ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

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第四十四話 凶兆

「……ふぅ。た、食べた……」

 

「うん……も、入らないかも……」

 

 わたしとキリエがようやく落ち着いたのは、フルコースがすっかり終わってからだった。

 

 最後のカニ雑炊が特によかった。やばい。なんとかナザングルでも再現できないものだろうか。出汁を再現出来ればなんとかならないかな。

 

「ん。二人とも、満足してくれたようでよかった」

 

「本当にありがとう、ノアセンパイ。正直ここまで凄いものを食べられるなんて思ってなかった。……そうだ、そろそろ話ってのを聞かせて欲しいんだけど」

 

 わたしはデザートのアイスを小さなスプーンですくいながら、ようやく本題に入ることに成功する。記録、2時間38分。野球ならひと試合済んでる。

 

 ノアはぴくりと肩を揺らしてから、黒い髪を揺らして深く頷き、

 

「……うん、そうだね。あなたたちを呼んだのは、そう。【木人形】の件を解決してもらうため」

 

「手紙で言ってた、山から下りてくる木の人形のこと、だよな?」

 

 戸惑い気味にノアに尋ねる。あれ、かなり貧弱だったぞ。わたしたちでなくても、なんなら冒険者でなくても普通に撃退できると思う。テーブルに突っ伏していたキリエも顔を上げて、

 

「そうですそうです。今のところ蟹さんズのほうがかなりやばそうですよ?普通に大きいし硬いし、強かったです」

 

 二人の質問に、ノアは少しだけ目線を下げて、

 

「……うん。まず、この蟹-----『ペールクラブ』っていうんだけど……本来、遠洋の海の底に住んでて、あんな風に浜辺に上陸してくることなんて、産卵期以外はほとんどないの」

 

 横のキリエが首を傾げて、

 

「へ?普通に出てきましたよ??」

 

「そう。ここ数か月くらいかな。突然、あんな風に現れては人を襲うようになったんだ」

 

 アドナの言葉と一致するな。

 時期的には先に山の人形が出て、それから魔物の凶暴化、って順序か?

 

「ちなみに、原因とかはわかってたり……?」

 

 ノアセンパイが首を振る。

 

「わからない。倒した死体を調べても、何もなし。暴れた蟹は身が硬くて質が落ちるし、損壊も大きいから売り物にならない」

 

「……あー」

 

「二人みたいに身を傷つけずに、なおかつ瞬時にシメられる人は、この辺には少ない」

 

「な、なるほど……」

 

 ただ単に倒せばいいというのではない。凶暴化の原因をはっきりさせないと、この問題は根本的には解決しない。凶暴化した魔物を殲滅するだけでは、この地の生命線である蟹漁が死んでしまうのだ。

 

「原因はわからない、けど。蟹が凶暴化した時期は、あれが現れた時期に一致する、の」

 

「木人形ですね。あれが山に出始めたころから、カニもおかしくなったと」

 

「……?知ってるの?」

 

「ここに到着してすぐ、うごめき山の研究者の人に会ったんだ。アドなんとか」

 

「はぁ。アドナ教授、また勝手に山に入ったんだ。護衛つけるって言っているのに……もぅ」

 

「あはは。ノアセンパイに先を越されたくないんだって言ってましたよ?研究費がどうとかって」

 

「あの人。聖域に関する研究をしているから、最近は保守派の議員さんからのプレッシャーが強いんだよ。無視でいいのに」

 

 ノアが肩をすくめる。

 わからんけど、アドナが一方的にライバル視しているだけ説があるな。

 

「アドナさん、そんなに凄い人なんです?」

 

「凄いよ。山の聖域研究の第一人者なの。木人形の出所もあの人が突き止めたんだ。条件付きとはいえ【禁踏区域】に進入を許されている数少ない魔術師なの」

 

「へぇ……というか、そもそもあれってなんなんです?そんなに脅威になります?」

 

 キリエの疑問に、ノアは首を振って、

 

「ん。私たちも最初はそんなに気にしてなかったんだけどね。でも、人形は人を攫うことがわかったんだ。それも、戦えない老人とか、小さい子供ばかり」

 

「あー……そういう」

 

 キリエの納得に、ノアもうなずいて、

 

「地元の冒険者で対処はしてるけど、とにかく数が多くて。調べようにも、倒した木人形は本当にただの木片でしかなくて、正体はわからない」

 

「……なんで攫うんです?殺すでもなく?」

 

「それもわからない。でも、攫われた人は一人も帰ってきていない」

 

「そ、それは……いえ、すみません」

 

 言わんとすることはわかる。それは流石に、生きてはいないだろう。

 

「あれの正体がわかれば。魔物の凶暴化の原因もわかるかもしれない。……ううん、わからないといけない。漁業ができなくなったら、この街は、滅ぶから」

 

 ノアセンパイが淡々と続けた。

 なるほどな。

 

 まずこの街の蟹は特産品で、それがほとんど獲れなくなると困る。次に、そんな状態で海辺の観光産業を維持することができるわけもない、と。

 特に後者は実体がどうであれ、評判が広まれば終わりだ。意外とノアセンパイも焦っているのかもしれない。

 

 それにしたって、木人形。木製の、人形か。

 そんなものが自然発生するわけがないよな。誰かが必ず糸を引いている。そして、人形が本当にただの人形の物体でしかないなら、その背後にいるのは『操作系術式』の持ち主だ。

 うん、ちょっとわかってきた。

 

「だから、二人を呼んだの。『ロッド・テイカー』を倒した二人なら、なんとかしてくれるんじゃないかと思って」

 

 領主からの歓迎の理由はそれか。

 

「つまり、その『木の人形』と『蟹』を調べてみればばいいんだな」

 

 ノアが頷いて。

 

「それだけじゃない。凶暴化した蟹も、木人形も、段々数が増えてる。撃退するだけでも、そろそろ人手が足りないの。冒険者相手の懸賞金も限界」

 

「雑魚モンスターも見つけ次第始末してほしい、ってことですね!」

 

 キリエがぐっと拳を作って続ける。

 ま、いいか。もともとモンスターハントで旅費稼ぎをする気満々だったし。

 

 キリエのアイコンタクトを受けて、わたしは小さく頷く。

 

「わかったよ。とりあえず明日、もう一回蟹を見に行こう。で、できれば人形も回収してきたい」

 

「……ん、ありがとう」

 

 ノアがほっとしたように微笑む。

 

「こっちにいる間は、この屋敷でお世話する。今日はもう休んで。……あ、忘れてた。あした、お父様の所に連れて行かないといけないんだった」

 

「領主様のことを忘れちゃ駄目ですよノアセンパイ!」

 

「えへへ」

 

「えへへ!?滅茶苦茶無表情でえへへ!?」

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