ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
「へぇぇ~~!本当に迷子ちゃんなんだ。珍しいねぇ。一人?あ、わたしはキリエ!公式ランクはFクラスだよ、よろしくねっ」
わたしから事情を聴いた後、そう言って膝を折ってずいずい、とわたしの目をのぞき込んできたのは、見るからに溌剌とした雰囲気の女の子だった。
ぱっちりした目元といかにもな愛嬌のある童顔と、肩まで届く明るい色の髪が特徴的で、服装はシンプルなリボン付きの白いシャツとブラウスにオーバーサイズのジャケットを羽織っていて、それが不思議と似合っている。下は動きやすさ重視なのだろうか、ひらひらしたプリーツスカートの下には三分袖くらいのスパッツが見え隠れしていた。
垢抜けた現代っ子のように見えるけれど、よく見れば腰には二本の短剣が武骨な鞘ごとぶら下がっていて、あぁ冒険者なんだな、とぼんやり思う。
背格好はわたしより一回りくらい大きい。もっとも、その立ち振る舞いから察するに、案外あまり歳は離れていないのかもしれない。
「は、はぁ。どうも、わたしはミー……シャと申し、ます?」
警戒度を測りかねたわたしの微妙な返答に、キリエスタットと名乗った女はやはり気にした様子もなく楽しそうに笑った。
「いいよ、いいよ。敬語なんて。あなた、多分同年代だよね?ここまで来れる冒険者で、同じくらいの歳の女の子って珍しいから感激しちゃった!わたしのことはキリエでいいよ。よろしくね、ミーシャちゃん」
がっしりと手を握ってぶんぶんと振る女。
疲れたわたしの身体は、体格差もあってがくんがくんと振り回されるがままだ。
なんだこいつ。距離感がこわい。
こちとら同年代の女の子どころか同年代の人間と接すること自体8年くらいぶりだぞ。
なめるなよ。
結果としてあたりさわりのない微笑を浮かべていると、キリエが何か感極まったように口元を抑えて、
「み……ミーシャちゃん、ものすっごいかぁわいいねぇ。大聖女様みたい……あ、大聖女さまっていうのは王都のね……」
なんて話し始める。
マシンガントークに呆気に取られていると、背後から、別の声が息を切らした様子で割り込んできた。
「キリエっ、よかった、ここにいたんだね……あれっ、その子どうしたの?新手?倒す?」
現れたのは、ハイテンション女とは対照的な落ち着いた雰囲気の女の人だ。黒のロングヘアが似合っていて、クールで物静かそうに見える反面、切れ長の目はくりくりと大きく、可愛らしい印象も受ける。
なんだろう、うまく言えないけど、同性のわたしから見てもかなり見た目が整っているな。
普段なら男装とか似合いそう。普段なら、と限定するのは、このお姉様が、クールそっちのけのほうほうのていで私たちのところに逃げ込んできたからだ。
なんだ、どうした。
それに反応したのはハイテンション女だ。
「あ、ノアセンパイ!あはは、この子は飢餓霊体(ゴースト)なんかじゃないですよぅ。さっきレジェンダリーでラグジュアリーな出会いを果たした防御術師のミーシャちゃんですっ!どうです、小さくてきゃわいいでしょう!」
だからわたしは17歳で。いや、なんというか、脱線してる場合なのか?
ノアセンパイと呼ばれた女性は、ぜぇぜぇとなんどか呼吸を整えた後、
「うん……うん?こんなところで一人……?大丈夫、その子、本当に実体ある?」
「ありますよう。だいたいこんな小ぎれいなゴーストがいるわけないじゃないですか。ゴースト系の魔物って言うのはもっとこう、大体落ち武者とか落ち冒険者とか、そんな雰囲気ですよっ」
「キリエ……縁起でもない。うん、でもそっか。てっきりキリエが悪霊に魅入られてるのかと思った」
「えぇ、わたしそんなに信用無いです?」
「え?うん……キリエ、かわいいものを見つけたら理性飛んじゃうし……今だって敵の集団から逃げてる途中なのに、なぜか友達増やしてるし……」
「うぐっ、そ、それは……、さ、さすがにとっくに振り切ったんじゃないかなって……それにこの子が襲われたら危ないかなって……」
「あ、あのっ!!逃げてるってなんですか?」
わたしは我慢できずに会話に割り込む。なんか聞き捨てならない単語が複数聞こえてきたぞ。飢餓霊体?集団?逃げてる?
ノアセンパイは、わたしのインターセプトに一瞬言葉に詰まってから、
「んん、そうだね、説明しないとだね。私たちは今『亡霊街』のゴースト集団に追われててね。これがもうしつこくて」
「ちょっぴりちょっかいかけただけなのに、一晩も追い回すとか酷いですよねぇ」
「ね。大変」
「なんでちょっと他人事なんだっ……なんですか!?というか『亡霊街』!?Aランク最上位ダンジョンの『亡霊街』ですか!?」
なんでそんなところにたった二人で入ってんだ。
そしてなんで飢餓霊体にダンジョン外まで追われてんだ。あいつらダンジョンの魔力がないと存在保てないはずだが。
ノアセンパイはわたしの詰問にも、意外にもマイペースを崩さない。
「うん、それからごめんね。多分、巻き込んだと思う」
「え----------」
形のいい両目にまっすぐ見据えられて、思考が一瞬空転する。
が、そんなわたしを現実に引き戻すように、ざざざざざ!!!と周囲の背の低い草木が一斉に揺れて、無数の何者かが姿を現す。気配から、とにかく数が多いということだけはわかった。
こいつらの説明通りだ。わたしたちの前に現れた一団は、飢餓霊体、公式名称スターブゴースト。
そして数が多い、物凄く多い。人型、動物型、魔物型…その他形を保つことすら怪しいぐずぐずの飢餓霊体の混成部隊が、百鬼夜行のごとく大挙してこちらに襲いかかろうとしている。
「うわ。下級ゴーストは数をたのむものだけど……それでもなんだこの数。奥にまだめっちゃいるし」
「ぎゃ、今度こそ逃げ切ったと思ったのに!!やっぱり今回、なんかおかしくないです!?」
わたしのつぶやきは聞こえなかったらしく、キリエがうげぇと嫌そうに顔を歪める。
「うん、仕方ないね。かなり最深部まで侵入しちゃったし。なんとしても私たちの身体を乗っ取りたいんだろうね」
「なんでそんなに他人事なんですかノアセンパイ!戦いますよ!!あ、巻き込んでごめんねミーシャちゃん!私たちが守るから、後ろに隠れてて!」
威勢のいいことを言いつつ、キリエが腰のベルトから小振りの曲刀を二本抜いて、半身に構える。
「キリエの言う通り、本当に私達のせいだから。ミーシャは出なくていい。任せて。けちょんけちょんにしてくる」
「ノアセンパイ、今日日けちょんけちょんはないです」
「そう……?」
言い合いをしながら、ノアセンパイが背中から折り畳み式のマスケット銃を取り出し、がちゃりと肩に担いだ。
なんだろう、ありがたいといえばありがたいが、この数の差をどうする気だ。
怪訝は顔に出ていただろう、けれど、二人はそんなわたしに取り合う様子もなく臨戦態勢に入る。
「ノアセンパイ、固有術式!まだ飛べますか!?」
「だめかも。さっき翼折られちゃったから。魔力は残ってるから、魔導銃は撃てるよ」
「結局白兵戦ってことですね!援護お願いします!!!」
「うん。ゴーストに身体を乗っ取られないように気を付けて。最悪取り戻せなくなるからね」
「わかって、ます!!」
言うや否や、キリエが追いすがってくるゴーストの一団に向かって吶喊する!!
自信があるだけのことはありそうで、キリエがだん!と地面を蹴ると、その姿がかき消えた……少なくとも本気でそう見えるくらいには速い。
10メートルはあった敵との距離を瞬時に詰め切り、相手に反応すら許さず剣を振り下ろす!
「あ、でもちょっと待った!霊体に物理攻撃は-----」
毎日投稿予定です。
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