ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

30 / 63
第三十話 なんとかするしかない!

「ミーシャ。いっしょに帰ろ?」

 

ずあぁ!!とイレイナの背後で漆黒の魔力が膨張し、それから一気に収縮する。さながら心臓の鼓動のようなその動きには意味がありそうでない、ただただあいつの気分だ。

 

イレイナ・マーキュリーは戦闘において術式を全くと言っていいほど使わない。

 

奴の固有術式が極めて使いにくいというのもあるが、メインの理由は『使う必要がないから』だ。

自然に漏れ出る自身の魔力を操作しぶつけるだけで、たいていの敵は消し飛ぶ。

 

それがイレイナ・マーキュリーというA級魔術師。

固有術式を使いこなしていないというその一点だけでS級に上がれていない、怪物。

 

こんなのの前ではイベント支給の『参加証』の防御性能など、木の葉同然だ。本当に死ぬって。

 

「相変わらずメチャクチャだな、バカやろう!」

 

やけっぱちで叫びながら、前面にありったけの青色術式を展開する。

イレイナの指の動きに合わせて飛んできた黒塗りの魔力の枝が、私の障壁にぶつかってはじけた。枝のように見えるのは、大気との魔力圧差で不規則に屈折しながら飛翔してくる、高濃度のエネルギー体だ。

 

あれに当たった魔物がド派手に爆散する様は、仲間だったころに嫌というほど見ている。

 

(ハチャメチャすぎる!でも全く対応できないわけじゃない!なんとか隙を探してこじ開ける!!)

 

冗談みたいな魔力のかたまりを必死にいなしながら、なんとか糸口を探す。

勝機は『深奥』。対象の座標内に直接盾を形成して切断する、青色術式の禁じ手。

 

イレイナ本体を切断する気はさすがにない、が、彼女の周りに渦巻く無限量の魔力、その流れをぶった切る。あれだけの魔力量だ。多少乱れるだけで自爆するはずだ。たぶん。してくれ。

 

「ねぇ、どうしたの?」

 

吹き飛ばされそうな奔流の向こうから、イレイナの声が聞こえる。聞き慣れた、眠そうに間延びした声。

 

漆黒の渦の向こうで、ドレスの女が小さく首を傾げる。

 

「さぼらないで。ミーシャ、眠いの?」

 

うるさいな、ほっとけ。青色を除くほとんどの魔術回路は、【ロッドテイカー】戦の影響で潰れていて使いものにならなくなってるんだよ。まぁ、こいつはそんなこと知らんか。

 

ばちばちと、至近で漆黒の枝と青透明の盾が激突し、派手に弾ける。盾のストックがガンガン減らされているのに、突破口は一向に見えない。

だめだ、とてもじゃないが反転攻勢は無理。どうする。

 

果たしてイレイナは、規格外の物量を放ちながらも、いたってゆったりと、わたしに話しかけてくる。やめろ、大量破壊兵器を繰り出すことと世間話を両立させるな。こっちはどっちか片方だけでも手いっぱいだ。

 

ちなみに、こいつの黒い枝で狙われて2撃以上保った魔物は、知る限りSSランク『聖典の防人』とキラザだけだ。

いける。この化物に青色術式だけは通用している。あとはこれを、キリエとの合流時間まで持たせられるか。

 

「相変わらず、いい青だね。またうまくなった?」

 

「そりゃ、どう、も!!」

 

ごめん嘘。かなりきつい。

普通に即死級の枝を反射神経だけで叩き落とすの、あと三分も続けないといけないって本当かよ。でも、やるしかない。くそわよ。

 

必死で即応防壁を立て続ける。100、110、120。あぁもう、数えてられるか。

 

一方、敵は余裕だ。それどころか、一つため息をついて、

 

「『青色』は、ちゃんとあの子だけど。でも、やっぱりおかしい。どうして『青以外の術式』は使わないの?ねぇ、どうして?すねてるの?」

 

イレイナは攻撃の手を緩めないまま、全く呼吸を乱すことなく眉根を下げて、

 

「……使う余裕がない、のかな?それとも使えなくなってる?だとしたら、悲しい」

 

かちん、とくる。

 

イレイナが適当に煽ったであろう言葉は、ムカつくが当たりだ。

わたしが青色以外の術式のほとんどを喪失したのはSSランクダンジョンボス『ロッド・テイカー』との戦闘のためで、それは元をたどればキラザのパーティに、魔王領のまんなかで一人放逐されたからだ。

 

だからといって、わたしは、本来こいつらを恨むつもりなどなかった。

なんと言い訳しようと、ああなったのはわたしが弱かった結果だから。

 

それでも。

 

「わからないけど、弱くなってる。どうしてそうなっちゃったの、かな?残念」

 

だけど、それでも。

お前がそれを言うのか。

 

……言い訳させて欲しい、わたしだって冷静じゃなかった。具体的な話をするなら、イレイナの超々高圧力の魔力に当てられていた。いわゆる『魔力酔い』ってやつだよ。暫く触れていなかったA級の魔力に、精神が異常に高揚していたんだ。

 

だから、気付いた時には口から言葉が飛び出ていた。

 

「あぁ?お前のダイスキなミーシャ・なんとか様はもっと強かった、って?今更何言ってんの?バカなの?」

 

ぴくり、と。漆黒の女の肩が揺れる。

言わないほうがいい、言っても何の意味もない台詞を、口走っている自覚はあった。

だけど、もう止まらない。

 

「お前らが捨てたんだろ!お前らが要らないって言ったんだろ!そいつ『静香の森』で死んだよばぁか!弱いと思うならもういいだろ!放っといてよ!!」

 

「………………。は?」

 

その瞬間、だった。

 

ぴたり、と。

 

さっきまで大嵐の如く吹き荒れていた黒い魔力が、嘘みたいに消失する。

二人の間に枯葉が一枚、妙にゆっくり舞い落ちた、その音まで妙に明瞭に聞こえるくらいの静けさ。

 

「……ぁ、嘘、違っ、ごめ、」

 

異様な雰囲気。異様な沈黙。

 

違う、空間の魔力が消えたんじゃない。

あの嘘みたいな量が、全部、イレイナの体内に収束したんだ。

 

なにか来る。と思った時には、もう遅かった。

 

次の瞬間。

音も、光も、魔力の起こりすら感じられない。

 

イレイナの背後の空間から、真っ黒な触手が飛び出して、わたしの胴に直撃する。

 

声は出なかった。

気が付いたら、わたしの首から膝くらいまである蛸の脚みたいな触手が、わたしを時計塔の壁に抑えつけている。

外から見たら、巨大な槍が、塔に人間を磔にして貫いているように見えただろう。脚は動かなくもないけど、地面についていない。やらかした。

 

多分固有術式じゃない、やってることはさっきまでと同じ、単純な魔力放出だ。

それなのに、形が黒い枝から触手めいた禍々しい形態に変化した。なにこれ。同じ人間から出る魔力がこうまで変わることってあるのか。

 

「……っ、ぁ」

 

いや、それより、これ、息、吸えな、

 

「ねえ、ミーシャ。なんでそんなこと言うの?」

 

ゆらり、と。

 

ドレスの女が、ちからなく左右に揺れながら、こちらに歩いてくる。

 

「あの子は死んでなんていない。わたしの、あのこが。あんなところで死ぬわけ、ない」

 

譫言のように呟く女。

 

ちょっと待ってほしい。こっちは息ができないんだって。

 

なにかが。

なにかが食い違っている。

 

もうろうとした頭で考えようとして、残された酸素が食われていく。空転する脳内でばかみたいな結論がぼんやりと浮かんで。

 

……だめだ落ちる。

だけど、手はある。あと一つだけ。

 

とりあえず。イレイナはなんでそんなゆっくり歩いてくるの。わかったからはよして。

ちょっと。本当に窒息するから。ねぇ。あの。お願いもうちょっとだけ早く来て。




毎日投稿予定です。
感想、評価など頂けると喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。