ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
「ふふん。こんにちはこんばんは皆さん。今最もミーシャちゃんに信頼されている女です!」
「おはようキリエ。お前はいつでも元気だな」
「…………ワァ」
ギルドカードの遠隔通話機能で呼び出してから、ものの数分でギルドに飛びこんできたキリエは、相当急いだのか息を切らしている。それなのにいつもの衣装はばっちり決まっていて、不思議と髪もほとんど乱れていない。不思議だ。女の子としてのレベルの違いを感じる。
当のキリエはといえば、突然の呼び出しにもかかわらずなんだかご機嫌な様子で胸を張っていて、今にもむふーと鼻息が聞こえてきそうだ。
「そういうわけだ。キリエならFランクだから、チハルさんの財布にも優しいってわけさ」
「ちっちっち。この前のイベント優勝のポイントでEランクに昇格したよミーシャちゃん!」
「あ。そうなんだ。まぁでも、ワンランク位なら報酬にそこまで差は出ないよな」
「……そ、それでは、お二方ともそれでいいですね?」
「うん、それで頼むよ」
「はいっ!お願いしまーす!」
実際、わたしの護衛としては、これ以上の人選はないだろう。
護衛の経験だけならもっと上の戦闘員もたくさんいるんだけど、知らない人に四六時中護衛してもらうのも気疲れしてしまうし。
「あ。宿どうしよ。忘れてた」
わたしはふと思い出す。キリエを呼び出すのに気を取られていた。
「あ。どうします?ギルドの保養地なら一応、手配できますが」
「うぅん……ま、いいや。よく考えたら移動中って結構危ないだろ。わたしの部屋が結局、守りやすいよ」
といっても、ナザングル市街の安宿だけどな。
もともと冒険者の長期滞在を前提に営業している宿で、そろそろ3か月になるから、そのシングルの一室はもうわたしの部屋みたいになっている。
「え!ミーシャちゃんのお部屋!?いいの!?」
「つっても普通に、安い一人用の旅館だぞ。むしろ狭くて申し訳ないくらいだよ」
「う、うれしいけど……ほ、本当に?どっきりじゃない!?」
「なんでだよ。友達を自分の部屋に泊めるくらい、別に普通だろ」
「と、ともっ!?ミーシャちゃん……!」
なにやら口元を両手で押さえて、瞳を潤ませつつ膝から崩れ落ちるキリエ。おっと、久々にちゃんと気持ち悪いな。
ところで、
「……チハルさん?どうしたの?なんか汗かいてない?間違ってギルドの料理に毒スライムを混ぜて一日提供しちゃったのに夕方気が付いたみたいな顔してるぞ」
「…………い、いえ。なんでも。全ッ然、なんでもないですけど。いや本当に」
「ち、チハルさん?ほんとうに大丈夫ですか?うっかり知り合いをカースドドラゴンの巣に突き落としちゃたみたいな顔色してますよ?」
「は、ははは。今日なんか暑くないですか?もう、スーツ脱いじゃおっかなぁー……!あは、はははは……」
わたしとキリエの心配に、なにかをごまかすように笑うチハルさん。ちなみに今日はちょっと肌寒いと思う。
-------
わたしの家に戻る前に、食糧を買い込んでいこうということになった。
「なにせ36時間だからね。今からなら昼ごはんと、夕ご飯、明日の朝……」
「明後日の朝までの食糧が要るな。しかも二人分、うへ、結構買いこまなきゃ」
「そうだねぇ。ミーシャちゃんのおうちに多少の食材はあるよね?」
「いや、ない」
「そ、そうなんだ。食パンくらいは」
「ないな」
「調味料……」
「塩はある。あとはワインとクラフトジン」
「そ、そっかぁ……」
「あ、さすがに水道は通ってるからな。水は出るぞ」
キリエが引いているので、一応注釈を入れる。
小さいが部屋にキッチンとお風呂がついているのが、わたしの借りている宿屋のアピールポイントなのだ。
「なんでそれで『あまりなめるなよ?』みたいなドヤ顔が出来るの……?」
「失礼な。ここ借りるの割と苦労したんだぞ」
「いや、違くて。なんでそんな限界出張ビジネスマンみたいな疲れた生活をしてるのミーシャちゃんは」
「今日のキリエなんか容赦なくない?」
わたしだって別に料理をしないわけじゃないぞ。むしろギルドで食べるとき以外は適当ながら自炊派である。
しかしそれでも、冒険者という仕事の関係上、食事は不規則かつ適当だ。要するに、買い込んでいたところでまあまあの食材が腐るのだ。なんどか失敗して、その日食べるもの以上のものは買わないようにしていた。
「そういうわけだから、一から買いに行こう。何食べたい?」
「うぅん、とりあえずお肉と野菜を買っていこうか。あと卵。それから、主食にお米とパンと……」
キリエが指折り数えて、
「あ、でもお金大丈夫?割り勘するにしても、まあまあな金額になるよ」
「あぁ、大丈夫だよ。チハルさんからお金貰ってるんだ」
あの後、よくわからないけど顔色の悪いチハルさんに金貨を3枚も握らされた。曰く「どうかご無事で……!」とのことだが、キラザ達がダンジョンに帰った今、わたしをわざわざ狙う奴なんてそんなにいない。
普通に生活するだけだからとやんわり断ったが、鬼気迫る表情のチハルさんに最終的には押し付けられてしまった。まぁ、あまり固辞するのも悪いし、あと大金に目がくらんだよね。
「これで三日間は絶対外に出るなって。チハルさん、心配し過ぎだと思うんだけどな」
「うぅん、なにかチハルさんには心当たりがあるのかな?確かに、顔色悪かったしねぇ」
「だったら直接教えてくれるだろ。心配性なだけなんだよ」
「それか、言いたくても言えない相手、とか……?」
ふたりして首を傾げる。これだけの情報で答えが出るわけもなかった。
「ま、いいや。ミーシャちゃん、はい!」
ぽけっと商店街の店を眺めながら歩いていると、キリエがこれでもかと顔面を輝かせながら、ずいっとこちらに手を差し出してくる。
「ん?」
「はぐれたら護衛できないからね!ほら、手出して!」
「ん?わかった、はい」
「…………」
「なんだよ。買い物行くんだろ?」
「ミーシャちゃんって、たまにすっごい『くすぐって』くるよね……」
「何が……?」
コイツのピンときたポイントがどこなのか微塵もピンと来なくて困惑する。
が、この女が割と独自の感性を持っていることもそろそろわかってきたので、わたしは肩をすくめて受け流すことにした。
「母性本能ってやつかな、これ……。ミーシャちゃん、実は私の娘だったりしない?」
「何回も言うけど、キリエのほうが年下だからな?」
毎日投稿予定です。
評価、感想頂けると喜びます。