ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
二人に連れられて領主室に入ると、部屋の奥の玉座にはすでに老領主が座っていた。
それだけではない、その両脇に、なにやら壮年の人々が整列して控えている。
洋風の鎧で武装している筋骨隆々大男、いかにもなローブを纏った長身の魔法使い。縒れた杖を携えた老女。
なるほど、強いっぽいな。
その姿に統一性は無いけれど、おおかた、軍隊の将、魔法使いのトップ、それから政治顧問、みたいな感じだろう。
「文官と武官のトップ層の人たちだよ。三人ともが一堂に会するのは久しぶり」
わたしがぼーっとしていると、肩を貸してくれていたノアがひそひそ声で教えてくれた。ヴォルグが一歩前に進み出て、領主達に向かって一礼する。
「お待たせいたしました、大殿、そして幹部の皆様。ノア様及び、ヴォルグ筆頭秘書官、参上いたしました。客人の魔術師もお連れしています」
それにいち早く反応したのは、鎧の大男だった。
「おぉ!秘書官殿!これがかの『ロッドテイカー』を倒した少女ですかな!いやはや、年若いと聞いたがこれほどとは!!」
「は、はぁ、どうも?」
男がずんずんと足音を立ててわたしとノアに近づき、がははとそれはもう陽気に笑う。声がでかい。
凄い肉体だ。重装のはずの鎧がアルミホイルに見える。
「ぜひともこの後ご一緒させていただきたいですな。なんせ我が王も敗退したほどの魔物にどのように-----」
「……こら、レグ。あとにしろ」
「むぅ……是非とも詳しく聞きたく……後でな、若者よ」
筋肉男、レグというらしい、に注意したのは長身の魔法使いだ。
意外にも素直に巨体を縮こまらせて、男が定位置に引き下がる。
「えぇ、えぇ。わたくしもレグと同じです。死霊に対する魔法術、是非ともお聞きしたいわ。それに、なんて可愛らしいこと。孫が生きていたらこんな感じでしたかしら、ねぇ、大殿様?」
老女もまた、柔らかく調子を合わせる。いや今なんか一瞬棘あった?
「…………」
「……アストライア女史。ですから、今は」
「あらあら、ごめんなさいね。こんなにかわいい魔法使いの子に会えるなんて、また若返っちゃおうかしら」
「がはは、アスト殿は50年前からお若いですぞ!」
「あらもう、正直ですこと」
「がはは!戦士は誠実こそが旨でありますれば!」
「……………」
あ。背の高い魔法使いの人が頭抱えた。苦労してんだろうなぁ、この人。
「御二方。大殿の御前です。戦争の打ち合わせをするために集まられたのでは?」
ぴしゃり、と場を制したのはヴォルグ秘書官だった。
物怖じしないな、この人。
いくらこの人が鉄面皮だと言っても、相手はこの地方のトップ3だろ。
抑揚の少ない秘書官の声に、三人の雰囲気がようやく変わる。
「うむ、秘書官殿。大殿はなと言っておられる?」
「はい。まず、ノア様たち海岸警備隊300で海岸線一帯を警戒。と、大殿は言っておられます」
「は、お父様」
ノアが敬礼して頷く。ノア、メッチャ偉い人だったんだな。と思ったのは秘密だ。
「そして、レグレダール様麾下1から4軍で山を包囲、五軍は非戦闘員の保護を、と言っておられます」
デカ男が同様に敬礼して、
「ははっ、大殿。既に5軍は『うごめき山』周辺の民を隣接領に移送済みでありますぞ」
「魔術師軍は遠距離砲撃隊と支援術式隊に分かれよ。それぞれ山攻めの軍を援護、と言っておられます」
「ほいほい。承知いたしましたとも」
「ゴルドー総帥は、大殿について作戦補助を」
苦労人っぽい人がきびきびした動作でひざまずく。
「承知いたしました。大殿。わが命に代えても」
「……、」
作戦が続々と決まっていく中、わたしは唇を噛む。わかってたけど、歩くのもきついわたしが出来ることはなさそうだ。
……いや、あるにはあるんだけど。『それ』をするのはあまりにこの人たちの面目というか。
俯いていると、秘書官がわたしのほうを向いて口を開く。
「ミーシャ・ゼレンディア。案ずるな、貴様には貴様の役割がある、……と大殿は仰っておられます」
「え……」
ぽかんとする。
ヴォルグ秘書官は、また大真面目な顔で大殿の口元に耳を近づけ、一つ頷いて、
「ミーシャ・ゼレンディア。貴女は、どさくさに紛れて単独【ヤクモ様】に一撃のみ入れなさい。……その後の動きについては問いません」
「……ぁ」
一撃、一撃でいい。
その後は何をしようと、自由。
大男がにっかーと笑ってそんなわたしの肩をぽんと叩いた。
「ふむ、残念至極。ミーシャ・ゼレンディア殿の実力、是非ともこの目で見たかったものだが別行動とは!しかしながら、怪我をしておられる!なに、『山』は前から気に入らんかったのです!あんなものは最初から神様などではないですぞ、お嬢さん!今回は我々に任せていただこう!」
「……、でも」
「えぇ、えぇ。お婆ちゃんに任せておきなさい。幼子を怪我させた大人げのない悪者は、わたくしどもで追い払いましょう」
「………………」
あぁ、わたしは本当に駄目だ。
強いつもりで、強いふりをして、いつだって一人じゃ何もできない。何も。
でも、それでも。
「わかって、ミーシャ。あなたは絶対、一人じゃないから」
「……うん」
よろけたふりをして、とノアの肩に顔を埋める。
わたしは、今のわたしにできることを探そう。
魔力は2%ってところか、笑っちゃうくらいに魔力切れだけど、せめて少しの盾だけをつけて、あとは任せて倒れてしまおう。
『----------やぁ。作戦会議はお済みかな?』
わたしたちの真ん中に。
突然、何の前触れもなく。
【ヤクモ様】が現れた。
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全員が、間違いなく呆気に取られていた。
ぽかん、として、数秒気まずい沈黙。
そうだ、この人達、【ヤクモ様】の姿知ってんのか?
わたしははっと我に返って、
「んなっ……なんでっ、ぐっ!?」
声を上げて、お腹に激痛が走り、崩れ落ちる。ノアが慌てて支えてくれた。
神様は。【ヤクモ様】は。
そんなわたしを一瞥して、
『あぁ、君か。君のせいか?』
「え……?」
要領を得ない質問に首を傾げる。
と、その首を、巨大な斧の一撃が高速で通り抜けた!
「ちっ、手応えがねぇ!!!」
「あらまぁ。ホログラムね。わたくしの防御陣の真ん中に、いったいどうして割り込めたのかしら」
『解説ありがとう、魔法使いさん。うん、そうなんだ、これは遠距離連絡手段で、まぁ、平時なら神託みたいなものだよ』
「けっ、あんた魔物じゃねえか。何が神だか」
『そういうことになっているんだねぇ。いやね、ここ数日から、この地から採れていた【信仰】が激減してね。これは何か起こっているんだろうなぁ、ってさ。で、多分、君のしわざだね?』
哀しそうな眼で、【ヤクモ様】がこっちを見る。
『あぁ。あの時ちゃんと追い切って、木の人形で擂り潰しておけばよかった。飼い蜘蛛達の良い餌になったろうに』
「あらまぁ。やはり、あなた、神様では無いようね?子供は大切にするものですよ。あぁ、あぁ。長年の婆の信心を返していただきたいものです」
『……それを言ったら、そんなの君たちが勝手に定めた枠組みだと思うんだけど……まぁいいか。ともかく、【信仰】が取れなくなってしまったし、潮時かなって、思ったんだ』
「何を……」
目の前のホログラムはどうやら本当に単なる映像でしかないらしく、そこから魔力は一切感じられない。
それでも、歴々の魔術師が、戦士が、間違いなく『それ』に呑まれていた。
そんな異様な雰囲気の中、【ヤクモ様】は気楽そうに腕を伸ばして。
今日晩御飯何食べる?くらいの口調で。
『うん。一度君たちを滅ぼすことにしたよ。そして一から、神の民たる種族を誕生させるんだ』
なんて、のたまった。
あまりの発言に、全員がぽかん、と固まる。
「…………は?」
『…………いや、もう一度話し合った方がいいのか?滅ぼして新たに文明を作るとなると、それこそ数百年単位でかかんじゃ?……うーん、どっちだ?どっちがアドなんだ?』
『…………うん!まいっか!なんとなくだけど、やろう。一回滅ぼしてから考えよう!うん、これから君たちを攻めるから!精々集めた兵で抵抗してくれよな!』
ふっ、と、来た時と同じように、何の前触れもなく、ホログラムが消えた。
誰も、何も言わなかった。
皆が何を考えているのか、よそもののわたしには分からなかった。
一方で私の脳裏によぎるのは、あの日。キラザ達から突然捨てられた、あの日。
あの時からのもやもやの正体は未だによくわからないけれど、ただ一つはっきり言えることがある。
やなことを思い出させやがって、だ。
今にも頭を抱えたくなるトラウマに継続ダメージを食らいつつも、わたしはぶんぶんと頭を振って気分を入れ替える。
ともかく、動くべきだ。
【ヤクモ様】のホログラムは消えたことだし……。いや、違う。
ふっ、と。何の脈絡もなく、それは再び現れた。
再出現した【ヤクモ様】はしばらくきょろきょろとあたりを見回したあと、私を見つけて、
爽やかな笑みで報告する。
『あぁ、そうだ。忘れてた忘れてた。本題を言っていなかったね』
「……、」
そいつは。わたしのほうを見降ろして。
「あのピンクの髪の子、さっき死んだよ。じゃあね」
「……そっか」
わたしが口を動かすと、男が今度こそ満足そうに笑って消える。
しん、と。
こんどこそ部屋に静寂が訪れた。