ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに   作:oomaguro

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第五十話 お前あの祠を壊したんか!

「よっし、つきましたね、頂上!……ってあれぇ!?」

 

 クール系の言う隠しルートを進むこと数十分。

 獣道よりひどい鬱蒼とした山道を我慢して進むと、唐突にぱっと開けた場所に出た。

 そこは台地みたいになっていて、360度どこを見ても晴れやかな空が広がっている。その淵には落下防止の柵があり、展望台がぽつんと立っていた。

 

「わぁ、いい景色ー!!って違うよっ!あれっ、禁止区?立ち入り禁止区域はどこですかノアセンパイ!これ普通に頂上じゃないですか!?展望台あるし!」

 

「そうだよ。ここが【うごめき山】山頂。観光用の、だけどね」

 

「えぇ!?どういうことですか?もうどこ見渡しても空と海ですよ!絶景しかありませんよもー!」

 

 謎のノリツッコミを交えつつ活き活きと現状説明をしてくれるキリエを横目に、ぐるりと見渡す。

 

 その一点をみつめて、

 

「……あれか?」

 

 私の視線の先をノアも追いかけて、

 

「さすが、だね。初見で、しかも見ただけで見つける人は初めて」

 

 わたしは黙って山頂の端っこまで歩き、そこに立っているなんでもない木製の柵のひとつに手を伸ばす。と、

 ばちん!と何もない空間から電流が走り、手が弾かれた。

 

「わ!ミーちゃん、大丈夫!?」

 

 これは、わたしの【電撃防壁】と同じ。

 

 触ったら弾かれる、通行禁止の防壁だ。違うのは、その隠密性。

 一般人が見れば、その先があることすら気づけない、完璧な『隠蔽防壁』。

 結果として、ここが『山頂に見えている』。

 

「この先が、『禁止区域』だよ。この隔壁は、代々私たち、領主の家系が維持しているの」

 

「そっか……」

 

 説明を聞きながら、こんどはゆっくりと手を伸ばす。

 さっき弾かれた部分に触れる。こんどはずるり、と指先が何かに埋もれる感触がした。

 

 

「だけど、これの解き方をしっているのは今ではお父様だけ。どんな魔術師でも、この防壁をやぶれたものは居ない。見つけることすら難しい、だから『神域』の守りたりうるんだけど。領主以外の一族が『禁止区域』に行くには、お父様から預かったこの鍵を……ミーシャ?」

 

「あ、鍵あったのかよ。もう破っちゃった」

 

「え、えぇ……」

 

 ずるり、とノアがバックパックを落とす。ごめんて。そんなことより、結界が破れてからの変化は劇的だった。

 

 ばちばち、と空間に電撃が走ったかと思うと、さっきまで何もなかった空間に、音も無く山肌が現れる。その中心に、注連縄と鳥居で仕切られた山道が一本、真の山頂に向かって伸びている。山頂はまだ見えないな。

 

「わ……!?あれ!?まだ先があるの!?でもここが山頂で、あれぇ?」

 

「結界で山のここより上が隠されてただけだよ。存在自体をまるごと隠す結界なんて珍しいな」

 

「へ、へぇ……」

 

「あ、あの……先祖代々の秘伝の結界……」

 

 背後で息を飲むキリエとノア。

 

「で、ノア。ここから先が」

 

 気を取り直したノアが頷いて、

 

「うん。ここが1000年前から『うごめき山』にある『禁区』だよ。ここより上は、山全体が【ヤクモ様】のための祠なの」

 

「へぇー。ここより先全部、ですか?この先に祠的なものがあるのかと思ってましたよ」

 

「ん。御先祖様の逆転の発想だね」

 

「逆転してます?それ」

 

「ちなみに祠もちゃんとある。小さいけど」

 

「逆転してなかった!」

 

「何やってんだ。ほら行こう」

 

「あ、ちょっとミーちゃん!先行かないで!」

 

 なにやら言い合いをしている二人を置いて、わたしはすたすたと歩き。

 

 禁区に一歩、足を踏み入れ。

 

 その瞬間、空気が変わった。

 

 ----

 

 この世界における空気とか雰囲気とかいうものは、大体空気中の魔力の質と濃度で説明がつく。

 

 足を一歩。

 うごめき山の通常領域から、【禁区】の注連縄を一歩踏み超えた、その瞬間。

 

 ぞん!と。明確に、空気が変わった。

 

 初夏の山の爽やかな空気から、毒ガスを思わせる、ねばついた雰囲気。

 なんだろう。感覚でしかないけれど、ぴりぴりとした敵意を感じる。

 

 あとなんか霧出てきた。なにこれ。

 

「……うへぇ。思ったより全然禍々しいじゃないか」

 

「……神様、なんですよね、ノアセンパイ?」

 

「そのはず……なんだけど」

 

 どうやらノアも聖域に入ったことまではないらしい。露骨に邪気の濃い魔力に、顔色を悪くして口元を抑えている。

 

「ま、歓迎されては無----」

 

 ふたりの気負いをほぐそうとしたわたしの台詞は、言い終わる前に遮られた。

 

 どがががが!!!と。轟音とともに、周囲の木々が一斉に揺れる。

 一瞬遅れて、樹上から木製の人形が一斉に落下してきた!

 

「ちっ、いきなりか。歓迎されてないどころじゃなかったな」

 

「……こんなのおかしい……!【ヤクモ様】がこんなことするわけッ……!」

 

「っ、あのドリル型のもいるよ!うわぁ!剣とか斧とか持ってるのもいるっ!」

 

「だな。だけど、だからどうした!」

 

 棒立ちで驚き要員と化したキリエの首根っこを掴んで引き寄せ、反対側の手で楡の杖をかざす。

 

 ここなら味方はおろか、巻き込む人間がそもそもいない!

 

「まとめて落ちろっ!!【大空断ち】!!!」

 

 きん!と澄んだ高音が一度だけ空間を割いて、殺到していた木人形が揃って胴のあたりで両断される!

 がらがらがら!とただの木片が崩壊する音が都会の喧騒みたいに鳴り響き、それから清、と、禁区に静けさが戻った。

 

 かいしんの一撃に、ふん、と息を吐く。

 が、パーティの二人はなにやらどんびきした様子だ。

 ふふん、存分に感心するといいさ。

 特にキリエ。わたしに対する敬意がとみに最近感じられない。

 

「う、うわぁ……これ何百体瞬殺したの……?」

 

「いかれてる……」

 

「知らん。密集してるほうが悪い」

 

「こんなのもう大量破壊兵器じゃん……」

 

「変態……」

 

「切断・破壊フェチの変態……」

 

「R-18G……」

 

「性癖えげつな……」

 

 どやや……いや待って。さすがに風評被害が過ぎない?

 

「いやっ、ドヤ顔してるけど!それ使わないでって言ったじゃん!こんなところでふらふらになってどうするつもりなの!?」

 

 術式の反動で脱力のままに倒れ込んで、支えてくれたキリエから厳しいお言葉がかかる。黙れ。

 

「なんだよ。反動で視界がブラックアウトして一時的に微塵も力が全く入らなくなるくらいだから、大丈夫だよ。それも数秒だけだしな。心配すんな、まだいける」

 

「それはいけるって言わないんだよ!!!だめだって!ぜったい人体によくない影響があるって!!」

 

「お、難しい言葉使うじゃん。キリエは偉いなぁ」

 

「いくらかわいいミーちゃんといえど全然殴るよ……?」

 

 予想外にめちゃめちゃ怒り始めたキリエから離れて、自分の平衡感覚を確認する。

 

 術式の反動か、不快な動悸がうるさい。けど、それ以外に症状はなし。

 

「クエストには支障ないから大丈夫だよ。迷惑はかけないって」

 

「いや、そうじゃなくて……!」

 

 あぁもう、周りが見えなくなってるな。

 

「それに、ここで止まってる暇もない。だろ?ノア」

 

 わたしはキリエから視線を外し、ノアのほうを向く。視線を集めて、ノアが決然と頷いた。

 

「私たちの守り神……【ヤクモ様】はこんなこと、絶対しない。【月】を作った奴が、別にいる。【ヤクモ様】をお助けしなきゃ」

 

「………………あーもうっ!!」

 

 やけくそぎみに叫んで、その姿がかき消える。

 瞬間移動だ、と気が付いた時にはキリエが十数メートル手前に飛んで、両手に双剣を掴んだ残心の姿勢で現れる。

 

 時間差で両脇に迫っていた木人形が都合6体、ばらばらと倒れた。

 

「ミーちゃんはさがってて!わたしとノアセンパイで道は開くから!」

 

「ええ……?」

 

 なんだろう、そこまで過保護にされてもその、困る。わたしだって冒険者だぞ、一応。

 

 しかし、ノアもうんうんと頷いて、

 

「ミーシャの術式は切り札だから、これ以降は温存して欲しい。この奥にどうせ……黒幕がいる。そこであなたがいないと、多分どうしようもない」

 

「……わかったよ。道中は任せた」

 

 頬をかきながら、見る間に小さくなっていくキリエの背中を追って、わたしとノアは一も二も無く駆け出した。

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