ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

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第四十六話 ゲームだったらレベリング回だね!

「キリエ、行ったぞー!」

 

「うん、任せて!」

 

「キリエ、ごめん。そっちいった」

 

「はいっ、了解です!」

 

 そんなこんなで、キリエとノア、それからわたしの三人は、とりあえず海辺に出て蟹を倒すことにした。アドナさんのフィールドワークは来週とのことで、彼女はいったん研究室に帰っていった。

 

 領主権限で対地入り禁止区域に指定されたこともあり、ビーチには人っ子一人いない。かといって、わたしたちが白い砂浜、青い海を独り占めしているとはとても言えない。

 

 何故か知らんが蟹の数が明らかに多かった。

 なぜだ。昨日までは何なら普通にビーチで遊べていたはずだ。それが今日は、赤々とした甲羅を乗せた甲殻類が、そこかしこに闊歩している。

 

 一応浜辺と街の間に障壁を張っておいたから街への侵入はないけど、これ時間の問題では。

 

「……あ、キリエ。ごめん、そっちいった」

 

「なんでっ!こっちに、ばっかり!?」

 

「頑張れ前衛。お前が抜かれたらわたしたちは即死だからなー」

 

「ミーシャちゃん、の、嘘、つきぃっ!!」

 

「頑張って、キリエ。大丈夫。今のキリエ、輝いてる」

 

「うわぁん!黙れぇ!センパイだけど!センパイだけど黙れってください!」

 

 息たえだえのキリエの背中に思い思いのエールを送るわたしとノア。

 

 これはなんというか、三人の職の関係上仕方ないことで、魔術師のわたしと、魔導銃使いのノアセンパイをタンク兼前衛のキリエが守っている形だ。後衛二人が打ち漏らした敵は必然的に二人を守るキリエの所に来るのである。蟹さんサイドも手負いの死に物狂いで向かってくるので、それはもう大変そうだ。

 

 わたしが仕込んでおいた据え付けの青色術式も、既に二枚が破損している。全部で何枚あるのかって?忘れた。へへ。

 

「頭の上から中枢神経を突くと一撃で倒せるんだけど、それを安全にできるのがキリエの空間移動なんだよな。身体能力も高いし、あいつは意外と使い減りしなくていいな」

 

「うん。小回りも効くし便利。体力もあるし、案外、頭もいい」

 

「案外って、なんですか、ノア、センパイ!!!」

 

「…………」

 

「そしてなんで黙るのかなミーちゃん!?」

 

「それにしても、だいぶ狩ったな。もう20はやったんじゃないか?」

 

「うん、本当に助かる。この辺の冒険者は皆、あの蟹に苦戦しっぱなしだったから」

 

「そうなの?結構昔からいるモンスターなのに?」

 

「そう……なんだけど、本来、あの蟹はあんまり人を襲わないの。強いのが分かったのはかなり最近だよ。それに、この辺、冒険者と言っても採集と漁業メインの人が多くて、戦闘職はあまりいないの」

 

「へぇ~。そういうのも地域性なんだなあ。観光都市として栄えてるのも、そういう風土だからなのか?」

 

「ん、そうかも。のんびりした人が多くて、喧嘩も犯罪沙汰も少ないよ。ナザングルとは確かに雰囲気、違うよね」

 

「あっちは前線に近いし、冒険者の街って感じだからなあ。流れ者も多いし地域性なんてあってないようなもんだ」

 

「ノアセンパイ!ミーシャちゃん!世間話は後にして!?」

 

 声に前衛を見ると、キリエが一匹の蟹と鍔競り合っている。比較的元気なやつがわたしとノアの弾幕を突破してしまっていたようだ、ごめん。

 

「おっと。ごめん。くらえ」

 

 わたしが杖を振ると、ずばん!と蟹が縦一文字に分割された。うん。『楡の杖』は絶好調だ。宝探し大会で取り戻せて本当に良かった。

 

「ふーっ、ふーっ……ありがとうミーシャちゃん!あ、またいる!あっち、岩陰のほう!!」

 

「あ。あんまり一人で先行するなよ。昨日みたいに砂浜からも出るぞ」

 

「うん!わかってる!」

 

 汗を拭うキリエだったが、目ざとく新手を見つけると、駆け出していく。丁度倒せるくらいの魔物と動きやすい気候で、いい感じにヒートアップしているようだ。

 わたしとノアは目配せをして、キリエを追って岩場に向かって走り出した。

 

「いたぁ!観念しなさい!そして今夜の晩御飯となりなさい!」

 

 キリエが蟹を追い詰めて、びし、と非常にカッコいいポーズで双剣を突きつける。

 ……それと同時に、新手の蟹がどばぁ!と地面から飛び出した。キリエの左側方と背後から。ちなみに右は海、正面は切り立った岩場な。

 

「ほら囲まれた!下がれっ!」

 

「うん!!って、えぇ!?ちょっと待って、まだ出てくるよ!」

 

「嘘、なにこの数!?」

 

 わたしたち三人驚きの声が重なる。

 さらに地響きのような轟音がそれをかき消した。

 

 蟹が砂浜に隠れていた、それはいい。

 キリエが何かのスイッチを踏んだかのように、鮮やかな琥珀色の蟹が周囲の地面から出て、出て、出て----数秒のうちに、キリエだけを分断するように、甲羅の石垣を形成した。

 

 すごい、20近くいるぞ。一体一体が二階建てくらいの体高だから、結構な壮観だ。

 

「な、なんだこれ!?なんで!?」

 

「っ!援護する!!キリエ、集中を--------きゃん!?」

 

 が、思考がまとまる前に、間を置かず後衛から叫び声が上がった。振り返れば、丁度ノアの真下から蟹が飛び出、勢いよく突き上げられたノアが中空に浮いている!

 

 それを目の端で捉えて、わたしは姿の見えないキリエに向かって大声で叫んだ。

 

「キリエ!戻って来い!!」

 

「うんっ!!」

 

 返事と同時に、キリエの気配がかき消える。

 瞬間移動術式。行き先は上空十メートル弱くらいは浮きあがったノアだ。

 

「キャッチ!です!」

 

「ん。キャッチ」

 

 二人が空中で接触し、同時にノアセンパイの背中に純白の翼が生えたことを確認。

 唐突に標的を見失った蟹の軍団がぴたりと停止し、それから全く同時に、真っ黒な目でぎょろりとわたしのほうを見た。

 

 わぁ不気味。だがもう遅い。

 

 楡の杖の先端の魔石に、空間の魔力がすべて収束する。

 

 魔力を凝縮した杖を勢いよく砂浜に突き立て、

 

「------------【大空断ち】!!」

 

 宣言と同時に、ぞん!!!と、周囲の魔力が分断される独特の音が響く。

 一瞬遅れて、数十はいた蟹の集団が、巨大な日本刀の一振りで両断されたかのように、一本の割線で分断される。どさどさどさ!と敵の倒れ伏す音がしばらく響いて、静かになってから、わたしはほっと息をついた。

 

「わぁ!さすがミーシャちゃんっ」

 

「なんて出力……。相変わらず、とんでもないね」

 

『大空断ち』。よしよし、うまくいった。

 

 巨大な切断面を全方位に形成する、空断ちの応用版だ。

 ごめん嘘。応用じゃなくて、ただのでかい『空断ち』である。

 

「うぅっ、重ぉ……」

 

『亡霊街』で霊体と戦った時の反省から作った、対集団用の大技だ。機能すれば今みたいになる反面、魔力の消費はばかみたいに多い。

 そもそもが魔力消費の問題で実用化が不可能とされてきた【空断ち】の、よりにもよって巨大版だしなぁ。しゃーない。急劇な魔力消費で視界がブラックアウトしかけ、ふらりとよろめいて、大きな翼に支えられる。

 

 蟹もさすがに弾ぎれらしく、新しくポップする様子はなかった。

 

「お疲れ様、ミーシャ。大丈夫?」

 

「ノア、ありがと。一瞬気絶したけど大丈夫だよ」

 

「それ大丈夫って言わないよミーシャちゃん!?」

 

「すぐ復活するから大丈夫なんだって。ほらもう元気」

 

「いやいや、ふらついてるってミーシャちゃん。顔色も最悪だし……ほら、今日はもうご飯食べて寝よ?ミーシャちゃんの大好きなカニ料理も出るよ?」

 

 こいつの中でご飯で釣れる系の女にされているのはさておき、わたしは羽根越しにノアのほうを見て、

 

「なぁ、ノア。今のってさ」

 

「うん。今のは、おかしい」

 

 岩場の蟹をちら見せして、突っ込んできたキリエを分断するように地中から大量の蟹。しかも、同じタイミングで後衛のノアにも一体。

 

 いくらなんでも不自然じゃないだろうか。

 

 これじゃまるで、釣り野伏だ。わたしたちの術式の特性上助かる手筈があっただけで、普通の三人パーティならあそこで普通に蟹の餌だ。

 わたしは二分された蟹の死体の一体にしゃがみこんで、

 

「……ノア。この蟹って頭いいのかな?キリエとどっちが上?」

 

「ん?ミーシャちゃん?ねぇミーシャちゃん?今私は何に参戦させられたのかな?」

 

「うん?蟹は賢くは……ないと思う。難しいけどキリエよりは下……じゃないかな」

 

「センパイ?なんなんですかセンパイまで?真顔で何言い出すんです?」

 

「集団行動は……」

 

「それは絶対無理。冗談はさておき、基本この子たちは本能のままに動いてる。思考なんてほどんどしてない、はず」

 

「うん、なるほどな。だからこそ、蟹だったんだろうな」

 

 一人納得するわたしに、頭上にはてなマークを浮かべる二人。

 

「ごめん、今から見せるよ」

 

 わたしは蟹の死体の横にしゃがみこみ、その砕けた関節に手を突っ込んだ。困惑の視線を無視して、蟹の甲殻の裏側から目当てのものを引っ張り出す。

 

「これだよ、ほら」

 

 出てきたのは、魔力で形成された細い糸。

 掴んで引き出すと、抵抗なくするすると糸が体内から抜け出て、結構な長さのものが回収できた。

 

「ち、さすがに親玉との接続は切れてるな。でもまぁ、凶暴化のタネはこれだろうな。……凶暴化、は違うか。どっちかというと、操り人形、か?」

 

 陽の光をわずかに反射するだけの、無色透明のそれを掲げて観察する。

 見た目は蜘蛛の糸みたいだ。

 が、その性質や魔力の痕跡をたどる前に、わたあめみたいに空気中に溶けて消えた。

 

 糸を媒介に対象を操る操り人形の術式。そして、多分『蟹』みたいな下等生物にしかつけられない。

 

 なぜって、人を操作できるならとっくにそうしているはずだから。

 獣や家畜も被害に遭っていないあたり、ある程度の理性があれば撥ねつけられる程度の術式のはずだ。

 範囲と操作数の代わりに精神操作は捨てている、といったところだろう。

 

 ノアが背後から肩越しにのぞき込んできて、冷静な口調のまま呟く。

 

「溶けた、よね。持ち返って調べても何も出ないのは、こういうこと」

 

「んん?わざわざ消すならなんで使うんだろうね?」

 

「証拠隠滅かな。一体だれが、こんなことを」

 

 首を傾げるキリエと、険しい表情になるノア。わたしは糸をつまんでいた指先をぴっと払って、

 

「さぁな。でも、わざわざ『糸』を使うってことは、そうする必要がある術式ってことだ。音じゃダメ、呪印でもダメ、直接触れるのでもダメ。糸であることには意味がある。なぜって」

 

 二人を見渡し、

 

「人形遣いとあやつり人形は、必ず【直接】繋がってなければならないからさ。『糸』が切れたら操作できない、そういう世界観の術者なんだよ。糸が即消えるようになってるのは、ノアの言う通り、逆探知防止だろう」

 

「それじゃあ、この糸の先に黒幕がいる、そういうこと?」

 

 ノアがまっすぐにわたしの眼を見て尋ねてくる。

 

「だろうな。つまり、今やるべきことは」

 

「やるべきことは……?」

 

 ふたりが固唾を飲んで、私に注目する。

 核心に迫るのは意外と早い、その予感があった。

 

 わたしはひとつうなずいて、

 

「今日は帰ろう。もうお腹空いたよ」

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