ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

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第二十六話 うまくいってる気がする時はだいたい何かをミスってる

 

縄梯子を登り切って、わたしは崖の上によじ登る。

同時に開けた丘陵から涼やかな風と柔らかい光が吹き込んで、思わず深呼吸した。

 

「ふーっ、登った登った。わ、いい風だなぁ。マイナスイオン……」

 

思い切り伸びをして息を吸い込む。

 

「ちょうどいい湿度に植物のにおい、太陽の光まで吸い込めそぐっへぇ!?」

 

ご機嫌ポエムを吟じかけたところで、無防備な胴に思い切りタックルを食らった。

 

「ミーシャちゃーーーん!!!!!!!」

 

「う、うわぁぁぁ!?や、やられたっ!?」

 

突然の奇襲になすすべもなく倒れ込み、目を白黒させて転がる。

 

「うわぁぁ!?待って待って!落ちる、落ちるから!」

 

芝生を散らして転がり、止まったところは崖から3センチのところ。

 

腰にがっちりと腕を回し、お腹に額を押し付けてくるピンク色の物体は、言うまでも無く今回の相方だ。

 

「キリエ、落ち着けってば!」

 

困惑8割の言葉に、キリエがわたしのお腹に顔を埋めたまま、眼だけでこちらを見る。

 

「ミーシャちゃん……よかった、怪我無い?キラザの人たちに……なにもされてない?大丈夫だよね?」

 

「あー。やっぱりそう思うよな。でもこれ、『キラザのパーティ』の仕込みじゃなかったみたいだ」

 

「へ……?違うの?」

 

「というか、崖の手前で抱き着いてくるなよな。落ちたらどうする」

 

「うん。……へへ、ごめんね、ちょっと焦っちゃってたかも」

 

「へいへい。いいから一回深呼吸しな。ほら」

 

キリエを落ち着かせようと、たすたすと弱く頭をはたきながら話す。大方戦闘でハッスルしてその興奮が抜けていないんだろうな、と適当に想像する。が、その顔色を見てそれが間違っていることに気付いた。

 

確かに汗みずくで、息も上がっている。まぁ、戦った直後ではあるのだろう。

しかしながら、それでは説明できないくらい、キリエの顔色はどう見ても悪かった。よく見ればあちこち擦り傷だらけで、転々と痣もある。治癒術式で跡形もなくなるだろうけど、それにしたって相当やられてるな。

 

キリエの額の汗をふき取って、それからふたたび驚く。

こいつ魔力が殆ど空っぽじゃないか。

スマホならSNSを開いた瞬間電源が落ちるくらいの残量だ。どんな戦闘をしたら一戦でここまで。

 

まさか、抱き着いてきたんじゃなくて、立っていられなくてわたしにつかまっただけか?

 

「……どうしたんだよ。一体何した?」

 

「へへ、うん。慣れないことしちゃったから、ちょっとね?あぁー、もう、修行不足だなぁ、わたし」

 

「や、だから、何したって……」

 

「ミーシャちゃんが無事でよかったよ。うん、その、ごめんね。もうちょっとお腹貸して……」

 

「…………あぁもう頬ずりするな。くすぐったい」

 

私は諦めてため息をつく。態度こそ冗談めかしてはいるけれど、具体的に何をやらかしたかは、言う気がないらしい。

 

「動け……なさそうだな。ほら。魔力分けるから、じっとしてな」

 

「んへへ……ありがと……」

 

わたしはため息をついて、キリエの背中を掌でさする。放した背中とわたしの手に、白く輝く糸がつながり、それを通してわたしからキリエに魔力が流入する。

 

【一蓮托生(フレンドコード)】。

 

すっかり使い道をなくした私の固有術式だけど、こういう時はやっぱり便利だ。なにかとスキンシップ願望の強い女だけど、疲弊しているのは事実だし、こいつがここまで弱ったのも、わたしがあっさり場外に運ばれたせいだ。私の魔力がこいつに行きわたるまでの間くらいは、まぁいいか。

 

 

------

 

「マスター、秘書です。戦績一覧が出まし……なんで飲んでるんですか……」

 

「ふむ、生中継には麦酒じゃろがい。街を挙げて観戦しとるのに、なんで一番準備頑張ったワシだけ我慢せにゃならんねん」

 

「…………もういいです。途中経過です。ご一読を」

 

「あー、よいよい。だいたい中継で見ておる。【キラザ】の2人じゃろ?大人げないのう」

 

「雇ったのはあなたです、ギルマス」

 

「んー?そうじゃっけ?」

 

「王都組は【キラザ】の二人の前にほぼ全滅しています。……ただ、現時点で所持参加証が29個。とにかく参加証を独占するつもりかと」

 

「ふむぅ。あれに対抗できるとしたら、ウチのギルドのブーシュカとナンゴートリオくらいかの?キラザの小僧っ子が、大した出世じゃわい」

 

「あぁ……その二人ですが。落ちました」

 

「……ほぉーう。【キラザ】組とかち合っとったか?ワシ、見逃したかも」

 

「いえ、現在彼らの【参加証】を所持しているのはミーシャ・キリエペア……例のFランクチームですね」

 

「ほっほっほ……マジ?」

 

「マジです。現在二人合わせて『参加証』は8個。ブーシュカ・グレンのB級ペアを各個撃破してから、順当に勝ち星を重ねてますね」

 

「ほうほう……今年も掘り出し物がちゃんとおったか。安心安心」

 

「特にミーシャ・ラッシュライフの戦闘は危なげというものがありません。まるでわざと余力を残して戦っているような……本気を見せたら負けと思ってさえいるような。いままでどこにこんな子が埋もれていたのか、秘書は大いに疑問ですね」

 

「ふむ、埋もれておったとは限らんがな。ゼレンディアの死体はまだ揚がっとらんのじゃろ?」

 

「御冗談を。ミーシャ・ゼレンディアが隠れる理由がありません」

 

「ふむぅ。そうかもしれんのう」

 

「それにしても、【キラザ】組にここまで参加証を握らせて大丈夫ですか?おそらく【キラザ】組も【小宇宙】を獲りに来ると思われますが」

 

「当然じゃな。怖いのう。本当にあれを持っていかれてしまっては、流石に領主殿から大目玉じゃて」

 

「……どうせ、何か仕込んでるくせに」

 

「ん?なんか言った?」

 

-----------

 

「クソっ!強え!攻撃が一切通じねえぞ!?ぐはぁあ!?」

 

「あぁ!ロイドがやられた!」

 

「アイツC級拳闘士じゃねえのかよ!F級の女に負けてんじゃねえ!」

 

「ちぃっ!とにかく後ろの青色術式使いだ!アイツがこっちの攻撃を全部防いでやがる!そっちから潰せ!」

 

「潰せってお前……があぁ!?」

 

「ぐぅ、あの魔女みたいな女に脅されなきゃところかまわず戦闘なんて……畜生!退却っ!退却だー!」

 

「キリエ、崩れた!止めろ!!」

 

「うんっ!」

 

やたらマッチョな拳闘士と盗賊ルックの女性を派手に木刀で吹き飛ばしたキリエが、おー!と嘘みたいな気合の声とともに瞬時に姿を消す。

 

瞬間移動術式。

 

何気に超便利な固有で消失したキリエの出現位置は、総崩れになって逃走を始めた残りの4人の目の前だ。

 

行く手に突如現れたキリエがにっこり、と良い笑顔で首を傾け、右掌を出す。

 

「はい、失礼します。痛いことはしないので、『参加証』くーださい?」

 

「う、うわぁぁぁ!?で、出たあぁぁ!!!」

 

絡んで来たときの威勢はどこへやら、尻餅を突いたり躓いたりとバリエーション豊かな反応を見せる。が、やがて全員があたふたと立ち上がり、さらに振り返って逃げ始めた。

 

「ミーシャちゃーん!いったよ!」

 

「おっけ。任せろ」

 

ここで時間切れだ。遅れて追いついたわたしは、既に三方向への電撃防壁の設立を完了している。

 

「うぎゃああぁぁあ!?」

 

薄青色のそれに無防備に激突した彼らの身体にわたしの魔力が急速に流入し、雷に撃たれたように全員が気絶して倒れ込んだ。

 

「いぇーい!ないす連携!いぇーい!」

 

「いぇーい」

 

ぱちーん、とハイタッチするわたしたち。

 

「どっちに逃げてもミーシャちゃんの『びりびり壁』の餌食だもんね。えげつないなぁ」

 

「そうでもないよ。地中と空は開いてる。カバーしてるのはキリエのいない3方向だけだ」

 

「あはは。ノアセンパイじゃあるまいし、咄嗟に飛ぶのは思いつかないねぇ」

 

キリエが倒れた冒険者の懐から参加証を抜き取る。

 

「あ!この人達、参加証いっぱい持ってるよ!お得っ!」

 

「あぁ、まあ、4人組だったからな。たぶん今みたいに、少人数の相手を囲んで叩いたのかもな」

 

「あー……なるほど」

 

キリエが納得したという風に頷く。

 

「でもこれで、『参加証』がちょうど20個になったね!案外あっさり揃っちゃったねぇ」

 

「あぁ、だな」

 

私たちが持っている参加証は、自分たちのも含めて13個。さらにこいつらが7つもっていたから、ぴったり二人分、【小宇宙】のある場所への入場券を得たことになる。

 

でもなんだろう、こいつら、戦闘向きの能力の奴はCランクのステゴロ男だけだったのに、妙に必死に向かってきたな。

 

「こいつらボロボロだな。キリエがやったんじゃない傷も結構あるよな?」

 

「うん、この人達、2.3回打っただけで簡単に倒れちゃったんだよね。最初から動きもへろへろだったし。相当連戦してそう」

 

「……うぅん、なんでだ?」

 

どう見てもこいつら、『小宇宙』を狙う感じのパーティじゃない。

探索に長けたもので集まって、適度に宝玉を集めてクリアするのが狙い、としか言いようのないパーティ構成だ。

 

ま、考えても仕方ないか。

案外、宝玉の奪い合い自体、そこかしこで起こっているのかもしれない。

 

「で、キリエは大丈夫か?疲れはない?」

 

「ミーちゃんが魔力補給してくれるから大丈夫!むしろ、ずっと絶好調なんだよね。へへ」

 

「そっか。でも、あんまり供給し過ぎる中毒になるからほどほどにな」

 

「うん、大丈夫大丈夫。この調子ならあと2日は動けるよ!」

 

「大会時間はそんなに長くないからな」

 

「えっへへ。わかってますよっ」

 

キリエがおどけて敬礼して見せる。

たぶん強がりだ。わたしが大体の攻撃をシャットアウトしているとはいえ、痛打も貰っている。いくら魔力切れじたいを防げても、身体そのものの限界は近づいているように見えた。

 

回収が終わって気絶した人を一応道の隅に運んでいると、そのうちひとりの懐から何かが転がり出る。

 

「あ、宝玉。ラッキー、貰っていこ」

 

「あれ、ごめん、見逃してた?ちゃんと探したと思ったんだけどなー」

 

「ま、そういうこともあるよ……あれ?これ……」

 

何の気なしに拾って、驚く。

 

「NO.85……、私の杖っ!?」

 

「え?ミーシャちゃんが探してたやつ?」

 

「うん、よ、よかった……あっさり見つかってくれて本当に良かった……!」

 

杖の封じられている宝玉を思わず胸に抱く。『キラザのパーティ』組に確保されてたらあきらめるしかなかった。僥倖すぎる。

 

「よかったね、ミーシャちゃん!」

 

「うん、うん……!ありがとう、キリエ……!」

 

やばい、ちょっと涙出てきた。

 

「それ、『静香の森』で落としたやつだよね?そんなに大事なものだったんだねぇ……」

 

「大事だよ。育った教会で貰ったやつなんだ。なんやかんやで8年間使いこんでもいるから、あるとないとじゃ大違いだよ」

 

「うんうん、思い出いっぱいなんだね」

 

キリエが光の笑顔で何か勘違いをしているようだが、今はいいや。

 

わたしは目尻を拭って、

 

「さ、行こう。次はキリエの目標を達成しにいかないと」

 

「……うん、そうだね!行こう!」

 

おー!と二人で拳を突き上げる。

 

宝玉はもうかなりの数が回収されているらしく、わたしの感知に引っ掛かる数も減ってきていた。

 

「んっ、反応ありだ。今までの傾向からして、次の宝玉はあそこの尖塔の中っぽいな。そろそろ【小宇宙】にかち合うかもしれないな」

 

「【時計塔広場】だね!スタート地点の!わーい、ミーシャちゃんさすが!大好き!どんどんいこうっ!」

 

そう。この時のわたしたちは、イベントのすべてにおいてうまくやれていた。

 

格上をあっさり倒し。

偶然にも大量の『参加証』を手に入れ。

都合よく目的の宝玉を簡単に見つけて。

 

幾つもの偶然が重なり、わたしたちはゲームクリアの流れにうまく乗れている。

 

だから、わたしは気づかない。

 

些細な違和感に、引っかかれない。

 

明らかに戦闘向きでない4人ぽっちのグループが、半死半生になりながら戦っていた理由も。彼らが何者かから脅されて、戦闘を繰り返していたらしいことも。今手に入れた宝玉【No.085 楡の杖】が、他の宝玉とは微かに異なる魔力を放っていたことも。

 

わたしの探知の範囲外で、No.085の宝玉反応が114個同時に消失したことも。

 

「……ミーシャちゃん?」

 

「なんでもないよ。行こう」

 

ふ、と心の端に掠めた不安を無視して、わたしは【時計塔】に向かう。

 

イベントの制限時間、あと1時間12分。

 

そろそろ陽が傾き、橙色に変化しつつあった。

 

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