ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
「どりゃぁぁああ!!」
「……ふっ」
山の奥に進むにつれて、木製人形の数はだんだんと増えてきていた。とはいえあくまで八頭身のでかいデッサン人形みたいなやつが不自然な動きで向かってくるだけで、間違っても強いとかではない。
多少増えたところで、正直物の数ではなかった。
その証拠にキリエがまだまだ余裕だ。
ノアの銃弾で簡単に粉砕されるし、私に至っては普通に魔導弾を飛ばすだけで事足りている。
「なんだこれ。本当に禁域を守る気あんのか?」
「……間違いない。数がどんどん増えてる。いままで、こんなことなかった」
困惑気味のわたしに対して、ノアは張りつめているようだ。
「そうなのか?なんで?」
「うん。間違いなく。わたしたちが【禁区】に入っていったからだと思う」
微妙に腑に落ちないけど、まぁいいや。
とりあえず突撃してしまえばいい。
私は前を行くキリエのほうに視界を戻して、
「!キリエ、避けろ!」
「え?わぁ!?」
【それ】の出現に、キリエが間一髪飛びずさって回避する。
さっきまでキリエのいた場所に、木製のでかい物体が突き刺さっている。
「……ど、ドリル!?あっぶなぁ!!」
キリエが思わずと言った様子で叫ぶ。
確かにそれは円錐形をしていて、高速回転しているのか、焦げ臭いにおいをさせながら地面にめり込んでいく。
土煙が晴れると、そこには両腕に胴体くらいのドリルを接合した木製人形が突っ立っていた。
全体的に今までの汎用型より明らかにでかいし、ずんぐりむっくりとしている。
脚パーツはなく、キャタピラだ。逆に山で動きにくくね、それ。
「うわ、ノア。木製人形ってああいうのも居るの?下半身が戦車みたいになってるぞ」
振り向くと、ノアが硬直している。
驚愕が顔に張り付いていて、ノアにしては珍しい顔かもしれない。
「し……知らない。新型?いや、そんな筈……!」
「おっきいですよノアセンパイ!一旦退却しますか!?」
「っ、逃げたら後ろの調査隊に被害が……!」
「そっか。ま、いいや」
私はその場で杖を構えて、先端の翠水晶に魔力を集める。
たたん、と軽快に距離を詰めて、キャタピラドリル人形の眼前に飛び、開放する。瞬時に敵を縦向きに両断するように青透明の面が出現し、ぴたり、と人形が動きを止めた。
【空断ち】。
魔力消費量を限界まで抑えたわたしの改造版のそれを食らって、一瞬遅れて木人形が二等分されて崩れ落ちる。
「よし。これなら味方に退いてもらわなくても撃てるな。なんだろう、こいつら全体的にこけおどし感がないか?」
「前衛より前に出る青魔術師なんてミーシャだけ……その術式は何?斬撃でも飛ばしているの?」
「飛ばしてるんじゃない。座標を指定してその場に出現させ……や、それはいい。その【禁区】ってのはどこにあるんだ?」
汗を拭きつつノアを振り返って訪ねると、ノアが地図らしき紙切れを眺めつつ首を傾げる。
「……うん、基本的に山頂とその一帯が【禁区】にあたるから、もうちょっと登ったところのはず……なんだけど」
「え、迷ったんですかセンパイ!?」
「迷ってない。そもそも登山道を外れてすらない、はず……なんだけど、距離が、おかしい?」
「へ?ハイキングコースですよね?」
「うん……。このコースは私もよく知ってる、んだけど、」
首しきりに捻るノア。
なんだろう。なんだか、嫌な空気だ。一旦止まった方がいい気がする。
二人に声をかけようとして、
唐突に脇道のそれはもう鬱蒼とした茂みが揺れたかと思うと、妙にはきはきとした台詞とともに、小いサイズの白い物体が飛び出してきた。
「---------------------!」
キリエがわたしを背に隠して双剣を構える。
わたしも杖を構えて、【空断ち】を装填し、
「うわぁ!待った待った!撃つな!私だよ!アドナだってば!」
よく見るとそれは、白衣に泥と木の葉をこれでもかと付着させたアドナ教授だった。びっくりした。明らかに正規ルートじゃないわき道から飛び出してきたから。
「ふぅ、危ない。私の身長がさらに半分になるところだったよ」
「あ、アドナさん!?どうしてこんなところに……」
キリエの言葉に、アドナさんは白衣についた葉っぱを手ではたき落としながら、
「うむ!いつものようにフィールドワークをしていたら、なんか大量に【木人形(アレ)】現れて、身動きが取れなくなっていた!」
「あぁ、隠れてたんですか?」
「うむ!助けて!護衛ともはぐれた!もう二日間水しか飲んでないぞ!限界ッ!」
「わぁ清々しい」
「ふむ、恥じるところでもあるまい。私の戦闘力がゼロに等しいのは皆知っているだろう?……ときに聞いてくれよ二人とも!見たこともない形状の木人形がここに来て何種類も現れたんだ!なぜかはわからん、わからんが、我々は今確実に核心に近づきつつある!そう、あのノア某についに先んじるのだ……ってあれ?の……ノア……?なんで?」
「なんでって。この二人をここに連れてきたのは私。なんなら兵も率いてきてる」
「な、なんだとッ……!くそっ、山はわたしの領分だぞ!入ってくるな!しっしっ!……むぎゃ!?」
「声がデカいです、所長。また見つかりますよ」
「むぐっ!むぐー!!」
背後から現れてアドナの口を手でふさいだのは例の助手君だ。アドナはじたばた暴れるが、微動だにしていない。すごい。
身長差がありすぎてお父さんと子供みたいになってる。前会った時と同じクールな雰囲気だけれど、頭に葉っぱが乗ってて微妙に恰好がつかないな。
助手君は冷静な瞳で眼鏡をクイィっと上げて、
「しかし、なぜここに?所長の言う通り、山と海はそれぞれ役割分担があったはずですが」
一歩前に出たのはノアだ。
ノアが普段からは想像もつかない毅然とした態度で、
「ええ。海で暴れる蟹の元凶を掴みました。ここにいるミーシャ・ゼレンディアの報告です」
「……【禁区】ですか」
研究員というだけあって頭の回転はいいらしい。
そして、その言葉を聞くと同時に、アドナがいっそうジタバタと暴れる。あ、げんこつくらった。
ノアに呼ばれて、わたしも話に加わる。
「話が早くて助かる。恐らくあのニセの月を経由して術式を振りまいてる」
「術式……やはり」
クール男が顎に手を当てて考え込む。
「術式は『糸』だ。操り人形みたいに天から糸をひっかけて、そこから命令を出してるんだよ」
「糸……!」
そこは大事とは思わなかったけれど、クールマンの反応は覿面だった。
さっと顔色が青く変わる。アドナもぴたり、と止まった。
ぺしぺしと助手君の手をタップして、地面に降り立ち、
「糸……だと。しかも月……、『ヤクモ様』……!?」
「……?」
それなんだっけ。と一瞬ん首を捻って思い出す。
そもそも『禁止区』に祀られている存在じゃなかったか。
「えっと、それってあれですよね。地方の守り神、みたいな?ね、ノアセンパイ?」
しかしアドナはぎりり、と歯を噛みしめて、
「あれは……、あれは神様なんかじゃない!わたしは見たんだっ!あれは……!」
「あれは?」
「っ、あれは……うぅ」
おっと、本気で顔色が悪いな。
「私は……あんなのが『ヤクモ様』とは認めん。わたしは。わたしは……」
俯いてしまったアドナに、ノアが中腰になって視線を合わせる。
「アドナ。守り神であろうと、今の状況を作っているのが『それ』なら、排除すべき」
「お前は……お前はアレを見ていないからそんなことが言えるんだ! あれは『神様』なんかじゃない!おそらく1000年前に行われたのは『祀り』ではなく『封印』だ!強大すぎる力を【うごめき山】に封じただけのものに、【神】の皮を被せて隠しただけだ!あれは……!」
まくし立てて、ふ、とアドナが倒れる。
「……、限界だったのでしょう。もう二日も降りられていませんから……」
アドナを支えながら、クールマンが言う。
ノアも頷いて、
「わかった。ハイキングコースを兵が追随してきている。道なりの魔物もほとんど排除してるから、このまま合流して」
「……」
ぺこり、と頭を下げて、アドナを担いだ男が山を下っていく。
と、少し進んだところで顔だけ振り向いて、
「私たちが隠れていた茂みの奥に、【禁区】への最短ルートがあります。我々の研究用の秘密の道ですが……よければ、お使いください」
こんどこそ山道を下っていく二人を見送って、わたしたちは黙って顔を見合わせた。
「いよいよ真実味が増してきたな。山に居るのはそんなにやばいやつなあのか?」
わたしはとんとんと杖で地面をつつきながら、ノアに尋ねる。
「……。1000年前、この地域では人類と海の魔物の大きな紛争が起きていたの。そこに【ヤクモ様】が降臨して……。魔物が一夜にして大人しくなった。そのせいで、漁業の守り神になってる」
「うぅん。そんないい人……いい神?があんな騒ぎを起こしますかね?」
わたしは地面を擦るのをやめずに、
「逆だろ。1000年経てばどんな奴もボケる」
「そんな、おじいちゃんじゃないんだよミーちゃん……」
「カミサマでもないんだろ。アドナの言ってたことも気になる」
「うん……」
ノアがうつむく。
神様ではなく、他の何か。
それは、まつられたのではなく、封印された。
普通に考えれば、そこにいるのは強大な魔物だ。
だけれども、1000年だ。
そこまで長生きする生き物は流石に聞いたこともない。
けれど、ノアは力強く前を向いて、
「行こう。確かめに行かなきゃ」
と。
決然と言い放つのだった。