

同時に、キリエの手足と首の枷とミラーボールが消滅した。

 

優勢を決めたのは、経験値と基礎能力の差。

勝者を決めたのは、隠した手札と根性の差。

 

「ふんっ。ミーシャちゃんの技をダサいだなんて、失礼なんですから!……あ、そうだ!そんなことよりミーシャちゃん!」

 

キリエは最重要事項を思い出し、崖に向かって走り出す。

 

……。訂正、一回戻って、ブーシュカの参加証を回収してから、もう一回走り出す。

 

キリエ・ミーシャチーム、参加証4個(2+2)、宝玉15個。

 




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