ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
気を取り直して、私とキリエはギルドのカウンターの一角に陣取る。
チハルさんは珍しく呆れ顔で「なんだか過失の2割くらいはミーシャさんにある気がしてきます……」とか車対スマホの交通事故みたいなことを言っていたが、ともかくキリエに何かの書簡を手渡すと、そのまま次の冒険者の対応に移ってしまった。
キリエがそれを几帳面に開封して、折りたたまれていた中の紙を開く。わたしはそれを横から覗き込みながら、
「手紙?」
「うん、ノアセンパイからだよ。あの人、たまにこうやって近況報告してくるんだよね」
「へぇ……」
「まぁ、その……それだけじゃないこともね……あるんだけど……」
「?」
首を傾げるわたしにキリエはハハハ、と乾いた声で笑って、
「しれっととんでもない事態に巻き込まれてたりするんだよ、ノアセンパイ。だからこうして定期連絡くれるのは安心ではあるんだぁ……」
おぉ、遠い目をしている。キラッキラの瞳がトレードマークのキリエにしては珍しい。
「そ、そうなのか?しっかりした大人の女の人、みたいな印象だったと思うけど」
静香の森で共闘した時は、無数の崩死霊に囲まれても余裕を失わず、冷静に、かつ戦意も高く立ち回っていたと思う。確かにやや天然風味ではあったけど、戦闘についてはまあまあ年季が入っているとみていた。
が、わたしの言葉にキリエはがばっ!とこっちを向いて、
「そう、そうなの!見た目はあんなエリート女上司!!みたいな感じなのに、あの人はホントにっ!なんだろう、巻き込まれ体質っていうかっ!ぽやっとしてるっていうか!」
拳を握ってわなわなと震えながら力説してくる。こいつにここまで言わせるノア、想像がつかない。
「う、うん……?とにかく、手紙にはなんて書いてあるんだ?」
「はっ!?そうだね、読もっか」
気を取り直したらしいキリエとともに、書面に目を落とす。
『こんにちは。お久しぶりです。何事も無く過ごしていましたか。わたしはげんきです。ナザングル恒例の残虐バ……宝探しイベントで優勝したそうですね。とてもすごいです。珍しい品も手に入れたようで、また見せて欲しいです。ミーシャちゃんとも仲がよさそうでうれしいです。友人が増えるのはよいことだと思います』
なんかちょいちょい感想が小学生の絵日記みたいだけど、いい手紙じゃないか。キリエのことを知人として心配しているのがよくわかる。文面からいい人感がにじみ出てるよ。
『私も、例の森で助けてもらった後、御礼と勧誘を兼ねてミーシャに会いに行こうと思っていたのですが、次のクエストの舞台となった水上都市で、街ごと肉食魚の大群に囲まれ身動きが取れなくなっておりました』
「うわうわ、大変じゃないか。大丈夫だったのかな」
「まぁ、空も飛べるはずだからねぇ。手紙も出せてるし、なんやかんやで無事だったんだろうね」
キリエがぺらりと手紙をめくる。小さな便箋だったけど、二枚目にもびっしりと文字が続いていた。
『なんでも数百年に一度の異常気象に伴う、
「……んっ?」
色々言いたいことはあるけれど、それ倫理的に食べていい魚?大丈夫?
『その後、ナザングルの街に帰る途中に立ち寄った村で土着神の祠に気分で祈っていたら、反信仰の住民に座敷牢に閉じ込められてまた身動きが取れませんでした』
「えっえっ、なんて?急に一章くらい飛んだ?」
『最終的に土着神の怒りを鎮めるための生贄にされかけて、現地でできた友人と祠を破壊し脱出したのがつい一月前です』
「相変わらずだなぁ、あの人……」
「相変わらずなの?これ相変らずなの?ねぇ?」
クエストに行っただけで、自然災害と因習村に巻き込まれていた。この文脈だけで本が二冊出そうだ。
「まぁでも、比較的無事そうでよかったよ」
「だからこれ無事なの?これ比較的無事そうなやつなの?」
心底ほっとした顔のキリエに、わたしは思わずくってかかる。
だめだ。ツッコミが追いつかない。
「うん、今回は状況の説明があるだけいいよ。辞世の句だけがポンと届いた時は本当にどうしようかと」
「なにそれこわい」
相当エキセントリックな星のもとに生まれていそうな人だった。あんなクールビューティなのに。というか、二人が静香の森でSS級の魔物に追われてたのって、もしかしてこの人のせいなのでは。
文章はまだ続いている。
『そんなこともありましたが、私は元気です。ただ今回はさすがに少し疲れたので、実家で静養しています。ミーシャさんにもお会いしたいです。私の分析によれば、あの子はもふもふし甲斐があると思います。よかったら皆様でお越しください。歓迎いたします』
そんな便箋の裏に、一枚のポートレートがはみ出ている。
見ると、美しい砂浜と青い海を背に、白いワンピース姿のノアが笑っている様子が描かれていた。
うわ、いいなぁ。
わたしは生まれつき真っ白だから、綺麗な黒髪ロングは素直に憧れる。
「へー。ノアの実家って海岸地域なのか?この感じは西海岸かな?」
「うん、あの人エルゼアのいいとこのお嬢様だよ。いいなー、バカンスいいなー」
キリエが両手で持った手紙をばたばたと振ってうらやましがっている。
エルゼアといえば、わたしでも聞いたことのある避暑地だ。
史跡名勝天然記念物、なんでもござれの観光地。貴族連中にも人気が高いバカンスビーチとかなんとか。
あと蟹がおいしいらしい。カニ。海に面するひとつながりの浜がそのまま漁港になっていて、それはもう大ぶりのカニが年中取れるのだとか。
海産物全般だいたい好きだけど、蟹は特に好きだ。
いいなぁ。蟹食べ放題いいなぁ。
というか、
「これ招待されてるよな?行けばいいんじゃないか?」
「うぅ、行きたいっ!けど……、エルゼアでしょ、馬車でも片道3日はかかるよ。クエストに穴をあけすぎるのもね……」
「あぁ……」
良い感じの息抜き旅行の前には、まぁまぁ現実的な問題が立ちふさがっているのだった。冒険者は自由業とはいったいなんだったのか。朝っぱらから理想と現実の差を思い知らされるEランク二人である。
うぅ、と唸ってカウンターに突っ伏すキリエ。
その拍子に、ノアセンパイの写真がひらりと舞ってわたしの手元に収まる。
なんとなく、本当に何となくそれを裏返してみると、
P.S。
高原地帯の奥の山林から、謎の八頭身の木製人形が湧き出してきて住民を襲っているようです。悪い魔術師のしわざかなぁと思います。
同時に特産品の天然蟹が凶暴化して海辺で暴れまわっており、まともに漁ができない状態のようです。どちらもかなり数が多いらしく、お父様とおじい様から報償金かけられました。
この地方の冒険者の皆が戦っていますが、ほとんど歯が立たないようで、魔力が回復したら兄と一緒に助太刀に行くつもりです。
「「……」」
二人で顔を見合わせる。
「なぁ、これ……」
「うん、また……」
この人変なことに巻き込まれてるよ。
言葉に出さずとも、目と目で通じ合った瞬間であった。