ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

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第三十二話 どうでもよくなりゃいいのに

あの後、にっこにこのチハルさんに広場まで連行され、待ち構えていたギルマスに賞賛の言葉と謎のトロフィーを貰い、ゲットした宝玉をアイテムに戻してもらって、簡単な閉会式は終了した。

 

そのあとホームギルドに戻るや否や、中継を観ていた顔見知り達に囲まれてあれやこれやとヒーローインタビューを受けまくり、背中を叩かれたり頭を撫で繰り回されたり、葡萄酒を流し込まれかけたりしているうちに、すっかり夜もふけてしまっていた。

 

一番驚いたのは、キリエが本物の『楡の杖』の宝玉を持っていたことだ。

瞬間移動でイレイナをぶん殴った瞬間に、懐に見えたものを掠め取ってきたとのことで、やっぱり意外と抜け目のない奴だった。

 

『小宇宙』はシュリが手に入れたところを、偶然飛来した巨大な飛竜によってぺちゃんこにされたらしい。その結果、2人組がともに生き残った唯一のペアとなったキリエとわたしが優勝という処理になったみたいだ。

 

酒場と化したギルドの喧噪から抜け出して、わたしは軒先で夜風に当たっていた。

 

これで優勝なのは釈然としないけど、杖は手元に戻ってきたし、賞金もまぁまぁ貰えたし。

大変だったけど、一日分のクエスト報酬と考えればかなり破格だ。

 

「ふー……」

 

水のグラスを傾けて、長い息を吐く。

夜の冷えた空気がお酒で火照った身体を冷やしてくれて、何とも心地が良かった。

 

「む。ここにおったか、冒険者ミーシャ」

 

なんとなくぼーっとしていると、背後から声をかけられる。

 

眼だけで振り向くと、そこにいたのはギルマスだ。

葡萄酒がなみなみと入ったグラス2つを器用に片手で持って、よ、と軽い調子で声をかけてくる。

 

「いや、何杯目ですかそれ。大概にしといたほうがいいですよ」

 

酔いに任せて半目でディスってみる。

ギルマスは気分を害した様子もなく片目を瞑って、

 

「片方はお前のじゃて。あんた、そうとうイケる口じゃろ?」

 

「どうも。でも、そろそろ明日に響きそうなんで」

 

「ちぇ、つまらんのう。老人の世間話には付き合うもんじゃぞ」

 

そう、天下のナザングルギルドマスター様も、しれっと祝勝会?に参加していたのだ。

 

「ギルドマスターこそ、そんなに飲んで大丈夫ですか?」

 

「ふん、若いもんとは年季が違わい。この程度まだまだ三割弱よ」

 

その年期は蓄積していくタイプのやつじゃないだろうか、主に肝臓のあたりに。

 

「いや、じゃなくて、あの秘書みたいな人が頭抱えてましたよ?」

 

「……マジ?怒ってた?」

 

「マジです。怒ってましたけど、明日には何も覚えてないかもしれませんね」

 

あの秘書さん、荒くれ者どもに捕まって飲まされまくった挙句、据わった目で愚痴大会を開催していた。

普段からストレスたまってるぞ、あれは。

 

「……冒険者ミーシャ、あの子酔い潰しといてくんない?」

 

「ギルドマスター、お断りします。ちゃんと怒られてください」

 

「うむ、死んだわワシ」

 

にこり、と久々の聖女エミュで返す。

 

ギルマスはグラスの片方を豪快に空けてふぅ、と息をついてから、

 

「にしても、とんでもない精度の『青色術式』じゃのう。冒険者イレイナの『枝』を青単体で返しきるのはブチ壊れとるわい。あれはどこで習った?師は?」

 

「孤児でして。拾われた教会のシスターに教わりました。自己流のアレンジで原型はないですが、なにぶん暇だったもので、つい凝ってしまったといいますか」

 

出自を尋ねられた時の設定は前もって考えてある。

淀みなく返答すると、ギルマスは豊かな髭を撫でつけながら、

 

「ふむぅ。そうか、偶然じゃのう」

 

「偶然?」

 

「うむ。この街にはかつてもう一人、ミーシャという『青色術式』使いの冒険者がおってな。……あれは青使いというより、数ある適正術式の中で青が一番得意なだけ、という風でもあったがの。本当は何色が最適術式だったんじゃろうな?」

 

「へぇー……オシイヒトヲナクシタッスネ」

 

「うむ。だがミーシャよ。例えばそやつが生きておったら、と思うとどうじゃ?」

 

「、」

 

「それだけでなく、別人になりすまし、自らの死を偽装する理由は?」

 

わたしの視線を感じているのかいないのか、老人は飄々と続ける。

 

「いや、偽装した、というより、せざるを得ない事情があったか?おぬしはどう思う?」

 

「……それ、世間話ですか?」

 

「睨むな睨むな。無論、くだらんもしも話じゃよ。A級の特権も、全ての資産も、聖女の仮面も。持っとるもんをおよそすべて捨てたミーシャ・ゼレンディアの、その心やいかに?」

 

「さぁ、わかりません。死体で遊ぶな不謹慎野郎、って、きっとそのミーシャなんとかはそう思ってますよ」

 

にべもなく返す。

いろんな意味で、もうミーシャ・ゼレンディアに未練はなかった。

 

「ふはは!そうかそうか、そりゃそうじゃろうて!」

 

さすがに怒られるかなと思ったが、老人はがははと大笑して、機嫌良さそうに二杯目の葡萄酒を呷る。

 

「おぉ、今宵は冷えるのう。冒険者ミーシャも風邪ひく前に戻るんじゃぞ」

 

ギルマスがあっさりと背中を向け、ギルドの明かりへと歩み出す。

 

それなんとなく見送っていると、ふとギルマスが振り返り、

 

「そうじゃ、これも世間話なんじゃけどな。『キラザのパーティ』のイレイナ・マーキュリー。脱退したそうじゃよ」

 

「……それは」

 

「シュリアナ・シュナイデンは怒り狂った飛竜に圧し潰されたが奇跡的に軽症なんじゃと。意味わからんくね?」

 

「わぁ、詳しいですっ!さすがギルドマスターさん!」

 

わたしのヤケクソ気味のスーパー聖女エミュに、ギルマスは似合わねーと笑ってから、

 

「ふむ、期待しておるよ冒険者・ミーシャ。貴様の願いがこの地で叶いますように」

 

十字を切って、今度こそ老人が建物に消えていく。

訂正、最後に一言くれた。

 

「あ、お前の相方顔真っ青にしてトイレに駆け込んどったぞ。介抱してやった方がよくね?」

 

「え!?うへぇ、あいつ、調子に乗るから……!」

 

わたしは残りの水を飲みほして、とりあえずキリエを回収しに行くことにした。

 




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