ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
「でやぁぁーー!!!!!」
身体の捻りとバネを存分に利用して繰り出された剣はしかし、わたしの予想に反して霊体をすり抜けることなく一刀両断した。
「え、効くの!?なんで!?」
私は思わず口に出す。キリエはこちらを振り向き不敵に笑って、
「ふっ、わたしの拳は!全属性対応です!!れすといんぴーすですよ!!次々っ!!」
少なくとも、拳ではないんじゃないかな。
なるほど。攻撃が利くのはわかった。が、さっきも言ったが下級の飢餓霊体というのは集団で人間を襲う。
一体が切り伏せられたのを見てか、ぐずぐずの形状の霊体たちが、一斉に向きを変えキリエのほうに押し寄せてきた。
霊体というより、どっちかというと俊敏なタイプのゾンビみたいだ。
一方キリエは怯んだ様子もない。適度に退いたかと思えば高速で相手の軍勢に突っ込んでいき、あるいは逃げ回ってみせ、見事に敵の大群を翻弄していた。
縦横無尽、鎧袖一触、みたいな四字熟語が浮かぶ。
さっきまでのふざけた態度とは裏腹に、かなり訓練された立ち廻りに見えた。
ただ、剣の長さといい、立ち回りかたといい、本来一対一が本領っぽいけどな。
キリエの動きを分析していると、横からずどん!!と二回、大砲みたいな射撃音が響く。
それとほぼ同時に、キリエの周囲にいた二体の霊体が、周囲を巻き込みつつ爆散した。
「うん。キリエ、撃つよ」
マスケット銃から白煙を立ち上らせながら、ノアセンパイが無表情で言う。
「それは撃つ前に言った方がいいんじゃないかな……」
この人案外天然なのだろうか。この見た目で。それはそれとして、
(こっちはわかりやすいな。あの銃で魔力を固めて打ち出す汎用術式)
攻撃術式の補助に杖以外のものを使うことはままあるけれど、マスケット銃は初めて見たな。ノアは手慣れた様子で魔力の弾丸を射出し、自由奔放に動き回るキリエの死角を的確に潰し続けている。
良いコンビだ。特にノアセンパイがよく見えている。その辺の自我もない下級飢餓霊体では、おそらく傷一つつかないだろう。が、
「……っ!!なんかまだ増えてませんか!?」
「多すぎる……よね。いくらなんでも、おかしい」
そう、霊体系、とくに下級のそれは、とにかく群れる。人間型、魔物型、動物型問わず、ただただひらすらに集まり続ける。群れが大きくなりすぎてひとところに留まれなくなると、彼等は移動を始める。
狙いは自分たちが使う新たな肉体。しかしながら、得物を見つけた飢餓霊体たちは、それを無理やりに奪い合い、結果的に破壊してしまう。
霊体とは言うけれど、やってることは野犬とかハイエナのそれだ。
「……あ」
「えっ!?」
戦局をぼんやり眺めていると、唐突に背後に多数の気配。
ノアとわたしの背後の空間が裂け、突然飢餓霊体の一群がどばっと吐き出された。
「……っ!!しまっ……!!」
人間なのか獣なのか、それすらよくわからない下級霊の大群が、振り返ったノアへと一斉に殺到する。
ノアはと言えば、バランスを崩したのかへたりと尻餅をついて、防御するでもなく呆然としている。
だろうな。遠距離型の術師がこの距離まで近づかれれば大概終わりだ。
が、そこまでだ。
「色は【青色】。属性は【壁】。【即応防壁(ブルーコード)】」
わたしの詠唱と並行して、ノアセンパイの目の前に半透明の青い防壁が形成される。
「【防げ】!」
勢いよく突っ込んできていた飢餓霊体の軍団が突如現れた青色の障壁に次々激突し、一瞬遅れで景気よくはじけ飛ぶ!
「ノア、下がって。盾の内側に隠れてろ」
「……ッ!……ッ!」
ばちばちばち!!という電撃音とともに次々と霊体が爆散する、それが何ウェーブか繰り返される。
が、まもなくすべての霊体が壁に触れてチリと化し、あたりは嘘みたいに静かになった。
目を瞑って尻餅をついていたノアセンパイの目の前から、ざぁぁ、と安物のクリアファイルみたいな色合いの防壁が、役目を終えて霧散する。
「ちっ、杖がないとやっぱりこの程度か。酷いなこりゃ」
「っ……な、何……!?ミーシャ……!?」
キラザのパーティにいた頃に開発した、簡易術式【ブルーコード】。
青色術式を下敷きに作った、展開速度に命をかけた盾で、持続時間はとても短い。具体的には二秒ちょっと。接触時にフルオートで高圧魔力による反撃ができる、わたしのオリジナルだ。が、杖無しだと強度も火力もちょっと酷いな。
「……っ痛ぅ」
あと、杖代わりにした右腕全体がめっちゃ熱い。高濃度の魔力を触媒なしに直接人体に通すことで発生する、いわゆる魔力灼けってやつだ。
触媒---わたしだと折り畳み杖---が使えない時の緊急手段だけど、やりすぎると腕が炭化してもげ落ちるから気をつけようね。
状況を把握しきれていないノアセンパイの手を引いて立ち上がらせながら、わたしは前衛のキリエに目をやる。想像通りというか、大量の飢餓霊体の前に防戦一方になっていた。もうほとんどリンチだ。
姿すらぐずぐずな下級死霊に手数で攻められたキリエは見るからにぼろぼろで、走り回ろうにも密集する敵で動けていない。
下級霊体とはいえ流石に多すぎないか、これ。どこから湧いてるんだ。
「っぐ……きゃぁっ!」
必死に応戦していたキリエがついに剣を弾かれ、派手に転倒する。
焦って態勢を立て直そうとするキリエに死霊が殺到し、腕に、脚に、髪に、本能のままに掴みかかる!
「キリエっ!!」
ノアの悲鳴のような叫び声にを背中に聞きながら、とっくにわたしは駆け出している。
キリエの瞬間移動程じゃないにしても、身体強化はそれなりに得意だ。後衛職なのになぜって?逃げ足は生存率にメッチャ関わってくるから。
「キリエ、こっちだ!」
「ミーシャちゃ、来ちゃだめ、逃げてっ!!」
わたしの姿を見つけて悲痛な叫び声をあげるキリエを、有無を言わせず思い切り抱き寄せ、背中越しに突き出した右手を杖代わりに術式を発動する!
「【青色】だ!!【即席防壁(ブルーコード)】っ!!」
ばちん!!と、静電気みたいな術式の起動音とともに、空間に厚さのない青い障壁が出現する。
ゾンビよろしく愚直に迫ってきた飢餓霊体がそれに接触し、やっぱり爆散した。
不幸にも盾の出現座標と被った霊体は、鋭利な切断面を呈して二分される。うわぐろい。
安心したのも束の間。一体だけだが盾の内側に居た。しかも足の速い四足歩行の魔物型だ。しくった。
「う、わぁ!?ミーシャちゃん!?」
「ッ、黙って!伏せてろ!」
「えっ、ぁ、えぇ!?」
目を白黒させるキリエの頭を押さえつけ、
盾のこっちがわに紛れ込んだ飢餓霊体にむかって人差し指を向け、
「色は【赤色】!!【簡易爆雷(レッドコード)】!!」
びぃん!!と、わたしの指先からレーザーポインターよろしく光の線が射出される。
それは飛び掛かってくる死霊の頭部に着弾すると一気に発火し、それを瞬時に焼き払った。
キリエは無傷っぽい。間に合った。
が、これで終わりじゃない。もうひと頑張り必要だ。
即席の青色防壁が崩壊を始める。詠唱(プログラム)通りの2秒フラット。
だけど、それだけあれば無理を通せる。出来上がった隙にねじ込む様に、次の術式を展開する!!
「……いや間に合うわけないだろ!?」
命がけのノリツッコミと同時に、青い障壁が完全に崩れた。
くそう、詠唱はぎりっぎり済んだのに起動が全然間に合ってない。
かといってこれ以上腕に魔力負荷をかけたらさすがにもげる。
杖があれば、いや違う。なんでそもそもわたしはこんなに真面目に戦って。
再度迫ってくる飢餓霊体の腕を、牙を、瞳を、呆然と眺め、そして。
「……二人とも、伏せてっ!!」
駆け込んできたノアが、腰だめに術式銃を乱射する!!
そもそも連射性はない術式だ、弾切れはすぐだ。しかし、ノアの乱入で一瞬飢餓霊体が押し返され、そして、
「【営倉(ドミトリー)】!!」
宣言と同時に半球形の隔壁が、わたしたち3人を覆うように展開される。隔壁に鈍い音を立てて死霊たちが激突し、しかし、それ以上は進んでこない。
「ま、間に合った……」
それも、さっきまでの雑な2秒防壁とは違い、ある程度真面目に(?)立てた壁だ。
下級飢餓霊体ごときなら一晩だって完全シャットアウトだよ。
形はそうだな、出入り口のないかまくらといったらわかりやすいだろうか。
飢餓霊体がドームの内に入って来れないらしいのを見て、二人が脱力したようにその場に崩れ落ちる。
かなり限界だったみたいだ。わたしもだけど。
それからしばらくは三人仲良く肩で息をしていたが、やはりというか、一番先に口を開いたのはキリエだった。
「ミーシャちゃ、ほんと、すごい、ね?……っ、はぁっ、はぁっ……難しい青色術式をあんなに使いこなすなんて、しかも、赤色との並列起動まであんなにスムーズにするなんてっ」
おや、なんかちゃんと勉強してそうな台詞が飛んできたな。意外だ。
ともかくわたしは素直な称賛に薄い胸をぐぐんと張って、ついでに聖女エミュも復活させて、
「ふふん、目の付け所が良いですね、キリエさん。このレベルの青色術式を持ち杖なしで出せる術者なんて、北壁(ナザングル)ギルド全体で見てm「うんうん、ミーシャちゃんさすが!!天才っ!!」むぎゅあ……」
わたしの自画自賛タイムはものの数秒で大興奮のキリエの熱い抱擁でキャンセルされる。
まぁ、状況的にテンションが上がるのはわからなくはない。
ただ、キリエは気が付いているだろうか。前触れなく抱き着かれたせいで抱擁に巻き込まれたわたしの腕が、セルフで気道と頸動脈をシャットアウトしていることに。
あの、ちょっと。割と本気で、落とされ、
「……キリエ。締まってる締まってる。ミーシャメチャクチャタップしてる」
「……あぁっ!ごめん!」
「げほっげほっ……!!ふ、ふふふ、お、お気に召されるでない……」
「あぁ……ミーシャちゃんが壊れちゃった……」
「ふふ、侍……?」
思わず謎言語が出た。天国が見えてた、今。
なんとか一命をとりとめたわたしに、ノアセンパイがおずおずと話しかけてくる。
「あの、わたしからも。助かった、ありがとう、ミーシャ。それにしても、凄い腕だね。青色術式って、戦闘中にぽいーっと出すものじゃないと思ってた」
「ぽいーっと……」
擬音がかわいい。
クールな見た目の人がクールな声音で「ぽいーっと」って言うな。
ま、だよな。
『正しい』手順で【青色術式】の盾を貼るには、たっぷり10分はかかる。それが遅いとかじゃなく、【青色術式】とは本来そういうもの。本来の運用は、安全地帯での可能な限りの重ね掛けなのである。
わたしの【青色】は速度特化・ダンジョン特化の自己流だからな。原理を説明し始めたら日が暮れるが。
わたしはアメリカの人みたいに肩をすくめて、
「ふふ、速いでしょ?でも詠唱の韻は押さえているので、フル詠唱と同等の強度はありますよ。このまま一泊だってできちゃいます」
「あはは。と、泊まりは遠慮しとこうかな?ほらあのっ、外からものすごい視線を感じるし!」
「そうですか?ダンジョン内ならよくあることですが……」
わたしは周囲を見回す。360度張り巡らされた薄青色のドームの向こうでは、境界すれすれに死霊が立ち尽くし、こっちを茫洋とした眼で眺めていた。
毎日投稿予定です。
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