ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

27 / 63
第二十七話 かわいそう。この人かわいそう

『時計塔』は、ナザングル北地区のほぼ中心にある、高度数十メートルはあろうかという塔である。

 

古めかしいレンガ建ての建築に、アナログ式の巨大な時計が四方についている、ナザングルに住む者で知らないものはいない北地区のシンボルだ。

 

「……というか、スタート地点だったな。ここ」

 

宝玉の魔力をラーニングする前だったからか、全然気が付かなかったよ。

 

「そうだね。塔の……どのあたりにあるのかな?やっぱり一番上の時計のフロア?」

 

「うぅん、そこまではわからないな。上のほうなんだと思うけど。魔力波が妨害されてるっぽいな」

 

「?」

 

微妙にジャミングされていて、正確な位置が掴みにくい。塔の1階と、それから最上階付近になんか大きな魔力を持ってる奴が構えているな。

 

時計塔の上だとは、思うんだけど。

 

「今まで見つけた宝玉にない隠蔽がされてるってことだな。ギルマスの言ってたことを考えたら、『参加証』を使うギミックに覆われてるってことだろ」

 

「……!それって」

 

キリエにも緊張が走る。

 

「ああ、多分『小宇宙』……じゃなくても、なんかの重要アイテムだと思う」

 

言いながら、時計塔の門を押してみる。

 

ぎぎぎ、と思い音を立てつつも、おおむね抵抗なく開いた。塔の1階のひやりとした空気が流れ出てきて、小さく身体を震わせる。

 

中に足を踏み入れる。中はがらんどうで、足音と声が思いのほか大きく反響した。

小窓から差し込む夕日を加味してもまだ薄暗い空間の壁沿いに、登りの階段だけがぽつんと設置されている。

 

「……ミーシャちゃん」

 

「うん」

 

キリエの声の理由は明らかだ。

 

上につながる階段の前に、一人の女性が壁に寄りかかるように立っている。

 

女の人は、わたしたちに気が付くと手に持っていた文庫本を閉じて、階段の中央に移動した。

 

……というか、

 

「あれ、チハルさん?」

 

「あ、いらっしゃ……へ、ミーシャちゃんとキリエさん!?」

 

「チハルさんじゃないですかー!いぇーい!」

 

「い、いぇーい?」

 

ぱぁっと顔を明るくしたキリエが謎のハイタッチを求め、チハルさんが困惑気味に応じる。

 

……バニー衣装の。

 

……なんで?

 

「どうしたんですか?こんな薄暗いところで……そのフリフリ、すっごい似合ってますね!どこで売ってるんです!?」

 

チハルさんを褒めつつも、一瞬キリエがこっちを見た、気がする。なんだろう、物凄い悪寒がした、今。

一方チハル(バニー)さんは大ダメージを受けたらしく、胸元を両手で抑えて大きくよろめく。

 

「ふぐあっ……うぅ……あたしだってギルドマスターに言われなきゃ、こんなところでこんな……こんな格好……!」

 

「へ?あのおじいちゃんに言われて?ですか?なんで?」

 

キリエが首をかしげる。

 

「え、あ。あぁ……そうでしたそうでした。んんっ……おっほん」

 

「?」

 

「えっと……『わたしこそが塔の管理者。よく来たな愚かなる冒険者よ!【小宇宙】が欲しければあたしを突破して二回の扉を……」

 

「…………」

 

「と、扉を……通過してみてくだしゃい……」

 

ふたりでじーっと見ていたら、チハルさんが徐々に顔を真っ赤にして俯いてしまった。だよね。その格好きついよね。

 

し、締まらないことこの上ない。

かわいそう。この人かわいそう。

 

「へ?要するに門番のチハルさんを倒さないと上に行けないんですか?」

 

「えぇ、その通りですとも!このイベントの【最後の門番】!チハル・ロップイヤーがお相手します!よ!ええ!!」

 

チハルさんがヤケクソ気味に大見得を切る。

 

その瞬間、背後にざぁ、と魔力が展開される。階段全体を覆う魔力。たぶん、何かの術式をセットしたな。

 

そして驚くべきは、魔力の密度と淀みない魔力展開。

 

同時に、チハルさんの雰囲気が変わる。彼女の周囲だけが、少し暗くなったのような錯覚。いつもの営業スマイルに、むしろ底の知れない圧すら生まれている。

 

「『さ……来なさい。遊んであげますよ?』」

 

「……!こう見えて意外と隙が無い!……それはそれとして!」

 

「当たり前だ、この人、滅茶苦茶上手いぞ。しかも珍しい黒色術式……それはそれとして」

 

それはそれとして、もうちょっと見てるか。面白いし。

 

「……なんですかその顔はぁ!やめて!生暖かい眼でこっちを見ないで!!とっととかかってきてくださいよ!卑怯ですよ!わぁぁん!」

 

さっきの威圧感は宇宙の彼方、顔を真っ赤にして頭を抱える期間限定チハルさん(バニー)。

 

「うぅ……もうやだ……仕事辞めたい……ぐすっぐすっ……」

 

「ち、チハルさん!大丈夫ですって!ちゃんと可愛いですって!」

 

「本当ですか……年甲斐もなく何やってんの……とか思っていませんか……」

 

「ぜ、ぜぜぜ全然……!!うん、本当に心の底から違和感ないです!だいじょぶです!」

 

あられもない姿でうなだれる年上と、なぜかフォローに回っているキリエをぽけっと眺めていると、横からちょいちょい、とキリエがわたしの裾を引いた。

 

(……ミーシャちゃん。このまま気を引いておいてくれる?一瞬あれば、空間転移で一気に階段の上まで飛べると思う)

 

(……、や、待て。たぶんそれはダメだ)

 

(?)

 

(むしろ、ちょっと私に考えがあるんだけど、いいかな?)

 

ギルドでのキラザの醜態を思い出す。

 

キラザをなすすべなくギルド外につまみだした、チハルさんのあの固有術式。

魔力の分布から、今たぶん展開している、術式。

 

【相手が魔力を使った瞬間に、強制的に魔力の出力をゼロにし、同時に二人の用心棒を呼び出す】。

 

答え合わせはしていないが、概ねそんなところだろう。

 

だとすれば、こんなに門番に向いている人もいない。逆にこんなに羞恥に悶えているのにチハルさんのほうからは仕掛けてこないのも、単に向こうから攻め手がないからと考えれば納得がいく。

 

「…………………」

 

わたしは黙ってチハルさんを警戒する。

 

キリエがえ?え?って顔で交互にわたしとチハルさんを見ているが、そっちは一旦無視。

 

気まずい沈黙が、どれだけ続いたか。地面に手と膝をついて慟哭していたチハルさんがぴたり、と動くを止める。

 

チハルさんは顔を上げて、

 

「……え?あれ?なんで仕掛けてこないんです?本当に。こんなに隙だらけなのに」

 

「えっ、あの、えへへ……ミーシャちゃん、なんで?」

 

「ん?これから行くさ。キリエ、行ってこい」

 

「……、」

 

ぴくり、とチハルさんが反応する。

 

「へ?あ、ミーシャちゃん、あの、嘘だよね?私のこと見捨ててないよね?」

 

「……みすててないよ」

 

「棒読み!!」

 

仕方ない、こういうのはあまり好きじゃないけど。

 

「キリエ……信じて?キリエじゃなきゃ、ダメなんだ」

 

「うぐっ……かわっ、わ、わかったよう……」

 

わたしの全力お願いに、キリエがよろめく。はよいけ。

 

ともかく肌に刺さりそうな密度の魔力の対流の中を、キリエが恐る恐ると言った感じで進む。

 

恐る恐るという感じだったけど、結局何事もなく二回の扉にたどり着いた。

 

「……へ!?なんで!?あれ!?チハルさん!?舐めプですか!?」

 

キリエの驚いた声が2階から聞こえる。

 

「キリエ、扉タッチしたな?……オッケー。チハルさん、これでいい?」

 

「……うぐ、はい、正解です……なんでわかったんですか?」

 

チハルさんが肩を落とし、魔力を解く。

 

「『一定以上の魔力を放ってる相手だけに発動する』固有術式だよな?間違ってても、チハルさんなら殺されやしないだろうし」

 

「はーぁ、よくみてますねぇ。というか、キリエちゃん疲弊し過ぎじゃないです?術式不使用とはいえ、わたしの網に本当に引っかからないなんて」

 

「……げ。いや、そんなこと、ないですケド……」

 

キリエが眼を逸らす。ま、チハルさんの言う通りだ。だからこそ、疲労困憊のキリエじゃないと先行できなかった。

 

実験台になんてしてないよ。ほんとだよ。

 

「ふふ、まあいいでしょう。それでは、『参加証』の確認を……はい、19個、ですね。どちらが入られます?」

 

わたしとキリエは顔を見合わせ、頷く。

 

「はいっ、私が行きます!」

 

「承知しました、参加証は自分のもの以外は回収します」

 

「了解。あ、キリエ。わたしが持ってる分の宝玉も一緒に持って行ってもらっていいか?」

 

「はーい。えへへ、責任重大だなー」

 

わたしは自分で持っていた分の宝玉をキリエに渡す。……、

 

「……あ、あれ?」

 

「へ?何何?」

 

「なんでもないよ。じゃ、手筈通りにな」

 

「うん、頑張るね!」

 

キリエが階段の上の扉を開き、くぐろうとして、ふと振り返る。

 

「ここまでこれたの、ミーシャちゃんのおかげだよ!ありがと!」

 

「へいへい、はよいけ」

 

花の咲くような笑顔を見せるキリエに、わたしは曖昧に手を振った。

 

--------

 

「『門番』のちー……チハルさんが突破されましたね」

 

「……」

 

「マスター?ハンカチをどうぞ。凄い汗ですよ」

 

「…………はっ!ちょっとあの世が見えとったわい……!うぐぐぐぐ!!なんちゅうこっちゃ!塔の上の【あの景品】を取られたらマジでまずいぞい!」

 

「そんなに困るならなんで設置したんですか?ボケはじめですか?」

 

「ぐぐ……いろいろとあるのじゃよ……にしてもチハルめ、露骨に手を抜きおって……」

 

「はぁ。マスターがセクハラ衣装着せるから、命令に対するモチベーションがないんじゃないですか?死んでくださいよ」

 

「あん?あんなんワシが命じてたら、イマドキコンプラでスパッと首が吹き飛ぶわい。というかなんであいつあんな格好してんの?」

 

「へ?」「へ?」

 

「……まぁよい。シュリ・イレイナ組……『キラザのパーティ』を動かすのじゃ」

 

「あぁ、本当にやるんですね。本当、恥とかないんですか?」

 

「ふん、ワシの使命はギルド運営よ。ギルドはなんやかんやで必ず守る。そのためにも【小宇宙】はギルドの手に置いておかねばならぬのよ」

 

「はい。わかっています。……あれ?」

 

「なんじゃ?」

 

「シュリさん、通話に出ませんね。いつものことですが」

 

「まったく、きゃつは……説教じゃな、全く」

 

「イレイナさんは……、急速に移動中。魔力通話確立できません。結論、シュリ・イレイナ組、連絡ロスト。どうします?」

 

「…………は?」

 

 




毎日投稿予定です。
感想、評価など頂けると喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。