ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
「ちょおぉぉぉ!?速い高い速い高…………死ぬっっ!!??」
「あはは。ミーシャちゃんは大袈裟だなぁ。ノアセンパイ、本気出したらこの3倍は速いよ?」
「嘘嘘嘘!?待って、そんなのどう考えても音速超えうわぁぁぁあぁ!!!!」
「ミーシャ、ごめんね。今日は2人乗りだから、あんまりスピードでないの」
「出なくていい!出なくていいからゆっくり!ゆっくりしてっ!!!お願いまだ死にたくなあぁぁぁぁ!!!!」
「ミーシャ、心配性。戦闘の時はあんなに頼もしかったのに」
「わぁぁぁん!!!ノアお願いっ!優しくしてっ!!せめて今だけっ!!!!」
「わ。ふふ、ミーシャ、女じゃん」
「女じゃん!?」
どゆこと!?お前も女だろうがっっ!!!
下を見れば、10メートル級の木々が点になるくらいの高度。
流線形に流れる景色に、ごうごうと風の音がうるさい。
例えるなら、エンジン付きでスカイダイビングしたら多分こんな感じだ。
そして命綱は、この推定天然女の両腕だけなのである。
それなのに、なんでこの女はこんなに余裕たっぷりに笑っていられるんだ。
あとこんなに超高高度にまで上昇する必要があったのか小一時間問い詰めたい。
「接地のタイミングに合わせて即応青色(ブルーコード)、接地のタイミングに合わせて即応青色(ブルーコード)……!大丈夫、わたしならいける……!!」
「大丈夫だよ、ミーシャ。落としたら空中で拾ってあげる」
「そもそも落とさないでほしいです……!」
お願いだから。冗談抜きで。
フリーフォールが開始されたらその時点で気絶すると思う。前世からの筋金入りの高所恐怖症をなめるな。
「ミーシャちゃん落ち着いて、深呼吸だよ深呼吸。ほら、景色もすっごくいい!うひゃぁー!!ひゅー!!」
「え!?キリエなんて言った!?聞こえん聞こえん!!!」
風の音が耳元でごうごう言っててわからん!
なんでお前はとんでもなくハイなんだよ!!ジェットコースター気分か!!
「……あ、ミーシャ」
「あん!?なんだよノア!!!」
「もうすぐ着くから、降下するね。しっかりつかまってて」
つかまってって、どこに。背中から抱きしめられてるだけだから、つかまるところないが。
空転する思考も、しかし一瞬で押し流される。
ノアセンパイが急速に減速して、ふわり、と嫌な浮遊感。
遅くなってる。そして、落ちてる。
「ひ…………ッ」
悲鳴も出せずに、絶句する。
「ひゃー!!!気ぃ持ちいいーーっ!!」
「死ああぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」
自分の絞り出すような断末魔と、キリエの楽しそうなはしゃぎ声が、脳内に反響する。
遠くから今のわたしを見る者がいたら真っ青な顔色の死者が、白翼の天使にお迎えされているように見えただろう。
だから、気付くのが遅れた。
降下するわたしたちの、向かって左側の崖の上。
そこからだ。
そこから、『紫紺色の魔導弾が、こちらを狙って放たれていた』。
「-----------ッ!!!!!」
ノアに伝える暇はない。
最早手癖と化した動作で身体に魔力を回す。
ギリギリの即応防壁が展開されたのとほぼ同時に、そこに大砲の弾丸サイズの魔導弾が着弾した。
直撃は避けた。が、一瞬後に来る轟音と衝撃波、それから光。
五感のいくつかを完全に塗り潰されて、わたしたちはなすすべもなく吹き飛ばされる。
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今回の『獲物』は、【街】の最奥の自分の部屋までたどり着いた者たちのなかでは格段に貧弱、そのはずだった。
が、天使の翼を生やした魔術師が高速で脱出した。翼は折ったが、身体は取り逃がした。
逃がさない。逃がしはしない。
眷属化した大量の死霊で無限に追跡し、疲弊したところを捕え、肉体を支配し新たな眷属とする。
そうやってあの死んだ街で軍勢を蓄えてきたし、あの二匹もその末席となるはずだった。
いや。
軍勢は手段であって、目的ではない。最早二匹は問題ではない。
問題は。
忽然と現れた、杖なき聖女。
『それ』は。
とうの昔に擦り切れた記憶を思い起こす。
聖女。この【呪い】を打ち破れるもの。300年。300年探した。
両手に握った錫杖がざらり、と震え、それに背中を押されるように、無数の亡者が歩みを始める。